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恩田陸「蜜蜂と遠雷」(幻冬舎文庫)
もう一昨年になりますが、大評判になりましたね。 恩田陸
さんの 「蜜蜂と遠雷」(幻冬舎)
が文庫になりました。 本屋大賞
という賞があることはご存知の方も多いと思います。 2004
年くらいから始まりました。仕掛け人は「本の雑誌社」。全国の本屋の店員さんが「全国書店員が選んだいちばん !
売りたい本」を投票で選ぶという賞。恩田さんのこの作品は 2017
年の大賞ですね。
ところで、この賞の第一回の受賞作は、これまた、若い人にも人気がありそうな 小川洋子
さんの 「博士の愛した数式」(新潮文庫)
。√(ルート)君と天才数学者のほのぼのとしたいいお話。
その時の次点は 横山秀夫
さんの 「クライマーズハイ」(文春文庫)
。 1989
年に起きた御巣鷹山日航機墜落事故を題材にした新聞記者と警察が主人公という社会派小説。横山さんはこの前年、 「半落ち」(文春文庫)
という警察小説で直木賞の有力候補になったのですが、小説場面の設定の無理を指摘されて落選。
どこがどう無理だったのか、読んでみてもわからなかったのですが、ともかく、ぼくは平成の松本清張というべき筋運びのうまさに唸りました。文体の微妙な暗さまで似ていると思いました。
選考委員の中でクレームをつけたのが 北方謙三
さんという作家だったといううわさを聞いて、笑いました。北方さんはいわゆる冒険小説系の作品の作家ですから、こういうコセコセ、ジワジワした感じは嫌いなんだろうと思ったわけです。
横山さんはその結果、直木賞拒否宣言をしたとかで、どうなることかと思っていたら、翌年 「クライマーズ・ハイ」
で胸のすくようなホームランをかっ飛ばしました。ところが、どっこい、小川さんに満塁ホームランを打たれてしまった。そんな感じですね。
航空機墜落事故史上まれにみる、まあ、飛行機が落ちるなんてまれにみることなのですが、すぐそこにある凄惨な現場を新聞記者時代に実体験した横山秀夫の大傑作だと思ったのですが・・・。何の根拠もないのですが、大きな本屋さんで書棚とか整理しているシッカリおねーさん風の店員さんは、小川さんの世界ほうが好きなのでしょうね。
彼はその後も 2013
年に 「 64
」(文春文庫)
で本屋大賞にノミネートされましたが、 百田尚樹
の 「海賊とよばれた男」(講談社文庫)
に敗れて次点に泣いているのですね。というわけで、直木賞を逃して以来、よくよく賞に縁のない横山さんですが、対照的なのが、今回案内の 恩田陸
さん。
実は彼女は二度目の本屋大賞。小川さんと横山さんが争った翌年。 2005
年、 「夜のピクニック」(新潮文庫)
で受賞してメジャーデビューした作家なんですね。若者向けエンターテインメントを読まなくなった、ぼくのようなジーさんでも名前を知るようになるのが本屋大賞というわけです。
恩田さんは、はじめは名前を見て男の人かなと思っていたら女性でした。「夜のピクニック」を読んでいて、もっと若い人かなと思っていたら、案外おばさんでした。「ぼくより 10
歳若いだけじゃないか、へー!」それがぼくの第一印象。その彼女が 「蜜蜂と遠雷」
で二度目の本屋大賞と直木賞のダブル受賞。パチパチパチ!
