FFいれぶんのへたれな小説とか

FFいれぶんのへたれな小説とか

March 23, 2005
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カテゴリ: FFXIのへたれな小説
 ぼんやりと見つめながら、両手で持ったグラスを揺らすと、赤紫の液体が、小さな渦を描いた。
 カウンター越しに見えるひげ面のマスターは、一心不乱にグラスを磨いている。
 覚えている限りでは、それはずっと同じグラスだった。マスターは焦点の合ってないように同じ作業を繰り返す。要するに、彼は暇なのだ。

 鉱山区の場末にある行きつけの酒場は、昼間ということを差し引いても客足はよくない。
 西日しか差さない窓と、オイルの切れかかったランプのせいだろうか。

「なんか、今日はどうもツイてないんですよ」
 そうぼやきながら、グラスを傾ける。
 四度の襲撃は、全て道を歩いている時のものだった。運良く撃退は出来たが、そう何度も斬りかかられてはたまらない。
 そう思い、モグハウスから取り出したローブを頭からすっぽりかぶった。他種族の仲間達からは、ローブをかぶったタルタルは区別できないとよくからかわれるが、まさかそれが役に立つ日が来るとは皮肉なものだ。

「僕には何も心当たりが無いんですよ! それなのにあのミスラときたら・・・・・・」
「あー、分かる分かる。うちの母ちゃんもそうだった」
 そのままの姿勢で、マスターは相槌を打つ。
「でしょう? 全く理不尽だ」
「そーだそーだ。分かるよ兄ちゃん」
 いつものようにマスターに愚痴をこぼしながら、グレープジュースを一気に飲み干して、お代わりを注文する。

 命を狙われる覚えはないし、あのミスラに見覚えも無い。
 他種族の見分けは得意じゃないけど、すらりとした体つきだし、顔だって、あどけなさは残ってるけど可愛かった。一度見れば、忘れるわけは無い。
 だからと言って、熱烈なアプローチにも程がある。

「お待たせしました」
 ――コト。
 ぶつぶつとそんな事を言っていると、少女の声と共に目の前にグレープジュースのお代わりが来た。
「お、ありがと。マスター、いつの間にバイトなんて雇ったの」
「何いってんだい。うちがそんなに繁盛してねえのは知ってるだろ」
 マスターが苦笑しながらそんな事をぼやく。手の中では相変わらずグラスが磨かれている。

 え? じゃあ、これは。
 恐る恐る、横に視線をずらす。白いエプロンと、その下に覗く紺の東方装束。
 そのままの姿勢で、視線を上げる。セミロングの白い髪からはみ出た特徴的な大きな耳と、その下にある、笑顔。
「追加のご注文はありますか?」
「え、あー、いや、今はいいかな・・・・・・」
「わかりました」
 グラスを握っていた手をおそるおそる引っ込める。わきの下に冷や汗が流れるのが分かる。
 奇妙な静寂のあと、ウエイトレスは回れ右をして背を向ける。
 同時に、椅子から転げ落ちるように身を投げ出した。

 ――ガシャアンッ!
 グラスの砕ける音。寸前まで僕がいた空間を、奇妙に細い剣が貫いていた。
「チィッ!」
 舌打ちをして、ミスラはこちらへ向き直る。もう一本の刀を後ろ手に抜くと、構えを取った。
「な、なんでここが!?」
「アタシらは鼻がいいんだよ」
 床にしりもちをついたまま、後ずさる。両手を目の前でぶんぶんと振って、抗議する。
「ちょ、ちょっと待って! 話し合おうよ!」
「問答無用!」
 一足の元に距離を縮めて、銀の刀が走る。慌てて身を投げ出し、テーブルの影へと隠れる。
「マ、マスター! 助けて!」
「・・・・・・痴話喧嘩は他所でやってくんないかねえ」
 場違いなほど冷めた声。その視線は、相変わらず手元に注がれたまま。
 この店が繁盛しない理由が分かった。

「いい加減しつこいよっ! 僕が何したって言うのさ!」
 テーブル越しに怒声を浴びせる。いや、悲鳴かもしれないが。
 しかし、それは相手の殺気を膨れ上がらせただけだった。
「よくも・・・・・・そんな台詞がっ!」
 慌ててまた前方へと飛び込む。一瞬遅れて、真っ二つになるテーブル。見事なまでに二等分された木片に何故か感心しながら、ミスラの少女を睨む。
「アンタはアタシに殺されるべきなのよ」
「そう・・・・・・ならっ」
 頭にきた。この理不尽な少女にも、ついでにマスターにも。
 流石に、理由も分からず殺されてやるつもりは無い。

「やる気になった?」
「ちょっと、ね」
 言葉と共に、笑みを返す。
「そうでなくっちゃ。アタシも、逃げるだけのヤツを斬るのって調子が出なかったのよ」
「僕はモンスター以外じゃ調子が出ないんだけどね」
「構わないわ。アンタは悪者らしく、足掻いてくれさえすれば」
 そう言って、少女は不敵な笑みを浮かべる。
 それもそのはずだ。こちらの戦況は、あまりよくない。
 元来、魔道士は一対一の戦いには向いていないのだ。一撃必殺の魔法は、詠唱に時間がかかりすぎる。これまで撃退できたのは運もあったけれど、相手が本気でなかったのが大きい。
 ならば、あとは戦略と地の利に頼るしかない。

 状況を確認すると、カウンターの中へ飛び込む。手当たり次第にボトルやら、グラスやら、その辺にあるものを片っ端から投げつける。
「……何のつもり?」
 彼女はこともなげにそれを切り払い、その足元に、破片が散らばっていく。
「おいおい……」
 マスターが非難の声を上げる。しかし、気にしている場合ではない。棚にあった最後の酒瓶を投げつける。だが、それも一閃した刀によって、真っ二つにされる。

「……気は済んだ?」
 余裕の表情を浮かべ、彼女はこちらへ近づいてくる。
 好都合だ。
 既に詠唱を開始していた。
 店内に魔術の回路を張り巡らせるよう、イメージする。あとはその設計図通りに、魔力を流し込んでやればいい。

 視界に白銀の光が浮かぶ。自分を中心に、魔力が渦巻いていることを確信する。
「ファイガ……か。でもね、そんな低級魔法でやられるアタシじゃ……」
「普通のエリアならそうだろうけどね」
 口元が緩む。こちらの意図を察したのか、少女の表情が一瞬にして強張った。
 密閉された店内。そして、散乱したアルコールの瓶の破片。
「ちょっ――!?」
 抗議の声を聞き終えることも無く、完成した魔法を、その名と共に、解き放つ。
「――炎よ!」
 視界を埋め尽くす、赤。そして。
 爆音と共に、繁盛していない酒場が、潰れた。





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Last updated  March 23, 2005 08:58:10 AM
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