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震え続けている電話を操作し、耳に当てた。 まあ、こういう電話がかかってきて 「ユウちゃん」 の 「カルマ」 が育ち始めるわけです。題名の 「ニューカルマ」 を見て、仏教用語だったような気がしましたが、読み終えて調べ直すと 「業」 ということらしいですね。
「あっ、ユウちゃん、久しぶり、俺、シュン」
少年のそれを思わせる高い声が聞こえ、幼さの残る顔がうっすらと呼び起こされた。
「ああ・・・・、なんだ、シュンか」
平静を装って言ったつもりが、かえってわざとらしい口調になった。
大学時代の同級生だった。初年度の必修科目のクラスで話すようになったが、専門課程に分かれてからは接点もなくなり、たまにキャンパスで会えば挨拶する程度の仲だった。最後に話したのはいつだったか、卒業から今日までの五年間、何の交流もない。
「何度も電話しちゃってごめんね。いや、ユウちゃん、最近どうしてるかなって、ちょっと思って。」
遠慮がちな相手の声が、通りを往来する車の走行音と重なる。 (P6)
先程まで明るい光に満ちていたはずの外は、夕暮れとは思えぬほど暗く沈んでいる。窓辺に椅子を近づけて空を見ると、煙のようにくすんだ雲が折り重なり、むかいに立ちならぶ雑居ビルの頭上を覆いつくしている。 この小説はここで終わりますから、この電話で 「ユウちゃん」 が、親友(?) 「タケシ」 に何を語ろうとしているのかわかりません。おそらく作家は
しばらくの間、作業に戻ることも忘れ、重く垂れこめた黒い雲をながめた。
デスクの上の携帯電話を手にとり、窓の外に視線を戻して耳に当てる。
呼び出し音が鳴る。
四コール目で、耳になじんだ声が聞こえた。短い沈黙のあとで、僕は口を開いた。
「タケシ、話があるんだ」 (P258~259)
10年ほど前、不況のときに、小林多喜二の『蟹工船』が流行りました。『ニューカルマ』は、現代の蟹工船ではないか。ただ、冷戦が終わり、共産主義、社会主義への理想も語れない世代なので、労働者は団結するどころか、お互いを食い合うしかない。そういう、リアリティーを持った小説でした。 青年のこの感想には、ぼくなどには、全く気付けない視点というか、現代社会に対する 「生な実感」 があって、その感覚からこの作品を読むと、かなり リアルな実況中継 というか、ある種の 情報小説 として読めるということです。
というわけで、 ニューカルマ は、僕にとっては めちゃくちゃリアリティーありました 。知り合いにも、ネットワークビジネスをやってるような友人もいて。やたら金の羽振り良くて。怖くてどんな職業かは聞けません。
三宮とか、大阪のなんばとか、その辺の喫茶店、マクドナルドなどに長時間いれば、割と頻繁に、ネットワークビジネスの勧誘に遭遇します。日中、お昼すぎくらいですね。
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