単行本が出て、図書館係をしていた職場の図書館で購入して、購入した本を生徒さんたちに閲覧する前に、職権乱用だか、役得だか、ともかく、人間ドックの退屈な一日に持参してみると、 500
ページを超える大作なのに、一気に読めてしまいました。
おもしろかったんですね⁉
好きなコミックの「スラムダンク」に似てるなというのが、読みながらの感想。読むスピードも、「スラムダンク」と似た感じでした。マンガを読むスピードは、かなり速い方ですよぼくは。
ようするに、ドンドン読めるいい話という感じ。それ以上はうまくいえませんが。
ところで、 2016
年の本屋大賞は 宮下奈都さん
という方の 「羊と鋼の森」(文春文庫)
という、一見、なんか意味不明な題名の作品でした。実はピアノというのは鍵盤を操作すると、箱の中でハンマーが弦をたたいて音が出ているわけで、その弦とハンマーの素材から作品の題名をつけたようです。主人公は調律師の卵。これまた実にいい話で、これまた一気に読めたんですが、味わいがよく似ていますね。
「蜜蜂と遠雷」
はピアニストの卵たち話。調律師とピアニストだからよく似ているのかな。そうとも言えますね。この小説にも、こいつはいいやつだなという調律師が出てくるけれど、主人公ではありません。主人公は、あくまでもピアノコンクールに登場する天才ピアニストたち。どうも、「天才」という所がミソだと思うんですが、うまくいえませんね。
ぼくにはマンガの「スラムダンク」の天才少年桜木花道はリアルな奴なんだけれど、ここに出てくる主人公たちは「嘘じゃねーか」というのが感想でした。それが何故なのかよくわからいのですが、多分、安西先生がうなる場面、あれがないからかもしれませんね。だからというわけでもないのですが、 宮下さんや恩田さんの作品を手放しでほめる気にはちょっとなれませんね
。これじゃあ案内にならないですね。
( S
)
追記 2019/05/21
本屋大賞ものでは 深緑野分
という、ぼくには新しい人の 「ベルリンは晴れているか」(筑摩書房)
を読みました。 2019年の本屋大賞第三位
ですね。 ツィッター文学賞
とかは一位ですし、直木賞の候補にもなっているようです。
読み終わって、ちょっとがっかりしました。ミステリーなのか、歴史小説なのか、あるいは1945年のベルリンという都市小説なのか。どれも及第点とは言えなかったですね。
歴史や地理的事実について、とてもよく調べて書かれているようなのですが、細部に対しるこだわりと、全体といいましょうか、釣り合いがとれていないんですね。ぼくにはベルリンの町が、全くリアルではなかったですね。もちろん言ったことも見たこともないわけですが、少なくとも、今読んでいる事件の現場としての立体感が描写できていない。どこで、何が起こっているのかわからないということですね。
ミステリーとしては謎解きの安易さがまず、どうしようもないという感じで、ここまで引っ張ってこれですか?という感じでした。これで、直木賞はあり得ないでしょう。
しつこいようですが、 「パリは燃えているか」
という ヒトラーの有名なセリフ
のモジリとして、「ベルリン陥落」の日を題名化したようですが、これも空振りでしたね。ヒトラーの言葉に宿っている歴史的アイロニーのかけらすら感じられませんでした。 「なんで、こんな題になったの?」
というのが率直な感想でした。
なぜ、この小説がそんなに売れて、好評なのかポカンとしますが、やっぱり本屋大賞がらみなんでしょうか。
作品の良し悪しの判定はむずかしい問題ですが、 「本の雑誌」
で書いていた 目黒孝二
さん、別名、 北上次郎
さんあたりがどうおっしゃるのか、興味がありますね。
今回、新刊本を購入しましたが、腰巻のにぎにぎしさに加えて、大手の書店では平積みの棚に、積み上げられていました。図書館では数十人待ちです。
本屋大賞が空疎な「市場原理主義」を文学とかに持ち込んだとしたら、「本の雑誌」を愛していたぼくとしては、ちょっと寂しい、そんな感じですね。
追記2019・10・21
「蜜蜂と春雷」
が映画になっているようですね。主人公の男性役が 松坂桃李君
だそうですね。評判になった 「新聞記者」
の彼ですね。なんか、意味はありませんが、笑ってしまいました。ちょうど今三宮とかでやっているようですね。ヤッパリ見てみようかな?
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