はっぴぃーマニア

はっぴぃーマニア

<第十一話>~第3章~

ことわざ物語

第一話
袖すり合うも多生の縁
第二話
馬の耳に念仏
第三話
転ばぬ先の杖
第四話
天は自ら助くる者を助く
第五話
前車の轍を踏む
第六話
雀百まで 踊り忘れず
第七話
見て捨てる神あれば拾う神あり
第八話
知らぬが仏
第九話
グランプリ (競馬~第十話へつづく~)
ひょうたんからコマ
第十話
あの日のように (競馬~第十一話へつづく~)
人間万事塞翁が馬
第十一話
足長おじさん ~第1章~(競馬)
塵も積もれば山となる
足長おじさん ~第2章~(競馬)
足長おじさん ~第3章~(競馬)
足長おじさん ~最終章~(競馬)
足長おじさん ~あとがき~(競馬)

<第十一話>足長おじさん~第3章~


彼女は笑顔で私を迎えてくれました。
「私もたった今仕事から帰ってきたの。これから病院に行ってあの子の顔を見て、またすぐに仕事に行かなくっちゃならないんだけど・・・」
少しやつれた彼女はそう言いました。
「お子さんの治療費は月にどれくらいかかるの?」
私は聞きました。
彼女は何も答えませんでした。

ふたりでお子さんの病院を訪れ、帰り、仕事に向かう彼女がボソっと私に言いました。
「あの子、手術しないと助からないの。近いうちに手術しないと・・・。2000万かかるの、あの子の命を救う為には・・・。だから私頑張る。それじゃあね!」
彼女は笑顔でそう言って夜の繁華街に消えて行きました。

私の上着のポケットには、たった130万円の札束が残されたままでした。

 翌日に安田記念を控えた前夜、私はスポーツ新聞の競馬欄を隅から隅まで読みあさっていました。
130万を2000万に変える馬券はないか?と考えながら。
考えれば考えるほど私の頭の中はグチャグチャになり、結局その日は一睡も出来ず、安田記念当日の朝を迎えました。

何の答えも出ぬまま、私は競馬場へ向かうため電車に乗り込みました。
その間も私の頭の中ではどの馬券を買うか、あれやこれやと迷っていました。

次が競馬場前という時、ふっと窓の外に目をやると、何と!そこに私の父が空中遊泳をしながら電車を追いかけて来るではありませんか!
そして父がこう叫びました。
「今日はつべこべ言わん!答えはデジタルだ!2000万はまだおあずけだぞ!あと1回、春のG1レースはある。宝塚まで待ってもあの子の命は助かる!早まるな!わしを信じるんだ!いいな、今日はデジタルだぞ!」
その時、車内アナウンスが競馬場前の駅に到着したことを伝えました。
私は一瞬、眠っていたのでした。

2000万はおあずけ?あの子は助かる?わしを信じろ?デジタル?
私の両親は、今、私が置かれている状況を知っている。
2000万のお金を作ろうとしている事を知っている。
そのお金を競馬で作ろうとしている事も、お金が何に必要なのかも。
信じよう。今日はアグネスデジタルでいこう!

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
2003年6月8日
第53回 安田記念
1着 3番 アグネスデジタル
単勝 940円(9.4倍)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
1, 300,000円×9.4倍=12,220,000円
2000万円まであと、788万円
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

この日から私は毎日、彼女の息子さんの病院に通い続けました。
眠っている彼の横で、私はいつもこう言いました。
「君の命は消して消えない。君は生きるんだ。手術を受けて君は必ず元気になる。お母さんと幸せに暮らせる。僕が必ずそうさせる。必ず・・・」

つづく・・・


© Rakuten Group, Inc.
X

Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: