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Ryu-chan6708

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2006.06.10
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カテゴリ: 読書感想
日本からアメリカに留学している人のブログで、最近、 ハーバートのMBAでは「ザ・ゴール」が必読書になっているようなことを書いてあるのを見てビックリした。
この本は、20年位前にアメリカで二百数十万部売れたという。当時、不況にあった日本企業やコンサルタントはとびついた。そのとき、私は次のようなコメントをインターネットに書いた。

2001年の私のコメント
1.新規な理論は無い
著者は、この本を翻訳すると日本企業が真似をし、また、世界市場を独占するから16年ほど訳を延ばしたと言う。日本企業は部分最適化がうまいが、全体の最適化が遅れているという。 それは著者の全くの思い違い。40年位前からトヨタ生産方式は、アメリカの部分最適化を批判し、在庫ゼロ発想で、全体最適化の具体的な手法を生み出した。
「ザ・ゴール」のネック工程などの話は生産管理では基礎知識。アメリカが戦後生み出した PERT、CPMのネットワーク手法 では、 クリティカルパス という用語で定着済み。 新しい手法などなし。 日本では戦前から 「手番」と山積み法 で伝統的にネック工程の管理はされていた。

2.MEの不勉強
 社内に能力的に余裕があるときに、固定費は考慮しなくよいという 「埋没原価(sunk cost)」 の考えなど、20年以上前に、 ME(Managerial Economics:管理者の経済学) という体系がアメリカで生まれ、管理者の常識。インターネットが盛んな国が情報過多となり、逆に有用な情報が蓄積されず、継続維持できないのか。

3.トヨタ生産方式の物まね
 「ザ・ゴール」の 在庫ゼロの考えやスループットの考えは40年ほど前からのトヨタ生産方式のマネ。 「ザ・ゴール」は「儲ける」ことだと新しい発見のように書いているが、40年位前にあったトヨタの生産管理の社内テキストの第1行は 「徹底的に儲かる企業にする。(儲かることは徹底的にやるが、無駄なことは一切やらない)」 である。

4.改善前後の明確な説明無し
 「ザ・ゴール」の最大の弱点は、小説で改善前のシステムの説明が無いこと。最初、この工場では、納期遅れが多かったというが、そのとき、 コンピュータでどういう日程計画をしていたかが説明がない。 だから改善のポイントが分からない。 生産管理を知らない人が書いていることがすぐ分かる。

2004年の私のコメント
 この年の「文芸春秋」6月号の鼎談の書評コーナーで 経済学者の松原隆一郎東大教授 が次のように言っている。

「『ザ・ゴール』というビジネス小説が売れたけれども、内容はいわゆるトヨタ方式のカンバン方式としか読めないんですよ。日本の流れ作業の工場でやってきたことを翻案しただけなのに、日本人はアメリカで二百五十万部も売れたと聞くとつい有難がってしまう。」

今の私のコメント
 ハーバートのMBAでは、フィクションの物語「ザ・ゴール」を読むなら、ノンフィクションの 「ザ・ハウス・オブ・トヨタ:自動車王 豊田一族の百五十年」 でも読んだほうがはるかに有益だろう。足元のアメリカでトヨタはすでに、GMを抜く勢いであるからだ。

 なお、5年ほど前の「ザ・ゴール」についてのあるサイトの読者レビューをみたら圧倒的に星が5つ。しかし、 数は少ないが、次のような星が1つか2つで的を射たコメントがいくつかあった。日本人は捨てたものではないと感じた。要旨を編集して引用する。

1.要するに製造工程のボトルネックを発見して潰せということ。 それは生産管理では常識 。アメリカで250万部売れたというが本当か。

2.本書の主な内容は 23年前に大野耐一氏が「トヨタ生産方式」でほぼ全て述べている。 本書を高く評価された方は是非大野氏の著書も読むべし。

3.なぜこの本が人気なのかまったくわからない。新しい発見もなければ,知識の整理にもならない。生産の現場や経営学を体系的に学んだことがない人が書いただけの本ではないか。

4.この本の理論は「トヨタ生産方式」の概念・手法だから、今更、どうして売れているのか全く理解ができない。 それを考えてみるのが面白いというなら納得できるが。

5.理論としても思想的にも非常に古いこの本が、今日本で何故出版されベスト・セラーになるのか、 日本の読者層・出版社の見識が問われるべきでは?

6.この本を最初に読んだときに 、「ああ、こんなことを日本では、かつてやったものだな」 というのが感想。

7.毎日、工場のラインに立っている私にとっては、目新しい情報なし。 本当に米国の工場では、こんな悠長なことをしているのだろうか?

8.この本を読んでまず、最初に思ったのはなんでこんな本がこんなに売れているかということ。この本に書かれていることは日本人にしてみれば、ごくあたりまえ。この本の理論の根底は日本的生産システムに深く根付いており、今日のブームはそれを逆輸入してありがたがっているかのように思える。 本当に日本人は舶来品がお好き。

結論
 この本の効用として考えられるのは、読者が本当に足元の日本自身をよく勉強して、知っているのかの程度がテストできるということ。
 「教科書に墨を塗った世代」としては、 後で墨を塗るようなテキストをほめないよう、 よく勉強されることを望む次第だ。

ザ・ハウス・オブ・トヨタ







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Last updated  2006.06.12 12:26:02
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