つきあたりの陳列室

つきあたりの陳列室

2006.02.25
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カテゴリ: Sport
◆終幕まで(第4グループ)

最終グループ六人のウォーミングアップで,その時点でトップの,米国のコーエンが明らかにおかしい.表情が異様に硬いし,人とぶつかりそうになるし,ジャンプを繰り返し失敗する.これで4分間ノーミスで滑りきるのは多分無理だろうと思った.ずいぶん小さい選手だなと思って観戦ガイドで確かめると,何と身長145cm.小さい体躯がいっそう硬く冷たく見えた.

一方の荒川静香は,綺麗なコンビネーションジャンプを何度も見せ,硬さらしきものが全く見られない.SP後の表情といい,昨シーズンから見ていて,こんなにリラックスした荒川,見たことない.なんだかもう,それだけで感慨深くて,良かったなあと,思った.すごいことになっちゃったときの為に,心の準備をし始めた.

上位二人とも完璧ということはないだろうと思った.でも二人とも崩れることはないだろうとも思っていた.






erigeron.frozen

まずは, コーエン が登場.始まりの表情を見たときは,大丈夫かなとも思ったが,最初のジャンプで転倒.その次までも失敗.

でも,それからのコーエンは良かった.SPの勢いは若干影をひそめたけれど,コーエンはコーエンだった.手足の形の綺麗さ,緩急のある独特のリズム,厭味じゃない程度の小悪魔的エロティシズム(ブリトニー風?).

その後はミスも無く,表情も悪くない.21歳にしてもう風格がある.これからも,誰とも違うコーエン独自の境地を拓いていってほしい.





コーエンの直後, 荒川静香 登場.トゥーランドットは初めて聴く耳には抑揚の少ない曲だった.これが荒川の運命の曲?荒川はわりと低めのジャンプをやけに軽くこなしていく.

これ回転足りてるの?コンビは2連続でいいの?よくわかんないのが素人の悲しさ.解説がしばらく止むと不安になる.でも断続的に入る解説と,会場の声で,まあまあ良いんだなと思いはじめる.

手放しY字スパイラル,イナバウアー以降は歓声が途切れない.最後のスピンあたりからは,荒川の表情が高揚して明るくなってるのが見てとれる.そうか,これでいいんだ.ばっちりなんだ.荒川が演技中からこんな表情になるなんて,初めて見た.

いろんなものから解放されて,演技に没頭して,やっと歓声が耳に入って,なにを思ってるだろう.終わったときの荒川は,すっごい笑顔.初めて見るものばかりで,もうどうしていいかわからない.







ech.sp2.c


つぎは 村主 .ラフマニノフのピアノ協奏曲2番.この人はあまり好みじゃなかったんだけど,見ているとだんだん引きこまれる.全日本選手権は確かにすごかったけど,今回もすごい.後半,肩で息をしはじめるのが分かった.また,早く終われ,早く楽にしてあげたいと思った.

私は子どもの頃,フィギュアではスピンが一番好きだった.あの身体を軸に近付けるほどに段々速く回る,単純な動きがとてもとても楽しかった.最近あんまり見ない気がする.そして村主は,結構高速のスピンを持ってくることが多い選手だ.最後の最後にやってくれると一層嬉しい.すごく速くて,時間も長くて,最高に満足だった.この選手が徐々に好きになってくる.

長く観つづけるほどに,嫌いなものが減っていき,見方が豊かになっていくのは幸福なことだ.





そして最終滑走者は女帝 スルツカヤ .演技の序盤は,ちょっと動きが硬いかと思ったけど,やっぱり悪くない.でも,アナウンサーが,コンビネーションジャンプが三つ入るはずのところ,一つしか入らなかった,と言ったとき,耳を疑った.

どういうこと?すごい減点じゃない?そんなに状態が悪いようには見えないのに,と思っていると間もなく,過去の映像を含めて一度も見たことのない,スルツカヤの転倒を見た.瞬間ドキンと嫌な感じがした.

