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2019.01.28
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カテゴリ: 教養書

京都の暴力団などに関する1990年代のかもがわ出版の記事を収録した文庫本。

●まとめ

・京都駅前地上げ戦争:同和団体崇仁協議会の藤井鉄雄委員長(元暴力団浜内会組長)が崇仁地区を地上げして開発するために武富士の武井前会長に話を持ち込んで資金を提供してもらうものの、前田弁護士と藤井委員長の間で資金管理をめぐるトラブルが起きて、藤井委員長は武富士に告訴される。武富士の問題解決に山口組系山健組や中野会が動いて崇仁協に圧力をかけて、崇仁協幹部射殺事件が起きて、藤井委員長は覚せい剤所持で逮捕されて釈放された後も命を狙われる。崇仁協の高山元会長が地上げ資金を横領して会津小鉄会幹部に山分けしていたことも発覚して会津小鉄会は藤井委員長を始末しようとして、京都進出を巡って会津小鉄会と山口組の抗争(京都戦争)も起きる。

・宅見組長射殺事件:97年に山口組系ナンバー2の若頭の宅見勝組長を射殺したキーマンとみられる中野会系壱州会の吉野和利組長の変死体がソウルで見つかる。宅見組長はバブル期の金融や不動産などのフロント企業を使って2000億円蓄財して山口組の金庫番と呼ばれていて、イトマン事件の首謀者の元イトマン常務の伊藤寿永光のバックも宅見組長だった。中野会が宅見組長を狙ったのは宅見組長の跡目争いや、96年に会津小鉄会が中野太郎中野会会長を襲撃して宅見組長が仲介して会津小鉄会から数十億の金が動いたものの宅見組長が半分近くを抜いて中野会に金が来なかったのが原因とみられる。

・山段芳春:京都信用金庫の内紛で榊田喜四夫副理事長に接近して京信の資金を得ると京信の貸付業務に伴う保険業務を一手に担うキョート・ファンドを設立して、京都自治経済協議会の警察、検察、市役所のOBに人脈を広げて、松橋、今川、田邊の三代の京都市長を陰で操り、会津小鉄会の高山登久太郎会長もバックについていて、京都のフィクサーと呼ばれてきた。しかしイトマン事件の許永中の資金調達先とみなされたキョート・ファイナンスが家宅捜査されて落ち目になり、京都府警の浦窪元警部補に高価な物を送って捜査情報を聞き出していた疑いで逮捕状がでて99年に病院で死亡。

・会津小鉄会長高山登久太郎:万和建設を作って組織を急拡大させ、雄琴のソープランド、祇園や木屋町の用心棒代や公衆電話ボックスのデートクラブのビラ張りの場所代で荒稼ぎして、佐川急便会長の佐川清の用心棒になってトラブル処理をした。

・佐川急便:創業者の佐川清は推定年収10億円を超えていて給与による収入としては日本一の高給取りで、豪遊したり相撲部屋や芸能人のタニマチになったりしていた。佐川急便グループは60億円の脱税が摘発され、株の利益は運輸族の政治家へのヤミ献金に使われていたと言われている。従業員を手当なしで長時間働かせる超過労働で死亡事故や不祥事が多く、利益は持ち株会社の清和商事に上納される仕組みになっている。

・餃子の王将:王将は部落解放同盟委員長の上杉佐一郎の実弟の上杉昌也が社長の京都通信機建設工業にビル火災の補償交渉の代理人にしてトラブル交渉を任せていて、王将の子会社のキングランドに貸し付けた百億以上の融資の大半が京都通信機建設工業に流れて焦げ付かせていた。

・西本願寺:権力闘争で差別発言をでっちあげて、部落解放同盟を利用して政敵を陥れようとした。

・阿含宗:桐山靖男が超能力を売りにして作った密教の新興宗教で、霊障を取り除かないと災難がおきると不安を煽って数十万円の供養料を払わせて、電通と組んで数億円の広告費を使って星まつりにマスコミ関係者を招いて宣伝して信者を集めた。

・裏千家:家元制度は会員から許状料をとる集金システムになっていて、家元の実弟の納屋嘉治氏が統括する淡交グループが茶道具の販売や研修施設を管理していて、裏千家から物品の販売を依頼された師匠が弟子に売りつける仕組みになっている。

・細木数子:墓相学を取り入れて当てた久保田家石材と組んで、先祖供養として高額な墓を売りつけている。

・無量寿寺:久世太郎が始めた新興宗教で、ルーツは「土蔵秘事」で教義は秘密で高額な入信料を取る。サイコロで運命を予言して関西の経営者や芸能人などの著名人が役員となって勢力を拡大するものの、詐欺として訴えられる。

