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わたしは暗い天井を見上げ、そこからなにかを読み取ろうとする。 小説は 「わたし」 、大学を出て、15年ほどたった女性によって語られています。彼女は、今、イラストレーターとして暮らしていますが、夜明けの自室で、15年ぶりに起こった 気管支が狭くなるという発作 の中で 「息」 を求めて仰向けに横たわりっています。 で、その姿勢で見上げている 「天井のほうから投げかけてくる」 ものがなんであるのかを、静かに語りだし、語り続けた趣の小説でした。
ちょうど棺桶ほどの大きさの長方形を縦に横に組み合わせたような継ぎ目が、コンクリートの天井に走っている。読み取るというよりもむしろ、天井のほうから投げかけてくるものをきちんと受け止めなければならないのだとも感じて、継ぎ目の端から端まで、わたしは慎重に視線をたどらせる。
大学生のころ以来、十五年ぶりに起きた発作だった。けれど夜明けにふと目覚めて、自分の気管支がほんとうにひさびさに狭まっていると気がついたときすでに、わたしは無意識のうちに、幼いころの習慣を再現していた。(P9)
日がすっかり昇ったら近所の内科へ行くことにしよう。そう思いながら、わたしはまた瞼を閉じてみる。そのときふと、目を覚ますまで見ていた夢の体感がよみがえった。それはこの十年のあいだ、くりかえし見てきた夢だった。夢にはいつも必ず、弟がいた。私はその夢のなかで、一歩、一歩と、弟のいるほうへ歩み寄ってゆく。その足取りを思い出す。(中略) 父、母、 そして、くりかえし夢に出てくる 弟 、 主治医 と その娘 、 彼女 の脳裏に浮かぶ人々の姿、そして、子どもころから 「空気のかたまり」 求めて続けてきた 彼女 の、おそらく、 三十数年にわたる生活 が、静かに、しかし、誠実に語られていました。
ふたたび天井に目を向ける。さきほどからなにひとつ変化のない粗い継ぎ目が、コンクリートの天井には走っている。意味のあるなにかがそこには示されている。(P13)
なかなかやるな! という印象を持ちました。読んで損はないと思いますよ(笑)。
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