じつは私は今シーズン徐々にスルツカヤに魅力を感じなくなってきたのだけれど,あの選手が転ぶなんて想像もできかったし,虚を突かれて,なんだか凄いショックだった.

でもその後の,彼女を後押しする歓声がまた凄かった.スルツカヤの笑顔も,力強い.私は何かいろんなことを考え違いしてたかもしれない.フィギュアって競技は,やっぱりすごかった.なにもかもが詰まってる.







ech.lau.02

表彰式はただもう,よかったなあ,いいなあ,とあほみたいに繰り返し言いながら,にこにこにこにこして観ていられた.一年間応援してきて,一度も観られなかったような荒川のいい表情が,この三日間に凝縮して観られたことは,ほんとうにファンとして至福だった.

その日の夕刊,翌日のスポーツ新聞,ネット,あっちを向いてもこっちを見ても,荒川,アラカワ.列車で乗り合わせた女子学生4人がエキシビションいつ放送?とか話してた.いいなあ,とまた思う.

買おうかどうか迷っていた,荒川のDVDが品薄との記事を読んで,かなり焦った.でも3800円は今おいそれと出せないし.まあそのうち落ちつくだろう.レンタルして観てみて,再入荷される頃に余裕があれば買おう.

ああ,よかった.
ほんと,よかった.
荒川選手おめでとう.






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Last updated  2006.02.26 01:21:12
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Re:トリノ女子フィギュアFP/その2(02/25)  
ときあさぎ  さん
日頃、Inalennonさんの荒川選手についての記述を拝見することが多かったせいか(?)、オリンピック前から彼女に対する期待は高かったです。
(そりゃ、コーエンたちも楽しみにしてたけど)
だから、彼女が金メダルもらったときに、inalennonさんが喜ぶさままで想像してしまいました。
(お顔を知らないのに……(笑))
何はともあれ、楽しかったです。 (2006.02.26 02:15:26)

Re[1]:トリノ女子フィギュアFP/その2(02/25)  
inalennon  さん
ときあさぎさん

 まさか私の文章がときあさぎさんの観戦心理に影響を与えていたとは,思ってもいませんでした.恐縮です.でも楽しかったとのことで,何よりでした.


去年の自分の文章を読むと,やっぱりコーエンを結構気に入っていたようです.
http://plaza.rakuten.co.jp/inalennon7348/diary/200503180000/ (2006.02.26 02:31:32)

Re:トリノ女子フィギュアFP/その2(02/25)  
ふゆゆん  さん
荒川選手が自分の世界だけを表現しようとCDを聞き続けていて、他の人の結果を見聞きしないで、今の自分を出したと言うのを聞いた時、人間はプレッシャーが一番の敵なのかな~と思いました。

コーエンもスルツカヤも全く自分らしくなくて、どうしたんだろうって思っていたので、荒川選手の発言でオリンピックだ金メダルだって所から抜け出していた、フィギアスケートの本来の自己表現に立ち返った荒川選手が自分を出し切った精神性が金メダルなんだな~と思いました。

自分を表現する、と言う事に正面から向って答えを見つけて行った荒川選手の心が素適だな~と思いました。 (2006.03.03 11:10:11)

Re[1]:トリノ女子フィギュアFP/その2(02/25)  
inalennon  さん
ふゆゆんさん

スルツカヤやコーエンは,「これが最高の演技だ」と自信を持てるような演技を,今シーズン,何度かしてきたはずです.そして二人ともショートプログラムの出来はほぼ完璧だった.もしかしたら,フリー直前の心理では「失敗したくない」という気持ちにバランスが傾いたのかもしれません.

対して荒川は,新採点方式になってから一度も会心の演技をしていないはずです.今シーズン徐々に採点方式に対応できるようになってきて,トリノのSPでは予想以上の高得点でした.

でも「まだ私は一度も最高の演技をしていない」という飢餓感があって,「次こそそれが出来そう」という上向きの気持ちに結びついたのかな,と想像しました.そういった立場の違いが,三人の結末の違いに結びついたのかなと.後付けの,益体も無い想像ですが.
(2006.03.04 01:30:24)

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