読書の部屋からこんにちは!

読書の部屋からこんにちは!

2010.01.28
XML
カテゴリ: 小説
物語は、優秀な「介護人」キャシーの子ども時代の追想です。
介護人?あまりなじみのない言葉だけど、看護師とは違うみたい。
老人の介護をする人かしら?
いや、老人ではなさそうです。「提供者」の介護をするらしいです。
では、提供者って何だろう。提供するたびに介護人の世話を受けながら、回復を待つらしいのですが。

キャシーは子ども時代、施設で育ちました。
その施設は全寮制で、どうも親のない子どもたちの施設みたいです。
施設には大きな秘密があるようで、それに批判的な先生もいます。
何も知らされない子どもたちですが、心のどこかに欺瞞や不安を抱えています。


そんなふうに、何も明かされないまま、キャシーの追憶は続きます。
友だちとの生活の中で、親友トミーやルースと共に成長していくキャシー。
とても静かで緻密な文章でありながら、少しずつ明かされていく真実は、読み手を驚愕させます。キャシーの語り口はあくまでも淡々としているのに、読み手は、まさかまさかと思いながら核心に迫っていく、ここが何といっても、他の小説では味わえないおもしろさだったと思います。


信じられないほどの過酷な運命。
それなのに、泣きもしない、嘆きもしない、迷いもなく逃げ出そうともしない、あるがままを受け入れている子どもたち。
枕を赤ちゃんがわりに抱いて、音楽に合わせて体を揺らすキャシーの姿。親を求めて遠い町に行くルースの姿。そして架空の動物の絵を書くトミーも、あまりにも悲しかった。
結局最後まで、真実ははっきり語られることなく終わります。
ノーフォークの殺伐とした海辺に立ち、トミーを思うキャシーに、何ともいえない深い感動を持ちました。


難しい読みづらいようなところはまったくありません。
とても平易な文章で、どんどん読めます。
しかも、何かとても上質なものに触れたような、満足感もあります。
カズオイシグロさんの小説を、もっともっと読んで浸ってみたいと思わせられました。


わたしを離さないで


以前、カズオ・イシグロさんがノーベル賞にいちばん近い場所にいる作家だとニュースで聞いたとき、私は「それは村上春樹じゃないの?」って思いましたが、今は、やっぱりイシグロさんかもと思うようになりました。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2010.01.28 11:04:06
コメント(2) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: