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東京電力の福島第一原子力発電所の事故は、東北地方に破局的な状況をもたらしつつある。そうした事故を招いた責任はエネルギーを大量消費してきた大都会の人々にあるとする主張もあるようだが、「大都会の人のみ」に責任があるということなら、正しいとは言えない。問題を単純化しすぎている。 大都会の人々が「原発の電気」を求めてきたとは言えず、そうした人々の責任は「何も考えてこなかった」という点にある。東京都が築地市場の移転先としている江東区豊洲では3月の地震で液状化が起こっているが、これについて考えている「東京人」も多くはない。身近な問題についても考えていないのが実態だろう。 何も考えない人間を作り上げるうえで重要な役割を果たしたのは、言うまでもなく、教育と報道にある。教育の中身を決めてきた文部省/文科省は原子力政策を推進する拠点のひとつ。原発の「安全神話」を彼らが子どもたちに刷り込もうとするのは必然だ。 一方、マス・メディアには「プロパガンダ機関」としての役割があり、支配層にとって都合の良い話を人々に信じ込ませるだけでなく、感情をコントロールしてきた。 ところで、メディアが権力システムにとって好ましくない情報を排除するフィルターは5種類あるとMIT(マサチューセッツ工科大学)のノーム・チョムスキー教授は指摘している。 第1のフィルターは報道を生業とする会社を立ち上げるために相当の資金力が必要だという事実。 第2に、主な収入源である広告主に逆らうことは難しいという現実。ちなみに、東京電力が2010年度に支出した広告宣伝費は約116億円だったという。 また、2008年にトヨタ自動車の奥田碩(ひろし)相談役は「正直言ってマスコミに報復してやろうか。スポンサーでも降りてやろうか」と発言、マスコミの編集権に経営者が介入するやり方があるとも口にしている。当時、マスコミは年金や保険の問題を批判的に取り上げていた。そのほか、銀行が融資を止めるという手段もある。 第3に、情報源の問題。政府や大企業の「大本営発表」を垂れ流している。「客観性」を装うため、政府や企業のお墨付きを得た「権威」たちを登場させることも常態化している。アフガニスタンやイラクへの先制攻撃に伴う情報操作、あるいは福島第一原発の報道に接し、マスコミの偏向ぶりを知る人は大幅に増えたことだろう。 第4は、メディアに対する権力システムからの圧力。日本ではNHKの番組改変に関する訴訟が有名。安倍晋三官房副長官(当時)など自民党の有力議員と接触した松尾武放送総局長や野島直樹国会担当局長は「相手方の発言を必要以上に重く受けとめ、その意図を忖度(そんたく)してできるだけ当たり障りのないような番組にすることを考えて試写に臨み、直接指示、修正を繰り返して改編が行われたものと認められる。」と2007年に東京高裁は指摘している。 そして第5はイデオロギー。権力システムにとって都合の悪い考え方は「コミュニズム的」だと攻撃、「私有化」や「規制緩和」については手放しで賛成してきた。ただ、この「イデオロギー」なる代物には曖昧な部分がある。 歴史を振り返ると、アメリカや日本を支配している思想は異質である。その結果が「強者総取り」のシステム。支配層は談合し、庶民は競争させている。このシステムにおいて、適切な対価を支払うという考え方は消え、「助け合い」は「社会主義的」だとして社会の仕組みから排除されてきた。「XX募金」はあくまでも個人的な活動にすぎない。 ヨーロッパを見ても、「強者総取り」の考え方が広まるのは比較的に新しい。例えば、中世では「世俗の乞食さえも折々は、有産者に慈善という善行の機会をあたえるところから、『身分』として認められ、評価されることがあった」(マックス・ウェーバー著、大塚久雄訳『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』岩波書店、1989年)ほどである。 これはカトリックの考え方だが、仏教の場合は「喜捨」、イスラムでは「ザカート」や「サダカ」などの仕組みがある。こうした考え方を否定したのがプロテスタント。 マックス・ウェーバー氏によると、プロテスタンティズムの「禁欲」は「心理的効果として財の獲得を伝統主義的倫理の障害から解き放」ち、「利潤の追求を合法化したばかりでなく、それをまさしく神の意志に添うものと考えて、そうした伝統主義の桎梏を破砕してしまった」という。(前掲書)コミュニズムには「伝統主義的倫理の復活」という側面があったと言えるだろう。 強者総取りを否定するという点で、本来、「右翼」と「左翼」に大差はないはず。その象徴的な存在が「重信親子」だ。親は重信末夫氏。一水会の鈴木邦男氏によると、血盟団に所属していた池袋正釟郎氏や四元義隆氏と親しかったという。 言うまでもなく、血盟団とは井上日召氏をリーダーとする団体。1932年2月に井上準之助元蔵相を、また同年3月には三井財閥の「大番頭」と呼ばれていた団琢磨氏を暗殺したことで知られている。政財界のトップ20名を殺す予定だったとされている。 暗殺を実行する前、池袋氏は重信氏を都城から東京へ呼び寄せ、血盟団に入れているのだが、井上氏から「お前は心が優し過ぎるからテロリストには向かない。」と言われ、郷里に返されたという。この重信末夫氏の娘が重信房子氏。日本赤軍のメンバーだった。その娘を末夫氏は「右翼」だとしていたようである。 右翼と左翼ですら、厳格に区別することはできないわけで、物事を単純化しすぎると問題の本質を見誤ることになりかねない。
2011.06.29
カンボジア特別法廷(ECCC)の初公判が6月27日に開かれた。この法廷は国連とカンボジア政府の合意に基づいて設置されたもので、被告はクメール・ルージュ(ポル・ポト派)の元幹部4名、つまりヌオン・チア元人民代表会議議長、イエン・サリ元副首相兼外相、キュー・サムファン元国家幹部会議長、イエン・チリト元社会問題相。なお、最高指導者だったポル・ポト首相は1998年に死亡している。 1976年にポル・ポトが首相に就任する直前から78年にベトナム軍がカンボジアに軍事侵攻してクメール・ルージュの体制が崩壊するまでの間に、多くのカンボジア人が殺されたと言われている。 ただ、何人殺されたのかは不明で、エール大学カンボジア虐殺プロジェクトの推測によると170万人、アムネスティ・インターナショナルは140万人、フィンランド政府の調査団によれば、処刑されたカンボジア人が7万5000名から15万名、殺人、飢餓、病気などで約100万人が死亡したと推計している。もっとも、餓死や病死の原因を作ったのはアメリカ軍による爆撃だが。 