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11月29日 Victor Entertainment よりリリースされた矢野顕子さんのCDにベヒシュタインを使用いただいた。録音エンジニアの吉野金次氏の「彼女の声にはベヒシュタインがあっている」という推薦があり、録音でベヒシュタインを使用することを検討している。という思いがけない連絡を、録音のコーディネートをなさった篠崎さんから受けたのが、今回の録音プロジェクトに参加させていただくきっかけだった。ご本人や、ホールの予定などを擦り合わせた結果、以前、エル・バシャのJ.S. Bachの平均律 第II巻の録音でも使用させていただいた、神奈川県立相模湖交流センターが、今回のCD Soft Landingの録音会場になった。楽譜を読む演奏者の解釈によるパフォーマンスがベースになるクラシックの録音とは少し違う、音符が書かれた楽譜のない音楽作りが私には新鮮な体験だった。吉野金次さんが「声に合っている」とおっしゃている意味が、リリックな矢野顕子さんの歌を聞いていて頷けた。ベヒシュタインの音は立ち上がりがよく、一つの子音や母音の中にも大きな抑揚をつける矢野顕子さんの独特な歌い回しに自然に溶け合う感じが、アンサンブル効果として魅力的だった。録音が終わり、鉄骨に矢野顕子さんのサインを頂戴し、ちょっとミーハーな気持ちで一緒に記念撮影。このアルバムの発売記念イベントが六本木ミッドタウンで行われた。声とピアノが掛け合うようなライブは、また違う魅力的な側面を見せてくれた。ライブと録音と両方聴いてみると、より、頭の中に湧き出ているであろうイメージに近づく事が許されたような感覚になった。かの糸井重里さんが矢野顕子さんのことを「ピアノが愛した女」とコピーライトしたというが、本当にその言葉がストンと心に落ちた。今回の録音で出会わせていただき、ツアーでもBechstei D-280を湘南台、NHKホール、サンケイブリーゼ(大阪)でご一緒させていただいた。アルバム”ごはんができたよ“ を、ピアノを自在に操りなら、抑揚感溢れる歌い回しで凄い人だ、と、知人のステレオで感動しながらLPを聞いたのは、調律の勉強を始めた学生の頃、確か80年の秋か冬だった。今度はご本人のパフォーマンスを目前で、という本当にエキサイティングな体験だった。そして。。。ツアーを終えた矢野顕子さんが汐留ベヒシュタインサロンにお越しになり、ピアノをご購入下さった。お弾き頂く度にピアノのポテンシャルを肌で感じ、毎回、ニュアンスが少し変化し、お感じになっていらっしゃることを口に出された。それが私の価値観と整合していることが嬉しくて仕方ない。
2017.12.23
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工房コンサートは、その名の通り工房でのコンサート。通常のステージでは憚られるが、でもやってみたいな、と普段思っていることに切り込み、自由にピアノ演奏表現の可能性にチャレンジした。キャラクターの違うピアノを組み合わせたデュオだったり、フォルテピアノとモダンピアノでコンチェルトをしたり、極端な不当分律での調整感の検証など、「普通、コンサートで実験などする人いないよ。。」と思えるような事を楽しく行ってきた。その、“工房コンサート”も早いもので、スタートから約10年の歳月が流れた。今回の工房コンサートは、音楽学学者 野本由紀夫先生をお招きし、ベートーベン・シンフォニー第9 2台ピアノ版 F.リスト ピアノ トランスクリプション全楽章を行った。非常に密度の濃いもので、今迄の工房コンサートの集大成と言える内容だった。ピアノは、現代のベヒシュタイン フルコン C.Bechstein D-282 と約90年歳の離れたC.Bechstein Eの2台を組合わせた。同じフルコンサートでもピアノの長さが10cm近く違い、弦長と弦の太さが同じ音名でも微妙に異なる。それにより、特に中域から低域は、高い倍音が同じ周波数にならず、2台重なると響きの高い部分に揺らぎが生じる。よって、一台の場合、又、全く同じ機種2台の場合よりも、ステレオ効果に微妙な揺らぎの効果が加わり、よりシンフォニックな感じが生まれる。この面白さは、フォルテピアノをソロに、オケパートを現代のベヒシュタインで行った時に感じた効果を思い出させた。ソロピアノとオケパートの音質が微妙に一致していなことから、ソロとトゥッティのコントラストが明確になり、ソロの音量が現代のピアノのように期待できないフォルテピアノなのにも関わらず、ソロになった時のメリハリ感は強く感じられた。音色が異なると、分離感はより強くなるわけだ。臨場感がモダンピアノ2台よりある。同じピアノ機種2台がベストという事を、まるで正しいデフォルトの如くホールの担当者に言う業者がいるが、音楽に従事している関係者は、自らの耳で、ピアノが異なった2台ではどういう効果が生じるかも体験して欲しい。確かにEnyaとか達郎のように、同じ人物が声を重ねることによってのみ得られる、独特なサウンドエフェクトが魅力的な音楽もある。しかし、2台ピアノの為の楽曲の場合に期待する効果はそれとは違うのでは、と私は工房コンサートの検証で確信した。ご存知のよう第9はオーケストラ楽器に加わり、声楽ソリストや合唱が入る。ピアニストは声の部分もオケ楽器とは雰囲気を変え響かせたい。いろんな要素が絡むからこそ、リストのピアノ トランスクリプションの難解さがピアニストにあり、聴き手には、そこがスリリングになる。私自身工房コンサートで、耳、感じ方の修復という意味で、大きな収穫があった。溢れかえる情報を整理してピアノ音楽を検証する機会は、音楽愛好家の為にまだまだ終えてはいけないという気持ちが今回の集大成で更に強くなった。
2017.12.15
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