ミステリの部屋

< 新しい記事

新着記事一覧(全1108件)

過去の記事 >

2007年03月23日

北村薫のミステリー館：北村薫

テーマ：ミステリはお好き？(1563)

カテゴリ：ミステリ・アンソロジー

言葉の作り出す濃密な異空間。謎解きの快感、人生の哀歓―「ここではないどこか」へと誘うアンソロジイ。
本格物ミステリ、深遠なテーマをはらむ絵本、翻訳家の名エッセイ、遠い異国の作家の短編、書物にまつわる数奇な話、翻訳機が生んだ日本語変換のシュールな味わい…ミステリ界きっての読書の達人が選んだ「とっておきの名品」18編。
胸躍る読書体験を用意してお待ちしています。

(こちらからどうぞ) きいろとピンク／夜枕合戦・枕の中の行軍
(こわいものみたさの間) 犬／虎／紳士／クレイヴァリング教授の新発見／息子
(ミステリーの大広間) 告げ口／二世の契り／フレイザー夫人の消失／二十三号室の謎／わたしの本／盗作の裏側
(不思議な書庫) 神かくし／｢少量法律助言者｣／本が怒った話
(言葉の密室) 契恋・桃夭楽／滝／バトン・トゥラワー
(対談) 宮部みゆき

この本の中には、まるで宝箱のように色々な輝きを持つ作品が18編入っています。
本格ミステリもありますが、私がこれまで読んでこなかったジャンルの作品も多々あります。絵本もあれば、幻想的な作品もあり、笑えるものもありました。

岸本佐知子「夜枕合戦」、ショートショートですがピリッと辛味がきいてます。

フェリー「虎紳士」、不思議な雰囲気が新鮮でした。奇妙な緊迫感が忘れられません。

スレッサー「二世の契り」、最後にゾッとさせられました。

パトリシア・ハイスミス「クレイヴァリング教授の新発見」、これは私にはだめだ～。夢に見そうです。それにしても宮部さんの感想が信じられませんｗ

ベイジル・トムスン「フレイザー夫人の消失｣、ペントコースト「二十三号室の謎」、やっと本格ミステリがあってほっとしました。密室です。不可能犯罪です。

高橋克彦「盗作の裏側」ひねったミステリを堪能しました。

「日本変換昔話　少量法律助言者（一寸法師）」、大笑いしました。一寸法師を翻訳ソフトで英語に訳し、それをまた翻訳ソフトで日本語に訳してみようという発想がすごいですね。
こんなにシュールな世界が生まれるんですから。そういえば最近『匂いをかがれるかぐや姫と言う本をみかけましたが、その中の１話のようですね。
かぐや姫を和→英→和に翻訳してみたら、あら不思議、「匂いをかがれるとすぐに、プリンセス」になってしまったそうじゃ。（日本昔ばなし風に）

緑川聖司「わたしの本」はトップページ・図書館特集の中にもある児童書『晴れた日には図書館へ行こう』の最初の話です。本が好きで図書館が好きな女の子が主人公の、日常の謎タイプのミステリー。ほっとします。

奥泉光「滝」は中篇といっていい分量で読みごたえがありあます。ある宗教団体が行う少年たちの山での修行、という特殊な状況設定ですが、いつの間にかその世界に飲み込まれて、息を呑んで少年達を見守っている自分がいました。

かなりバラエティに富んだアンソロジーでした。
巻末には、北村さんと宮部みゆきさんの対談があります。一つ一つの作品について語っておられるので、一話読み終えるたびに、その作品の解説として読み進めるという楽しみがありました。

私の苦手な怖いものや後味の悪い物もあり、さらにはよくわからない物もあったのに、全部読み終わったあとには、充実感がありました。

まるで、北村先生の国語の授業を受けたかのような心地です。

これまでかなりミステリに偏った読書をしてきましたが、もう少し幅を広げるのもいいかな、とも思ったり、苦手な物も敬遠してばかりではもったいないかもしれない、と思わせられるアンソロジーでした。