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2022.11.28
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​​​​ ​大江健三郎「飼育」(「自選短編」岩波文庫)​​  2014年 に出版された ​「大江健三郎自選短編」(岩波文庫)​ という作品集を読み始めています。1957年、五月祭コンクール受賞作で東大新聞に掲載された、 作家大江健三郎 のデビュー作 「奇妙な仕事」 から、 1991年の「火をめぐらす鳥」 まで、 24作 が所収されているでかい文庫本で、840ページあります。値段が 1380円 (今は 1518円 らしい)ですから、まあ、チョーお得な文庫なのですが、読みでがありますから、焦っても仕方がありません。のんびり取りかかっています。​​​​
​ で、 「飼育」 です。​
​ 僕と弟は、谷底の仮設火葬場、灌木の茂みを切り開いて浅く土地を掘り起こしただけの簡潔な火葬場の、脂と灰の臭う柔らかい表面を木片でかきまわしていた。谷底はすでに、夕暮れと霧、林に湧く地下水のように冷たい霧におおいつくされていたが、僕たちの住む、谷間へかたむいた山腹の、石を敷きつめた道を囲む小さい村には、葡萄色の光がなだれていた。僕は屈めていた腰を伸ばし、力のない欠伸を口腔いっぱいにふくらませた。弟も立ちあがり小さい欠伸をしてから僕に微笑みかけた。​
​  ​​​ 僕と弟の物語 の始まりです。舞台は森の奥の谷間の村です。で、死体を焼いた 「脂と灰の臭」 いが立ち込めている谷底の火葬場で、この兄弟はなにをしていたのでしょう。​​​ ​​
 僕らは《採集》をあきらめ、茂った夏草の深みへ木片を投げすて、肩を組みあって村の細道を上がった。僕らは火葬場へ死者の骨の残り、胸にかざる記章に使える形の良い骨を探しに来たのだったが、村の子供たちがすっかりそれを採集しつくしていて、僕らには何ひとつ手に入らなかった。僕は小学生の仲間の誰かを殴りつけてそれを奪わねばならないだろう。僕は二日前、その火葬場で焼かれた村の女の死者が炎の明るみのなかで、小さい丘のように腫れた裸の腹をあおむけ、哀しみの表情で横たわっているのを、黒ぐろと立ならぶ大人たちの腰の間から覗き見たことを思い出した。僕は恐かった。弟の細い腕をしっかり掴みぼくは足を速めた。甲虫の一種が僕らの硬くなった指の腹にしめつけられてもらす粘つく分泌液のような、死者の臭いが鼻孔に回復してくるようなのだ。(P102~P103)
​初めてお読みになる方が、どんな印象を持たれるのか興味深いのですが、これが、 20代 のぼくの前に登場した気鋭の作家 大江健三郎 でした。​
​​​​  「僕」 「弟」 「甲虫の一種が僕らの硬くなった指の腹にしめつけられてもらす粘つく分泌液のような、死者の臭い」 の中で、 「胸にかざる記章に使える形の良い骨を探し」 ていたのです。​​​​
 読み始めた ぼく は、たった、これだけの書き出しの中に、おそらく錯覚なのでしょうが、 ぼく にとっての 始まりの大江 のすべてがあるという、いかにも、確からしい記憶が押し寄せてきて、小説の世界とは直接関係がありそうもない、 ぼく自身 の中から湧き上がってくる、あの頃の、全く個人的なシーンに浸ってしまいそうになります。
​​​ このシーンで 「少年」たち を覆っている、 死者の「臭い」 の体験があるわけではありませんし、 1954年生まれ ぼく 1945年に10歳だった作家 「戦争体験」 があるわけでもありません。にもかかわらず、異様な既視感を、田舎育ちの少年だったぼくに感じさせたのは 「甲虫の一種がもらす粘つく分泌液のような、臭い」 という描写だったのかもしれません。​​​
 それが、この年になって 「ああ、そうだった。」 と納得する、 ぼく にとっての ​大江健三郎​ だったような、気がします。
​​ 僕は子供たちに囲まれることを避けて、書記の死体を見すて、草原に立ちあがった。僕は唐突な死、死者の表情、ある時には哀しみのそれ、それらに急速になれてきていた。村の大人たちがそれらに慣れているように。黒人兵を焼くために集められた薪で、書記は火葬されるだろう。僕は昏れのこっている狭く白い空を涙のたまった目で見あげ、弟を捜すために草原をおりて行った。(P165)​​

​  ​​​​​​​​​​​​死者の骨を 「採集」 に行った 「僕」 の、その夏の終わりのシーンです。空から落ちてきた 「黒人兵」 と県庁からの命令を、山間の村に届ける片足しかない伝令である 「書記」 という二人の登場人物の死が語られる物語でしたが、最後の最後に、 「昏れのこっている狭く白い空を」 見上げる が、なぜ 「涙」 を流すのかが、今回も、やはり、わかりませんでした。
 ただ、 少年 が泣きながら、死者の臭い立ち込めているかの草原に立って、 昏れのこった空 を見上げたこの日から、ほぼ、 75年の年月 が経ったことを思い浮かべながら、 2022年の11月の空 を見上げるばかりです。もちろん、死者のにおいが立ち込めている実感はかけらもありませんが、異様な空しさのようなものが降り注いでくるように感じるのが、 75年 のうちの 68年 を過ごした実感なのですが、それって、個人的な実感なのでしょうか。​​​​​​
​​​​​​
​  ノーベル賞 まで受賞した、この国の戦後文学の旗手、 大江健三郎 芥川賞受賞作 です。お読みになってみませんか?​
 所収の作品は以下のラインナップです。かなり作家によって改稿がなされたとか言われているようですが、これだけ入って 1380円 です。読み応えのある文庫本ですよ。

「奇妙な仕事」「死者の奢り」「他人の足」「飼育」「 人間の羊」「不意の啞」「セヴンティーン」「空の怪物アグイー」「頭のいい「雨の木」」「「雨の木」を聴く女たち」「さかさまに立つ「雨の木」」「無垢の歌、経験の歌」「怒りの大気に冷たい嬰児が立ちあがって」「落ちる、落ちる、叫びながら…」「新しい人よ眼ざめよ」「静かな生活」「案内人」「河馬に嚙まれる」「「河馬の勇士」と愛らしいラベオ」 「「涙を流す人」の楡」「ベラックワの十年」 「マルゴ公妃のかくしつきスカート」「火をめぐらす鳥」​

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最終更新日  2023.05.01 10:36:24
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