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「あの子を誘うのにはきみの許可が必要なの?」京介さんがつまらなそうな顔をしています。「おかしいな~とは前々から思っていたんだけど。それはフェアじゃないでしょう?」先に手を出したくせに今更フェアかどうか確かめるなんて、大人の言うことじゃないです。「博斗。俺はあの子が好きだよ。」「あの子じゃなくて。真夕でしょう。」背丈は同じくらいです。でも年は京介さんのほうが上。「真夕を呼んでよ。」「呼びません。」「へえ?」「このバイト、俺も真夕も辞めます。京介さんはいいひとだけど、こうなった以上もう関わりたくないんです。そのほうがお互いのためです。」淡々と話す博斗は、大人びて見えました。「なんか・・俺のほうが子供みたい。」ふううと息を吐くと京介さんは手を振りました。「俺は遊びのつもりじゃ無かった。あの子を育ててみたいとさえ思った。愛情かけてるつもりだったよ。でも・・・ここにいるときはいつも博斗が邪魔してくれてたな。」「邪魔?」「いつも傍にいた。手を出さないけど傍にいた。・・本当にむかつく位置にいた。」くくっと笑うと。「あのティーカップは真夕が使ってるんだろう?・・あの子に似合いそうな色を選んでおいてよかったよ。」「・・・え?」「おつかれさん。」京介さんは携帯を片手に事務所を出て行きました。博斗は、その後姿に一礼して。フロアーに戻りました。「博斗は星がすきなんだろう?昨日真夕が言ってたぞ!なな。おしえてよ。天の川ってどこにあるんだ。」おさかな先輩が駆け寄ってきました。天の川を見つけて、ロマンチックに願い事をする気でしょうか。「・・東の空の白く輝く星と。オレンジ色の星2つを繋げた中に・・ありますが・・。」「そーんな言い方じゃわからないよ!こう・・目印とかないのか?」「空は・・みんな輝く星でいっぱいですけど。よく見ると色がちがうんですよ。俺、眼鏡していても見えますけどね。」「見慣れないものは不安だなあ。それに慣れていけば良さもわかるんだろうな。」先輩はメモに<東の空・・>と書き始めました。「俺も深海魚を調べてみたら面白かったですよ。先輩がはまるのも少しわかります。」博斗はにこっと笑いました。「おまえ・・なんか顔が変わってない?」「は?」「こんなに落ち着いた顔してたかな?と言うか・・あまり博斗の顔見たこと無いかも。」まじまじと見られて、ひきそうです。「先輩。仕事あがりに空をみたら丁度いいですよ。星がよく見えますよ。」慌ててさっさと離れます。遠くの棚から真夕がこちらに来るのが見えました。すこし離れていただけでも今日は不安でした。「博斗。靴を返して来たよ。」真夕が傍に来て微笑みました。「携帯も・・・・番号もメアドも削除した。」げ。聞きたくも無い事実を聞いた気がします。「ちゃんといえたし。断れたし。だから信じてね?」瞳が潤んでいます。真夕なりに思うところがあったのでしょう、震えそうな唇が見ていられません。「・・帰ろう。そろそろ星が見えるよ。」「ケーキ。」「ああ。はいはい。・・・買って帰ろうね。」「おんぶ。」「また歩けないの?」博斗の迷惑そうな声も真夕は嬉しいみたい。今日も手を繋いで、帰りましょう。夜道は暗いけれど。空に輝くお星様がふたりを守ってくれますよ。 おしまい。ありがとうございました!!!