アメリカ軍がヘンリー・キッシンジャーの命令でカンボジアに対する大規模な空爆を一方的に始めたのは1969年のこと。第2次世界大戦で使用された爆弾の総数を上回ると言われる爆撃だった。 当時、ノロドム・シアヌーク国王はアメリカによる爆撃を激しく非難しているのだが、西側のメディアでは、ニューヨーク・タイムズ紙が「ベトコンや北ベトナムの軍事物資集積所や基地への攻撃」について書いた程度で、事実上、無視していた。そして1970年、シアヌークはロン・ノルのクーデターで追放されてしまう。 このロン・ノルは言うまでもなくアメリカ政府の傀儡。アメリカ軍の爆撃で約60万人のカンボジア人が殺され、約200万人が難民になったと言われている。当然、ロン・ノルはカンボジア国内で憎悪の対象になった。そうした状況の中でクメール・ルージュが実権を握り、虐殺へとつながるわけである。 この虐殺時代はヘン・サムリン政権の誕生で終わるのだが、この政権を倒すためにアメリカ政府はクメール・ルージュを支援しはじめる。ジョン・ケリー米上院議員の側近だったジョナサン・ウィナーによると、「ワシントンは1980年以来、クメール・ルージュ軍に8500万ドルを提供している」ようである。 ところで、現在、リビアでは内戦が続いている。フランス、イギリス、アメリカは「NATO軍」を目眩ましに使って軍事介入、ムアンマル・アル・カダフィ政権の打倒を目指しているのだが、反政府派にはアル・カイダ系の武装集団も含まれている。ポル・ポトたちやアル・カイダが犯罪者なら、アメリカの支配者たちも犯罪者だということになる。
2011.06.27
原子力発電のシステムが「温室効果ガス」を生み出していることは、原発推進派でさえ否定できなくなっている。ところが、日本経団連の米倉弘昌会長は「原発復旧の先行きにめどがついていない状態では(2020年までに1990年比で25%削減するという)目標の達成は困難だ」と6月6日に語ったという。エネルギーの使用量を減らすとか、代替エネルギーの促進といった発想は微塵も感じられない。言うまでもなく、米倉会長が望んでいるのは原発利権の維持拡大であり、地球温暖化の問題など実際には意に介していないということだ。 地球全体が温暖化しているかどうかは難しい問題だが、北極圏で気温が上昇していることは否定できない。1980年代の後半から北極地方で氷が融けるという現象も目立つようになり、動植物の分布に変化が生じてホッキョクグマやアザラシなどの生存も難しくなり、イヌイットの生活にも大きな影響が出ている。氷の消失で北極航路も可能になっている。 そうした状況の中、米倉会長以外にも環境問題を真剣に考えていない人は少なくないようだ。1997年12月に京都で「第3回気候変動枠組条約締約国会議」が開かれ、議定書が採択されている。日本の場合は、1990年に比べ、2008年から12年までに6%削減するという目標を掲げたのだが、その後、日本の政府も産業界も本気でこの問題に取り組んだとは到底、思えない。 おそらく、日本の動きにはアメリカの事情が大きく影響している。アメリカの産業界で議定書に反対する声が強く、2001年に誕生した共和党のジョージ・W・ブッシュ政権は議定書に全く関心を示さず、批准していない。「親分」の動きを見て、日本の支配層は議定書が発効しないと踏んだのだろう。 ところが、2004年に予想外のことが起こった。ロシアが批准してしまい、翌年に議定書が発効したのである。日本の政府や企業が慌てたことは想像に難くない。この頃からアメリカでは気候変動に絡んだ規制に反対する団体へ産業界が資金を提供しはじめたと言われている。そうした資金源の中で有名な存在がコーク兄弟。チャールズとデイビッドのコーク兄弟は石油業界の大物で、環境規制に反対しているだけでなく、富裕層への税率を徹底的に下げ、社会保障は最低限のとどめるべきだとしている。 しかし、コーク兄弟が原子力産業と対立しているとは思えない。そもそも、原子力発電のシステムは「温室効果ガス」を大量に出している。原発推進派は「温室効果ガス削減」という流れを原発推進に利用しようと考え、ウソをついただけのことだ。 地球が温暖化しているとしても、現段階では、その原因は明確でない。ただ、想定されるさまざまな要因のうち、人間の手で何らかのことができるのは、「温室効果ガス」の排出量を削減することくらいだろう。ものを燃やせば二酸化炭素だけが出るわけでなく、さまざまな汚染物質が放出される。大気が汚染されるということだ。そうした大気汚染にブレーキをかける指標としても「温室効果ガス」の削減は有効である。 言うまでもなく、原子力も環境を汚染する。通常でも大気、大地、そして海を放射性物質で汚していくのだが、事故になれば被害は甚大だ。ヒトという種だけでなく、地球に生きる多くの生物にとっても深刻な影響を及ぼすことは明白。つまり、原子力と「温室効果ガス」の問題を対立させて議論するべきではない。 環境問題に取り組む人々が「セクト」に分割されて喜ぶのは支配層だろう。ベトナム戦争が泥沼化する中、世界的に反戦運動が広がっていくが、その一方で「爆弾闘争」に突き進むグループも現れた。西ヨーロッパの場合、そうしたグループの背後で自国やアメリカの情報機関が蠢いていたこともわかっている。(詳しくは拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』を参照) アメリカでもウェザーマンのようなグループが「爆弾闘争」を展開し、反戦運動を孤立化させていったのだが、そうしたグループのリーダーの中に当局の「協力者」が潜り込んでいた疑いがある。例えば、ウィリアム・エアーズと妻のバーナディーン・ドールン。ふたりとも現在ではエスタブリッシュメントの一員だが、そうした立場でいられるのは、エアーズの父親、トーマス・エアーズのおかげ。トーマスはコモンウェルス・エジソン(電力会社)のCEOを務めるほどの大物だった。そこで出てくる疑問は、アメリカの爆弾闘争は誰が仕組んだのかということ。 今、環境問題でも「分裂工作」のようなことが起こなわれている気がする。
2011.06.24
