2004.11.11
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読書の愉しみを味わう。
活字の向こうには壮大な紫禁城が広がる。
郎世寧の描いた青い空は遠くベネチアにまで続き、
幼い春児(チュンル)は輝く昴を手にする。
蒼穹の昴。
星が語る非業の運命を自らの手で変え、
本物の宝を彼は手にしていた。

清国滅亡は近い。
占い師の白太太(パイタイタイ)は夜空の星に、
未来を正確に告げることで知られていた。
後に科挙で「状元」となる梁 文秀(リャンウェンシュウ)は
皇帝の側にあって宰相となるだろうと告げられた。
「状元」とは科挙で第一等の進士の称号。
その気さくな人柄と聡明な叡智は多くの人の信頼を得る。
お告げが語った運命通りに彼は未来を歩いていた。

だが春児は。
お告げとは違う未来を歩いていた。
貧しき家の子供、糞拾いの子。
没法子、何もない場所で生まれた子供へのお告げは
時の権力者、西太后(シータイホウ)のお宝を
総て得るだろうというもの。
だがそれは偽りだった。
それでも。
春児はそのお告げの嘘を見破りながら
自分の「夢」として生きてゆく。
「夢」を叶えるために、浄身したのだ。
まだ子供だった自らの手で男性性器を切り取り、
宦官となる。


「だからおいらちんぽこを切ったんだ」


星が語る運命は、
生まれでた場所に縛られてはいる。
だが、いざ歩き出せば
運命はその手にもあることに気付くのだ。
そう、星の運命を切り開くか、身を委ねるか、
それは人の在り方次第、なのである。

若き光緒帝のクーデターの首魁となる梁 文秀。
急ぎ過ぎた改革は失敗し彼は国を追われることになる。
あふれるばかりの才能と人柄の良さと機知で、
宦官の実質最高位、大総管にまで昇りつめる春児、
彼は最後に「龍玉」中国の宝、中国そのものの象徴を
まるで自然の理のようにその手に西太后から譲られることになる。

歴史に名だたる人物が多数登場する。
中でも西太后慈禧(ツーシー)の描写には驚く。
亡国へと導く女性は、国への愛と慈悲、
そして無能な夫や息子よりも政治の才能にあふれていた。
それが故に悪女となり鬼女として歴史に残った経緯が描かれている。
また、日清戦争の敗戦を背負った李鴻章(リイホンチャン)、
老将軍の勇姿と機知には幾度となく惚れ惚れとさせられた。

読書の愉しみ、そのものに戻ろう。
言葉によって巧みに描かれる数多の登場人物、
総てが魅力的なのである。
悪役も脇役も、そして春児、梁 文秀、
美しい者は美しく、
誇り高き者は誇り高く、
醜い者は醜く、
拙き者も、健気な者も、凛々しき者も、
皆、言葉によって、命を吹き込まれ歴史の中に生き、
ドラマがページに広がっている。
だからこそ、愉しいのだ。
だからこそ、涙が自然にあふれてくる。

浅田次郎の著書。
上手い作家の小説の中で遊んでいれば、
是非はともかくも得るものは多い。
中国の歴史、宦官、科挙について、世界のしくみ。
政治の在り方にも触れられている。

運命を切り開くのには覚悟がいる。
だが春児その先の未来に、命の輝きを見ていた。





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Last updated  2004.11.11 23:46:03
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Re:【幕間】蒼穹の昴(11/11)  
はるる!  さん
前にハードカバーで買って読みました。
上下2巻に別れていますが、切ないというにはあまりに厳しい最低辺の状況の中で、預言をきらびやかな現実社会のものにしてゆく、前半部分が特に好きです。 (2004.11.12 00:12:51)

Re[1]:【幕間】蒼穹の昴(11/11)  
はるる!さん

冷静に物語を考えれば、後半部分になると
乾隆帝からの歴史の流れ、毛沢東の出現など、ドラマよりも歴史の方へ重点が流れて行ってました。読んだばかりの私には、なるほど、です。

