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2022年07月06日
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テーマ: ニュース(100336)
カテゴリ: ニュース
東西冷戦が終結した当時、アメリカ政府はロシアにどのような約束をしたのか、その後アメリカはどのようにその約束を反故にしたのか、経済アナリストの伊藤貫氏は月刊「クライテリオン」7月号に寄稿して、次のように述べている;




 以下の拙稿では、「米露関係がここまで悪化してしまった原因は何か」ということを解説したい。筆者は、シカゴ大学の国際政治学者ジョン・ミアシャイマーやプリンストン大学のロシア史学者スティーヴ・コーエン(一年半前に死去)と同様、「最近の米露関係悪化の原因の大部分は、冷戦終了後のアメリカの対露政策にある」と考えている。本稿では、米政府の対露政策の企画と実施に参加した国務省やCIAの高官の証言を引用しながら、 「最近のアメリカ政府が、どのようにロシア国民を弄(もてあそ)び、搾取し、裏切ってきたか」 という経緯を解説したい。

◆冷戦終了時の美辞麗句、その後の裏切り

 最近30年間の米露関係悪化の最も重要な原因は、2つである。それらは、

(1)米政府が、「我々はNATOを拡大しない。我々はロシア封じ込め政策を採用しない」という約束を破棄したこと。
(2)米政府と米金融業者が、「ロシアの経済改革に協力したい」という美しい名目の下に実行した、ロシア経済資源の巨大な窃盗行為。

アメリカのこれら2つの行為は、ソ連帝国の崩壊によって窮乏化していたロシア国民に対するショッキングな裏切りであった。

(米国において、このようなアメリカ政府による裏切り行為を真正面から批判したのは、ミアシャイマー、コーエン、ケナン、ハンティントン、ケネス・ウォルツ等、少数の知識人だけであった。アメリカの圧倒的多数の言論人・マスコミ機関・学者・シンクタンクは、この深刻なロシアに対する裏切り行為に関して沈黙したままであった。したがって米国民のほとんどは、米政府による「2つの裏切り行為」に関して完全に無知である。このことに関して、世界的に著名な言語学者であるノーム・チョムスキーは、「ロシア資産の窃盗に参加した米国のエリート・クループが、アメリカのマスメディアと政治システムを支配している。一般国民は、無知な状態に置かれている。現在のアメリカには、真の『言論の自由』が存在しない」とコメントしている。)

 レーガン政権・ブッシュ(父)政権で5年間も駐露大使を務めた国務省官僚(ロシア専門家)ジャック・マトロックは、冷戦終了期の米ソ間交渉の責任者であった。彼はレーガン・ブッシュ両政権が作った米露間の新関係構築に参加した重要人物である。マトロックは引退後の著作『Superpower Illusions』で、次のように述べている:

 「米ソ冷戦終結のための交渉は、米露両国の国益を同様に尊重するために行われたものである。この交渉は、戦勝国と敗戦国の間の終戦交渉ではなかった。”アメリカもロシアも、冷戦構造を解消することによる国際政治の2つの勝利国である”というのが、両国に共通した態度であった。しかるにその後のクリントン政権は、ロシアのことをまるで日本のような敗戦国として扱い始めた。一方的にNATO拡大方針を決定した。そして次のブッシュ政権は国際法を無視してイラク戦争を決行し、しかも『ロシア封じ込め政策をとらない』という重要な約束を破って、NATOを大規模に拡大していった」。




 米政府によるこの重大な約束違反行為に立腹したマトロック元大使は、クリントン政権の高官に「何故、米露間の大切な約束を反故にするのだ?」と尋ねた。するとこの高官は、「あの約束は、紙に書いて署名したものではない。単なるカジュアルな口約束にすぎない。口約束だから守らなくてもかまわない」と答えたという。