中東の湾岸独裁産油国では、民主化運動の弾圧が続いている。バーレーンでは、3月の抗議活動に参加していた7名のうち4名に死刑、3名に終身刑が言い渡されているほか、23名の医師や24名の看護師など医療関係者も国家反逆罪で逮捕されている。そして今回、運動のリーダーと見られている8名に終身刑が言い渡された。そのほかにも多くの人々が拘束され、拷問を受けているようだ。 バーレーンは支配階級はスンニ派、被支配階級はシーア派という構造になっている。人口比はスンニ派が約3割、シーア派が約7割と言われているので、少数派が多数派を支配していることになる。シーア派弾圧の一環として、この国ではシーア派のモスクが破壊されているとも伝えられている。 バーレーンに軍隊を派遣するなど、民主化運動の弾圧に協力しているサウジアラビアもスンニ派が支配している国。ただ、この国の場合、スンニ派が約9割近くを占めている。つまり、宗派という切り口で見るならば、少数派を弾圧していることになる。WikiLeaksが公表したアメリカの外交文書によると、サウジアラビアでもシーア派の弾圧が続いているようで、バーレーンでの弾圧につながっているという見方もある。 支配体制を維持する上でインターネットは脅威になりつつある。WikiLeaksを介した情報の公開、あるいはTwitterやFacebookなどソシアル・ネットワーキングが民主化運動に大きな影響を与えているのだ。 その結果、こうした「脅威」に対する攻撃をビジネスにしようという会社も現れている。その代表格がHBゲーリー・フェデラル、パランティール、ベリコ。この3社はチーム・テミスを組織し、WikiLeaksだけでなく、体制に批判的なジャーナリストもターゲットにしようとしている。 なお、HBゲーリー・フェデラルは2003年に創設、パランティールはCIA系のベンチャー・キャピタルとして有名なIn-Q-Telから資金を調達して2004年に創設、2006年に創設されたベリコのCEOはウエスト・ポイント(陸軍士官学校)の出身だ。
2011.06.23
日本の政治家、官僚、大企業経営者、学者、そして報道機関はこの期に及んでも原子力政策をあきらめていない。事実を直視せず、妄想の世界に浸かっている様子を見ていると、日本の敗戦が明らかになっても戦争を継続しようとした大本営の参謀たちを連想させる。 自分たちの都合しか考えられないという点で、日本の支配層は今も昔も基本的に同じだ。かつては侵略戦争、現在は原子力政策。個人的な「カネ儲け」と「核兵器」に対する棄てきれぬ思いが原子力政策の原動力なのだろうが、その代償として日本は放射能に汚染され、多くの子どもたちから未来を奪うことになる。そうした政策を推進してきた政官財学報の責任は重く、その罪は万死に値する。 そうした政策を続けるためには、事故の原因を福島第一原発に特有のものだということにする必要がある。そこで、地震の「揺れ」が事故の原因だと認めるわけにはいかず、全ての原因は「津波」にあると主張するのだが、データはそうした説明と矛盾し、説明に苦しむことになる。そこで、都合の悪いデータを無視したシミュレーションで誤魔化そうとしているようだ。 地震から間もなくして、福島第一原発1号機では、格納容器の圧力が通常の1気圧から8気圧まで上昇している。このデータから冷却材喪失事故が起こった可能性が高いと推測した専門家がいる。圧力容器の設計に携わっていた田中三彦氏や格納容器を設計していた渡辺敦雄氏らである。 田中氏は原子炉で何が起こったかを詳しく分析、3月18日に会見で配管が損傷したか破断した可能性を指摘、その後に公表されたデータに基づく分析もしている。「主蒸気逃がし安全弁」が開いて閉じなくなった可能性もあるのだが、問題の時点における原子炉の圧力が弁が開く条件に達していないため、通常なら開かない。(「科学」、2011年5月号) 田中氏の説明は合理的であり、東電や政府の説明に比べてはるかに説得力があると私は考えている。6月21日にも配信された同氏の分析は次の通り。「福島原発事故シナリオ(田中氏の分析) 1/2」「福島原発事故シナリオ(東電のシミュレーション批判) 2/2」 また、渡辺氏は格納容器の圧力が8気圧まで上昇した理由について分析している。配管が破断するような事故が起こったとしても、格納容器の圧力は4気圧に収まるように設計されていたはずで、その設計圧力を大幅に上回った明確な理由は示されていなかった。 その原因を同氏は毎日新聞の取材に「地震で圧力抑制プールの水蒸気管が水面から露出して格納容器全体の圧力を高めた可能性がある」と答えている。つまり、余震によって、圧力抑制プールが本来の機能を果たさなかった可能性があるということだ。 日本の政官財学報は一貫して原子力政策を維持し、原発を動かし続けようとしている。そこで、事故に関する情報を隠し、ウソをついてきた。原子炉や使用済み燃料プールだけでなく、放射線の影響についても「安全デマ」を流し続けている。国際的に批判されているデマだが、そのデマを信じている人は少なくない。
2011.06.22
リビアへの軍事介入をめぐり、アメリカではバラク・オバマ政権と議会との対立が激しくになっている。大統領が始めた戦闘行為は議会が承認しないかぎり、60日から90日の間に終結させなけらばならないのだが、イラン攻撃に反対する意見が議会に多く、戦争の承認を得ることは簡単でない。 そうした中、13日にはリビア攻撃への支出を事実上、不可能にする修正法案が下院で可決されている。この法案はブラッド・シャーマン下院議員が提案したもの。また10名の下院議員がオバマ政権のイラク戦争への加担は違法だとして、法的な手段に訴えようとしているようだ。 こうした動きに対し、アメリカ軍は戦闘行為には加わっていないとオバマ政権は弁明している。「後方支援」に徹しているというのだが、無人機による攻撃は続けているわけであり、説得力はない。この理屈が通るなら、無人機やミサイルによる攻撃は戦闘行為でないということになってしまう。 本ブログでは何度か書いたことだが、リビアやシリアの内乱はフランス、イギリス、あるいはアメリカのネオコンが仕掛けている。中東からアフリカ大陸の利権を維持、拡大することが目的だとも見られている。 湾岸の独裁産油国では民主化の動きを暴力的に弾圧し、欧米がコントロールできていないリビア、シリア、イランの体制を倒し、さらにアフリカの中南部における利権を守るという壮大なビジョンがチラチラ見える。こうしたシナリオを達成することは簡単でない。
2011.06.16