2006/07/07
ただずっと傍にいたからじゃない。ずっと傍で息を殺して寝ていた博斗の態度が、自分を意識してくれていることに気がついて。お金で自分を釣ろうとしたひととは違う。そう・・京介さんとは違う。自分を意識してくれているのは同じでも、傍にいてくれると安心した。手をださないから安心したのは意識してから。そして、手を出して欲しいと願い始めたのです。釣り上げられたから・・・。「ひとを間違えそうだった。」「・・そう。」博斗は相手を聞きたくない。と感じました。間違いなく・あのひとだから。「あの靴を履いて俺のところに・・。」「もういいよ。」「・・どうして聞いてくれないの。」「聞きたくないよ。」「間違えちゃったけど。最初は間違えたけど・・博斗がいい。」真夕の声が震えていました。<なにもしていない>そう嘘をついたことも悔やんでいるようでした。「信じていいのかな。」博斗は真夕の瞳の輝きを守りたいのです。泣かせたくないし、困らせたくない。でも・・・・騙されたくも無い。「俺も・・自分を信じていいのかな。今まで真夕を抱きたいと思っていなかったなんてウソをついた。・・許してくれるの?」髪を撫でながら、どうかどうか・・と願いをこめます。「お互いさま。・・・でも博斗。お願いがある。」「なに。かなえれるかな。」「この部屋の合鍵が欲しい。」「それがお願い?」「希望。」真夕は微笑んでいます。「合鍵を渡したら一緒に帰らなくても平気ってこと?なら嫌だよ?」「え。違うよ。お守りにするんだ。・・もう間違わない。」キスをしようとねだる唇に近付きながら。「・・鍵を渡すけど、ひとりにしないよ。お守りなんていわせない。俺が守る。」「・・え。」どくん。鼓動が重なりました。抱き合って寝るだけの夜でした。星の天井がふたりを包んで見守る夜でした。
2006/07/07
眼鏡をとったらぼやけるかと思いましたが、元よりほのかな明かりの中でしたから・・。真夕の誘う匂いに助けられています。「ううんっ!!」もう少し入れようとしても真夕がきつくてすすめません。「真夕。もう少し・・。」すべすべの肌をゆっくりと撫でます。おへその周りも。汗をかいているから吸い付いてくるようです。「・・・キスして。もっと可愛がって。」半開きの口が求めてきます。のしかかって濡れた唇にしゃぶりつきました。「くうっ!・・ん。んん!!」唾液が溢れて、喉を伝います。肩の線、胸・・と焦りながら揉み解していきます。「ああ・・。」吐息が漏れたときに、ずるっと入り込めました。「・・・んん・・・博斗。・・ぜんぶ?これでもう全部だよね?」真夕が小刻みに震えているのがわかります。「おっきい・・ん。まだ・・まだ動かないで?感じたい。・・ああ、。」とろけそうな表情に捕らわれそうですが、全部入った安心からか。博斗は攻め立てたい気持ちになっていました。<手馴れている。どう見たって、男に抱かれたことがある。>「真夕。・・・動くよ・。」「・・え?どうしたの・・。」声が少し低くなった博斗におびえました。「待って?」「・・もう待てない。真夕、ごめん。」「ええ・・。・・あっ!!・・いやいや、そんなのいや!!」勢いよく繰り出した動きは、真夕を思いのほか攻め立てていました。「いやああ!!」泣きそうな声が続きます。「やめて。どうして・・・あああん!!」博斗の髪が汗のせいでウエーブがはっきりとしてきました。レッドブラウンのスパイラルパーマがくりくりとして、髪すらも攻撃的に見えてきました。ほの暗い部屋だから尚のこと。「・・やめて!!やめて!」真夕が叫びます。「どうして・・なんなの?博斗・・?」いきなり強く攻められて、涙がこぼれました。「・・・あ・・。」鼻声に気がついた博斗は、ようやくピストンを止めました。<知らない男に抱かれたことを、嫉妬した。>してはいけないことをしました。攻めても仕方の無い事をしました。真夕は涙をこぼしながら、両手で顔を覆っていました。「・・博斗。なにを・・考えていた・・?」「・・ごめん。」「謝らなくていい。・・おしえて?・・なあに。」ぐずぐずと鼻をすする音が聞こえます。抜いたほうがいい、腰をひくと真夕は腰をひねって抜かせません。「真夕?」