CHI-AKIの部屋

CHI-AKIの部屋

2006.04.22
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露光


 山道に慣れていない友樹は、すべる地面に何度も足をとられて転倒する。
 そのおかげで友樹の姿は、泥んこ遊びをしたかのように、全身泥だらけになっていた。
(最悪……)
 今までこんなに泥だらけになった経験がなかった友樹は、服を泥で汚してしまったことや全身に付いた泥の感触が好きになれなくて、少し半泣きになっていた。
 そんな友樹を見かねたカッパがぽつりとつぶやく。
「あんまり使いたくないけど、しかたないな~」
「?」
 そのつぶやきを聞いた友樹がカッパの方を見たとき、カッパは背中の甲羅に手をまわし、それをしゅたっと外した――ように見えたが、外したものは甲羅を保護するカバーのようなものだった。
 そのカバーは透明のプラスチックのようなものだったが、カッパはそれを両手でつかむと横に引っ張り、適当な大きさに広げると湾曲した部分を下にして地面に置いた。
「トモキ、これに乗って」
「えっ?」
「いいから~」
 カッパは有無を言わせずに友樹をその伸縮自在のカバーに座らせ、友樹の背中を押した。
「…………」
 友樹を乗せたカバーが、カッパに押されて次の斜面に向かって動くのを感じながら、『小さいのに、意外と力持ちなんだな~』と友樹は思った。
「ちゃんとつかまっててよ~」
 カッパはそう言うと、友樹の背中に飛びついた。
 次の瞬間――。
 友樹の身体は傾ぎ、山の斜面をスピードを上げて滑り降りていくのを感じた。
「うわーっ!」
 思った以上にスピードが出たので、思わず叫ぶ友樹。
 実は友樹、ジェットコースターが苦手だった。
 一方、友樹の背中に掴まったままでいるカッパは、楽しそうな歓声を上げていた。
「きゃはははは……」
 悲鳴と歓声が咲耶山に響く中、甲羅カバーのソリは泥水の飛沫をばーっと派手に上げて、麓まで続く坂道を滑り降りていく……。


 その後、怖くてずっと目を閉じていた友樹は、「友樹、着いたよ」とカッパに声をかけられるまで、自分が山の麓に着いたことに気付かなかった。
「怖かった……」
「トモキはああいうのダメなの?」
 カッパに聞かれて、うなずく友樹。
「そうなんだ~。楽しいのに☆」
 残念そうな感じのカッパに、「怖いだけで、楽しくないよ」と返す友樹。
「友樹は怖がりなんだね。もったいないな~」
 何がもったいないのか分からなかったが、怖がりと言われた友樹は腹が立った。
「苦手なものは苦手なんだからしょうがないじゃないか!」
「怒らなくたっていいじゃん……」
 意外と短気な友樹を見ても、全然気にしていない感じのカッパは、ソリにしていた甲羅カバーを拾い上げた。
 すると、すぐそばにあったお堀(この時、友樹は川だと思っていた)に近寄り、カバーを水に浸して振り洗いしてからぶんぶんと振って軽く水を切ってから元の形にすると、背中の甲羅に戻した。
 その時やっと、友樹には周りを見る余裕が出来たのだが、目の前に広がっていたのはのどかな田園風景だった。
「…………」
 さっきまで降っていた雨がようやく上がり、ビルのような背の高い建物がまったくない広く開けた空には入道雲が現れ、夏の青空が広がっていた――。


               〔来訪者 4〕へ続く……





 とりあえず、〔1〕~〔3〕をまとめてフリーページにアップしました。
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最終更新日  2006.04.22 17:34:00


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