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◆仕送り頼めない
男子学生が愛知県内の私立大に入学したのは昨春。シングルマザーとして自分と妹を育ててくれた母(53)が、冠婚葬祭関連の仕事を失った翌月だった。
2020年4月に始まった国の修学支援制度を利用し、年約90万円の給付型奨学金の支給と、年約70万円分の授業料の減免を受けることが決まっていた。
ただ、授業料は年約160万円。奨学金は全額支払いに充てた。母や、受験を控える妹を思うと、仕送りは頼めない。4万円の家賃や光熱費、食費を含めると最低でも月7万円必要だった。飲食店やコンビニのバイトをかけ持ちした。
今年1月、睡眠時間を削って勉強し、テストに臨んだ。疲れから体調が優れなかった。テストが終わって数日後に発熱し、新型コロナの感染がわかった。
3月、「留年」との通知が届いた。留年すれば、4月からの奨学金の給付はなくなる。母の失業やテスト期間中の体調不良が「やむを得ない事由」に当たらないか。大学側にかけ合ったが、認められないとの回答がメールで届いた。
男子学生は今、大学を休学し、実家からアルバイトに通う。せっかく入学したのだから学業を続けたい。就職を考えると、「大卒」の学歴もほしい。
だが、奨学金が支給されなければ、生活は立ちゆかない。貸与型の奨学金や学生ローンを申請することはできるが、「要は借金。そこまで無理して大学に通い続けるべきなのか……」。結論を出せずにいる。
◆「借金怖くなり」
大阪府の看護師の女性(30)は、総合病院の整形外科で働く。シングルマザーの家庭に育った。父は自分が3歳の時に失踪した、と母から聞いた。家計に余裕はなく、奨学金を高校で約60万円、大学で約570万円借りた。27歳で看護師となり、返済が始まった。
当時の残高は、計600万円強。毎月3万3千円ずつ、20年かけて返す計算だった。返済を始めると、家計を支えていた父が消え、困窮した母の姿が思い浮かんだ。病気やけがで、私もお金に困るかもしれない-。借金を抱えていることが、急に怖くなった。
繰り上げて返済するため風俗店で月3回ほど働くことにした。病院での夜勤を終え、午前11時ごろ帰宅。3時間ほど仮眠し、店に出勤する。稼ぎは1日約10万円。収入は奨学金の返済のほか、貯蓄に回す。
「奨学金には感謝しています。でも、生まれた家によって負担の差が大きすぎませんか」
参院選では複数の政党が奨学金をめぐる政策を公約に掲げた。同じ苦労を若い世代がしないよう、投票先を慎重に選びたいと思う。
(塩入彩、田中紳顕)
◆463万人が返済中、滞納13万人3割が非正規
国内の奨学金事業の約9割を担う日本学生支援機構によると、2020年度末時点で奨学金の総貸与残高は約9兆5900億円。借りている約616万人のうち現役学生らを除く約463万人が返済中という。
返済を3ヵ月以上滞納している人は減少傾向にあるものの、なお約13万人(約3%)いる。20年に実施した抽出調査によると、うち3割が非正規労働者で、失業・休職中の人も7人に1人いた。また、7割が年収300万円未満だった。
滞納者に対しては、支払い督促を経て、給与を差し押さえる強制執行などの法的手続きがなされる。支援機構は20年度、438人への強制執行を各地の裁判所に申し立てたという。
参院選の公約では、減額返還の年収要件の緩和(公明)や、返済不要の給付制を中心にした拡充(共産)などが掲げられている。
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