意外な戦史を語る~  カモメとウツボのメクルメク戦史対談

意外な戦史を語る~ カモメとウツボのメクルメク戦史対談

2011.01.28
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カテゴリ: 海軍予備生徒
(ウツボ)横道にそれたが、隈部予備中尉の話に戻ろう。昭和十九年十二月二十日、隈部大尉は、横須賀鎮守府付の辞令を受けた。

(カモメ)この時点で隈部氏はすでに大尉に昇進していました。しかも官制の改正があり、予備大尉の呼称も、「予備」がとれて、「隈部大尉」になっていたのです。

(ウツボ)隈部大尉は、三年三ヶ月乗っていた掃海艇「第二号朝日丸」を離れて、横須賀に向けて汽車に乗った。

(カモメ)横須賀鎮守府の人事部に行くと、「よく生きて帰ってきたな」「ご苦労さん、次の命があるまで休んでいなさい」と言われたので、熊本県菊池郡の故郷に帰ったのです。

(ウツボ)昭和二十年の元旦は、両親や妻と子供と迎えることができた。一月八日、電報が届いた。「第一五四号海防艦艤装員長に補す」とあった。

(カモメ)隈部大尉は、今度は生きて帰れないと思ったのです。海防艦であろうと、他の軍艦であろうと、この頃には、出港したら再び帰って来れない艦が多くなっていました。

(ウツボ)当時は、次々と艦の数が少なくなっていく中で、海防艦だけが次々と建造され、海上に送り出されていた。

(カモメ)そうですね。海防艦には甲、乙、丙、丁型があり、甲型艦と乙型艦の艦名は鳥の名が、丙型艦の艦名は奇数番号が、丁型艦の艦名は偶数番号が着けられていました。隈部大尉の「第一五四号海防艦」は丁型艦でした。

(ウツボ)甲、乙、丙型艦の主機はディーゼルエンジンで二軸の推進機を備えていたが、丁型艦はタービンエンジンで一軸だった。

(カモメ)第一五四号海防艦は基準排水量七四〇トン、全長六九・五メートル。蒸気タービン一基一軸の二五〇〇馬力で速力一七・五ノット。乗員百四十一名でした。

(ウツボ)兵装は、四五口径十二センチ高角砲単装二基、二十五ミリ三連装機銃二基、対潜水艦用に水中聴音機、探信儀、三式爆雷投射機十二基を装備していた。

(カモメ)軍艦には通常第一、第二士官室がありますが、この丁型海防艦には士官室は一つしかなかったのです。艦体は溶接が多く、甲板は平らで湾曲がなく、雨が降れば上甲板の雨水が部屋に落ちるので、バケツで受けて部屋中が濡れるのを防ぎました。

(ウツボ)昭和二十年二月七日海防艦「第一五四号」は相生(兵庫県)の造船所で竣工した。二月中旬、艦長・隈部大尉の指揮する「第一五四号」は佐伯湾の新造海防艦の訓練に参加した。

(カモメ)訓練は、呂号潜水艦を相手に、実戦さながらの訓練でした。訓練も終わって、呉に入港しました。

(ウツボ)四月四日早朝、上陸員出迎えのほかの艦の内火艇が、「第一五四号」近くで爆発沈没した。爆発音に部屋を飛び出して、隈部艦長が見たときには、水柱は崩れて、内火艇の姿は消えていた。

(カモメ)米軍機が投下した感応機雷でした。艦船の接近によって起爆装置が発動する新兵器です。船が近づけば爆発するので、不安を与える心理効果も大きく、威力は大きかったのですね。

(ウツボ)「第一五四号」は命令で、門司港に向け、呉を出港することになった。当時は敵機の攻撃で海防艦が撃沈されたり、関門海峡で触雷し沈んだりしていた。

(カモメ)隈部艦長は門司港まで五隻の海防艦が行動を共にすることになったので、司令の現役大佐が乗艦している甲型艦「能美」に挨拶に行きました。

(ウツボ)すると、「能美」の艦長は、隈部艦長と同じ会社に勤務していた予備士官だった。その艦長は「君は新しい艦長だから知るまいが、海に出たら直ちに戦闘だから気をつけろよ」と親切に言ってくれた。

(カモメ)五隻の編隊は呉を出港し瀬戸内海を航海したが、無事関門海峡に入り門司港に入港しました。そのあと、早速、呉から行動を共にした海防艦は「第一五四号」以外全艦、外洋へ出撃しました。

(ウツボ)四月十四日、彼らは一隻だけを残して他は沈没したという知らせが入った。だが、「第一五四号」だけは、何日も岸壁に横付けしたまま、何の命令も来なかった。

(カモメ)その後、第七艦隊司令長官から隈部艦長は命令を受け取ったのです。関門海峡東部掃海部隊指揮官として発令し、「部崎灯台の南東一五〇〇メートルの地点に投錨し、敵飛行機及び機雷の監視並びに掃海部隊を指揮し、投下機雷の掃海を実施せよ」という内容でした。

(ウツボ)四月十九日、「第一五四号」は指定の地点に投錨し任務を開始した。数日後に掃海艇四隻が隈部艦長の指揮下に入った。

(カモメ)毎日毎日、隈部艦長は掃海隊を指揮して、掃海作業を行い、機雷を処分していきました。その頃関門海峡の上空を、毎日のように敵機がゆうゆうと北上して行きました。これを迎え撃つ我が飛行機は一機もなかったのです。隈部艦長は、くやしい思いをしました。

(ウツボ)ある日、天気が良く、初夏の雲一つない空を、B29が、「第一五四号」の隈部艦長の頭上を北に向かって悠々と飛んでいくのが見えた。

(カモメ)一万メートル以上の高高度を飛んでいるので、海防艦の十二センチ高角砲では届かないことを承知していたが、隈部艦長は悔しくて、とうとう我慢できなくなったのです。

(ウツボ)B29を追って、照準を合せていた砲員は、今か今かと待っていた。隈部艦長は、ついに砲術長に発射を命じた。高角砲は火を噴き、弾は飛んで行ったが、B29は変針もせず、何もなかったように飛行を続けた。

(カモメ)すぐ近くに錨泊していた防空駆逐艦から、「貴艦の測距いくばくなりや」と信号を送ってきました。誰が見ても海防艦の十二センチ砲の砲撃可能な高度ではなかったのです。

(ウツボ)その防空駆逐艦には司令が乗り、艦長は中佐だったが、隈部艦長は失礼だと思ったが、返信はしなかった。撃っても弾は届かないことは分かっていたが、一発撃ってやりたかったのだ。







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最終更新日  2015.08.03 13:30:50


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