「おしえて。・・俺が・・なにか間違えたの?よくないの?」そんなことじゃないのに。博斗は自分のなかで一気に独占欲が広がっていることを自覚しました。真夕が自分のもののように、自分にしか許さないように願った一瞬、経験のあることに腹をたてて。あげく嫉妬したのです。真夕を抱いた知らない誰かに。「ごめん。俺だよ。」「え。」「真夕を好きにできるのは自分だけだと思い込んでしまって、その。・・想像して嫉妬した。」かあっと顔が赤くなりました。情けない自分に腹が立ちました。「嫉妬してくれたんだ?・・博斗?」真夕が目を潤ませながら聞きました。「博斗。抱きしめて。このまま感じたい。動かなくていいから・・抜かないで。」ぎゅっと抱きしめると萎えていたものが徐々に動き出しそう。でも。動かないほうがいい。このまま朝まで抱いていいならこのままでいてもいい。傷つけかけたこと。自分が許せなくてこらえきれない憤りもありました。でもでも。こんな自分にしがみついてくる真夕が愛おしい。どうして過去を嫉妬してしまったんだろう。自分が初めてであってほしかった、・・・・そうじゃない・・。相手が京介さんじゃないかと疑いだしていた自分がいや。それに勝手に腹をたてて攻めた自分がいや。「・・聞いてくれる?」真夕がはっきりとした声をだしました。泣き止んだことにほっとしていたら、何かを話したいみたい。「なに?どうした・・?」「俺は・・本当はずっとこうしてほしかったんだよ?」
2006/07/07
真夕の襟足までも輝いて見えました。長い前髪を横にはらって、小さな顔の輪郭をたどるように触ります。「・・じらさないで。どきどきするから。」「初めて見る顔をしてる。」「いつもの顔だよ。」「違うよ、いつもの真夕は・・。ああ・・どうだったかな。」白い歯から覗く赤い舌先に誘われて唇に吸い寄せられました。「んっ!・・・。」目を伏せた真夕が腰を浮かせます。あたっているのです。欲しいものがそこにあるのに服が邪魔して入れません。もどかしくて腰が波打ちます。口の中では互いの舌が探り合っています。どんどん息が乱れていきます。どくどくと鼓動が早まります。「・・あ。ひろと・・。」唇を離すと視線を下に送ります。「はやく・・それ。」脱ぎかけたままのズボンを下ろして、楽になりました。真夕のズボンにも手をかけます。「自分で・・脱がせて。」紅潮した頬を隠すようにベルトを外して、下着ごと下ろしました。両足を軽くばたつかせるので、博斗が丸まったズボンを取り去りました。「・真夕。俺は男ははじめてだから・・無理したらごめん。」「いいから。なにしてもいい・・。」濡れた茂みが呼んでいました。そっと手で触れると、挨拶なのか真夕の体がぴくんと跳ねました。「・・奥に・・入れて?」息が荒いまま、お願いをしてきます。もっと茂みを触ってみたい博斗は、腿を撫でながら足を開かせます。「あ・・・そこじゃなくて・・。や・・。」真夕が隠そうとして手を伸ばしてきました。「奥がいい・・。ねえ?」「触らせて真夕。・・全部触りたい。」博斗自身は正直限界でした。もうなんとかしないと先から漏れてきます。じわじわ奥からこみ上げてくるものを知りながら。目の前の綺麗な体に見とれて、触りたくてたまりません。「あ・・。」真夕の吐いた息が甘く感じられます。「そんなこと・・しないで・・!んっ・・。あ、ああ・・。」指でイかされる。真夕は膝を立てて、これ以上いじられないようにガードしますが。「真夕・・ここ?」博斗の指がぐっと奥に入り込みました。「アっ!!・・・」高い声が喜びを表します。「そこ・・そこ・・!もっと入ってきて、お願い。」銜えるような収縮で博斗の指は持っていかれそう。「んっ!!真夕・・力抜いて、きつい・・。」「あアっ!!・・ん、もっと・・もっときて?」ぐいぐい飲み込まれていきます。「真夕・・抜かせて!!」博斗はぐっと指を抜いて、自身をあてがいました。「ああっ!!・・博斗?博斗・・きてくれるの?・・」まだ先しか入れていないのに、指のせいか濡れた茂みが博斗を捉えます。「もっと入れたい・・。」そっと呟くと、腰で押し込みました。「・・・・!!!」真夕がのけぞります。おへその穴が顔の表情のように動きます。「ああ・・っ!!・・・まだ・・まだだよね?」「うん・・もう少し入りたい。」荒い呼吸をしながら真夕が手を伸ばして博斗の眼鏡を取りました。「そんなに近くで眼鏡をつけないで?・・恥ずかしい・・。」
