つれづれなるままに―日本一学歴の高い掃除夫だった不具のブログ―

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2024.06.29
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カテゴリ: SF
SFの始祖といえば真っ先に思い浮かぶのがジュール・ヴェルヌとH・G・ウェルズである。しかし、ここにウェルズと同時代に生きた、看過すべからざる作家がいる。いや、哲学者というべきか。名をオラフ・ステープルドンという。

作家といては地味な方である。『オッド・ジョン』と『シリウス』は早川書房からSFとして文庫で紹介されたものの、『最後にして最初の人類』と『スターメイカー』は代表作として目されながらも、名のみ聞くばかりで邦訳に恵まれなかった。

先日、たまたま書店に行ったら、ちくま文庫のコーナーに『最後にして最初の人類』があった。喜び勇んで手に取ってみたら、定価が1500円以上する。1500円。文庫に。いかに分厚い本とはいえ、また物価上昇の折とはいえ、ハードカバー一冊買える価格に怯んだ。

というわけで図書館から借りてきたのが本書である。

壮大な本である。とても1930年代に書かれたものとは思えない。20世紀前半の「現代」から始まって、20億年超にわたる人類の興亡史を、壮大な散文詩のように語る。その仕掛けや構造はここでは語るまい。ヒントはタイトルそのものにある。とりあえず、叙事詩であり、哲学的幻視、ヴィジョンとだけ言っておく。

本書はアメリカでずっと読み継がれているそうだ。むべなるかな、と思う。世界のアメリカ化を語り、こと文化に関しては、ステープルドンの著書の戯画化のように、まさに現実がそうなっているからだ。ほかにも、米中の対立やEUの形成、資本主義と社会主義の対立など、20世紀後半から21世紀初頭にかけての歴史を予言するような描写に満ちている。

もちろん本書は「聖書」とは違う。預言書でもなく、純然たるフィクションである。原爆投下を思わせる「最終兵器」の描写には背筋が凍り付くが、石油などの天然資源はまだまだ枯渇しそうにないし、何より、やむを得ないことではあるが、オラフにはコンピュータやAI社会の発達・発展がという視点が欠けていた。だが、それでいいのだ。

繰り返しになるが、本書は預言書ではない。前代未聞、空前絶後の壮大な叙事詩である。アシモフの​ 『ファウンデーション』 ​シリーズさえ、この書物の前では、水増しされた娯楽小説にすぎぬ。

20億年も人類の歴史が続いたのなら、人類は銀河系に進出してもおかしくない、と思われるかもしれない。だがそうはならなかった。人類は滅びては興り、興りては滅びという歴史を18回も繰り返したからだ。疫病もあった。『宇宙戦争』を思わせる火星人の侵略もあった。遺伝子操作による新人類の創生や、巨大脳人類による支配もあった。天文学的災厄によってやむを得ず金星に進出し、そこの知的種族の反撃を受け、殲滅させ、良心の呵責によって集団的うつ状態になったこともあった。さらなる天文学的災厄によって今度は海王星に移住し、その土壌に適応するため、それまでにも大きくなったり指が六本になったり小人になったりといろいろあったが、それ以上に大きく知的種族としての外観を変えた。中には「鳥人」となった人類もいた。

一読して印象に残った事柄を簡単に叙述したが、本書の魅力はこういった細部もさることながら、近未来については詳しく、遠い未来については点景のように要点を語る、その加速度的な叙事詩の物語性にある。当然のように、遠い未来になればなるほど、語られる量が少なくなっていく。確かに、近未来の描写と同じペースで語っていたら、『ファウンデーション』に匹敵するくらい、長大なシリーズになっていただろう。だがオラフには、そんなものを語るつもりはなかった。

では何を語りたかったのか? いまここでそれを断定するのは避けたいと思う。本書は『オッド・ジョン』や『シリウス』のように読みやすくはない。詩的で哲学的で難解である。だが訳文を通してみても、何度も読み返したくなるくらい審美的である。まるで人類の興亡史の主旋律のように。


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参考までに。昔読んで手放した本がかくも高騰しているとは…


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Last updated  2024.11.11 21:56:27
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