(同時期にプリンストン大学のスティーブ・コーエンも、クリントン政権の国家安全保障会議のメンバーに「何故、米露間の約束を守らないのだ?」と尋ねた。するとこの安全保障会議の出席者は、「冷戦後のロシアは軍事力も経済力も弱体化しており、アメリカの約束違反行為に対する報復能力を持たない。我々がロシアに対する約束を守らなくても、現在のロシアは泣き寝入りするしかない。だから我々は約束を守る必要がない」と答えて、ニヤッと笑ったという。 若い頃から熱心な民主党員であり、大統領選挙ではクリントン候補に投票したコーエンは、「クリントン政権のやり方の卑劣さにゾッとした」と回想している。)

 しかし 「NATOを拡大しない」という米露間の約束は、米政府の「単なるカジュアルな口約束」ではなかった。これはブッシュ(父)政権内部で熟考の上に決定された、真剣な約束であった。 ブッシュ政権の高官たちは1990年と91年、ゴルバチョフ大統領とシュヴァルナゼ外相に対して、 「ロシアが、ワルシャワ条約機構加盟諸国をロシアの勢力圏から解放してくれたら、米政府は絶対にNATOを東方に拡大しない。我々は東欧諸国とコーカサス諸国をアメリカの勢力圏に組み込むようなことを、絶対にやらない」と何度も繰り返し明言したのである。 べー力ー国務長官はゴルバチョフとシュヴァルナゼに面と向かって、「we give you iron-clad guaranteres that NATO will not extend one inch to the east」(「『我々はNAToを1インチたりとも東方に拡張しない』という鉄の保証を提供しますしと明言している(マトロック大使は、その場に同席していた!)

 しかし過去20年間、ロシアのプーチン大統領とラブロフ外相が、「アメリカは『NATOを東方に拡大しない』という重大な約束を守らず、米軍によるロシア包囲網を着々と強化している。米政府は、ロシアと過去300年間、緊密に共存してきたウクライナやグルジアにまで米軍を進駐させようとしている。これは我々にとって深刻な軍事的脅威であり、文明的な脅威である。アメリカは、我々の文明と安全保障の基盤まで破壊しようとするのか?  もし最新兵器で武装したロシア精鋭軍がアメリカのメキシコ国境やカナダ国境にまで進駐してきたら、アメリカ人はどう思うか? 」と抗議するたびに、米政府高官は不誠実な言い逃れを並べ立ててきた。

 クリントン・ブッシュ(息子)・オバマ・バイデン4政権の高官たちは、「あれはたった1回だけの口約束にすぎない」とか、「ベーカー国務長官が思い付きで口にした気軽な発言である。彼にとってあれは半分ジョークだった」とか、「あの約束の真の意味は、今でも曖昧である」とか、「その場で紙に書いて署名していない。だからあの約束は最初から無効だ」とか、「ロシア側か誤解しているだけだ。アメリカ側には、『NATOを東方に拡大しない』などと露政府に約束した記録は残っていない」などという言い訳を繰り返して、米露間の重大な約束の存在を否定してきたのである。
(つづく)


伊藤貫(いとう・かん)
1953年東京都生まれ。東京大学経済学部卒業。国際政治・米国金融アナリストとしてワシントンのコンサルタント会社に勤務。ワシントン在住。「シカゴ・トリビユーン」「フオーリンポリシー」「voice」「正論」などに外交・金融分析を執筆。CNN・CBS・BBCなどで外交と経済問題を解説。著書に『自滅するアメリカ帝国』『中国の核戦力に日本は屈服する』『歴史に残る外交三賢人ビスマルク、タレーラン、ドゴール』など。


月刊「クライテリオン」 2022年7月号 54ページ「30年間、ロシアを弄んできたアメリカ」から一部を引用

 米英の白人は、その昔アメリカ大陸を搾取し多くのインディオの文明を滅亡させ、アフリカ大陸を植民地支配して搾取し、今またロシアを騙してロシアの富を盗み取っている。日頃は「民主主義」だの「人権」だのときれい事を並べておきながら、その裏では「紙に書いて署名したわけじゃないから」と、やりたい放題というのは、彼らが信頼に値する民族ではないということを意味していると思います。こういうことをやって来たアメリカだから、その反動で中央アジアのテロリストが旅客機を乗っ取ってニューヨークの超高層ビルに突っ込むという事件も起きるわけです。





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最終更新日  2022年07月06日 01時00分06秒


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