2006/07/06
月の灯りでぼんやりしたお部屋の中で、きらめくのは真夕の瞳と唇でした。その輝きに惹かれて手をのばしてしまいそう。「朝までって・。」「あと5時間もないよ。・・いいよね。抱きしめてくれるよね。」博斗の背中で気持ちを確かめるように真夕の手が這います。「真夕・・このままで本当にいいの?どうして欲しいの。俺は真夕を抱けないよ。」「どうして?」「真夕は友人だ。みんなのお姫様だ。・・正直、今日まで真夕を抱きたいと思ったことはないんだ。」「今日は?・・今日も抱けない?じゃあ、いつなら抱いてくれる?」真夕は博斗のシャツのボタンを外しにかかりました。「あのね、真夕。」やめさせようと手を掴みますが、「隣で寝ていても手を出さないのは何故なの。いつもいつも、俺には興味がなさそうな態度で。でもそれならどうしていつも俺の傍にいてくれるの?!」そう叫ぶと、真夕は強引に博斗の唇を奪いました。どくん。お互いの胸の鼓動が伝わります。離そうとした唇を、博斗が再び重ねてきました。一瞬驚いて瞳をぱちぱちしましたが、じきに受け容れます。自分の体を支えてくれている博斗の腕に全てを預けるほど、安心感が体中を満たしていきます。長い・・長いキスでした。キッチンの明かりが足元を照らして、天井からはほのかに月の光が差し込んでいました。「はあ・・。」ようやく離れた唇は濡れています。「外にいるみたい・・。暗くて静かで・・。」博斗が呟きます。「深海。」「・・落ちようか、ふたりで。」真夕の右手が博人のズボンのジッパーをおろしました。「真夕、なにしてるの。」そっと真夕は手を入れます。感触をゆっくり確かめてみます。「・・少しは感じてくれてるの。我慢しなくていいから、」「やめろよ真夕、俺は真夕では起たないよ!」大事だから。性欲の対象でなんて見たくないのです。ずっと・・・気付かなくていいのに。言いながらも真夕に感じていました。我慢ができなくなる、爆発しそうなものがあります。・・我慢?ずっとこらえていたのは・・・欲しいという感情でした・・。「起たせたら・・・。」真夕は中腰になり博斗の自身をずるりと出して、愛おしそうにゆっくりと口にふくみました。「えっ!」暖かい舌が自分を支配していきます。真夕の熱い息がかかるのも、真夕の髪がさわさわと揺れるのも、鼓動を早めてしまいます。「そんな無理な体勢で・・。」やめさせようと手を伸ばしても触れるのは真夕の髪。長い襟足がうなじを隠しています。「・・真夕、」どきどきしてきました。決して上手ではないフェラが、かえって博斗をかきたてました。「あ・・。」大きく硬くなった自身を感じた真夕が、口から解放しました。「・・ああ、すごい。・・どきどきする、」紅潮した頬に触れてみます。「ごめん。・・寝かせれない。」「それでいいの。謝ったらいや。・・大好きだよ博斗。俺を好きにしていいよ。」手を伸ばしてきたのは、お姫様のほうでした。深海に落として漂わせていた感情を星のような輝きで見つけたお姫様。すくいあげてくれました。真夕の背中にフローリングの床のひんやりした感触が伝わります。見上げるとたくさんのお星様。「寝れなくていい。」
2006/07/05
「はい、着きましたよ。お姫様!」かちゃっと薄くて丸いカードキーを回転させてドアを開けます。博斗の部屋は玄関を入るとすぐちいさなキッチン。その先が12畳のワンルームです。そのワンルームには天井のガラスから月の光が降り注いで、まるで舞台のスポットライトのように輝いています。その輝きをみて口を半開きにさせている真夕を玄関にずるっと降ろします。背中に張り付いてる重みがなくなって・せいせいした様子、すぐにやかんに水道水を入れ始めます。「水道水なの?」真夕がNIKEのスニーカーを脱ぎながら声をかけます。「汲み置きより、このほうがまろやかなんだ。騙されたと思って飲んでみればいいよ。」「へえ・・。」靴下まで脱いでいます。「真夕、脱いだものを散らかすなよ。」