イタリアで行われた原発建設の再開に関する国民投票で、原発の新設や再稼働を無条件で凍結することが決まった。投票率は57%に達し、そのうち95%が原発に「ノー」と表明したのである。福島第一原発の破滅的な事故以来、原発に反対する声は全世界に広がっていることを再確認させる結果だ。 勿論、原子力利権に執着する人々は巻き返そうと必死だが、福島第一原発の事故という事実に圧倒されている。日本ではマスコミを使って偽情報、いわゆる「安全デマ」を広めてきた。それなりの効果はあったようだが、インターネットの時代には国外からマスコミを経由せずに情報が飛び込んでくる。国内でも、かつてなら封印されていた意見も人々に届くようになっている。 原発を維持するべきだとする立場から、「電力不足」という話が盛んに語られているのだが、そうした話がウソだと言うことも暴かれている。空調のために大量のエネルギーを必要とする高層ビルを乱立させてきた政策を批判する必要はあるが、そうしたビルを解体しなくても停電は避けられる。電力が足りないから原発が必要という主張は、飢餓の恐怖を煽って毒饅頭を食べさせようとしているようなものだ。 火力発電の比率を高めれば石油の使用量が増え、中東への依存度が高まると懸念を表明する人も少なくない。そこでアメリカやイギリスは湾岸の独裁産油国の民主化運動を暴力的に弾圧する手助けをしているのだろうが、民主化されてもビジネスは継続される。 産油国としても、原油価格を抑えたい事情がある。価格が高騰すれば、石油以外のエネルギー源へのシフトが加速される恐れがあるからだ。コスト的に難しかったエネルギー源でもビジネス的に成り立つようになり、新たなエネルギー源の開発も促進されることは避けられない。だからこそ、1973年当時、サウジアラビアは石油価格の値上げに反対していたのである。 この値上げは「オイル・ショック」とも呼ばれているが、2001年1月14日付けのオブザーバー紙によると、1973年の石油価格高騰はアメリカの巨大石油企業が望んでいたことだった。当時、ファイサル国王の意向でイランを訪問したサウジアラビアのザキ・ヤマニ石油・鉱物資源相(当時)に対し、イランのパーレビ国王は「なぜ原油価格の値上げに君たちは反対するのだ?そう願っているのか?ヘンリー・キッシンジャーに聞いてみろ、値上げを望んでいるのは彼なんだ」と語ったという。実は、1973年五月に開かれたビルダーバーグ・グループの会合でアメリカとイギリスの代表は400%の原油値上げを要求、その結果が「オイル・ショック」だったのである。 リビアの内乱では石油だけでなく、金も注目されている。3月21日付けのフィナンシャル・タイムズ紙によると、リビアの中央銀行が保有する金の量は少なくとも143.8トン、現在の相場で換算すると65億ドル以上になるという。しかも、通常の国とは違い、その保管場所はリビア国内のようだ。欧米を信用していなかったということだろう。 こうしたリビアの資産はアフリカ中南部諸国の自立を支援するために使われていたとも言われている。その一例が1993年に設立されたアフリカの衛星通信機構、RASCOM。それまでアフリカは年間5億ドルの衛星使用料を支払っていたが、アフリカが自前の衛星を手にすれば、最初に4億ドルを支払うだけですむのだという。その結果、国際通話、インターネット接続などのサービスを供給し、各国でラジオ、テレビ、およびマルチメディア環境を提供することができる。 この計画を実現するため、リビアは3億ドルを提供、そこにアフリカ開発銀行が5000万ドル、西アフリカ開発銀行は2700万ドルを加えた。アメリカがリビア攻撃に賛成した一因は、こうしたアフリカにおけるリビアの動きを懸念してのことのようだ。 ベンガジで始まった反政府運動の背後には、イタリアのジャーナリスト、フランコ・ベキスによると、リビアの元政府高官とフランスの情報機関が存在するという。その高官とは儀典局長を務めていたノウリ・マスマリ。昨年10月、機密文書を携え、チュニジアを経由して家族と一緒にパリへ降り立ったのである。 マスマリは治療を受けるという名目で出国、パリではコンコルド・ラファイエット・ホテルに宿泊している。ところがパリでは医者に会わず、フランスの情報機関員やニコラ・サルコジ大統領の側近たちと会談している。 11月にフランスは「通商代表団」をベンガジに派遣、当然のことながら、その中には情報機関や軍のスタッフが含まれていた。現地では、マスマリから紹介されたリビア軍の将校と会っている。こうした動きをリビア政府も察知したようで、会談の直後にマスマリに対する逮捕令状が出ている。この月にはフランスとイギリスが相互防衛条約を結び、リビアへの軍事介入へ第一歩を踏み出している。 こうした動きをリビア政府も察知、11月にはマスマリを国際手配、その一方でムサ・コウッサ外相がマスマリ出国の責任を問われることになる。マスマリは滞在していたコンコルド・ラファイエット・ホテルで「軟禁」状態になったとリビア政府には伝えられたようだが、実際は逮捕されていない。逆に、このホテルに入ろうとしたリビア政府の特使は拘束されている。この月、フランスとイギリスは相互防衛条約を結び、リビアへの軍事介入へ第一歩を踏み出している。 1956年にフランスとイギリスはスエズ運河の利権を確保するため、イスラエルと手を組んでシナイ半島に軍事侵攻(第2次中東戦争)しているが、今回のケースはこの出来事を思い起こさせる。この戦争はアメリカのドワイト・アイゼンハワー大統領がソ連のニコライ・ブルガーニン首相と協力、停戦と侵略軍の即時全面撤退を通告しているのだが、今回はアメリカも巻き込まれているため、収拾は困難だ。 石油の供給に不安があるという具体例としてリビアを挙げる人がいるようだが、リビアを不安定化させたのはフランス、イギリス、そしてネオコンを中心とするアメリカなのである。
2011.06.14
東北地方の太平洋沖で巨大地震が起こり、福島第一原発が事故を起こしてから3カ月余りになる。この事故によって大量の放射性物質が放出/流出し、多くの被曝者を出してしまった。迅速に避難すれば避けられた被曝もある。その責任は正確な情報を隠し、「安全デマ」を流した政府とマスコミにある。 今回の事故でマスコミが単なるプロパガンダ機関にすぎないことを多くの人が知ってしまった。当日の午後3時42分に1号機から3号機で「全交流電源喪失」と東電が政府に通報した段階で、事故が破滅的だということは明らかだった。冷却ができないことを意味しているからである。 事故の翌日、原子力資料情報室で開いた会見で元原子炉設計者の田中三彦氏は、格納容器の圧力が異常に高まっている重大な意味を指摘している。通常は1気圧弱で、設計上の緊急時でも4気圧にすぎないのだが、8気圧まで上昇していたわけで、とんでもない状況になっていることは明らかだった。それだけの圧力上昇をもたらせた蒸気がどこからきたのかを政府や東電は語らず、マスコミは質問しなかった。 こうした現象が起こる理由として考えられるのは、給水配管が損傷/破断したのか、あるいは「主蒸気逃がし安全弁」が開いて閉じなくなったのかであり、いずれにしろ、圧力容器の水位が下がるという現象が起こっていることは明らか、つまり冷却材喪失事故が起こっていることを示していた。 田中氏によると、問題の時点における原子炉の圧力は安全弁の開放設定圧力より低いため、通常なら開かない。