つれづれなるままに―日本一学歴の高い掃除夫だった不具のブログ―

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2016.01.24
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カテゴリ: 近代日本文学
時機を得なければどんな名作も猫に小判である。新潮文庫版『夫婦善哉』は学生時代古書店で買ったが、未だに書棚の奥に眠っている。一方、図書館から借りて来たばかりの本書は一気呵成に読んでしまった。「続 夫婦善哉」なるものが載っていて興味をそそられたからでもあるが、それだけではない。

「夫婦善哉」は織田の代表作であり、文章の調子も素晴らしい。声に出して読むことによってそれが一層よくわかる名文である。だが若いころはその良さが分からなかった。このころわかるようになったのは、不具自身が主人公夫婦の年齢に近くなったことのほかに、昭和の白黒映画をだいぶん観てきたからであろう。

織田の語りは確かにうまい。だが太宰ほど普遍的ではない。その良さ、感じをつかむためにはある程度の経験が必要である。不具にとってはそれが戦後の白黒映画の鑑賞だった、ということだ。そういうイメージの蓄積があって、はじめて「夫婦善哉」の世界に入っていけた。

蝶子は芸者上がりである。柳吉はいいとこの坊ん坊んである。正妻もいる。娘もいる。しかしその二人が所帯を持ち、店を構える。正編では大阪で、続編では大分で。蝶子は髪結いの女房みたいなところがあり、亭主は亭主で道楽がやめられないものだから、店はなかなか長続きせず、転々と変わるのだが、二人の縁はなかなか切れない。

今日の言葉でいえばおそらくは共依存であり、蝶子は蝶子で原因は亭主の方にあるとはいえ暴力をふるって詰ったり、ともどもに自立していない間柄である。それでいて二人を詰る気にもなれないのは、作者の行間から屹立する文章のうねるその力ゆえだろう。柳吉の娘の結婚式に蝶子も呼ばれるところで物語は終わる。まこと、 夫婦善き哉 、である。


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Last updated  2016.01.24 22:01:37
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