「うん。」靴下を下げて、ぺたぺたとフローリングの床を歩いていきます。そして、ガラスの天井の下にぺたんと座りました。上からすうううと降り注ぐ月の光を見上げています。「お姫様。電気点けて。」フォションのダージリンストレートフラッシュを取り出して<これでいい?>みたいに振って見せますが、お姫様は真上を見上げたまま。動きません。「・・綺麗。このままでもいい。」真夕の髪が光できらきら輝きます、静かに降り注ぐ月の光を浴びて身動きもしない。赤いティーカップを暖めながら、博斗はその後姿を眺めています。星が降りてきた。願いをかなえるのはこんな綺麗な星なのかしら。手をのばせば届くんです。でもこのままみていたい。「博斗。あの星はなんていうの。」「どれ?」ひょいと近寄ると、真夕が抱きついてきました。「わ!なに??」「・・俺はどうしたらいいのかな。」いきなり、か細い声が聞こえてきました。「なにが・・?」博斗は・ずれた眼鏡を直します。自分の背中にまわった真夕の細い腕も気になりますが。「俺は・・京介さんにうまく断れるのかな。」「すきなの?」聞いた途端に・・・・・どくん。おおきな音がしました。「京介さんは好き・でももっと好きなひとがいる。そのひととふたりでどこへでも行きたい。」どくん。「すきなひとがいるなら、断りなよ。京介さんは大人だから、はっきり伝えたほうが後腐れないんじゃない?」どくん。ぎゅうううっと博斗のシャツを握る気配がしました。「・・どうしたの?」「星がみたい・・。」真夕はさほど星に興味があったようには思えませんでしたが?「見えるでしょう、ここなら。」「・・博斗。ぎゅってして?ぎゅって・・!」語尾は泣きそうな声でした。おそるおそる真夕を抱きしめます。すこしづつ力をこめていきます。暖かい。同じ男子のはずなのにどうしてこんなに暖かくて、いい匂いがするんだろう。髪も撫でてみます。柔らかい。同じ生き物でもこうも違うなんて。「・・!!」自分が汗をかいていることに気がつきました、あわてて離れようとしますが。張り付いてびくともしません・・。「・・汗臭いでしょ、ごめん、離れようか。」「くさくない。・・まだこのままでいてよ。」「紅茶・・。お湯がそろそろ。」「・・・。」「真夕の好きなエインズレイの赤いカップをあたためてあるんだよ?」髪を撫でながら言い聞かせます。エインズレイのティーカップは2客だけ持っていました。ひとり暮らしと言ったら京介さんがくれたのです。それまでエインズレイは知らなかった博斗は貰ってからネットで調べて大慌てしました。頭を下げまくる博斗に、特別なひとと使いなさい、と京介さんがアドバイスしてくれました。外側が赤くて、美しいティーカップ。大事なひとと過ごす時間を演出するには素敵過ぎる美しさです。でも主に使うのは真夕でした・・。「・・中に薔薇と蝶の絵が描いてある?」「そうそう、真夕の好きなカップだよ。・・だから離れて。」「・・離れたいの?」「紅茶が入れられないじゃん。真夕、紅茶をあきらめますか?」博斗が呆れて聞くと。背中に回った手に力がこめられたのを感じました。「諦めると言ったら、朝までこうしてくれますか?」
2006/07/04
「あの部屋なら寝転んで星が見えるから・・。」真夕が言いながら博斗の指を握りました。子供のような暖かい体温に、なにかを許されたような安心感がありました。いまなら聞けるかも。聞きたいんだ、どうしても。「あのさあ・・・。聞いてもいい?」「・・なあに?」予想外の可愛い声に、どきん・と鼓動がしました。「・・なにか食べる?」違うでしょう・・。「・・なにが聞きたいの?」握った指を信じたい。真夕は大事な友人です。可愛い容姿ですが男子です。男子だけど、かわいいんです。抱きしめたことも、なにもないけれど。大事です。まさか、まさかと不安な気持ちが飛び出しそう。吐きそうなくらいどきどきする。「京介さんてさあ・・。」声が小さくなりました・・。繋いでいた手をそっと離すと、満足そうに微笑みます。「少しは気にしてくれてたんだ。」自分の髪を触りながら、じっと博斗を上目遣いでみてきます。その仕草は女の子のそれなんですが。何かを期待して落ち着かなくて、自分の髪をいじっています。