愚直なまでに、「運命は自分の手で変えてゆける」と謳った骨太なドラマ。そのテーマを全面的に信じることが出来なくても、感動させられます。

ホントに!前半部分には、ワクワクさせられました。 (2004.11.13 01:05:14)

Re:【幕間】蒼穹の昴(11/11)  
コメント有難うございます。

浅田作品は、時代が激変するする時に、義を貫き通そうとする人間が、義のために滅びるような不条理を、私たちの琴線に触れ続けながら書くので堪りません。
壬生義士伝を読んだすぐ後に、映画「ラストサムライ」を見たのですが、何でアメリカ映画がここまで義を描けるのか不思議でした。

春児はその後どうなったのか?
愛新覚羅 溥儀は史実で判るのですが、宦官が歴史の荒波にどう翻弄されていったのかも気になります。

(2004.11.14 20:38:23)

Re[1]:【幕間】蒼穹の昴(11/11)  
ホッピー次郎さん

あ、ほんとだ。春児なんて、西太后に対しても、文秀に対しても義を貫いていたようにも見えます。
それでも彼が幸せになれたとは思えないラストで、確かに、彼の行く末が気にかかります。個人的には幸せになって欲しいですもん。

「宦官」そのものの終焉は、ツライものに思います。新しい時代は残酷ですもんね。

でも、文秀が「政治は誰のために」ってのに気が付いてくれたのが、大きな救い。玲々と文秀が幸せになるって、春児の望み、、、。

ふと気付く。人の幸せばっかり望んでる。
ああ、神の使徒と言われてもしょうがない、存在でした。神の使徒の末路もまた、非業ですが。。 (2004.11.16 01:28:04)

春児はここにいたのですね。  
一大福 さん
蒼窮の昂はまだ読んでいなくて、読みたいとおもっていたので、ここにきてしまったのですが、春児という名に覚えがあって。ああ、この本に書いてあるんだなって思いました。珍妃の井戸という本をこのあいだ読んで、そこに印象的な春児という人物がでてきたのです。その本では春児はちょっとしかでてはこないのですが、でも、ほかの人物よりすごく厚みがあるような感じがして気になっていたんです。
わたしは少ししか浅田次郎の小説を読んだことがないのですが、読むと必ず泣いてしまいます。珍妃の井戸でも、春児が出てくる老公胡同のところを読んで電車の中だというのに泣いてしまいました。それはたぶん蒼窮の昂のあとの話なのではないかしら。明日、本を買ってよんでみますね。 (2005.12.01 00:38:29)

Re:春児はここにいたのですね。(11/11)  
一大福さん

>蒼窮の昂はまだ読んでいなくて、読みたいとおもっていたので、ここにきてしまったのですが、春児という名に覚えがあって。ああ、この本に書いてあるんだなって思いました。

はい、ここにいたのです。
「春児はここにいたのですね。」というタイトルはとても美しく、ほんとに、そういう感じだと思いました。


珍妃の井戸という本をこのあいだ読んで、そこに印象的な春児という人物がでてきたのです。その本では春児はちょっとしかでてはこないのですが、でも、ほかの人物よりすごく厚みがあるような感じがして気になっていたんです。

「珍妃の井戸」も近々、読みたいです。実は今、司馬先生を何冊か読んだとこ、、、っていう状態だったりします。歴史小説が好き!というわけじゃないんですが、スゴイ作家の作品は、やっぱ、スゴイですって、レスになってません、ご容赦を(笑)




>わたしは少ししか浅田次郎の小説を読んだことがないのですが、読むと必ず泣いてしまいます。珍妃の井戸でも、春児が出てくる老公胡同のところを読んで電車の中だというのに泣いてしまいました。

「蒼穹の昴」は泣くシーン多いです!!(笑)

それはたぶん蒼窮の昂のあとの話なのではないかしら。明日、本を買ってよんでみますね。

きっとよい読書の時間になるのでは!泣いたり、時に、笑ったりですもんね。
-----
(2005.12.02 00:01:56)

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