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今こそ、去る6月23日に英国で行なわれた、EU(欧州連合)からの離脱を決めた国民投票に、あらためて注目すべきではないだろうか。
言うまでもなく、わが国でも改憲の発議から国民投票へ、という動きになることが、現実味を帯びてきたからである。
なにより、離脱決定後の英国の混乱ぶりを見るにつけ、後悔先に立たず、とはこのことだ、との思いを強くするのであり、近い将来、改憲の是非を問う国民投票があったような場合には、 断じて英国の轍(てつ)を踏んではならぬ。
まず、 離脱派のスローガンは、「国家を我らの手に取り戻せ」 であったが、ここで早くも、 「日本を取り戻す」という安倍内閣のスローガンを連想した読者も、決して少なくない であろう。そう。両者の発想は、実はかなり似通っているのだ。
そもそもEUとはなにかと言えば、端的に、二度の大戦を経験したヨーロッパ大陸諸国が、戦争の恐怖から永久に解放されたいと願い、国家の主権を制限し、国境を有名無実化する「国境なき国家連合」を目指したというものである。
これに対して英国には、冷戦時代でこそ、西欧諸国がひとつにまとまることに意義があったが、今さら通貨や国境の管理権までEU委員会という官僚機構に譲り渡すべきではない、と言って憚らない政治家が多い。
事の当否を論ずる前に、占領軍に押しつけられたものだから、という理由で、まずは改憲ありきの議論を展開する人たち と、どこか似通って見えるのである。
始末の悪いことに、どちらも自分たちを真の愛国者だと信じて疑わない、という共通点もある。
さらに言えば、EUから離脱すれば、分担金を福祉に回せるとか、離脱派の主張は嘘八百と言って差し支えないようなものであったことが、今になって次々と暴露されている。
◆投票率の縛りは国難
こうしたことを受けて、ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授は、「投票率が70%だった現実を踏まえると、有権者のわずか36%が離脱キャンペーンに乗せられたに過ぎない」
「英国のEU離脱について、ハードルはより高くあるべきだった」
と主張する(『週刊東洋経済』7月9日号より抜粋)。
たしかに日本でも、憲法改正をめぐる国民投票については、投票率の縛りをかけておくべきではないか、との議論はある。
仮に、昨今の国政選挙並みに、投票率が50%そこそこであったなら、有権者の25%程度の賛成でも「改憲派が多数」となってしまうからだ。
しかし、著名な憲法学者である石川健治・東京大学教授は、こう語る。
「投票を義務化している国もありますが、日本はそうではない。純粋に権利ですからね。権利を行使しなかった者は黙って結果を受け容れる。そういう制度設計になっている以上、あらかじめ投票率の縛りをかけるのは、ちょっと無理でしょう」
今はなき菅原文太氏は、
「政治の役割は二つある。ひとつは国民を飢えさせないこと。もうひとつは、戦争をしないこと」
と喝破した。
有権者の役割も二つある のではないだろうか。
ひとつは、 政治家の嘘に乗せられないこと。 もうひとつは、 自分の権利を国家に売り渡さないこと だ。
しかも消息筋によれば、官邸は今後「9条は変えない。戦争はしない」と強調しつつ「震災を想定しての」緊急事態条項を通そうとする可能性がある。まずは改憲の既成事実を作りたいのだろう。
はやし しんご・作家、ジャーナリスト。
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