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最近日本のマスメディアなどでも、盛んに中国のEコマースが取り上げられています。確かに、中国のインターネット・ユーザーは3億3,800万人(09年6月・CNNIC発表)、Eコマースの市場規模は1,800億RMB(約2.5兆円・iResearch2009年予測値)で、毎年2倍近い成長を遂げています。国土が広大な中国マーケットをカバーするには、オンライン・ストアなどの無店舗販売のシステム構築が効率的でもあります。オンライン・ストアは、多数の実店舗や小売店網を整備する必要が無く、販売スタッフも用意する必要が無いので、一般的には参入障壁が低いと考えられています。もちろん、自社でシステムを用意したり、物流(納品の仕組み)を整備したりするには、それなりの覚悟が必要ですが、楽天市場のようなショッピング・モールなどに出店するのであれば、個人でも零細企業でも簡単に販路を拡大することが可能です。ご存知の通り、中国ではTAOBAO(淘宝網)がEコマースのプラットフォームとして最大かつ最強です。TAOBAOの一日の取引高は、中国最大の百貨店チェーンやいまや中国最大のDSチェーンといえるウォルマートの一日の売上を上回っています。こうした中、数多くの日本企業からTAOBAOに出店したい、とのお話が舞い込んできます。またネット上には「TAOBAO出店代行」をうたったサービスも数多く出現しています。でも、はっきり申しあげましょう。現時点では、中国に現地法人を持たない外国企業はTAOBAOに出店できません。厳密に申しあげれば、"個人"の資格として出店することは不可能ではありません。ただ、会社のビジネスとして出店するのはきわめて難しいと思ったほうが良いでしょう。TAOBAOは元来C2Cのプラットフォームなのです。つまり、個人による出店販売、購入者個人がリスクを持った上での購入が原則でした。つまり、ヤフオクみたいなものです。しかし、粗悪品、まがい物、詐欺などがあとを絶たず、企業による品質保証を受けられるサービスを求める利用者の声に押され、2年前にB2CプラットフォームであるTAOBAOショッピングモール(淘宝商城)をオープンさせたのです。TAOBAOショッピングモールはブランドショップとも呼ばれ、正規販売権を持つ企業しか出店できませんし、見込み客からのお問合せ対応やアフターサービス体制に対して厳しい条件がつきます。その分、利用者は安心して利用できますし、何よりも中国の公給領収書の発行を受けられますので、会社や役所の経費で何でも揃えることの多い中国の人たちにとっては利用し易くなったのです。TAOBAOを覗いていただければ一目瞭然ですが、まさに玉石混交。フェイク(偽物)、並行輸入品から、メーカー保証付きのデジタル製品、本物の高級ブランド品に至るまで、怪しげなものも確かなものも何でも売られているのです。TAOBAOショッピングモールは、正規品とアフターサービスを保証するB2Cのプラットフォームですから、普通のTAOBAO(C2Cプラットフォーム)のお店よりも断然集客力がありますし、売上も上がります。そうでなくとも、日頃からフェイク(偽物)やコピー商品、並行輸入品(非正規ルート販売品)に悩まされている日本企業であるならば、そうした怪しげな商品が並ぶ普通のTAOBAO(C2Cプラットフォーム)に出店するのでは意味が無いので、B2CのTAOBAOショッピングモールへの出店を望むはずです。ところが現時点で、TAOBAOショッピングモールには、中国国内で小売販売ができる資格を持った企業でなければ出店できません。ですから、少なくとも中国に現地法人を持っていなければ日本企業は出店できないのです。更に申しあげれば、中国国内で小売販売ができる資格というのが、外資系企業にとっては獲得しにくい状態になっています(厳密には、無店舗販売ライセンスと言う外資企業では更に取得しにくい資格すら必要と言えます)。もちろん、TAOBAOショッピングモールに出店するのではなく、自力でECサイトを立ち上げることも不可能とは言えません。けれども大きな覚悟が必要です。第一に、中国からアクセスできなくなることを覚悟しなければなりません。日本(中国国外)にホスティング(サーバーを設置)する場合、まず課題になるのは中国からのアクセス速度。ご存知の通り、中国にはゴールデン・シールド(金盾)というインターネット上の情報を検閲・制限するシステムがあるので、国外へのアクセスにボトルネックが存在します。ですから中国国内のサイトの場合、中国の利用者が快適にショッピングができません。更に怖いのは、いつアクセス禁止になっても文句が言えないのです。サイトに中国当局が秘かに定めるNGワードが含まれていたり、中国当局にとってよろしくないサイトがリンク先に含まれていたり、或いは中国当局に目をつけられているネットユーザーが頻繁に訪れたりすると、いつの間にか中国からアクセスできなくなったりします。