売り場に学ぼう by 太田伸之

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Nobuyuki Ota

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2022.09.06
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2005年秋、日本ファッションウイーク推進機構(略称JFW)が主催する「東京コレクション」が経済産業省の支援でスタート、久田尚子さんからバトンタッチされたばかりの3代目東京ファッションデザイナー協議会(略称CFD)議長岡田茂樹さんは主催者JFW委員の一人でした。

しかし、補助金の恩恵を受ける参加デザイナーの代弁者であるCFD議長が、補助金を政府から受け取る主催者側委員を兼務するのは利益相反行為に当たる可能性があると指摘があり、第2回コレクション開催中の2006年3月、JFW立ち上げには全く関与していなかった私が急遽呼び出されました。


(三宅正彦JFW理事長)​

呼び出したのは、JFW馬場彰理事長から相談を受けていたSUNデザイン研究所の大出一博代表と、JFW実行委員長TSI会長の三宅正彦さんでした。岡田さんはCFD議長に専念するのでJFWコレクション担当委員(まだ社団法人ではないので役職名は理事でなく委員)を引き受けて欲しい、と頼まれました。初代CFD議長の私としては知らん顔できないと思って協力を約束、第3回JFW東京コレクションからサポートすることになりました。

政府機関から補助金を受け取るには、主催団体は会計年度末つまり3月末までに関係業者に支払いを済ませ、すべての支払いの領収書を添付して政府機関に申請します。3月後半にその年の秋冬コレクションを開催し、会場費や照明音響、舞台美術、アルバイト要員の経費を急いで支払って領収書を集め、事務局は3月末までに申請書を提出せねばなりません。

しかし、主催者であるJFWの銀行口座にはまとまった現預金がなく、事務局に代わって誰かが資金を提供しないと支払いは不可能。実行委員長の三宅さんは大手アパレルメーカー会長ですが、会長が個人的に引き受けている外部の事業経費を会社が立て替えるわけにはいきません。そこで三宅さんは個人で銀行から融資を受け、それを事務局に提供して関連業者に支払っていました。オーナー経営者だから銀行も安心して融資できますが、これがもし私ならば銀行融資は無理です。

デザイナーが主役の東京コレクションのために大手アパレルメーカーの会長が実行委員長として金策のリスクを負ってまで全面支援している姿を見たら、1985年東京コレクションを立ち上げた自分が見て見ぬふりはできません。2006年10月のJFW東京コレクションから今日までずっとコレクション担当理事としてお手伝いし、気がつけばCFD時代の10年間よりも長くJFWに関わっています。

TSIは東京スタイルとサンエーインターナショナルが合併した会社。三宅さんとはサンエー時代にビバユー(中野裕通デザイナー)、ノーベスパジオ(山藤昇デザイナー)がCFD会員だったので面識はありましたが、一緒に仕事をするのは初めてです。ドクターから忠告されていてもお酒はしっかり飲む、会食は1軒目で終わることはほとんどなく、年齢の割にはびっくりするくらいタフな方です。そして私の想像していた以上にデザイナーのクリエーションに理解がある経営者でもあります。

JFW設立時、政府の支援は3年間と決まっていました。それ以降は民間の努力で自立するよう言われていましたから、広告代理店との交渉、冠スポンサーになってくれそうな企業との交渉、賛助会員になってくれそうな繊維ファッション事業者の勧誘などは三宅さんが実行委員長あるいは理事長として奔走しました。民間の資金でどうにか安定的に東京コレクションを継続開催できたのは、初代理事長の馬場彰さんと2代目三宅さんの尽力です。

CFDを立ち上げたとき、組織の自主独立を掲げ、政府機関とは距離を置き、社団法人登録を目指さず、「みなし法人」のままあえて不安定な組織として運営しました。設立10年で久田尚子さんにCFDをバトンタッチするとき、米国ファッションデザイナー協議会(CFDA)を訪問、CFDA代表デザイナーのスタン・ハーマンさんと運営責任者ファン・モリスさんからその運営方法を教えてもらいました。当時デザイナーの親睦団体CFDAがニューヨークコレクションを運営する会社セブンズ・オン・シックス(のちにスポーツ専門大手代理店IMGに譲渡、ファン・モリスさんはIMG幹部に移籍)を傘下におさめ、自主独立を守りつつ収支バランスを保っていました。

が、その数年後、米国CFDAでさえニューヨークコレクションの運営を大手代理店IMGに譲渡したのです、日本のCFDがずっと自主独立を保って東京コレクションを運営するのは難しい時代となりました。CFD設立21年目の2005年、政府支援もあってJFWが発足、東京コレクションはデザイナー組織の手から業界団体に渡りましたが、主に大手企業が協賛するJFWの側にデザイナーの仕事に対する理解、情熱があるオーナー経営者がいてくれたから良かったと思います。




先日、JFW年度末理事会で事務局から報告がありました。コレクション報道は紙媒体からWEB媒体への比重が高くなり、コロナウイルスの影響でコレクション発表はフィジカルショーからデジタル映像配信に移行、その効果もあって前シーズン2022年秋冬コレクションの「広告換算数値」は100億円を軽く突破している、と。紙媒体とWEB媒体を合わせて、掲載記事と部数、アクセス数を広告に換算するとこれほど多額になるイベントに成長したということです。




もしもCFD設立の1985年東京コレクション時に広告換算数値を調べていたら、WEB媒体はなく海外媒体も少なかったので恐らくこの50分の1程度だったでしょう。デザイナー組織の自主独立東京コレクションであれば、この数字は無理です。そしてまた、JFWの責任者がガチガチの経理マンのような大手企業経営者ではなく、デザイナーブランドの開発や導入にも実績ある人だったからこそ広告換算数値の高いイベントに成長したともいえるでしょう。

国の補助金がなくなり、冠スポンサーはメルセデスベンツ、アマゾン、そして現在は3代目の楽天、この先のことはわかりません。三宅理事長にいつまでも頼ることはできませんが、その代わりが務まりそうな方がなかなか浮かばないのも実情です。





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Last updated  2022.09.06 15:53:55
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