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国民の生活と権利を守るルールは経済を強くする。 「逆では」と思われるかもしれませんが、これは19世紀のイギリス、戦後の日本で実証されています。
19世紀初頭のイギリスでは1日の労働時間は14~15時間でした。労働者の運動で1850年、10時間に制限する「工場法」が制定され、経済が飛躍しました。『世界歴史大系イギリス史3』(山川出版社)によると、1850~70年で石炭採掘高は2・24倍、銑鉄生産高は2・77に倍に増加。同書はこの時期を「イギリス近代史上『繁栄』の時代として知られている」と記しています。
マルクスはこれに注目しました。 「労働日が短縮されたにもかかわらず、工場労働者の貨幣賃金は上がり、・・・彼らの労働の生産諸力はおどろくほど発展し、彼らの商品の販売市場は前例がないほどつぎつぎと拡大した」(『賃金、価格および利潤』)。 「1853-1860年の大工業諸部門の驚くべき発展は、工場労働者の肉体的および精神的再生と手をたずさえて進・・・」(『資本論』)。工場法に猛反対した工場主も「われわれは、同じ時間でまえよりも多く生産している」と誇りました(同)。 発展の理由は労働者が健康になり機械化も進んだからです。
日本にも実例があります。 自動車産業が排ガス規制で発展したことです。 公害反対運動を背景に74年、東京都など革新自治体の音頭で、7政令市が共同で排ガス規制の運動を開始。 技術と開発力はあるはずだとメー力ーに迫りました。公害車は購入しないと東京都は圧力をかけました。
消極的だったメーカーも78年、政府が窒素酸化物排出量の90%以上削減という世界で最も厳しい規制を実施すると、たちまち基準を達成する車を開発しました。日本車の輸出は76年の約370万台が80年には約600万台に急増しました。
気候変動対策で先頭を行くドイツの基本理念はこの事例に基づきます。旧西独政府の委託で研究したヘルムート・ワイトナー博士は「企業は規制で短期的には苦しんでも、長期的には技術革新を生み出し、新しい市場を築く。ドイツはそれを日本から学んだ」(2008年6月1日、NHK)と語りました。日本の運動の教訓はいまや全世界に広がっています。
筆者はドイツに出張した際、博士に会って聞いたところ、都留重人、宮本憲一、柴田徳衛各氏ら公害研究の第一人者に教わったとのことでした。
博士の見解は豊田章一郎トヨタ自動車名誉会長も裏づけました。「排ガス規制への挑戦でトヨタの技術部は難局を新たな成長の契機と捉える姿勢へと大きく変化し、トヨタ車の国際競争力は一段と向上した」と述べたのです(「日経」14年4月17日付)。 大企業の民主的規制で人間本位のルールができれば企業は合わせようとし、中長期的にはより健全で強い経済が生まれることがわかります。
田代忠利(たしろ・ただとし 日本共産党出版局長)
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