読書の部屋からこんにちは!

読書の部屋からこんにちは!

2009.08.02
XML
カテゴリ: 小説
何年か前、カズオ・イシグロさんがイギリス最高の文学賞、ブッカー賞をを受賞されたとき、朝のニュースでその受賞理由を聞いた覚えがあります。5歳で渡英し、その後帰化した日本人。繊細で情緒的な日本人の感受性で、失われつつある古き良き時代のイギリスを描いた点が評価された。うろ覚えですが、そういうふうなことを記憶しています。
そして、つい最近も、朝のニュースで「ノーベル文学賞にいちばん近い作家」として、紹介されていました。私は「あれ?それは村上春樹じゃないの?」と思ったのが、この本に興味を持ったきっかけでした。


ストーリーは特になくて、一人の中年の執事が、品格ある執事のあり方、品格について、主人だったダーリントン卿への敬慕、女中頭との淡い恋、などを振り返るという物語。最初は、この本のどこがおもしろいの?と思いながら読みましたが、読み進めるうちに、すっかりとりことなってしまい、重厚で上質な雰囲気の中でなめらかに読みました。それは、とても心地よい作業でした。


そもそも、私は執事をやってる人を見たこともないし、聞いたこともありません。
けれど、普通の職業のように、後から勉強や努力によって身につけるものとは、根本的に違う職業みたいです。一生懸命勉強して経験を積めば医者にはなれるかもしれませんが、執事は生まれながらにして体に「執事」を持っている人、あるいは手足のように「執事」が生えている人、そんな人にしかできない仕事のようです。日本には「滅私奉公」という古い言葉があるけれど、執事という仕事は、滅私奉公の究極にいなければできない仕事です。
どんな難題であっても、表面的には穏やかに静かにやってのけ、しかも「私は何もしていません」と自分で思い込み、ご主人様にも思い込ませる。そんなこと、生身の人間にできるわけがないと、私は思うのですが、この本によると、それこそが品格ある執事の条件のようです。


品格ある執事をめざし、自分の仕事ぶりを自負していた主人公ですが、旅先でさまざまなことを思い返したり、素朴な人々に触れるうちに、自分の生き方にかすかな疑問を抱き始めます。自分は、人の感情のわからないつまらない人生を送ってきたのではないか。女中頭との淡い心のやりとりにも、目をつぶって職務に励んできたのは、間違っていたのではないかと。
旅の終わりに、夕暮れの中で静かに涙する主人公。人生の夕暮れを迎える世代の人なら誰でも、上質な感動を得ることができるでしょう。


もちろん、イシグロさんの力量もすばらしいのですが、私は翻訳家の土屋政雄さんにも敬意を表したいです。この雰囲気を読み取り日本語にするという作業は、並々ならぬ感性と日本語力であると、翻訳のことなんか何も知らない私でも、強く感じました。



日の名残り



ところで、本当にどうしようもなくつまらない余談ですが、この本を読み終わってすぐに、「執事」を検索してみました。そこで、日本には「執事喫茶」というものがあるって、初めて知りました。(執事喫茶を知らない方は、どうぞ検索してみてください)
上質な感動の涙の後だったので、あまりの驚きにあぜん!絶句!
イシグロさん、これが日本の現実です。
私なんかが謝るっていうのもナンですが、ごめんなさい。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2009.08.02 11:51:33
コメント(4) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: