シャープがテレビ向けの液晶パネル工場「堺ディスプレイプロダクト(SDP)」(堺市)の生産を停止することが14日、わかった。同社の液晶事業は市況の低迷によって赤字が続いており、中国勢との競争が厳しいテレビ向けの大型パネルの生産をやめることで、収益を改善する狙いがある。同日午後に開く会見で発表する。SDPは国内でテレビ用の液晶パネルを生産する唯一の工場で、稼働を停止すると国内生産はゼロになる。(産経新聞から抜粋)
数日前のショッキングなニュース、ついにこの日が来てしまいました。
小泉政権後半の 2004
年、ひょんなことから内閣府の知的財産本部におかれたコンテンツ専門調査会、日本ブランドワーキンググループの専門委員になったとき、担当役人から「近い将来日本は電気製品で外貨を稼げなくなる」と説明がありました。当時はシャープ亀山工場で生産された液晶テレビAQUOS亀山モデルがトップブランドとして全盛期、近未来日本の電気製品は競争力がなくなると聞いても、そんなバカなと正直ピンと来ませんでした。
三重県亀山工場では需要を満たすことができないとシャープは堺市にも大きな液晶工場を建設、AQUOS増産にチャレンジしました。しかしながらAQUOSは急速にブランド力を失っていき、気がついたら会社ごと台湾メーカーに買収されました。一世を風靡した亀山ブランドは工場閉鎖とともに消滅、最後の液晶パネル製造拠点だった堺工場もついに閉鎖が決定、日本から液晶パネルの製造が消えることに。内閣府担当役員の見立て通りになりました。
シャープ液晶テレビの地盤沈下が始まった頃から世界の主要ホテルの部屋にある大型テレビはサムソン、 L G
の韓国勢が主役になり、ビックカメラなど家電店のテレビ売り場にはハイセンスなど中国メーカーの超大型テレビが並ぶようになりました。日本の多くの電機メーカーが手掛けていた携帯電話もスマホ時代になると一気に市場競争力を失い、日本ブランドの存在感はないに等しい様相に。ノートブック PC
もしかり、 N
社、 F
社、 T
社、 SH
社の陰はどんどん薄くなり、 S
社は PC
事業部をさっさと身売りしました。
ウォークマンが世界で大流行、世界中で若者が日本製大型ラジカセを肩に乗せて歩くことが街のトレンドだった時代もありました。ビデオカセットもテレビ受像機も日本製は高品質として重宝された時代もありました。しかしデジタル社会になると日本のエレクトロニクスは主役の座から滑り落ち、事業縮小や事業部門の売却、会社ごと身売りや上場廃止と「ジャパン・アズ・ナンバーワン」は儚く短い夢で終わりました。
早くから日本製エレクトロニクスの衰退を予測していた役所や知識人は、ハードウエアに代わる日本製商品としてソフトウエア産業に着目、ジャパンコンテンツを世界に広めるために知的財産本部にコンテンツ戦略会議を設置して議論を開始したのです。
今日久しぶりにその知的財産本部コンテンツ専門調査会の古い議事録をネット検索、いま一度当時の委員会のやりとりを読み返しました。委員会は 2003
年にスタート、最初はマンガ、アニメ、ゲームソフトや映画などコンテンツ分野で議論が始まり、途中からファッション、食と地域ブランドが議論の対象に加えられ、私も 2004
年から参加させてもらいました。
パリ恒例のJAPAN EXPO
当時の議事録にはまだ「クールジャパン」の文字はありません。すべてが「コンテンツ」ひとくくりに扱われ、それぞれの分野の専門家が自分たちの領域の課題や将来性を論じていました。このときファッションの世界のみならず、最も重要なのは人材育成ではないか、そのための教育制度を是正すべきと議事録に自分の発言が記載されていました。思い返せばあの頃そんなこと言ってたなあ。
マンガ、アニメ、ファッション、食の領域では長らく大学設置が認められず、それぞれ専門学校で教育するしか道はありませんでした。音楽の世界でも、クラシック音楽は芸術大学や音楽大学で教育されてはいましたが、ロックンロールやジャズとなると専門学校任せ、ロックシンガーやドラマーを目指す若者は大学の選択肢はなく専門学校に通うしか道はありませんでした。
政府内での様々な議論の末、制度改革が進んでいまではファッションデザインやマーチャンダイジングを学べる4年制専門職大学が認可され、かつて専門学校法人が運営してきた女子大学から「女子」の文字が消えて男子学生も進学できるようになりました。