つまり、配管が損傷/破断したと考えなければならないわけで、破局への道を歩き始めたのは津波がくる前、地震で揺れているときだった。(「科学」、2011年5月号) こうした状況になっていることは、田中氏だけでなく、海外の専門家も推測していたようだが、日本のマスコミは相変わらず「デマ」を流すだけ。3号機の大規模は爆発で使用済み燃料棒が飛び散った可能性などについても報道していない。 圧力容器内の燃料棒が損傷していることも早い段階から知られ、溶融している可能性も指摘されていたが、政府が1から3号機で燃料が原子炉圧力容器の底に溶け落ち、一部は容器に開いた穴から外側の格納容器に落下している可能性があると発表したのは6月に入ってからだった。 溶融物が圧力容器から格納容器へ落ちたとするならば、そのまま格納容器を突き抜けるても不思議ではない。何しろ、溶融物の温度は二千数百度、格納容器は融点が千数百度の鋼製で、しかも厚さは数センチしかないからだ。つまり、少なくとも溶融物の一部はコンクリートの中へ入っていると考えられるのである。 マスコミが流している「デマ」の中で最もタチの悪いものは、放射線の人体への影響である。 放射線であろうと化学物質であろうと、人間にどのような影響があるかを正確に知るためには生体実験するしかない。例えば、青酸化合物の正確な致死量がわかっているのは、日本の医学界が731部隊などを使い、実際に人間を使って実験したからである。 放射線の場合、広島や長崎に投下された原子爆弾の影響、あるいはチェルノブイリ原発の事故による影響を調べたり、細胞を使った実験で推測しているのだが、問題は政府や国際機関がデータを隠してきたこと。原子力発電は原爆と密接な関係にあるため、「軍事機密」として扱われてきた側面もあるだろう。 とにかく、不明な点は多い。それをいいことに、「専門家」と称する人たちが被害をないかのごとく宣伝、それをマスコミは垂れ流してきた。こうした日本の姿勢は世界的な非難を受けることになり、そうした情報はインターネットを通じて日本にも伝えられている。政府、東電、マスコミの流す情報が信用できないことは広く知られるようになってきた。信頼されなくなったマスコミは人々から見向きもされなくなり、そうなれば、政府や財界に見捨てられるだろう。 ところで、チェルノブイリで「134名の急性放射線傷害が確認され、3週間以内に28名が亡くなっている。その後現在までに19名が亡くなっているが、放射線被ばくとの関係は認められない。」と官邸は主張している。 そうした数字の根拠にしたのはIAEA(国際原子力機関)やWHO(世界保健機構)などで編成された「チェルノブイリ・フォーラム」。このフォーラムでさえ「放射線被曝にともなう死者の数は、将来ガンで亡くなる人を含めて4000人である」としている。 そのほか、チェルノブイリ事故によるガン死数をWHOは9000件、IARC(国際ガン研究機構)は1万6000件、キエフ会議は3万から6万件、グリーンピースは9万3000件と見積もっている。アメリカのニューヨーク科学アカデミーから出版された『チェルノブイリ:大災害の人や環境に対する結果』では、1986年から2004年までの間に98万5000名が亡くなり、その数は増え続けているとしている。 このところ、自分たちのおかれたマズイ状況に気づいたマスコミの一部は少しずつ事実を伝えるようになった。今でもプロパガンダに徹している記者/編集者たちよりはマシなのかもしれないが、所詮は「アリバイ工作」にすぎない。現在はマスコミから逃げている人も含め、その責任は重い。
2011.06.13
福島第一原発の事故が「リーマン・ショック」と重なって見える。ふたつの出来事は共通の問題を抱えているという気がするのだ。その問題とは「リスク」である。小手先の策でリスクを小さく見せても本質的な解決にならないことをふたつの出来事は明確に示している。 世界でもトップクラスの金融機関と考えられていたリーマン・ブラザーズが倒産(破産法第11条の適用を申請)したのは2008年9月15日のこと。サブプライム・ローン(アメリカの低所得者向け住宅ローン)という仕組みが破綻し、その影響で経営不振に陥ったと言われている。 サブプライム・ローンとは、「最優遇(プライム)」の「下(サブ)」の貸し付けということになるが、要するに高利の融資。問題の取り引きは不動産にからんでいる。通常なら住宅を買うことが難しい低所得者に高い金利でカネを貸し、そのカネで住宅を購入させていたのだ。 勿論、そんなことをすれば借金地獄に陥ることは明白。暴力的な手段を使わない限り、返済能力のない人たちから貸したカネを回収することは困難だ。つまり、貸し倒れになる可能性が高く、ビジネスとして成立するようには見えない。この問題を解決したのが「上がり続ける相場」という神話だ。 相場が上がれば不動産の担保価値が膨らみ、さらに融資を受けることができ、消費に使える。つまり価格が上昇し続ければ担保価値は膨らみ続け、限りなく消費することができるということになる。マルチ商法と同じ理屈。 貸し手は債権を細かく区分けし、CDO(債務担保証券)と呼ばれる証券を作成、その証券を投資銀行へ売却し、投資銀行はそれを組み替えてヘッジ・ファンドへ売り、さらに「カネ余り」の投資家へ転売するという流れになっている。債務不履行になった場合に代弁済するため、モノライン(証券保険専門会社)も用意された。 こうした仕組みでリスクを「無視できるほど小さく」するので安心だというのだが、相場が大きく下がれば成り立たない。値下がりが始まると売りが売りを呼び、システムは一気に崩壊する。相場が下がれば担保価値は収縮し、借金地獄が始まるわけだ。 安全装置を幾重にも組み込んだところで、全てが壊れれば意味がない。計算上、リスクを小さくしても本質的な解決にはなっていないということだ。これは原発の問題と同じである。 投機と同じように、原発は現実から乖離したマネーゲームという側面があるのだが、このゲームは庶民から富を搾り取ることで成り立っている。投機市場や原発利権が儲かるのは莫大な資金が流入しているからで、その源泉は庶民の懐。ゲームが破綻すれば、庶民が尻ぬぐいさせられる。 勿論、原発の場合、事故が起これば放射能が人類の存続、いや生態系を危うくするという大きな問題も抱えている。ジョージ・W・ブッシュの重要な「財布」とされたエンロンは、エネルギーとカジノ経済を融合させた会社だった。 こうした事態を招いた原因を考えると、「強欲」を善とする考え方がある。ウォール街やシティ、あるいは原子力村の住民が自らの強欲さを反省するとは思えない。彼ら個人ではなく、社会全体が「強欲」から「助け合い」へ考え方を戻さない限り、人類に未来はない。
2011.06.11
