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参考人として取り調べた企業幹部の弁護人から「参考人が取り調べ中に検事から暴行を受け、ケガをした」と通告があった。検事は「肩をちょっと押したことはあるが、暴行はしていない」と否認。取り調べに立ち会った事務官を「取調室で血が流れたか」と追及すると「流れました」と認めた。
暴行の裏付け捜査をしていた途中に、弁護人側から「表ざたにしないかわりに条件を提示するので話し合いたい」と言ってきた。しかし、私は、「絶対にあってはならない取り調べだ。この先事件ができなくなってもやむを得ない」との思いから躊躇(ちゅうちょ)せずに上司に報告し、最終的には高検検事が引き継いでこの検事を逮捕・起訴した。しかし、人の心は弱いもので、そこに迷いが生じていたら、もみ消そうとしていたかもしれない。
私が弁護人を務めたいくつかの特捜事件を見ても、最近の特捜部の捜査は、一度「この事件はこういう筋だ」という筋読み(事件の構図)が固まると、それに合うような証拠ばかり集め、供述を押しつけ、筋読みに合わない証拠物や供述は無視しようとする傾向が強い。その筋読みが客観的な証拠と矛盾しても、見直そうとしない。
特捜事件は一応、高検、最高検がチェックする仕組みになってはいるが、チェックできる人は上に行けば行くほど少ない。ここに特捜捜査の危うさがある。
その危うさを回避するため、特捜部では伝統的に、上司の言うことを聞かない検事を抱え込んできていた。私も若いころ、主任検事から「こういう調書を取ってくれ」と指示されても「事実と違うから取れません。どうしても必要なら自分で取って下さい」と抵抗したことがあったが、追い出されずに通算12年も特捜部に在籍した。 現在では、上司から「取れ」といわれた通りの内容の調書を取ってこられない検事は特捜失格の烙印(らくいん)を押され、外に出される傾向 があるようだ。
私が主任検事を務めた当時はすべての捜査情報は主任検事だけが把握し、 取り調べの検事には、先入観を持たせないように最小限の情報しか与えていなかった。 しかし、最近ではある検事が取った調書のコピーを全員に配るなどして、関係者から同じ内容の調書が取れるようにしているという話も聞く。< 供述を押しつける取り調べが横行するのも当然だ。
特捜部のような政官財界の巨悪を摘発する専門組織がなければ、日本社会の腐敗や劣化は進行するだろう。しかし、特捜部が、現在のように誤った筋読みの下で、ゆがんだ捜査手法で暴走するならば、 有害で不要な組織 といわざるを得ない。特捜部の 組織改編は不可避 となろう。
ここまできてしまえば、取り調べの適正化のために、民主党の一部が導入を主張している取り調べの全面可視化(録音・録画)は避けられないのではないか。 (聞き手 山口栄二)
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