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2024.04.28
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池上俊一『魔女狩りのヨーロッパ史』
~岩波新書、 2024 年~


 東京大学名誉教授の池上先生の最新刊です。
『魔女と聖女』講談社現代新書、 1992 ​や監訳として​ ジャン=ミシェル・サルマン ( 池上俊一監修 ) 『魔女狩り』創元社、 1991 ​などがありますが、本書はこうした業績を踏まえつつ、最新の研究もフォローした1冊です。
 本書の構成は次のとおりです。

―――
はじめに
第1章 魔女の定義と時間的・空間的広がり
第2章 告発・裁判・処刑のプロセス
第3章 ヴォージュ山地のある村で
第4章 魔女を作り上げた人々
第5章 サバトとは何か
第6章 女ならざる“魔女”―魔女とジェンダー
第7章 「狂乱」はなぜ生じたのか―魔女狩りの原因と背景
第8章 魔女狩りの終焉
おわりに

あとがき
主要参考文献・図版出典一覧
―――

「はじめに」で近年の魔女研究の動向を簡潔に整理した後、第1章は、本書で対象とする「魔女」の定義を、キリスト教的ヨーロッパで、 15-18 世紀の魔女狩りの対象となった人々と狭義にとらえるという姿勢を示します。さらに、魔女が行ったとされる魔術の諸類型や、魔女狩りの地域ごとの差異などが紹介されます。
 第2章は章題どおり、魔女が訴えられ処罰される過程を具体的に示します。体調が良くないときに読むと辛くなります。
 第3章は、本書の中で最も興味深く読みました。ある村で、ある一家全員が魔女とされるに至った経緯を紹介するのですが、ここでは、その家族の子である9~ 10 歳くらい少女が、次から次に家族を告発していく様が示されます。彼女自身は別の地に再教育のため送られ、のちに結婚、さらに魔女狩りで犠牲になった家族のために壮麗な墓標を建てた (84 ) とのことですが、彼女は本当に告発していたのか(単に家族とダンスに行った話や空想を膨らませながら話していただけなのを裁判官たちが都合よく解釈しただけなのか)、どんな思いだったのか、いろいろ考えさせられました。
 第4章は魔女狩りの理論を練り上げていった人々についての議論です。よく、「魔女狩りは暗黒時代の中世になされた」と思われがちですが、魔女狩りの最盛期は 16 世紀後半から 17 世紀半ば、つまり近世~近代初頭の出来事で、中世の出来事というのは間違いだという指摘があらためてなされます (92 ) 。が、続けて、理論的な下地は中世に形成されており、「中世が免責されるわけではない」 (92-93 ) と指摘されているのが印象的でした。
 第5章はサバトについて。「悪魔からもらった膏薬を塗った」 (130 ) 、「~という場合もあった」などの表現が用いられていますが、ここでは、「~と裁判官たちに解釈された」などを補いながら、あくまでサバトがこのようにイメージされたというふうに読む必要があると思われました。
 第6章は、女性以外の魔女狩りの対象となった男性やこどもたちについて。
 第7章は章題どおり魔女狩りの背景と原因を探ります。順番が前後しますが、「あとがき」でも、魔女狩りの最盛期がルネサンスや科学革命といった「近代の黎明を告げる出来事の起きた」時代にあったのはなぜか、という問題関心があったことが触れられ、私もまさにその点が気がかりであるのですが、先のコロナ禍にあった「自粛警察」など、科学の進展した「現代」にもスケープゴートを仕立て上げる様子が見られることを思うと、単純に近代性と魔女狩りの心性が両立しないと考えることには慎重になりつつ、個別具体的にその要因を探る必要があることをあらためて感じました。第7章では、とりわけ、共同体の解体や都市エリートによる農村の「文化変容」といった議論を興味深く読みました。
 第8章は魔女狩りの終焉をたどり、「おわりに」は本書の要点の整理となっています。
 以上、簡単なメモとなりましたが、最新の研究動向もフォローできる、興味深い1冊です。

 さいごに、魔女は悪天候をもたらしたとか、それと表裏一体ですが魔女狩りの時期の気候不順などが指摘されていますが、これに関連した面白い論文があるので紹介しておきます。
・井上正美「魔女と悪魔と空模様」『立命館文学』 534 1994 年、 132-148

(2024.04.13 読了 )

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Last updated  2024.04.28 16:59:22
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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