むかしむかし、あるところに耕作という少年がいました。 耕作の両親は町で小料理屋を営んでいましたが、ある日、店が火事に遭いふたりとも亡くなってしまいました。 耕作は、 「ふたりの意志を継ぎ、お店をもう一度立て直したい!」 と決意し、一から修行をさせてもらえる店は無いかと町中の店を片っ端からあたりました。 しかし、この町では雇ってくれるお店はひとつもありませんでした。 そこで、この町より栄えている隣町まで行き、同じように片っ端からあたっていると、とある小料理屋さんのご主人が、 「それならうちで働け」 と言ってくれ、雇ってもらえることになりました。 料理の事を全く知らない耕作は、開店準備に皿洗い、台拭きや接客などの料理とは全く無縁の雑用ばかりを幾日もやらされました。 そして半年ほど経ったある日、料理をまったく教えてもらえないことを不満に思った耕作はお店のご主人に言いました。 「今までずっと働いてきましたが、雑用ばっかりでぜんぜん料理を教えてもらってません。いったい、いつになったら料理を教えてくれるんですか?」 ご主人は優しい口調でゆっくりと話し出しました。 「耕作、実はなぁ、わしはお前の親父さんを知っとるんじゃよ。お前がここの店に初めて来た時に名字を聞いてすぐに分かった。顔も親父さんによく似ておるしなぁ。親父さんはそりゃ凄い料理人じゃった。そんな親父さんがよく言っておった。 『おいしい料理を出すだけが店じゃない。お客さんが来る前から準備をし、おいしい料理を作って食べてもらい、そしてお客さんが帰った後の片付けをして、また次のお客さんのために準備をする。それが店なんじゃ。』 と。 そしてこうも言っておった。 『お客さんあっての店。お客さんがまた来たいと思ってもらえるような接客が大事じゃ。』 と。 耕作、お前はその親父さんの店をやり直したいんじゃろう?料理だけが店じゃない。それが分からんと親父さんの店は継げんぞ!」 耕作は今までやってきた事がお店をやる上で大事なことだと初めて分かりました。 それ以来、耕作はこのお店でご主人の言う事をきき、立派な料理人になりました。 両親のお店を建て直した開店当日、修行先のご主人が隣町からやって来ました。 「耕作、今日店開きらしいな」 「はい、ようやくここまで来ました。これも全てご主人のおかげです。本当にありがとうございました。」 耕作の言葉を満面の笑顔で聴いていたご主人がこう返しました。 「いやいや、わしはお前の親父さんがわしにしてくれたことを真似ただけじゃよ。 実はな耕作、何を隠そう、わしは親父さんの一番弟子なんじゃ」 |
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ことわざ辞典 |
袖すり合うも多生の縁「そですりあうもたしょうのえん」 |
知らない人と道で袖を触れ合うようなちょっとしたことでも、偶然のことではなくて全てめぐり合わせ。という意味です。 何気なく出会った人でも、何かの縁があってのことなんです。出会いを大切にしましょう。 |