●感想

副題に「古都を支配する」云々と書いてあるけれど、歴史がある都市には暴力団もブラック企業も変な宗教もあるだろうなという感じのエピソードで京都を支配しているというほどでもない。人物相関図や年表とかもないので暴力団の対立関係がわかりにくいし、茶道や宗教関連の話題はあまり掘り下げていないのは物足りない。裏千家の許状料を批判的に書いているけれど、他の千家とか華道とかの検定ビジネスと比べないと高いか安いか判断がつかない。日本で運転免許を取るのに20-30万円くらいかかるのだってアメリカと比べたら高いわけで、免許や検定関連の人件費や管理費から算出した適正価格はいくらなのかというがはっきりしないと、高いという批判に説得力がなくなる。王将の話も古いので、2013年の王将社長射殺事件について書いた新しい本があればそういうのを読んだほうが面白いかもしれない。あとネットで無量寿寺の画像を見てみたら建物や彫刻に金をかけているのがわかるので、この本も写真くらい載せればいいのにと思う。京都に行ったことがない田舎者の私にはそんなに面白い話でもなかったけれど、京都に住む人は暴力団やフロント企業にまきこまれないように読んでおくとよいかもしれない。

さてフィクションと反社会的勢力について考えることにする。暴力団や不良はしばしばフィクションの主役や敵として大きな役割を担っていることがある。私が読んだことがあるのはたいてい漫画で、暴力団がでてくるのは『静かなるドン』、『東京無頼 風祭一家 JIN-GI御免!』、『ショコラ』、『サンクチュアリ』、『闇金ウシジマくん』、『ギャングース』、『ザ・ファブル』、『極主夫道』とかの青年漫画で、不良やヤンキーが出てくるのは『あばれ花組』、『カメレオン』、『疾風伝説 特攻の拓』、『クローズ』とか少年漫画に多い。暴力団や不良が主役の場合はたいてい任侠物語で、因縁をつけてくる敵から仲間を助けたり敵討ちをしたりして大団円というパターンになる。『今日から俺は!!』は漫画でも人気だったのがドラマ化されて小学生に人気になったそうだけれど、これはユーモラスな主人公と狂暴な敵がいて、ストーリーがわかりやすくて主人公側に感情移入しやすいから子供でも楽しめるのである。アンパンマンがバイキンマンをパンチして撃退するのと基本的に同じ構図で、そこに学校とか恋愛要素とかの現実世界のリアリティがちょっと足してあって、わかりやすい反面、プロットとしての面白さはあまりない。
私はノワール小説は読まないので小説で暴力団や不良がどう書かれているのかというのはよく知らないけれど、一般小説だと漫画に比べて暴力団が出てくることがあまりない。これはたぶん暴力でなんでもできるようになるとプロットのバランスが崩れてしまって、作品の方向性が限定されてしまうからだろう。漫画や映画なら主人公の暴力団員や不良が殴り合いや銃撃戦をすればアクションとして成り立つけれど、小説だとアクションシーンを書いても漫画や映画と比べて見劣りするし、その後のストーリー展開が限られてくる。主人公の敵として暴力団や不良が出てくるときは強すぎて、ストーリー展開の主導権を敵に持っていかれてしまって主人公の存在感が乏しくなる。暴力一辺倒にならないようにコメディやパロディやポルノに軸をずらすやり方もあって、これは漫画の連載でエピソードごとに変化をつけるのに使うと相性が良いけれど、小説で一冊の本としてトーンを統一するのには向かない。暴力団のシノギやら抗争やらを書くよりは殺人犯のミステリやホラーやサスペンを書くほうが小説としてはプロットを工夫しやすいので面白くなる。というわけで、私は面白い暴力団小説というのは読んだことがない。
フィクションと違って実話の暴力団の話があまり面白くないのはなんでなのかと考えると、大義がない金目当ての利権争いだったり、内輪の怨恨の内紛だったりして、主人公がいなくて読者が共感できる要素がないからだろう。暴力団は儲からなくなって組員が離脱して縮小して、若者は暴走族になるよりYouTuberになるほうが自己顕示欲を満たせて稼げるのでヤンキー漫画も売れなくなっているようで、若者の反社会的勢力ばなれが起きているようだけれど、これは社会にとってはよいことである。

★★★☆☆

京都と闇社会 古都を支配する隠微な黒幕たち (宝島sugoi文庫) [ 一ノ宮美成 ]






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最終更新日  2019.01.28 17:20:51
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