日本の利権集団は「東日本大震災」での焼け太りを狙っているようだ。復興財源として国債の発行や消費税の増税、結局のところ庶民へ負担を押しつけ、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)を導入しようとしている。ついでに原発事故に伴う損害も庶民に尻ぬぐいさせ、東電を救済しようとしているように見える。強者総取りの新自由主義経済をあくまでも推進するということだ。 その新自由主義経済を世界に広めてきたアメリカは、そうした政策のために崩壊寸前である。国の富が一部の集団に流れているということだ。そうした流れを促進している最大の要因が税制。つまり、ジョージ・W・ブッシュ政権が強行した富裕層や大企業に対する大幅な減税である。勿論、戦費負担も大きいのだが、富裕層/大企業への減税政策に比べると影響は小さい。 社会的に優位な立場にある集団に富が集中する政策を推進した結果、庶民は貧困化し、社会を循環する資金が枯渇して貧困化が進み、不景気になる。不景気による財政の悪化も根は富裕層への優遇策だ。富裕層/大企業を優遇する政策を日本も推進、アメリカと同じ問題が生じているのだが、それは利権集団にとっては好ましい傾向。日本という国がどうなるかを心配しているようには見えない。 日本で原子力が推進されてきた大きな理由はふたつある。核兵器を製造する能力を手に入れることと、莫大な利権である。核兵器への憧れがベースにはあるだろうが、これだけ原発を作ってきた理由は利権システムにある。原発は放射能とカネを同時に吐き出す怪物だとも言えるだろう。怪物から受け取る資金は社会に還流されず、投機、つまり博奕に使われて社会は疲弊する。この怪物を退治しなければ、子どもたちに未来はない。 新自由主義は強欲を信仰する宗教にすぎない。どれほど数式が並んでいようと、その根本にはマーケットという偶像が鎮座しているだけだ。世界的に見れば、こんな神話/教義はとうの昔に破綻している。 こうした宗教によって、アメリカでは1%の人間が全年間収入の4分の1を手にし、富の約4割を支配しているのだという。教団を維持するため、集めた資金の一部は政治家や官僚だけでなく、アカデミーの世界やメディアにも流れる。2001年にノーベル経済学賞(アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞)を受賞したジョセフ・スティグリッツに言わせると、こうしたアメリカの状態は「1%の、1%による、1%のための」システムだ。 大企業、政治家、官僚、学者、報道機関で作られる利権構造は、日本にも存在する。アメリカより日本の方が強固かもしれない。原子力利権はそうした構造の一部であり、戦争がなくならない理由も根は同じだ。強欲を善とする考え方が世の中を動かしている限り、人類が死滅するまで、怪物は何度でも生き返る。
2011.06.09
溶融した炉心が圧力容器の底を溶かして格納容器に落下した可能性を日本政府も否定できなくなったようだ。ただ、格納容器の内部に溶融物は止まっているとしているのだが、融点の関係から格納容器も突き抜けてコンクリートの内部を沈み続け、近いうちに地中へ入り込むと考えねばならない。そうなると、地中や海中の汚染がこれまで以上にひどくなるだろう。 地震の翌朝には燃料棒が完全に溶融して圧力容器の底に落ちたことを東京電力が認めたのは5月中旬のことで、格納容器へ溶融物が流れ落ちていた可能性も指摘されていた。格納容器は鋼鉄製で、その周囲をコンクリートが取り囲んでいる構造だが、格納容器に溶融物が落下すれば融点の関係ですぐに融け、コンクリートの内部に入ると多くの人は推測していた。いわゆる「チャイナ・シンドローム」である。 事態がチャイナ・シンドロームの段階に達している可能性があることを官邸/経産省/東電は認識していたはず。官邸、経産省、東電は情報を小出しにしながら、少しずつ発表して原子力推進派への風当たりが強まるのを避けようとしてきたように思える。もっとも、官邸/経産省/東電の思惑には関係なく、少なからぬ人がチャイナ・シンドロームをこの段階で疑っていたが。5月下旬になると専門家の中にはチャイナ・シンドロームが起こっている可能性が高いことをラジオで指摘する人も現れている。 東電福島第一原発の事故に関し、運がよければチェルノブイリ原発程度で収まる、3号機の使用済み核燃料プールで核暴走があり、燃料棒の破片が周囲数キロの範囲まで飛び、微粒子となった放射性物質は太平洋を越えた、あるいは1号機から3号機までチャイナ・シンドローム状態、4号機に倒壊の恐れなどと推測する海外の専門家もいる。 放射性物質をできるだけ狭い範囲に押さえる手立てを講ずるだけでなく、さまざまな理由から逃げたくても逃げられない人々のため、一刻も早く手を打つ責任がある。官邸/経産省/東電はこれ以上,罪を重ねないでほしい。
2011.06.08
チリでは軍事政権下の出来事に対する調査が進み、ペルーでは「新自由主義経済」を拒否するオジャンタ・ウマラが大統領選で勝利したようだ。 ペルーの選挙では、ウマラの対立候補で新自由主義経済、つまり「強者総取りシステム」を推進する立場のケイコ・フジモリにしても、最貧困層に配慮すると表明していた。ラテン・アメリカでは「民主化」の流れが続いているようだ。 社会的に優位な立場にある一部の人間が富を独占する新自由主義経済を国の政策として最初に導入したのはチリ。国民の大多数にとって好ましくないはずの政策を可能にしたのが、オーグスト・ピノチェト将軍を中心とするグループが1973年9月11日に実行した軍事クーデターである。クーデターの黒幕は米大統領補佐官のヘンリー・キッシンジャーだということも明らかになっている。 アメリカ政府が民主化を恐れる最大の理由は、自分たちのボスであり、スポンサーでもある富裕層の利権構造が揺らぐからにほかならない。ピノチェト体制はシカゴ大学のミルトン・フリードマン教授の「マネタリズム」に基づき、大企業/富裕層を優遇する政策を実施していく。その手先として活動していたのが同教授の弟子たち、いわゆる「シカゴ・ボーイズ」だ。 もう少し具体的に言うと、シカゴ・ボーイズは国有企業を私有化し、労働者を保護する法律を廃止していったのである。その結果、表面的には経済成長を達成したかのように見えたのだが、実態は違った。経済成長の恩恵を享受したのは富裕層だけで、しかも過大評価されたペソで購入された安い輸入品により、地場産業はダメージを受けた。(要するに、日本の政財官学報が推進しようとしている政策だ。) 民主化を求め、外国資本の支配に反対するような人々、つまりアメリカやチリの富裕層にとって邪魔な存在を軍事政権はクーデター後に容赦なく弾圧、一説によると約2万人が虐殺されたと言われている。