PR
カレンダー
カテゴリ
コメント新着
キーワードサーチ
不死身 7全部で7章、オシリについているのはページ数のようです。 で、もう2枚ページをめくると始まります。
よく似た人 51
北極星 93
煙突の下で 135
砂嵐とライオンの眼鏡 175
屋上の射的場 217
静かなる電球 259
「道に詳しいのに、自分の行き先がわからないもの、なあんだ」 場所は バー〈ボヌール〉 のカウンター、語っている 「おれ」 は酒も飲めないのに常連で、謎謎を仕掛けてきた マチルダ をはじめ、 春ちゃん とか、 西園寺なにがし という刑事なんだかタクシーの運転手なんだかよくわからない謎の男とか、夜な夜な集まってだべっているのが、まあ、作品の発端というか舞台ですね。
いきなりマチルダが、謎謎を仕掛けてきました。(P8)
ママは自分の煙草の煙に目を細めていた。その立ち姿は、オレに云わせれば「とびきりの一級品」である。美女とか何とかを超越している。(P14) 7章立ての短編集の体裁をとった物語の始まりというわけで、登場人物の紹介です。まあ、詳しくはお読みいただくほかないわけですが、さすがにこれは言っておいたほうがよろしいでしょうというのが、書名にも出てきますが、主人公 「おれ」 のお仕事のことです。
さて、おれはいよいよ 「おれ」 について話さなくてはならない。 主人公というか、出来事の語り手は 「おれ」 で、彼の職業が 「電球交換士」 というわけです。ほかの登場人物たちの職業は、案外ありきたりというか、現実的なのですが、 「おれ」 は「電球交換士」なわけです。皆さん、 電球交換士 って知ってますか?
なぜなら、おれもまた 〈ボヌール〉 の半永久的常連客= 「おれたち」 の一人だからだ。おれの肩書きはヤブ医者に伝えたとおり、 「電球交換士」 で、世界でただひとり、おれだけに与えられた肩書である。似たような作業をするヤツは他にもいるかもしれないが、肩書通り電球の交換だけを専門に引き受けているのは世界広しといえども、おれ一人だ。
きっかけは遺産だった。おれの親類縁者は、親父の血筋もお袋の血筋もことごとく早死にで、ただ一人おれを残して、全員、さっさとあの世にいってしまった。全員が判で押したように、短い人生で、だから、全員、大した蓄えもなく、全員がおれにしみったれた小金をのこした。
が、小金とはいえ、かき集めればそれなりの額になる。おれはそれまで、父親の生業だった軽業師になるつもりで弱小サーカス団の一員として修業を積んでいた。そこへ、思いがけず小金の遺産を手に入れたのだ。
さて、 早死にの家系を覆すような仕事とは何だろう・・・・・ 。
対策を練る必要があった。なにしろ、次に殺られるのは、ただ一人のこされたおれなのだから。
しかし、じつのところ、考えるまでもなく答えは出ていた。
電球を交換すること ―
いや正確に云おう。それは、儚く短い電流の時間を終え、ぷつりと切れた電球をすみやかに交換すること ― である。(P15~P16・太字引用者)
週刊 読書案内 滝口悠生「水平線」(新… 2024.05.11
週刊 読書案内 乗代雄介「掠れうる星た… 2024.05.09
週刊 読書案内 井戸川射子「この世の喜… 2024.04.15