津本英利『ヒッタイト帝国―「鉄の王国」の実像―』
~PHP新書、 2023
年~
著者の津本先生は現在古代オリエント博物館研究部長。
本書「はじめに」によれば、本書は、ヒッタイトの歴史についての手頃な文献がない中、執筆された1冊です。
本書の構成は次のとおりです。
―――
はじめに
第1章 ヒッタイト人の登場
第2章 ヒッタイト帝国の建国:古ヒッタイト時代
第3章 ヒッタイト帝国の混乱:中期ヒッタイト時代
第4章 帝国化するヒッタイト:ヒッタイト帝国期
第5章 絶頂からの転落?:ヒッタイト帝国の滅亡
第6章 ヒッタイトのその後:後期ヒッタイト時代
第7章 ヒッタイトの国家と社会
第8章 ヒッタイトの宗教と神々
第9章 ヒッタイトは「鉄の王国」だったのか?
第 10
章 ヒッタイトの戦争と外交
第 11
章 ヒッタイトの都市とインフラ
第 12
章 ヒッタイトの人々の暮らし
第 13
章 ヒッタイトの再発見
―――
前半がヒッタイトの通史、後半がヒッタイトの社会・生活などの諸側面を扱い、最終章が研究史をたどる、分かりやすい構成となっています。
小林登志子『古代オリエント全史』(中公新書、 2022
年)
の記事にも書きましたが、ヒッタイトについては、高校生の頃から、なぜバビロン第一王朝を滅ぼしながら、同地を支配しなかったのか、ずっと気になっていました。『古代オリエント全史』ではその理由は明示されていなかったので、引き続きヒッタイトに関する文献を読みたいと思っていたところ、手頃な新書が刊行されていたことは嬉しく、本書を手に取った次第です。
バビロン第一王朝の件について、本書では、本拠地のアナトリアからバビロンまでは 1,000km
以上も離れた大遠征であり、「本拠地からはあまりに遠かったため、支配を維持することなくすぐに引き揚げ」( 39
頁)と言及があり、本書を手に取って良かったです。
その他、初期王朝は、前王を殺して次の王が即位する事例が何度も見受けられる点であるとか、日本では「鉄の王国」として紹介されることも多いですが、鉄器の使用については同時代の他の地域の状況なども勘案してかなり相対化されていること、また後半で詳述されるインフラ整備のことなど、興味深い話題も多い1冊でした。
読了から記事を書くまでにだいぶ時間が空いてしまったので、簡単なメモになりましたがこのあたりで。
(2024.05.28 読了 )
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