個人的な意見ですが、東京芸術大学に映画監督を養成する学科が生まれたから日本映画は輸入洋画以上の興行収入を得られるようになったと思います。 それ以前は洋画が圧倒的に強く、日本映画ではしっかり収益あげられず「邦画暗黒の時代」が長かった。言い換えれば、東京芸術大学に映画部門が設置されどんどん人材が輩出されて日本映画全体がレベルアップ、海外有名映画賞を受賞するまたはノミネートされる映画監督や俳優が増え、邦画は洋画に伍して稼げるようになりました。
私が専門委員として参加した会議は小泉政権から第一次安倍内閣、福田内閣。麻生内閣とおよそ4年間続き、麻生内閣のときに最終的提言がまとまりました。でも当時の議事録に「クールジャパン」の文字はまだ登場しません。
提言がまとまって私たち専門委員はお役御免、政権交代した民主党時代に新たな委員たちによってさらに議論が深まったらしく、やっと「クールジャパン」という文字が登場したようです。私は民主党政権下でどんな議論があったのか詳しく知りませんし、コンテンツがいつの間にクールジャパンという名称になったのもわかりません。
そして再び政権交代で第2次安倍政権になってすぐの 2013
年春、国としてクールジャパン事業を推進するために官民投資ファンド「海外需要開拓支援機構(通称クールジャパン機構)」設立の法案が自民、公明党と野党だった民主党の賛成多数で成立。もう専門委員ではなかったので他人事のようにこのニュースを聞いていました。友人だった元伊勢丹の藤巻幸夫さんは所属政党みんなの党が法案反対だったので国会採決時は欠席したとは聞いていましたが。
クアラルンプールの商業施設にて
そして 2013
年8月米国西海岸視察旅行中、私をクールジャパン機構社長にという申し入れがわが社長に届きました。かつてコンテンツ専門調査会の委員として議論には参画しましたが、まさか自分が仕事としてクールジャパン政策の推進に関わるなんて考えもしませんでした。まさに青天の霹靂。
会
社として政府の要請を受けることになり、私は
2013
年
11
月設立のクールジャパン機構初代社長に就任しました。
日本のカッコいい、美味しいを海外市場に売り込む、そしてしっかり日本側が儲ける仕組みづくりをサポートするのがクールジャパン政策、食で言うなら日本茶、日本酒、和食に限らず日本企業が手間暇かけて作るコーヒーや紅茶も、ワインやウイスキーも、日本のシェフが創作するイタリアンやフレンチだっていい、純日本である必要はないと私は解釈しました。
アニメ、マンガも米国エージェントやアジア諸国の海賊版制作者が儲けるのではなく、日本の制作者が世界に売り込んでキチンと稼ぐ、決して中途半端な値引きはしない、そして制作現場で働く人々に利益を還元する(いまも制作現場はブラック企業状態)のが本当のクールジャパン事業と考えました。だから啓蒙セミナーなどで何度も「おまけしないニッポン」「かっこいい日本商品の普及」を訴えました。
クールジャパン機構発足式(2013年11月)
官民投資ファンドですから各政党、マスコミ、一般人からもいろんな矢が飛んできました。ラーメンの一風堂のフランス進出に出資したときはクレーム電話で「ラーメンが和食か!」「社長は豚骨ラーメンが好きなのか!」と怒鳴られました。
遣隋使の時代から日本との繋がりが深い中国寧波市に建設する阪急百貨店の大型商業施設に投資したときは野党議員から「ハコモノに投資するのか!」、開店時には「欧米ラグジュアリーブランドをたくさん導入してどこがクールジャパンか!」と非難されました。
地元富裕層の集客のためにはどうしてもラグジュアリーブランドをずらり並べてショッピングモールの格を印象づける必要があります。多くの日系百貨店が中国で失敗する要因はラグジュアリーブランドの集積ができず、館全体の格が低いこと。
富裕層をたくさん集め、その上で日本の美味しい、カッコいいを訴求していく、これしかクールジャパン普及の方法はありません。
クールジャパン機構が出資した寧波市のショッピングモール
このところ日系百貨店の中国市場からの撤退ニュースが続き、私自身は中国商業施設を歩く機会が増えました。そこで思うことは、いまこそクールジャパン事業を本格的に後押しして世界に販路を求めないと日本は埋没してしまう、世界市場は広く日本の生活文化や美意識をもっと世界に広めるべき、と。
EV
車で中国より遅れをとる自動車産業かもしれません。日本は製品を売るのではなく日本のソフト、文化、精神性を売ることにもっと心血注ぐべきでしょう。でないと近い将来世界市場で日本の存在感はさらになくなります。
シャープ堺工場閉鎖のニュースでそんなことを思った次第。
ラグジュアリーブランドは必須です 2024.11.16
もっと日本のいい素材を 2024.11.09
有力コンテンツなのに 2024.09.21