極端な例ですが、ある日本企業のオンライン・ストア(日本でホスティング)は、トラフィックが急激に伸びた途端、中国からアクセスできなくなってしまったこともありました。第二に、売上代金を受け取れなくなったり、突然中国当局に税金を請求される覚悟をしなければなりません。まず、日本から中国にモノを売る立場の出店者は、日本の銀行口座に代金を送金してもらわなければなりません。中国では居住者か現地法人を設立しなければ、原則として銀行口座が開設できないからです。第三者型電子決済のプラットフォームとして、中国ではAlipay(支付宝)が最も普及しています。中国のお客さまが人民元で支払った代金を、Alipayが日本円か米ドルなどに変換して日本の銀行口座に送金してくれれば良いのですが、そんなに甘くありません。Alipayは日本への送金も可能と宣伝していたこともありましたが、実際のところ毎月10万円くらいまでが限度です。中国の外貨管理は厳しいので、人民元から日本円や米ドルなどの外貨への両替やその外貨を中国国外に送金する際の制約があります。商品の売買がきちんと証明できれば良いのですが、Alipayは決済代行をしているだけで日本の出店者と中国の購入者の取引に関わっているわけではありません。毎月10万円程度の売上しか日本で受け取れないとなると、企業として取り組むのは難しいでしょう。PaypalやVISAなど国際クレジットカードによる決済であれば、日本で代金を受け取れる可能性もより大きくなりますが、これらの決済方法を利用できるのはAlipay利用者の10分の1くらいですから、Alipayを導入しなければ売上も伸びない、というのが現状です。税金の問題は、輸入関税ではありません。日本から小口で直接購入者に商品を送るのであれば、一般的には個人輸入と判断されます。税関審査で輸入関税を求められることがありますが、数百元(日本円なら数千円)くらいの商品であれば、見逃される場合がほとんどです。課税を求められたとしても、中国で受取る側つまり購入者が納税することになります。購入者が納税せずに商品を受取らず、返品になるというリスクはあります。けれども、より大きなリスクは営業税や増値税(付加価値税)などの間接税や企業所得税などを中国側から請求される危険性があるということです。アメリカのAmazonに対して日本の国税当局が噛み付いたのと構造は一緒です。売買と言うビジネスが日本で発生したのか中国で発生したのかという解釈の問題ですが、下手をすると中国からの売上に対して中国での所得と言いがかりをつけられて、後になってから税金を払え、と言われかねません。このように考えていくと、日本からの遠隔操作で中国向けECでビジネスを行うのはリスクが大きく実入りが少ないお話ということになります。つまり、本格的に中国でオンラインでモノを売りたいというのであれば、中国に現地法人をセットアップして現地でのオペレーション体制を整えていくことが肝要だということです。それにはお金も時間も労力もかかりますが、広い中国に実際の販売網を築くことに比べたら、うんと安上がりなのです。中国のマーケットの大きさの魅力は、もはや上海、広東、北京などの都市部には無いのです。沿岸部や都市部にこだわっていては、かつての日本軍と同じ悲劇をうむことになりかねません。広い中国では、拠点を押さえるだけではダメなのです。点と点を結ぶ線でもダメです。面としてカバーしなければ、中国マーケットの魅力は激減してしまいます。"僻地のゲリラ戦"を生き抜くためには、拠点を押さえても勝ち得ません。そうした点において、広大な中国全地域に中間層向けの販売網を構築するのと同義のオンライン・ストアは、なお低リスクで高リターンが見込める戦術ですし、インターネットは極めて有効なマーケティング・ツールなのです。日本から遠隔操作でこそこそ行うようなものではありません。参入障壁は高くても、真剣に取り組むべきだと思うのです。
2009.11.22
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前回に引き続き、代金回収についてのお話です。中国では、支払期日が遅れることを覚悟するくらいの度量は必要な気がしておりますが、不良債権化してしまい、回収不可能になっては、元も子もありません....。当たり前のお話ですが、代金回収において最も有効な対策は、前金か現金で取引することです。最も有効ではありますが、簡単なことではありません。前金を払ってでも手に入れたい商品やサービスで無ければ、中国の取引先は易々と前金払いなどしてくれるはずはありません。コンシュマー向け商品ならば、ブランド力があって、消費者からも強い引き合いがなければ無理でしょうし、B to Bならば、オンリー・ワンくらいの技術力やサービス力が伴わないと、前金取引きは難しいはずです。中国の経営者の多くは、支払を引き伸ばすことが、有効な経営術だと思っていますから....。