りらっくママの日々

りらっくママの日々

2009年08月11日
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カテゴリ: ある女の話:ユナ
今日の日記



<ユナ34>



サトシが年明けに、本社に戻れると言い出した。
ようやく実家のある街に帰れるんだ。
ホッとした。
でも、それはますますヨシカワの街から離れることを意味していた。

最近、だんだんこれが自分の現実なのか、よくわからなくなっていた。
家に夜に一人でいると、
私はここで何してるんだっけって思う。

料理を二人分作って、それを一人で食べて、
翌日にまた同じもの食べて…。
帰ると真っ暗な部屋が私を待っていて。
きっと、実家の近くに住んでも、
ずっとこんな生活なんじゃないかな?
子供ができても、そこにサトシはいない気がした。

サトシには、もうわかってもらえないと思うのはナゼだろう?
俺だって忙しいんだからって、
そのうちこの仕事も終わるからって。
それは私だってわかってるんだよ。
だから言わないようにしてたら、こんなにすれ違っちゃった。

私もサトシに報告したいことが無いよ。
それに、その仕事が終わったら、次の仕事でしょ?

もう、
一人で食べる二人分のご飯を作りたく無い。
家に帰りたく無い。
サトシと会いたく無い。

車を出して、アオくんが家庭教師が終わった後に会って、
抱き合うと、少し気持ちが落ち着く。
そんなことを繰り返す。

でも、このままだと、もう私はダメになってしまうかもしれない。

あることを決めた。
市役所に行った。

「離婚届下さい。」
受付の女の人が、無表情に緑で縁取られた紙を渡してくれた。

その足で、デパートに行く。
もう街はクリスマスのデコレーションでキラキラしていた。
私はアオくんが欲しいって言っていた時計を買った。

高価な物を欲しがる子じゃなくて良かった。
これじゃあ、貢いでるみたいかな?
でも、普段アオくんがいろいろ出してくれてることが嬉しかった。
最後にこれ位いいよね?

その夜、アオくんに電話をする。
アオくんがすぐに出たので驚いた。

「今大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ。」

「あのね、クリスマスまでに会える日ってあるかな?と思って。」

アオくんに言われた日は、ちょうど仕事が重なっていて、ダメだった。
会社の送別会もある。
引越しの支度も。
うまく調整しないと、アオくんと会えない。

「じゃあ、この日会えなければ、ずっと会えないんだね。」

アオくんが怒ってるような気がした。

それとも自然消滅した方がいいとか?
最後にお別れだけ言いたかったな。
私は迷う。

「そんなこと言わないでよ、アオくん。
会いたいからこうして聞いてるんでしょ?
ね、会いたい?もう嫌?
私は会いたいんだけどな…。」

「…うん。」

アオくんが頷いたので、会えることになった。
結局会える日はクリスマスが過ぎてから。
私の仕事最終日の夕方だった。

でも、会えるならいつだっていい。
この時計を渡して、ちゃんとさようならしよう。

アオくんは、クリスマスに友達のライブに行くらしい。
うちはどうするんだろう?
多分忘年会シーズンだから、サトシはクリスマスはいないだろう。
少しホッとした。
最近は家に一人でいる方が楽。

クリスマスケーキを一人分、美味しそうなのを仕事帰りに買ってきた。
ヨシカワからもらったCDをかけて、頬張る。
彼は今日も店で仕事してるんだろうか?