瞳の輝きが星の瞬きと重なります。こんなに近くに星がありました。手が届かないからこそ手を伸ばしてしまう。届かないと知っているから、ここで満足していた気持ち。前から知っていました。星が近くにあることを。その星が手に入らないから、遠くのお空で輝く星に気持ちを預けて・・・ずっと眺めていました。手が届かないから。みてるだけでもいい。その輝きを守れたらいい。ずっと・ずっと守っていたい。喉が渇きました。真夕の輝きに体中の水分が吸い取られました。「京介さんは、このまえ食事に誘われた。博斗が一緒なら行くよ。と言った。」「・・・で行ってないんだ。」「うん。そしたら今日は靴が入っていた。」「高い靴ね・・。」「うん・・・。」真夕は目を伏せました。「京介さんは、真夕と食事がしたいだけじゃないんだね。」「・・そうかもね。」「・・真夕。紅茶入れてあげるから。あとは部屋で聞かせてよ。外で聞いてたら辛い。」「辛いっていってくれるの?」真夕は目を伏せたまま、唇を震わせます。「辛いよ。ほかになんの感情があるの。」博斗は真夕の髪をなでなでしてあげました。博斗も不安です、本当は聞きたいけど聞きたくも無いのです。ただ安心したい。安心させたい。「なにも・・なにもしてないよ。」「わかった。じゅうぶん。帰ろう、真夕。」「・・歩けない。」ざっと座り込んで泣き出しました。この暗闇でそんなことをされては姿を見失います、困ります!「・・真夕、泣くな!・・もう・・・おんぶしてあげるから。」180CMの背でよかったです。165CMほどの真夕をひょういとおぶって、ため息ついて歩き出しました。背中の真夕はとっくに泣き止んでいます。「喉がかわいた。」「・・降りるか、コンビニ寄るぞ。」「・・紅茶入れてくれるんでしょう?」
2006/07/03
博斗は事務所に売上金を預けて、そのまま帰ろうとしましたが。「あ。ごめん、ロッカーに寄りたい。」真夕が走っていきます。なんでしょう?忘れ物かな。博斗が追いついたら真夕は高そうなぴかぴかの茶色い革靴を持って途方に暮れていました。「どうしたの、それ。」「・・俺のロッカーに入ってた。」「真夕のじゃないよね。見たこと無い。」「新品だよ。なんだろう・・。」靴は重いらしく、ぶら~んと手に提げています。靴の中に白い紙切れを見つけた博斗が「貸して」と取り上げます。<若いうちから良い靴を履きなさい。 渡部>「渡部って。・・京介さん?」博斗がびっくりしています。「あのひとはバイトにも靴をくれるの?すごいな!」・・喜んでいます。「博斗、返してくるから。先に帰って。」「待てよ、明日にしろよ。もうこんな時間だぞ。閉店するから・・。」ぎゅっと真夕の細い手首を掴みます。「なにがあったか知らないけど。こんな時間にそんな高いものくれたひとのところにひとりでいくもんじゃないよ。・・どうしても今日中に返したいなら、俺も行く。」博斗は心配でした。真夕が持っていた革靴はお店では23800円もするキャサリンハムネットのものでした。安いものではありません。誕生日でもないのに、ぽーんとただでもらえるものではないはずです。「・・明日にする。一緒に帰ろう・・。」真夕はロッカーに靴を入れて戸を閉めました。従業員出入り口から外に出たら静かな夜が広がっていました。校外のお店なのでぽつぽつと街灯が並んでいる程度で、まぶしい光を放つコンビニもだいぶ歩かないと出くわしません。車もあまり通らない、眠りに着いたような県道沿いの歩道を、博斗と真夕が並んで歩き出しました。「・・おなかすいた。」真夕が呟きます。「店の食堂の夜食を食べなかった?」23時まで働く遅番のひとには社員・バイトの区別なく、会社から夜食が支給されるのです。今日は玉子丼でした。博斗は食べました。「ケーキ食べたい。」「太るよ。」街灯の明かりが夜空を邪魔しないから・ちかちか光る星が会話の弾まないふたりを見つめているようです。博斗は聞きたいことも聞けない自分の土壇場での弱さを感じてはいました。聞きにくいな。なんて思って東の夜空を見上げます。お星様、あなたの力を貸してください。あなたの輝きを貸してください。「真夕、あの星。」博斗が真っ白に輝くちいさな星を指差します。