前金取引きに固執するあまり販路を広げられず、店頭に並ばない日本ブランドの商品がたくさんあります。ウリスク・ロウリターンの典型みたいなお話ですが、前金取引きには限界があり、後払いの信用取引をしている企業が大半のはずです。ですから、支払の遅延や売掛金の不良債権化への対策と心構えが必要だと思います。前回ご紹介した広告会社オグルビーのように債務者を訴えてしまうことが、ほぼ最終的な対策となります。オグルビーの場合は、恐らく相手先をメディアに曝してプレッシャーを与えるというパブリシティ効果も期待して、いきなり法院(裁判所)に提訴したようですが、一般的には仲裁委員会に調停を求めるケースが多いようです。契約書の中で「問題が生じた場合、所轄の仲裁委員会の調停によって解決する」と記載する場合が多いからです。もちろん双方が同意すれば、「法院(裁判所)で紛争を解決する」という契約にしても構わないのですが、中国企業(或いは弁護士)は、仲裁委員会での調停を望むことが多いようです。仲裁委員会に調停を求めると、双方で仲裁委員を選定します。仲裁委員は専門の裁判官ではなく、いわゆる"有識者"による仲裁委員名簿の中から選ばれます。アメリカの陪審員やいずれ日本で導入される裁判員の制度に近いのかもしれません(ちなみに北京仲裁委員会の仲裁委員名簿には日本人などの外国人も登録されているとのことです)。紛争(債権金額)の大きさにより、3人だったり5人だったりします。仲裁委員は双方の言い分を聞き、契約書や取引きのエビデンス(証明資料)などの資料をもとに裁定を下します。代金未払い事案の場合、契約書が整っていて取引きのエビデンスがきちんと提示できれば、ほとんどの場合、"勝訴"、つまり「早くお金を払ってやりなさい」という裁定が下るはずです(債権の全額認められるとは限りませんが)。双方がその裁定に同意すれば、支払期限や金額などを明示した双方合意の調停書が仲裁委員会によって作成されます。これで、一件落着.....。というわけにはなかなか行きません。仲裁委員会には強制執行権が無いからです。どちらかと言うと"好意的な債務者"であれば、じたばたせずに調停書どおり支払うかもしれません。でも"悪質な債務者"の場合、調停書どおりにやすやすと支払うことはないでしょう。ですから、仲裁委員会で債権者側の主張が認められたからと言って、債権が回収できると安心してはいけないのです。債務者に仲裁委員会の調停どおり支払う意志が無いようでしたら、法院(裁判所)に訴えるしかありません。法院(裁判所)の判断に逆らえば、刑事罰が待っています。ところが、法院(裁判所)に提訴したから一安心、というわけにも行きません。"悪質な債務者"の場合、このあたりの段階で"支払い能力"が無くなってしまっているケースが多いのです。無くなるのではなく、故意に無くしているのですが。つまり仲裁委員会に招聘されたあたりから着々と準備を進めて、提訴された企業を解散・破産させたり、別の会社に資産や事業を譲渡したり、法人代表の個人資産を親戚や知人に移転したりします。債権者側が裁判で勝訴したとしても、債務者側に"支払い能力"が無ければ、強制執行も刑事罰も逃れてしまい、債権は回収不能に陥ってしまいます。仲裁委員会で有利な調停を得ても、裁判で勝訴しても、取りっぱぐれる時は取りっぱぐれてしまうワケです。なお、いきなり法院(裁判所)に提訴したとしても、"悪質な債権者”の場合、同じような状況に陥ってしまいます。そこで知人の中国人弁護士さんからお聞きした、ちょっとだけ有効な対策をお教えします。仲裁委員会に調停を申し込むと同時に、債務者の資産(金融口座)を差し押さえる(凍結する)という方法です。口座差し押さえには法院(裁判所)権限による強制執行が必要になりますが、仲裁委員会への調停申請内容の合理性が高い場合、債権と同じくらいの金額の供託金(保証金)を用意することによって可能になるようです。供託金は債権の査定に差が出た場合、その分の利息に充てられますが、調停で100%債権が認められれば、全額返金されるとのこと。仲裁委員会は債権者側が調停を申請すると、一週間ほどで債務者側に通知し招聘をかけますから、その一週間のうちに債務者側の金融口座を差し押さえることに成功すれば良いのです。債務者の金融口座に債務以上の残高があれば、債務の金額分の引き出しができなくなります。ここまでしてしまえば、債務者は仲裁委員会の調停金額を支払わざるを得なくなるはずです。ただ、仲裁委員会の調停が下る前に、法院(裁判所)に資産差し押さえをしてもらうわけですから、債務者側の金融口座の情報など債権者側の準備も大変ですし、それなりのコネクションやパワーが必要なようです。端的に言ってしまえば、契約書や取引きのエビデンスを完璧に整えておくのは基本の基本で、あとは仲裁委員会や法院(裁判所)と強いコネクションを持つ弁護士さんを確保することが肝要、ということでしょうか....。
2006.06.14
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