ソクラテスの妻用事

ソクラテスの妻用事

2020年06月16日
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 写真日記      Huちゃん 写真日記   
を転載しました。珠玉の写真ブログです。


 ブログ冒険小説『官邸の呪文』(9)

(この物語に登場する人物、団体名等はフィクションである)

主な登場人物

・十鳥良平(とっとり りょうへい)前職は検察庁釧路地検検事正。現在は札幌の私大法学部教授
・堀田海人(ほった かいと)札幌の私大考古学教授

・榊原英子(さかきばら えいこ)海人の大学の考古学準教授
・役立 有三(やくだつ ゆうぞう)元警視庁SAT隊員 十鳥教授の助手

・堀田陸人(ほった りくと)資源開発機構研究所所長 海人の兄
・森倍 昭双(もりべ しょうぞう)首相
・水流 侃(すいりゅう かん)官房長官
・田森 博史(たもり ひろし)副官房長官(首相の側近)
・南  慈夫(みなみ しげお)国家安全保障局(NSS)局長(首相の側近)
・中井 直樹(なかい なおき)首相秘書官(首相の側近)


(9)

首相の私宅

 6月下旬。この夜も、森部首相は私邸にいた。
 というのも、予定通りに国会を閉じられたからだ。
 久しぶりに妻と食事をしつつ、 いつものように 政治状況について切り出した。いつものように? そうなのだ! 森部は父の跡を継ぎ国会議員になった時から、夫唱婦随、二人三脚――妻の実家から巨額の政治資金を得ていた――正確には、妻の尻に敷かれているのだった。否! 金銭面だけではない。天然的な物怖じしない妻の言動に、畏敬の念を心の奥底に持っていたのだ。
「ちょっと私は迷っているんだ」
 妻が目をきっとして、
「どういうこと? 広告代理店‟伝宣”への業務委託の件?」と詰問調で訊いた。
 瞼で塞がりそうな目を見せ森部が言った。
「それもあるが、美しい引き際を考えているんだよ」
 箸を止めた妻が語気を強くして言った。
「そんな弱気を見たくないわ。来年の秋まで任期があるのよ。あなた。内閣支持率を気にしているの?」
「……やることがことごとく裏目にでているからだよ」
「駄目よ、そんな弱気じゃ。マスコミなんか気にしちゃ駄目よ。これで終えたら、私たちの花道が無いじゃない?」
 森部がワイングラスに口をつけ、一口飲む。
「実はね。南局長らは、今の状況を打開する案を進めているんだが……」
 妻がワイングラスを一気に飲む。
「何? その打開案って?」
「中国と大芝居をやる案なんだよ」
「あなた、ちゃんと言ってよ」
「FBには注意してね」森部が念を押した。
「そんなの分かっているわよ。大芝居って何?」妻が目を吊り上げた。
「こういうストーリーなんだ。10月上旬、中国軍が尖閣諸島に上陸。そこで自衛隊強襲部隊が尖閣に上陸し、7日間の戦闘を繰り広げるのだよ。そして中国政府と我が政府が非難を激しく繰り広げてね、私が中国トップにホットラインで停戦と尖閣からの中国軍の退去を求めるのだ。この大芝居の結論は、お互いが尖閣から退去し、現状を回復させる、というものだ」
 妻の目が見開き、
「分かったわ。良い大芝居じゃないの。お互いの面子が保たれるじゃない。 あなたの窮地も救われるわね?」と森部の迷う心底を持ち上げ訊く。
「そう思うかい?」森部が訊き直した。
「あなた。決まっているじゃない。中国側も損はないし、あなたへの支持も浮上する案じゃない?」あっけらかんと妻が言う。
「やはりそう思うか?」
「南局長さんたちが言うのだから、お任せしたら? 上手く行ったら、あなたのお手柄にしなきゃ。南さんたちは、あなたに大きな借りがあるから、ちゃんとやるわよ。それにこれまであなたは頑張ったのよ。ここまで誰が出来るの、長期安定政権を。国民は、あなたに感謝すべきだわ。コロナがなにさ。あなたのせいではないわよ」
 森部はやや間をおいて、ワイングラスをぐいっと空けた。
「よし! そうするよ」
(続く)
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最終更新日  2020年06月16日 17時11分58秒
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