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2008.05.29
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E・ルロワ=ラデュリー「歴史家の領域―歴史学と人類学の交錯―」
(Emmanuel Le Roy Ladurie, "Le territoire de l'historien―histoire et anthropologie―")
ジャック・ルゴフほか(二宮宏之編訳)『歴史・文化・表象―アナール派と歴史人類学―』岩波書店、1999年、47-93頁

 エマニュエル・ル・ロワ・ラデュリ[*](Emmanuel Le Roy Ladurie, 1929-)は、アナール学派第3世代を代表する著名な歴史家。『気候の歴史』『モンタイユー』『南仏ロマンの謝肉祭』などの邦訳があります。
[*]人名表記について。本書では、ルロワ=ラデュリーと表記されていますが、フランス語での綴りはLe Roy Ladurieです。このように、アルファベット表記の際に単語が別で、ハイフンでつながれていない場合、私はル・ロワ・ラデュリのように、点で区切って表記するようにしています。タイトルは、本書の表記に従っています。
 こちらの論考は、彼が1983年秋に来日した際の講演だそうです(編訳者あとがき、258頁)。
 では、レジュメ風にまとめてみます。

ーーー
フランス歴史学の最近の傾向―4つのテーマの紹介

一[家族形態]

・ル・プレェ(19世紀社会学者)の業績
・エマニュエル・トッド(20世紀歴史家)、4つの家族構造を区分(平等―不平等、自由―権威的、の二つの軸による)
 a)権威主義的家族(不平等、権威的)…一子相続、親夫婦と子夫婦同居
 b)共同体的家族(平等、権威的)…子世代が何組も親と暮らす形態
 c)平等主義的核家族(平等、自由)…若い夫婦は結婚して親元を離れる;子供たちの間で分割相続
  →「フランス革命を特徴づける平等主義的心性の先触れ」
 d)個人主義的核家族(不平等、自由)…親夫婦と子夫婦は別居;一子相続(多くは長男)
・アラン・コロン…(a)の形態が南仏の山村地帯で、農民の間でも広範に存在したと指摘
 →社会階層間の模倣(=ミネーシス)の概念を援用、一つの文化モデルが社会の上層から下層へと模倣によって移転することに着目

二[妖術]

○統計的側面
・妖術使いとして告発され、処刑された人数は5千人程度(ミュシャンブレード)→通説(俗説?)覆す
・告発された者の中での女性の多さ
 →女性史の視点からの説明…男性は殺人や窃盗など古典的な形態の犯罪;女性は「ことば、うわさ話、総じて共同体の情報サービスとでも言うべき役割を担っているから、象徴的な犯罪を行うにはうってつけ」
○研究史
・ミシュレ…魔女の二側面:サタン的、他者にとって慰めの存在
・カルロ・ギンズブルグ…ベナンダンティ(「善に向かって歩む者たち」)の研究
 →ベナンダンティ(=良き妖術師)と悪しき妖術師との戦い
・ミュシャンブレード…妖術師や反=妖術の作用、農村共同体内部における権力のコントロールをめぐる農民諸階層の戦略との深い結びつき
○悪しき妖術師への移行の問題
・良き妖術師と悪しき妖術師の共存(例.ギンズブルグの研究)
 ↓
・第一段階:黒死病の時代→生き残りの不安にこたえるためのスケープゴートとしての妖術師
・第二段階:宗教改革と反宗教改革→魔術・妖術が教会の枠組みを外れ、ついに悪魔主義へ
 ↓
・17世紀後半、妖術の非犯罪化←合理性を認める新しい神学の誕生

三[犠牲]

・ルネ・ジラールの研究
・ミシェル・ベエ…死刑執行の状況における犠牲の問題

四[死]

○通史的な把握
・古くからの慣習(例.モンタイユー)…水平方向にさまよう亡霊(=半透明の身体、生者の周辺に住む)
・キリスト教…魂は垂直方向に移動
・12-13世紀、煉獄の誕生→来世に、地獄―煉獄―天国の3つの場
 *逸脱の例)カタリ派…輪廻説
・14世紀…ペストと百年戦争の時代=多くの死者、「死の舞踏」などの絵画表現、免罪符
・16世紀…カトリックとプロテスタント、各々の死のイメージ
 カトリック→バロック特有の誇張表現;プロテスタント→美術表現において慎ましい死のイメージ(あの世のドラマ化を拒否する信仰)
・17世紀…ジャン・ドリュモーによる研究→罪を言い当てることにより人々を怯えさせ、宗教に演劇生を付与することで不安な心を静めようとする
18世紀…死の「脱キリスト教化」・世俗化→墓地の郊外への移動(←環境衛生への関心)等

ーーー

 こちらは、4つの興味深いテーマについて、多くの具体的な研究を紹介してくれていて、人類学的歴史学の研究にあたっての良いガイダンスとなっています。
 こうして読むと、ギンズブルグは読んでおきたいなぁという思いが強くなります。ミシュレの『魔女』も、文庫で持っていながら未読ですし…。
 個人的には、あまりなじみのない家族形態についての節を興味深く読みました。
(2008/04/28読了)





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Last updated  2008.07.12 17:38:44
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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