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目次 全てひらがなで題がつけられている作品集でした。この作品集には 「アスベスト」 を主題にした4作の短編が収められています。 佐伯一麦 による 「アスベスト作品集」 、つまりは 「アスベストス」 というわけです。
せき
らしゃかきぐさ
あまもり
うなぎや
アスベストス(asbestos) 佐伯一麦 を最初に読んだのは、もう30年以上も昔です。 「ア・ルース・ボーイ」(新潮文庫) という、高校を中退して、なんだかイガイガした少年の話にはまりました。惹かれついでに、なんだかんだ読み続けて到達したのがこの「アスベストス」でした。
石綿、アスベスト。
天然に産する繊維状鉱物の総称。主成分が珪酸マグネシウムからなる蛇紋岩系のクリソタイルと角閃石系のクロシドライト、アモサイトなどがある。
アスベストの語源はギリシア語で、直訳すれば「消滅することのない」、つまり永久不滅の物質という意味である。
その寝台のベッドカバーの上に、ちょこんと載せられてあるものを見て、 イギリス旅行中の著者が 夏目漱石 ゆかりの 「カーライルの家」 を訪ねた場面です。英名 チーゼル 、和名は らしゃかきぐさ との出会いが書かれている短編ですが、ネットで調べてみるとこんな植物でした。
あ、やっぱりあった。
と彼は気が弾むのを覚えた。
それは、去年も目にした、精巧な針金細工のような、とても変わった形をした花穂のドライフラワーだった。咲き終わった花序の小苞の先端が鋭い鉤状に曲がっていて、その根元の周りを総苞が美しい曲線を描いて数本取り巻いている。それも鋭く長い棘をしている。
それに会うために、彼はこの場所を再び訪れたのだ。
― チーゼル。
一年前、本を読みながら、部屋の隅に座っていた若い女性の案内人が、そうおしえた。(P40)
「あ、アスベスト君」
そう呼ぶような仲間意識がアスベスト(石綿)にはある。
すべてが棘でできている チーゼル のドラフラワーに心惹かれるれる様子が、淡々と描かれる穏やかな作品ですが、病を抱えて書き続けてきた作家の 「書く」 ことの深層を思わせる佳作だと思いました。
追記2022・05・24 ブクログ というサイトに感想を書きました。ついでなので貼っておきます。
佐伯一麦
という作家の作品と出会ったのは、新潮文庫の新刊 「ア・ルース・ボーイ」
でした。 1994年
の出版ですから、今から30年前です。 「あっ、こんな作家がいるんだ!」
と思いました。 「ショート・サーキット」(福武文庫)、「雛の棲家」(福武書店)
と読み継いでファンになりました。
作品の底には、どの作品にもイガイガとした現実との接触感に対するいら立ちがながれていて、それは苦悩とか自己嫌悪とか言う、主観的な判断ではない直接的な痛みでした。勝手な言い草ですが、このイガイガ感に惹かれて読み続けてきました。
作家の肉体を苦しめ続けるイガイガがこの作家の文学を支えているというのがぼくの思い込みです。
その 佐伯一麦
がイガイガを直接作品化したのが本書でした。読み終えて感無量ですね。ここの作品のよしあし以前に、30年、書き続けてきた作家の今を思い浮かべました。
「やあ、アスベスト君」
作家の、そんな呼びかけが木霊している作品集でした。
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