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アフター・アベノミクス
軽部 謙介 著
経済政策の背景に政治の現実
慶応義塾大学名誉教授 小林良影 評
黒田日銀総裁の後任人事が決まり、これまでのアベノミクスが採用してきた量的緩和や財政出動などの政策が変わるかの同課に注目が集まっている。本書は『官僚たちのアベノミクス』( 2018 年)や『ドキュメント 強権の経済成長』( 2020 年)に続く、アベノミクス三部作の最期を飾る内容となっている。
具体的には、安倍首相は 2013 年に黒田東彦氏を日銀総裁に就任させて「 2 年間で 2 %の物価上昇を達成する」ために、大規模な量的緩和という金融政策を打ち出した。財務省も金融緩和であれば財政規律と両立できると了解した。このため 2015 年に初会合が開かれた自民党財政再建に関する特命委員会で積極財政派の意見は出たものの、最終的には重視されず、プライマリーバランスの達成時期も明記されていた。
しかし、現実には 2 %の物価目標を実現することができない中で、著書によれば安倍首相も金融政策だけでなく財政出動も併せて実施しなくてはならないと考えるようになっていった。その結果プライマリー・バランスの達成時期が明示されなくなり、安倍元首相は退任後も自民党財政政策検討本部の最高顧問に就任し、財政拡大による需要創造への議論をリードしていった。そして、同本部の提言には安倍元首相を背景とした積極財政派の意見が取り入れられ、自民党内の財政再建派は追い込まれることになった。
このように安部元首相は首相退任後も経済政策に大きな影響を持ち、その結果、日銀が巨額な国債を保有して長期金利の決定権を持つ巨大な存在となった。また、アベノミクスの結果、 1 ドル 80 円台の極端な円高が是正され、株価上昇や雇用創設がもたらされる一方、財政規律が緩んだという指摘もある。
著者は、こうした経緯を客観的に書き残すことで、政治が総裁人事による日銀への影響力をもつことの是非をジャーナリストの矜持として問うている。アベノミクスを巡る自民党内の攻防や財務省と日銀の関係など、経済政策の背景にある政治の現実を見事に描き出している。
◇
まるべ・けんすけ ジャーナリスト、帝京大学経済学部教授。時事通信社解説委員長等を経て現職。
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