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2007.08.30
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島田荘司『網走発遥かなり』
~講談社文庫、1990年~

 島田荘司さん初の(現段階でも唯一の?)連作短編集です。4つの短編が収録されています。

「一章 丘の上」 私の向かいの家に住む老人は、毎朝のように、少しずつ笹の葉を刈っていた。ときには、鏡を持ち、丘の上のマンションに光をあてていた。やがて、私の息子を連れて丘の上に行き、子供たちと遊ばせようとさえしているという。老人の嫌な噂も聞き、私と夫は、息子が老人と親しくするの禁じる。老人の奇行には、恐ろしい目的があるように思われるのだった。

「二章 化石の街」 新宿地下道で人目をひくピエロと、私は接触をもつことになってしまった。ある日、仕事を早く終えた日に、奇妙な動きをみせるピエロを尾行した私。その翌日、私は、老紳士が、ピエロが訪れた先々を訪れていることに気付く。老人は、それらの場所が、宝の場所だと謎のような言葉を聞かせてくれた。まとまったお金が必要な私は、ピエロも宝探しをしているのだと考え、ピエロに接近する。

「三章 乱歩の幻影」 30年前、アヤコという女性が写真の現像に依頼にきたきり、二度と写真を取りに来ることはなかった。写真には、アパートが多く写されていたが、中には、江戸川乱歩の写った写真もあった。私はそれ以来、乱歩マニアとなったが、現在の夫の蔵書の中に、乱歩の友人に関する記述を見つけ、乱歩熱が再燃した。調べを進める中で、乱歩と親しい女性だったアヤコの死体が、アパートの壁に塗り込まれているのではないかという疑いを抱くことになる。

「終章 網走発遙かなり」 叔父を訪ねて、私は北海道網走を訪れた。私の父は、40年前、電車の中で何者かに銃殺されたが、その事件にはいくつも不可解な点があったという。父と女性が乗っていた電車に、拳銃をもった男がやってきた。もみあっているうちに、父が殺された。女性は悲鳴を上げたが、かけつけた車掌は、犯人が逃げるのを見ていないというのだった。有名な作家だった父が疎開先の地で参加した同人誌。その中に、そうした父の事件を描いた物語があり、私は何度もその物語を読んでいた。ところが、電車に乗った私に、その事件そっくりの事態がふりかかる。私を父の名前で呼ぶ女性が現れ、拳銃をもった男が、私たちに迫ってきた…。

ーーー

 なんとなくとっつきにくくて、今回はじめて読んだのですが、いやはや、面白かったです。二章で、奇妙な行動をとるピエロが登場し、三章では乱歩にまつわる話が展開され、終章では電車の中で起こった不可解な事件を扱っていることもあり、『奇想、天を動かす』を連想しました。メッセージ性も、トリックや事件の背景も、『奇想、天を動かす』の方がすぐれているように思うのですが、『網走発遙かなり』には、サスペンス性が強いように思います。
 一章では、夫の失業と、夫とともに酒に溺れていき、夫とケンカする「私」が主人公ですが、息子までもが、奇妙な老人と親しくするようになり、彼女の不安は高まっていきます。二章では、ピエロ、老人、強面の男たちが、特定の地点を訪れるという行動の謎が提示されます。終章では、40年前の事件が、「私」を巻き込んで再現されるような事態が起こり…。三章での、乱歩が女性を殺し、壁に埋め込んだのではないかというあたりも、恐怖をあおります。
 私は、江戸川乱歩さんは、角川ホラー文庫で何冊か読んでいる程度で、あまり詳しくないのですが、いずれ、光文社文庫で刊行されている全集も読めたら、と思っています。横溝正史さんの作品は大好きなのですが、乱歩さんのはなぜだかとっつきにくいのでした…。それでも、本書を読んで、あらためて、江戸川乱歩への興味をもつことができました。
 連作短編集ということで、4つの物語には関連があるのですが、それぞれの独立した短編も面白かったです。





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Last updated  2007.08.30 06:55:54
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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