ピアノ調律師の日々
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本を読んだ物が映画化された場合、ガッカリすることもあれば、概ね同じような感動だったりするのが私の場合の通常だ。本は想像が自由なので、ストーリーの情景は、かなり自分の価値観に着色され、いい感じのシーンが心の中に広がる。大抵の場合、主役を演じてるのが自分自身か、仮に自分自身でなくとも、主役側に立った情景として着色されている。色んな意味で私の感動にとって都合よく情景の展開をしているのが私の読書だ。なので、映画化されたとき「あれ?あの辺りの事は結構端折ってしまったな」と感じる場面が数回出てくると「あ~ やっぱり本の方が良かったなぁ」となる。本を読み終わった時の感情と、映画を見終わった時に心に残った総合的な情景が一致していると。「本も良かったし、映画も良かった」となる。本屋大賞を受賞した 宮下奈都の ”羊と鋼の森” が映画化され、まもなく封切りになる。この映画の製作段階で、映画会社の方が会社のショールームと工房に取材にいらっしゃったので、映画化されるということは少々前に知ることができた。私のブログからのアクセスで、逆に会社を知っていただいたようだった。ブランドをお調べになったのでなく、ドイツとか工房とかのキーワードで検索をかけられたと確かおっしゃっていたと思う。ドイツで修行した先輩調律師を描く為の素材集めが、いらっしゃった動機だったと記憶している。映画を作る際、細かな事までお調べになるんだなと、感心しながら応対させていただいたのを覚えている。そんな経過もあった事から映画のテイストが気になっていた。映画の事も頭の隅の方に行った頃、日本ピアノ調律師協会から試写会の案内が送られてきた。調律師協会が撮影のアドバイスを依頼されていたと聞いていたが、私はこの法人の国際局の参与として運営のお手伝いもしている事から、試写会のメンバーに入れていただき、一昨日日比谷の試写会会場に行ってきた。映画は、自分の想像を遥かに上回る出来映えだった。本屋大賞を受賞したという事も手伝い、当時早々に本を手に入れ読んだ時は、私と同じ職業が取り上げている事が災いしたのからだと思うが、色んな部分が単純に大袈裟に感じてしまい、作者が描く抽象的なイメージが頭の中で広がらなかった。「調律と関係ないピアノ演奏者が読んだ方が楽しめるのかなぁ」というの私の感想だった。しかし、映画は、私をスクリーンの中に確実に誘ってくれた。4人の調律師が出てくるが、夫々のキャラ全てに、時間を超えた私の断片が存在していた。ピアノを演奏するお客様との会話全てに、話こそは違えど、私が体験した(ている)事として観ることができた。スクリーンに映し出される橋本光二郎監督の世界は、自然の恵みこそが創造するアコースティックピアノを通じた人間模様の描写だった。ピアノそのものが生命を包み込む森を描写しているのか。と思いながら、子犬のワルツのシーンでは涙が自然に流れた。因みに、ドイツで修行した設定の、板鳥宗一郎調律師役を三浦友和が演じているが、その演出に、楽器店の壁に貼ったポスターは、映画に会社から提供させていただいたBECHSTEINのポスターが貼られていた。店内のポスター前には、ベヒシュタインのダルマ脚のグランドが置かれている。板鳥調律師が語りながらこのダルマ脚ピアノに視線を移すシーンが、言葉少ない調律師の想いを伝えるのに充分な効果があった。チューニングハンマーという調律の道具を、板鳥調律師が新人調律師の外村に手渡すシーンでは、日本の物でなく敢えてドイツ製が使われ、そのシーンの意味を色濃く演出していた。お子さんがピアノを弾かれる保護者の方、ピアノを弾いていらっしゃる方々には是非鑑賞してもらいたい、と思う映画の一つだ。今度の6月8日に羊と鋼の森は公開されるそうだ。この日はレッスン休んで映画館に行ってみるのも良いのではないでしょうか。
2018.02.22
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