クリスマススペシャルのドラマを観て、
お風呂にバスビーズを入れて、
ゆったりと長く浸かって、
髪を乾かして、眠る支度をして。

私は離婚届に名前を書き込んだ。
それをカバンに入れる。
ヨシカワのCDも入れる。
これは私のお守り。
今の毎日を続けるお守り。


アオくんにようやく会えた時は、
何となく泣きそうになった。

多分これで最後。
私は年明けには引越す。

「今日はピッチ早くない?
テンション高いよ。どしたの?」

「そう~?
だって、会いたかったんだも~ん!」

私はわざとアオくんにしなだれかかった。
変だと思ったのか、私が誘ってると思ったのか、
アオくんが二人きりになろうって言い出した。

部屋に入ると、私からアオくんを押し倒した。
自分からキスをして、舌をからませて、
アオくんのシャツを脱がせた。
自分の服も脱ぐ。

もうこれが最後かもしれない。
そう思うと、アオくんの体を抱き締める手に力が入る。

アオくんは私を抱くと、大きなため息をついた。

「どうしたの?」

「どうしてフジサワさん、こんなことするのかな?って思って。」

「どうしてなんだろ?何でこんなことしてるのかな…」

自分でも、もうどうにもできないんだよ。
でも、もうおしまい。
結婚を続けるためにこんなことをする必要は無い。
そんなことわかってた。

BGMが聴こえた。
その曲で私はある映画を思い出した。

「昔観た映画で、うんと年上の女の人を少年が好きになるの。
夏の話で、女の人は少年に恋を教えるの。」

そう言えば、私とアオくんは夏に出会ったんだな。

「それで、こんな関係になっちゃうの?」

「ううん、ならなかったよ。キスした位かな。
そして、少年のキレイな思い出になった…って話。」

でも、
年上の女は淋しさから薬に溺れて死んじゃうんだけどね。
エンドロールの波の音が淋しかった。

私はヨシカワを思い出した。
少年はアオくんじゃなくて私だ。
私はヨシカワに恋をしている。
まだ多分…
そしてキレイな思い出を引きずって、

今私はその女になって、
アオくんとキス以上の関係になり、
アオくんは私の中で少年じゃなくなっている。

「じゃあ、僕たちダメじゃん。」

アオくんが呆れた感じで笑う。

「ホントだね。」

つられて私も笑って、お互いの体を抱きしめ合う。

「ホントは、こうなっちゃいけないよね。
私が止めれば良かったんだよね。

でもさ、私にはいい思い出になったよ。
おばあさんになったら思い出すの。
自分より、一回り近くも年下の男の子が、自分を好きになってくれたこと。」

「おばーさん?まだまだ先じゃない?」

「そう?女は男と違って、オバサンからキレイになるってこと無いんだよ。
男はオジサンになると渋くなるとかって、モテたりするじゃない?」

「う~ん、そっかなぁ。」

「そうよ~。
あー、あの男の子好きだったのになぁ~、寝ちゃえば良かった。
なんて、死に際思いたくないじゃない?」

「何だそれ~?最期に思うことがソレなの?」

「そうよ、あんなに迫られたこと、人生で無いもん。楽しかったなぁ~。」

ホント、楽しかった。
ちゃんと言わなきゃね。
年明けには引越すこと。
もう今日が最後だろうってこと。

「転勤が決まったの。」

「え…?」

「もうすぐ引越すの。今度は黙っていなくなったりしたくなかったから。」

「もうすぐ会えなくなるの?」

「うん、もうすぐ…ね。」

アオくんは私の体を強く抱いて、
そのまま私の体の存在を確認するかのようにキスをした。
私もアオくんの体のぬくもりを確認した。


帰り際、私はアオくんにクリスマスプレゼントを渡した。
アオくんは中に入ってた時計を見ると、嬉しそうな顔をしたけど、
ちょっと淋しそうだった。

「ねぇ、アオくん、誰か好きな人ができたら、
今度はちゃんと言葉にして、好きって言ってあげないとダメだよ?」

私みたいにね。
ダメになっちゃうよ。

アオくんは私をジッと見て、
ギュッと抱き締めた。

ねだったように感じたのかな?
それでも、私の全てを欲しがっていないことはわかる。
これはお別れの儀式なんだ。

「好きだよ。」

「うん。」

アオくんがいてくれて良かった。
アオくんの存在をうまく表現できないけど、
アオくんじゃなければ、
私はどうなってたか、わからなかったよ。
アオくんがいなかったら、
私の心はきっと死んでたよ。

貴方は私の中で、かけがえのない大切な存在だよ。

「好き。」

お互いがお互いをキツく抱き締めた。


帰りの電車は忘年会帰りのサラリーマンでごった返していた。
アオくんが、私の前にいた。
混んでるドサクサでアオくんが私の腰を抱き、手を繋いだ。
私の駅に着くと、
アオくんは名残り惜しそうに閉まる電車のドアの中から手を軽く振った。

ホームから電話を家にかけてみる。
誰も出ない。
ホームには、反対方向の電車に乗る人が数人待っていた。

家に帰らなきゃいけない。
またあの日常に戻らなければいけない。
そう思っていたけど…。

私の足は、やってきたホーム反対側の電車に向かった。
もう、あの真っ暗な部屋に帰りたくないから。








続きはまた明日

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最終更新日  2010年03月27日 18時12分33秒
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