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大阪地検特捜部に逮捕・起訴された厚生労働省の村木厚子・元局長に大阪地裁が無罪を言い渡した件で、主任検事が、証拠のフロッピーディスクのデータを改竄(かいざん)していた疑いがあるというのです。 見事な特ダネ でした。これには最高検も危機感を抱いたようで、報道の当日、主任検事を逮捕しました。
この裁判を振り返ると、捜査がいかに杜撰(ずさん)で予断に満ちたものであったか、驚くばかり。しかも主任検事が証拠改竄を図っていたとは……。
大阪地裁が無罪判決を言い渡したのを受けて、新聞各紙は、自社報道を検証する記事を掲載しました。大阪地検特捜部が村木さんを逮捕したとき、新聞各紙は、地検の取り調べの情報を伝えました。そこに問題はなかったのかという検証です。
検察を信頼して記事を書く。これは、過去の私もしてきたことですから、検証記事を読むのは、記者だった自分の取材手法が批判されるような思いでした。
自社の報道を検証する記事が掲載されたのは、朝日新聞が9月11日、読売新聞が12日、毎日新聞が14日でした。朝日がいち早く検証記事を掲載したことは評価できます。
朝日新聞は検証記事の冒頭で、「取材を担当した記者や村木氏に話を聞き、検証した」と書いています。
つまり、取材した記者たちが自分たちで報道を検証するのではなく、検証担当の記者が指名され、取材記者から話を聞いているようです。これは大事なことです。自分たちで書くと、どうしても自己弁護に陥りがち。あえて第三者が検証してこそ意味があります。
また、報道された村木さんの話を聞いている点でも、検証記事として大事なポイントを押さえています。
検証記事によると、逮捕直後の大阪本社版が、障害者団体幹部の「官僚として目的を持つと、手段を選ばない人なのかなと思う」という談話を掲載していました。ある人が逮捕されると、「逮挿されたのは悪い人」というイメージをかきたてるような記事が掲載されるのは、よくあること。それがどんなに恐ろしいことなのかを如実に示しています。
また、村木さん以外の逮捕された人たちが、大阪地検特捜部の取調(とりしら)べに対して供述した内容を報道した点について、この供述内容を含む検察の調書が裁判では「検事の誘導で作られた」などと判断されて証拠採用されなかったことを書いています。
こうした自社報道のマイナス面にはきちんと触れつつも、この検証記事では、「村木氏が事件への関与を否定していることも書いた」と表現しています。なんだか「朝日として、きちんと被告の言い分も伝えていました」と弁解するニュアンスが感じられてしまいます。
毎日新聞の検証記事では、村木局長逮捕の翌日の紙面で、局長の言い分を大きく取り上げたことを取り上げています。「他紙と違って、わが社はしっかりしていた」という筆致が感じられます。
今回の事件では、特捜部の検事たちが、取調べのメモを廃棄していました。調書を作文したことが判明しないように証拠隠滅を図ったとしか思えない行動ですが、これを取材したのは、どの新聞が早かったのか。
「判決を前に、特捜部検事が取り調べの際に付けていたメモを最高検の通知に反して廃棄していたことを掘り起こしました」(朝日)。
「特捜部が関係者の供述内容を記した取り調べメモを廃棄していた事実をいち早く報道した」(読売)。
どちらが早く報道したのか。自社の報道のあり方を検証しているはずなのに、なぜか自慢話が紛れ込む。困ったものです。
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