PR
Keyword Search
Freepage List
福井大学こどものこころの発達研究センター教授 友田明美さんに聞く
■親との愛着が発達の基盤に
子どもが健康に育つためには、養育者との愛着が重要です。
愛着とは子どもと特定の人物(親などの養育者)との間に形成される強い結びつきのこと。子どもに行動に対して、①目と目を見つめ合う②手と手で触れ合う③ほほ笑む、といった愛情を持った関わりで応えることで形成されます。
安定した愛着が形成されると、親は子どもにとって安全地帯となります。子どもはその安全地帯となります。子どもはその安全地帯を足掛かりにして、興味や好奇心に導かれて外の世界へと冒険することができるのです。さまざまな経験を積むことで脳は発達し、認知力や豊かな感情を育みます。
しかし、脳が最も発育する幼少時代に、不適切な関わりで愛着が形成されない場合、特に精神面において、問題を抱えてしまうことがあります。具体的には心の病へと推移したり、幼少期に問題がないようでも成人してから、健全な人間関係が結べない、達成感の喜びが低い、何に対しても意欲が湧かないなどのさまざまな問題が現れたりします。
■子どもの前で夫婦喧嘩はやめよう
子どもへの不適切な関わりのことを、「マルトリートメント」と呼びます。
「暴力」「言葉による脅し」「罵倒」「放置」「無視」「自由な行動の束縛」といった子どもが傷つく全ての行為を指します。こうしたことは、「虐待」ともいわれますが。私は「虐待」よりも「マルトリートメント」の言葉の方がより広く知られてほしいと考えています。なぜなら虐待という言葉は強烈で、センセーショナルな事件性のあるものがイメージされ、一般の人にとっては、「自分には関係のないこと」と捉えられてしまいがちだからです。
しかし、日常の「しつけ」といわれる種類の関わりによっても、マルトリートメントは起きている場合があります。「あなたはダメな子ね」「産まなければよかった」といった存在そのものを否定する言葉や、「お兄ちゃんはできるのにあなたはなぜできないの?」といった、きょうだいや友達と比較する言葉、また話しかけられても無視したり、子どもの意思を尊重せず行動を一方的にコントロールしたりすることもマルトリートメントに当たります。
直接の暴力、暴言がなくても、例えば、激しい夫婦げんか( DV 〈ドメスッティックバイオレンス〉)を見せることもよくありません。驚くことに、 DV 目撃の中でも、暴言を吐かれるといった心理的暴力の目撃の方が身体的暴力の目撃に比べて 6 倍も子どもに悪影響をがあることが分かりました。
■気付いた時から「変われる」
不適切な関わりをやめ、愛情ある関わり方をすることが、子どもの健全な発達を促します。
ただ、実際は、マルトリートメントを全くしたことがないという家庭など、存在しないでしょう。子育てに関しては、すべての人が最初は初心者だからです。完璧にできる人なんていません。皆さん、試行錯誤の中で懸命に子どもと関わっています。
それなのに子育てで問題が起きると、誰がいけなかったかと責められる。それが親を苦しめます。誰かを責めても意味がないのです。親は精一杯できる関わり方をしてきただけなのです。
悪者探しをするのではなく、「気付く」ことが大切。早く気付いて、マルトリートメントをやめ、適切な関わりを心掛けること。実際、脳には可塑性といって回復する力があります。たとえ傷ついた心でも、適切なケアにより、癒されていきます。気付くのは早ければ早いほどよいですが、子どもの年齢が何歳であっても、やり直しはできます。次回は、適切な関わり方の具体例についてお話します。
ともだ・あけみ 小児神経科医。医学博士。福井大学こどもこころの発達研究センター教授。熊本大学大学院小児発達学分野准教授を経て 2011 年 6 月から現職。著作に『新版 いやされない傷――児童虐待と傷ついていく脳』『子どもの脳を傷つける親たち』など多数。
子どもの脳が変形 不適切な関わりが影響
脳画像の研究で、子ども時代のマルトリートメント(不適切な養育)によるつらい体験によって、脳が変形してしまうことが分かってきました。
厳しい体罰では、前頭前野(感情や思考をコントロールし、行動抑制に関わる極めて重要な脳部位)の一部の容積が平均 19.1 %減少。言葉の暴力では聴覚野(言語に関わる領域で、他人の言葉を理解し、会話するなど、コミュニケーションの鍵を握る脳部位)の一部の容積は平均 14.1 %増加。また、 DV の目撃では、視覚野(視覚に関わる脳の部位)の容積が減少していました。
【教育 education 】聖教新聞 2019.2.3
子どもの人間関係 September 4, 2024
勉強が苦手な子の進路選択 August 16, 2024
気を付けたい声かけ March 28, 2024
Calendar
Comments