りらっくママの日々

りらっくママの日々

2009年08月05日
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カテゴリ: ある女の話:ユナ
今日の日記



<ユナ28>



そうアオくんに、声をかけてしまって以来、
アオくんとすっかり気まずくなってしまった。

あ~あ、失敗したな。

私は嫌われてしまったらしい。
目が合った時に笑顔を作ってみるけど、
アオくんは目を逸らしてしまう。

そりゃそうだな。
10も歳が違うオバチャンに誘われたら、
よっぽどの美人でもなきゃ気持ち悪いだろう。
悪い事したな~って思った。

ただ、ちょっと、
ここじゃないどこかに行きたくなっただけなのに。

あの時に時計を戻したくなっただけなのに。

この子とどうにかなりたいワケじゃない。
ただ、一人でどこかに行くよりも、
この子犬みたいな男の子といっしょなら、
楽しいんじゃないかと思っただけだ。

私は多分このまま歳を取って行き、
女じゃなくておばーさんになっちゃうんだろう。
それでいいかも。
平和だし。

それでもそのことが何だか無性に淋しくなった。
女としてヨシカワの側にいたかったと思った。
老人になってからじゃなくて。
彼の胸に抱かれたかった。

でも、あの時は、
こんなにヨシカワの存在が心の中で大きくなると思わなかった。
家に戻るのが当然だと思った。
もう遅い。
きっと今更どうにもならない。


アオくんの素っ気無い態度が悲しくなる。
多分、危険人物だと思ってるんだろう。
欲求不満だとでも思ってるのかもしれない。

それでも、ちゃんと親切に、
荷物の上げ下ろしを手伝ってくれる。
ぎこちない笑顔をされると、
こっちは何だか妙に意識してしまう。


「フジサワさ~ん!
事務室に集まってって!」

ママさんに呼ばれて事務室に行くと、
女性のアルバイトが全員集められていた。

「すみません、仕事が思ったより早く終わってしまったんで、
皆さんは20日までって話だったんですけど、
17日で切り上げでお願いします。」

淡々と係長が言う。
え~って、みんながブーイング。

その代わりに、皆さんにはよくやっていただいたので、
ボーナスで一万円支給させていただきます。
係長がそう言うと、みんなまあそれなら~と納得した。

それでも解散後は、
男の人たちは最後までなんだよね?とか、
生活がかかってるのに…とか、
主婦だと小遣い稼ぎだと思ってるんでしょ。とか、
子供の講習費用少し足りないな~。とか、
そういったことをみんなが言っていた。

私は切羽詰ってないけど、
主婦ってことでひとくくりにされたら、
たまったもんじゃないよね。
生活のために来てるワケじゃなかったので、
ちょっと申し訳なく思った。

でも、そっか、今週までか。
ちょっと残念な気持ちになった。
アオくんとはこのまま気まずい感じでお別れなんだろう。
どうせ短い期間なんだから、
楽しく過ごしたかったな。

そう思った。


最後の日は雨が降っていた。
何だか憂鬱。

唯一の救いは、最後にアオくんと話せたこと。
アオくんの方からやってきて、
ダンボールを私に代わって上に乗せてくれた。

嬉しくなって、
「ありがとう!」
って、大きな声で言った。

「いえ…。」

よそよそしくないように、ちょっと笑顔を作って去って行く。
私がバカなことさえ言わなければ、
もっと和やかに話せたかもしれないのにな。

お給料の清算をして、みんな帰る。
私はママさんと連絡先を交換した。
そのうちお茶でもしようね!
うちに遊びに来てね~!

みんな子供を引き取りに行ったりしなきゃいけなくて、
慌しく帰って行った。

私はせっかくお給料をもらえたので、
本屋にでも寄ることにした。
現金でもらえたのが何だか嬉しい。

本屋で雑誌をめくる。
美味しそうな料理が載っていたので、買っていくことにした。
たまには手がこんだものでも作ろうかな。

雨がひどくなっていた。
多分ジーンズは帰るまでにビショ濡れになるだろう。
クーラーの利き過ぎた電車に乗ったら冷えるんだろうな。
サンダルもひどく濡れていた。
あ~、帰ったらサッサとシャワー浴びちゃおう。

そう思いながら傘を開こうとして、
隣の気配に気付いて、
見たらアオくんだった。

「あっ!」
「レンタルですか?」

いつもの笑顔で話しかけてくる。
最後の日にこんなところで会えるなんて…。

「ううん、本屋に。
雨ひどくなっちゃったね。」

傘をさして駅に行こうとするとアオくんの声が後ろからした。

「あの、僕、車なんです。」

「あ、そうなんだ?」

なんだ、駅までいっしょかと思ったのに。
でも、まあいいか。
最後に気まずくなくお別れできた気がする。

「それじゃあね。」

笑顔で手を振る。

「良かったら乗っていきませんか?」

え?
意外な言葉だったのでビックリした。
私のこと嫌がってたんじゃないのかな?
違うの?

「いいの?」

「あ、でも、初心者ですけど。」

ちょっと照れたようにアオくんが言う。

嬉しかった。
最後の日にこんなことがあるなんて。
自然に笑顔になってしまう。

「怖いなぁ。
でも、ありがたいから、お言葉に甘えちゃうね。」

アオくんは車のエンジンをかけて、クーラーを入れた。
乗ったことに緊張しながら、シートベルトをしようとしたら、
引っかかって動かない。

「アオくん、シートベルトが変なんだけど、
引っ張っても伸びない。」

「え?!」

私は何とか一度戻してみたり引いてみたりするけど、
シートベルトはロックがかかったかのように動かなくなっていた。

「ちょっといいですか?」

アオくんが慌てて私の上から手を伸ばして、シートベルトを引こうとする。
アオくんのシャツから汗の匂いがした。
男の匂い。

アオくんの左手が私の左肩のシートの上を持っていて、
右手がシートベルトを引っ張っていた。
目の前にアオくんの肩があった。
参ったな。
変に意識しちゃいそう。

アオくんが懸命にシートベルトをひっぱってもどうにもならないらしい。
クーラーがついてるにも関わらず、
汗をかいているアオくんの熱気でガラスが曇ってきていた。
何だか申し訳ない。

「私、降りようか?」

「いや、ちょっと待って下さ、うわっ!」

アオくんが態勢を立て直そうとして手が滑った。
私に抱きつきそうになったのを、かろうじて持ちこたえた。
でも、顔が近すぎる。

「す、すいません!」

アオくんが目を逸らして慌てて言った。

「ううん、慌てなくて大丈夫だから。」

緊張しないように、笑顔を作ったけど、
心臓が音をたてているのがわかった。

アオくんが顔を上げて私を見る。
私もその顔を見る。

何?どうしたの?
どうしてそんな目で見るの?

アオくんの顔が近づいてきて、
私の唇に触れた。









続きはまた明日

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最終更新日  2009年08月05日 20時23分09秒
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