「真珠みたいだね。」「こと座のベガ。いちばん明るいゼロ等星だよ。」「ふうん・・。」あまり興味なさそうですが真夕も空を見続けます。180CMの身長の博斗より15CMは低い真夕は、自然にくっつくように歩いています。「その真下くらいのオレンジの星も見える?」「うん・ぼんやり。あれは?」「わし座のアルタイル。1等星。」「離れたところにもオレンジの星が見える。」「はくちょう座のデネブ。3つをつなげて、夏の大三角って言うんだよ。綺麗だろ。」「・・ああ。繋げると三角だ。・・よく出来てるね。綺麗。」本来ならここは天の川が見えるはずなのです。でも・・灯りがないとはいえ街の空気はよどんで。肉眼ではなかなか見れません。眼鏡をかけている博斗は目を凝らします。天の川が見えたら、自分の力になってくれそうな気がしたのです。「・・博斗の部屋に泊まっていい?」「いいよ。そのつもりで今日ラストまでやったんだろうと思ってたから。」博斗の部屋はお店から近いところに借りていました。10年前に有名なデザイナーの設計したお部屋だそうで、ロフトのある、天井が一部ガラスになっている・・真夏には・はた迷惑なお部屋です。
2006/07/02
やがて閉店のお知らせの館内放送が流れて、レジ清算を始めますが真夕の姿が見えません。「先輩が商品だしを手伝わせてるよ。こんな時間に。」仲間の声がしました。「深海に引きずり込まれたか。」はあ、とため息つく仲間もいます。「深海には、たまーに死んだ魚がまるごと落ちてきたりするらしいね。それが生物の餌になるんだって。」博斗が清算レシートをじゃかじゃか出しながら言います。「博斗、最近妙に深海に詳しいね。興味わいたの?」「あんまり先輩が深海の話をするからさ、調べてみた。桜海老とかズワイガニもキンメダイも深海の生き物なんだってさ、初めて知った。」「へえ?」「良く知らないだけでさ、知ったら意外に面白いんだろうな。深海に生きる生き物は。でも俺は闇に潜るのは光が無いから嫌だ。」ひとは光を求めて生きるものだと想いました。わざわざ光の届かないところに行きたくはない。闇を知ろうと思ったのはただ単に興味をもっただけ。闇に生きる生き物も、光を求めるからこそ輝きたくて自分の体を銀色にしたり、わずかな光を感じたくて、よく見えるように目が大きかったりするんだと知りました。発光体。光が届かなくて、光にあこがれる生き物。先輩とだぶりました。深海を調べなければよかったと、一冊読み終えてすこしほろ苦い気持ちになったことは黙っていました。「博斗はなにに興味があるんだ?」仲間の声に「星だよ。」いつのまにか戻ってきた真夕がかわりに笑顔で答えました。「おかえり。」博斗が長い清算レシートを見ながら言いました。「ただいま。」その態度に、そっけなく真夕もこたえます。カチッとボールペンをノックして、売り上げ伝票にサインします。「・・真夕。先輩は?」仲間が興味本位で尋ねます。「棚を替えてるよ。残業するんじゃない?」「手伝わなくていいのかな。」「いいよ。バイトは残業するなっていわれてるじゃん。」真夕が伝票をまとめていると博斗が「それ持ってついてきて、事務所に預けに行こう。」「うん、行こうか。」他の仲間を寄せ付けない呼吸でふたりがさっさと歩いていきます。なにも声がかけれない仲間たちに気がついたのか、博斗が振り返って、「先にあがっていいよ、俺たちも預けたらそのままあがる!」手を軽くふってフロアを出て行きます。「おつかれ!」真夕がにっこり笑って手を振ります。「・・あのふたりは?」その光景を見てしまった先輩が消えそうなくらい小さな声で聞きました。そのぼんやりした気配に、バイト仲間が「今、なんていいました?」と聞き返すほど。「同じ学校に行ってることくらいしか知りませんけど。仲よさそうっすね。」とりあえず知っていることをおしえますが、それだけでも先輩はがくん・・と落ち込んだ様子。「博斗が相手じゃあなあ・・。」落ち込んだ先輩を慰めるべく、仲間が頑張りました。「は?博斗は真夕をおよめさんにほしいなんて言いませんよ?」「そうですよ安心してくださいよ。先輩くらいですよ、同性でも結婚したいと思ってるのは!