この当時の弾圧に関する調査が今、チリでは進行中だ。 北アメリカの南アメリカ支配が本格化するのは19世紀の終盤から。当時の南アメリカはスペインの支配下にあったのだが、その支配体制を倒す切っ掛けが1898年の「メイン号爆沈事件」。キューバのハバナ港に停泊していたアメリカの軍艦「メイン号」が爆沈したのだが、アメリカ側はこれをスペインの破壊工作だと主張、「米西戦争」を始めて勝利し、このときにフィリピンも手に入れ、中国へ乗り込む橋頭堡にしている。 1900年の大統領選挙で再選されたウイリアム・マッキンリーが翌年に暗殺され、副大統領のセオドア・ルーズベルトが跡を継ぐ。その新大統領は「棍棒外交」を展開し、ベネズエラ、ドミニカ、キューバを次々と「保護国化」してしまう。こうした政策は1933年にフランクリン・ルーズベルトが大統領に就任するまで続き、1945年にフランクリンが急死すると復活した。その延長線上にチリのクーデターもある。 ペルーの場合、アメリカだけでなくイスラエルと日本も重要なファクターだ。イスラエルがペルーに注目した最大の理由は、核兵器に必要な物質を入手することにあった。それまでイスラエルは南アフリカから手に入れていたのだが、南アフリカの白人政権がイラクのサダム・フセイン政権に接近したことから対立、別の入手先を探していたのだ。 1980年代、アメリカではイラクを巡り、支配層の内部で対立が生じていた。副大統領で元CIA長官のジョージ・H・W・ブッシュやロバート・ゲーツ(現国防長官)らの勢力がフセイン体制と友好的な関係を築いていたのに対し、ネオコン(親イスラエル派)はフセイン体制の打倒を目指していた。ペルーもそうした対立の舞台になっている。 ケイコ・フジモリの父親、アルベルト・フジモリが大統領に就任したのは1990年のこと。フジモリ大統領の側近として治安/情報部門を指揮していたのが国家情報局の顧問を務め、「影の大統領」とも呼ばれていたブラジミロ・モンテシノス。1970年代からCIAの協力者として活動していたとも言われ、ペルーの軍部には信頼されていなかった。 ペルーで核関連物質を産出する地域は反政府ゲリラ、センデロ・ルミノソが支配していた。イスラエルはゲリラの指導者、アビマエル・グスマン・レイノソと取り引きしていたのだ。グスマンは「ユダヤ系」だったこともあり、交渉はスムーズに進んだという。それに対してフジモリ政権はゲリラ掃討作戦を強化、1992年にグスマンを拘束した。つまりペルー政府は「原子力利権」を手にしたことになる。 アルベルト・フジモリが「容疑者」になったあと、日本政府は彼を保護しているが、それは単に彼が「日系」だったためなのか、原子力利権が絡んでいたのか、今後、調べる必要があるだろう。 ともかく、南アメリカでは自立、民主化への道を歩こうとする気運が高まっている。アメリカの巨大資本による支配は御免だということだ。勿論、今でもアメリカ企業の力は強く、独裁時代のネットワークが消えたわけではないが、庶民の力が大きくなっていることは確かであり、19世紀から続く支配構造は崩れつつある。
2011.06.07
ある種の人々にとっては受け入れ難いであろうアメリカの外交文書をWikiLeaksが公表した。1989年6月にあった「天安門事件」に関する報告だ。その文書によると、天安門広場で流血はなかったという。 もっとも、こうした話は事件を目撃したジャーナリストなどからも報告されている。約一年前に本ブログでも書いたが、コロンビア大学の出している雑誌、「CJR(コロンビア・ジャーナリズム・レビュー)」(1998年9/10月号)に掲載された記事もそうした報告の一例。書いたのはワシントン・ポスト紙の初代北京支局長、ジェイ・マシューズである。 彼の記事によると、1989年6月3日から4日にかけて(つまり天安門事件があったとされる日)現場に居合わせた人の話では、広場に到着した軍隊は残っていた学生が平和的に立ち去ることを許しているという。 ただ、当日、北京で数百名が殺されたのは確からしい。その場所は天安門広場から1.6キロメートルほど西で、大半が暴徒化した労働者や通りがかりの人であり、火炎瓶で焼き殺された兵士もいたようだ。こうした話もWikiLeaksが公表した文書と矛盾しない。 要するに、香港の新聞が伝えた「天安門広場での虐殺」は間違いだったということ。この情報は西側メディアにとって「信じたい話」だったため、飛びついたのだろう。学生の指導者、吾爾開希(ウイグル系の名字)は200名の学生が射殺されるのを見たと発言していたが、その出来事があったとされる時刻の数時間前、彼は広場から引き上げていたことが後に判明している。 原発推進と同じように、中国攻撃は現在、日本の「国策」である。マスコミは、そうした国策に沿った報道をしてきたということだろう。
2011.06.05
サウジアラビアは今後20年の間に3000億ドル以上をつぎ込み、19機の原子炉を建設すると報道されている。原子力再生可能エネルギー・アブドラ国王市で科学的共同研究の調整役を務めるアブドゥル・ガニ・ビン・メライバリによると、プロジェクトに参加する企業は入札で決定、10年後から毎年2機ずつ完成させ、電力需要の約20%を賄うというプランになっている。 このタイミングで原発建設プロジェクトを公表した理由として考えられるのは、言うまでもなく、原子力産業への支援。東電福島第一原発の事故に伴う国際的な原発離れで苦しい立場の原子力業界としては、今回のプロジェクトはありがたいだろう。 欧米各国で原発の建設が止まる中、地震のリスクも顧みずに次々と原発を作ってきた日本。日本が原発離れしないように世界の原子力産業は日本の「原子力村」を支援しているようだが、これまで通りにはなりそうもない。万一、このまま日本が原発政策を変えないなら、「福島第一原発も警告にすぎなかった」というような大事故が起こるだろう。その時、日本という国は歴史から消える。 サウジアラビアの場合、核廃棄物は砂漠に捨てるつもりかもしれないが、燃料のウランは潤沢に存在するわけでなく、石油の使用量をおさえるという説明に説得力はない。本当に石油の国内消費をおさえることが目的なら、別の手段がある。例えば、降雨量が少ない砂漠地帯なら太陽を利用した発電は有効なはずである。 それでも原発に執着するひとつの理由は原子力産業からの要請だろうが、もうひとつは核兵器。放射性物質の扱い方に慣れることは、核兵器を開発する上で重要だ。 世界有数の核兵器保有国、イスラエルがイランの核開発に神経を尖らせている理由もそこにある。アメリカとの交渉などでイスラエルは「核兵器カード」を使っているようで、その力を実感しているはずだ。 