夢でもひとりじめじゃないですか。」それは弓矢のように先輩に刺さります。「真夕・・。」泣きそうな先輩に、やり方を間違えたことにようやく気付いた仲間たちは慌てて本気で慰めます。「どうした、お前ら。早くあがれよ。」大卒2年目で早くもフロアー長になった京介さんが追い出すような仕草をしながら笑顔でよってきました。黒い髪のエアリーウルフカット。薄い黄色のシャツにドットのネクタイ。遊び人的な容姿がとても社内でのえらいさんには見えません。一重の瞳に尖った顎。薄い唇がシャープなイメージを与えます。「あ。すみません。もうあがります。」「あれ?博斗と真夕は?今日休みか?」めざとく指摘します。まあ、のっぽの博斗も女の子みたいな真夕も、いれば目立つほうですが。「いえ、今事務所に。そのままあがるって言っていました。」「あ、そうなんだ・・。」唇をなぞるのはこのひとの癖でした。
2006/07/01
深まる夜空の下で蛍光灯の灯りがやけに元気です。ちかちかと光る星を邪魔する人工の輝き。「お店の中は明るいけれど、そとに出たら真っ暗だから。気をつけてよ?」バイト先の先輩が後輩たちを前に笑っています。「まるで深海だよ。」大げさに手を振っています。今の時間は22時。お店は23時まで開いているのです。レジ清算して、お店をでるのは20分後くらい。7月の始めとはいえ・・真っ暗。車も数台しか走らない県道。あの静けさは深海・・。「深海は光が届かないんでしょう。」先輩の言葉に微笑みながらぼそっと真夕(まゆ)が隣の博斗(ひろと)に聞きます。博斗は軽くうなずいて適当に先輩と話をあわせます。「水面から300メートルもぐった海に生きる生物ってグロテスクな姿していますよね。」「そうそう!よく知ってるな博斗。」お客さんがいないのをいいことに、先輩はまた豪快に笑いますが、みんなはひいています。先輩は目が大きくて離れていてあごの出た愛嬌のある顔で、お魚に似ているのです。お魚好きが高じて似てきたのかもしれません。先輩はお魚マニアで深海好きなのです。深く物事を考えない博斗がなにか言い出さないか・みんな、ひやひやしています。博斗はレッドブラウンの髪をボブベースにスパイラルパーマをプラスして毛先を流しています。一見おとなしそうな奥二重の瞳はクリアフレームの眼鏡で個性を前面に出しています。にこにこしながら目が笑わない。180CMの背がこんなときは、やけに不気味さを増してきます。「銀色のからだに赤いひれをつけた魚を知ってるかい?」「なんですかそれは?」「リュウグウノツカイというんだ。2メートルくらいあるんだよ。顎のでた大きな目の魚でさ、不気味なんだよね。」「顎が出て目が大きいなら・・・。」博斗が何かを言いかけます!!止めようと仲間が一歩足を踏み出しますが「先輩に似てるのかな?」ノーマークの真夕が聞いてしまいました。「俺に?ああそうかもしれないな!!」先輩がうれしそう・・。「珍しい生き物に似てるっていいですね。」博斗がさすがに慌ててフォローのつもりで続けますが、ほめてないでしょう・・?「真夕に言われるとうれしくなるよ。」先輩はでれでれ。おかしいですよ、今言ったのは博斗だし。汗がきらきら光って鱗みたい。ますます・・。「ああ。そっくり。(魚に)」真夕が微笑みます。「かわいいなあ・・真夕は。どうして男の子に生まれてきたんだろう。女の子だったら俺がおよめさんに貰うのに。」お魚マニアの先輩は女の子のようにかわいい真夕のマニアでもありました。照れた赤い顔で告白しましたが。「お嫁さんにはいきませんよ。」真夕はにっこり笑って完全に否定します。襟足を長く残してピンパーマをかけた変形マッシュカット。サイドも長めにちいさな顔に沿うようにカットされています。真正面は前髪は長めのお姫様カットに近いです。せっかくの二重の瞳が前髪で隠れがちですが、覗く睫の長さに女の子であったなら・・と呟くひとは多いのです。個性的な髪の真夕は性格も個性的・・というか笑顔で破壊的ですが、悪気はないし。もとより、この可愛い容姿に助けられています。
2006/06/30
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