それにもかかわらず、サウジアラビアに対するイスラエルの反応は鈍い。そこにはイスラエルとサウジアラビアとの親密な関係がある。ホスニ・ムバラク時代のエジプトだけでなく、サウジアラビアもイスラエルと友好的な関係にあるということだ。 言うまでもなく、サウジアラビアの背後にはアメリカの巨大石油資本が存在する。はじまりはSOCAL(スタンダード石油カリフォルニア)。SOCALは1933年にCASOC(カリフォルニア・アラビアン・スタンダード石油)を設立、36年にはテキサコが資本参加、第2次世界大戦の最中、この2社にスタンダード石油ニュージャージーとソコニー・バキュームも加わってARAMCO(アラビアン・アメリカン石油)が誕生した。1979年には、76年にさかのぼって完全国有化されている。少なくとも国有化される前、ARAMCO首脳の多くはCIAとつながり、同社はアメリカの情報基地として重要な役割を果たしていた。 ARAMCOが国有化される前、サウジアラビアでは大きな出来事があった。ファイサル・イブン・アブド・アルアジズ国王が1975年、甥のファイサル・ビン・ムサイドに射殺されたのである。ビン・ムサイドはクウェートのアブドル・ムタレブ・カジミ石油相の随行員として現場にいた。アメリカと一線を画していたファイサルとは違い、その後の国王は親米派と見られている。現在のアブダラ・ビン・アブド・アルアジズ・アル・サウド国王も例外ではない。そのアメリカは1970年代に入り、それまでとは比較にならないほどイスラエルへ接近した。 イラン、シリア、リビアへの攻撃や工作で、サウジアラビア、イスラエル、そしてアメリカの三国は歩調を合わせていることが明らかになっている。ムバラク体制までのエジプト、ガザ攻撃までのトルコもこの集団に加わっていた。こうしたつながりがサウジアラビアの原発建設でも反映されていると考えるべきだろう。
2011.06.04
5月1日にオサマ・ビン・ラディンはアボッタバードの邸宅でSEALチーム6(米海軍の特殊部隊)に殺害されたということになっているのだが、疑惑は解消されていない。福島第一原発の事故における日本政府と同じように、ビン・ラディンのケースではアメリカ政府の発表が訂正に次ぐ訂正。 結局、暗殺部隊は2機のヘリコプターを使って襲撃、その際にビン・ラディンたちは丸腰で、銃撃戦らしい銃撃戦はなかったことになっている。襲撃の前、数カ月にわたって邸宅をCIAのチームが監視していたされているが、別の情報では、建設当時から問題の邸宅はISI(パキスタンの情報機関)の監視下にあり、CIAは2005年から監視していたとのだという。 オサマ・ビン・ラディンは腎臓が悪く、アフガニスタンの山中でゲリラ戦を行うことは不可能だと見られていた。姿を隠す直前、2001年7月にビン・ラディンは腎臓病の治療をするため、アラブ首長国連邦ドバイの病院で入院していた。その際にCIAの人間と会ったとフランスのル・フィガロ紙は報道している。人工透析しなけらばならない状況だったようだ。パキスタンに潜伏している頃、腎臓病が治り、健康体に戻っていたという話は信じがたい。 そこで、SEALチーム6が邸宅を襲撃したとき、オサマ・ビン・ラディンはすでに死んでいたのではないかと推測する人も少なくなかったのだが、彼はかなり前に病死していたとイランの情報長官は断言している。アメリカ政府の公式発表よりは信憑性がある。この情報が正しいなら、アメリカ側もビン・ラディンの死を知っていたはずで、自分たちの軍事行動、国内のファシズム化などを正当化するため、死人の幻影を利用していた可能性が出てくる。
2011.06.02
シリアでは軍と反政府派が衝突し、「人権団体」によると約1000名が殺され、多くの負傷者が出ているという。6月1日に41名以上が犠牲になったとする話も流れている。 こうした反政府運動には複雑な背景があり、「民主化運動」と簡単に表現するわけにはいかない。すでに本ブログでは書いたことだが、シリアの反政府派は、「MEPI(中東協力イニシアティブ)」や「民主主義会議」といった組織を介し、アメリカの国務省から資金を得てきた。アメリカ以外では、サウジアラビア、ヨルダン、そしてイスラエルが反政府活動を支援していると言われている。 反体制派の中でも、バシャール・アル・アサド大統領の伯父にあたるリファート・アル・アサドを中心とする勢力、あるいは父親の政権で要職にあった人物で今はパリを拠点にしているアブドゥル・ハリム・カーダムを中心とする勢力などが有名。カーダムはレバノンのハフィク・ハリリ元首相やサウジアラビアのアブドゥラ国王と親戚関係にあり、その背後にはムスリム同胞団が存在しているとも言われている。 ワシントン・ポスト紙は、米国務省がシリアの反体制派に資金を提供していたことを示す外交文書を公表している。中でも注目されているのがロンドンに拠点を持つ衛星放送のバラダTV。2009年4月に放送を開始、アサド体制を倒すためのキャンペーンを続けている。ロンドンにいる亡命シリア人のネットワーク「正義発展運動」の影響下にあり、公表された外交文書によると、2006年から2009年まで、放送だけでなく反政府活動の資金として600万ドルを提供している。 アメリカでシリアの反政府派への支援を始めたのはジョージ・W・ブッシュ政権。イランやシリアへの軍事攻撃に執着しているネオコン(親イスラエル派)の意向が反映されていることは間違いないだろう。 シリア政府もこうした秘密工作には気づいていた。バラク・オバマ政権はシリアとの関係修復を目論んでいたのだが、すでに動いている工作を止めることは困難で、頭の痛い問題になっていた。 シリアの反政府派をアメリカや西ヨーロッパ諸国が支援することを懸念しているのがロシア。セルゲイ・ラブロフ外相は「西側」に対し、反政府派へ軍事支援しないようにと警告している。 すでに英仏米を中心とするNATO軍はリビアの内戦に軍事介入、泥沼化している。この内戦でNATOはアルカイダ系の勢力とも手を組み、介入の目的がアフリカの利権にあることも明確になっている。リビアはアフリカの中南部諸国を自立させるため、石油資源や保有する金塊を利用している。だからこそ、AU(アフリカ連合)がNATOの軍事介入に批判的なのである。 英米仏はイスラエルが行っている非人道的行為には目をつぶり、自分たちの利権と結びついているサウジアラビアなどの独裁産油国が民主化運動を軍事的に弾圧しても気にしない。それどころか、弾圧を支援している。欧米の利権集団が手を引けば、中東/北アフリカは自然と民主化されるはずだ。
2011.06.02
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