吟遊映人 【創作室 Y】

吟遊映人 【創作室 Y】

PR

×

キーワードサーチ

▼キーワード検索

プロフィール

吟遊映人

吟遊映人

カレンダー

2026.04.18
XML
カテゴリ: 読書案内



【 村田沙耶香 / コンビニ人間 】

今年の冬は、言うほど寒くはなくて、気象庁の予測通り暖冬だったと思う。
その分、心配なのは、それだけ早く夏が訪れそうなことだ。
とは言え、自然現象を人の力でどうにかすることも叶わないので、自分にできることなんて、予想に備えて気持ちを引き締めるぐらいだろうか?

一方で、私事で恐縮だが、息子がこの春、転職した。
今の時代、転職なんて大して珍しくもないし、私自身、何度となく繰り返した。
だから「ふーん、そうなんだ」と、何でもないことのように振る舞いたかった。それは親としての矜持でもあるから。
だが、ショックだった。
大学時代、就職試験に向けて寝る間も惜しんで勉強していた息子の努力を見ていた。
地元の福祉系の大学からの進路は、ほぼほぼ決められていて、本人もつぶしが効かないことに気付いていた。
何が何でも希望の職に就いて、それこそしがみついてでも頑張るつもりだったに違いない。
だが、人生とは、そうそう希望通りにはいかないし、ましてや親の願望通りには進まない。
全てが予測不可。神のみぞ知る世界。
それが人生である。
結局、息子は7年間勤務した職場を去ることにした。
今は民間企業に転職し、研修を受けつつ1日も早く新しい仕事に慣れようと必死だ。
しかし彼はやはり再び福祉の道を選んだのだ。

そんな折、私は『コンビニ人間』を読んだ。
世の中の価値判断がどうであれ、一定のルールに従って、マニュアル通り合理的に働くことのできる環境を良しとする主人公が、嬉々としてコンビニで働く中、成り行きでコンビニ店員を辞めることになった。
だが改めて自分とは何かを模索する中で、やはり自分にはコンビニしかないと気付く、という内容だ。

作者は村田沙耶香で、1979年生まれ、玉川大学文学部卒である。
2003年に『授乳』で第46回群像新人文学賞を受賞し、デビュー。
2016年に、本作『コンビニ人間』で第155回芥川賞を受賞している。
作品の傾向としては、ジェンダー文学とも言えるし、ディストピアとも言える。
一般的な純文学とはだいぶ違うような気がするので明言を避けたい。
作品のあらすじは次のとおり。

恵子は幼い頃から奇妙なところがあった。
公園で小鳥が死んでいるのを見つけて、友だちは皆かわいそうだと言って泣く一方で、恵子はせっかくだから「これ、食べよう」と母に提案する。
母はギョッとするが、恵子としては至って真面目。
父が焼き鳥が好きなので、焼いて食べるのがいいと思ったのだ。
また、小学校の頃、男子が取っ組み合いのケンカを始めたところ、誰かが「止めて!」と言うので、恵子はすぐに反応して、用具入れからスコップを取り出し、一方の男子の頭を殴って止めた。
その後、自分の行為のせいで両親が困惑し、悲しんだりするので、皆のマネをするか、誰かの指示に従うようにして過ごす。
それからはカウンセリングを受けたりするものの、特に変化はなかった。
大学生になっても変わらなかった。
ある時、オフィス街で、新規オープンのコンビニ店員募集のポスターに気付く。
恵子はすぐに採用された。
コンビニの仕事は全てがマニュアル化していた。
皆が同じ制服に身を包み、服装チェックのポスターに従い、身なりを整える。
アクセサリー類を外し、「いらっしゃいませ!」と笑顔で挨拶すれば、コンビニ店員の出来上がりである。
他にも、温かい物は冷たい物と分けて袋に入れたり、ファーストフードの注文があった場合は、手をアルコール消毒するなど、全てが決まり事となっていた。
恵子はこの環境の虜となる。
ここにいれば、恵子は「普通」なのだ。
世界の正常な部品として起動しているのだった。

私はこの作品を読んだとき、何とも言えない空虚な気持ちに苛まれた。
でもそれは主人公・恵子に対する同情ではなく、むしろそういうことは表立って出てこないだけで、実は日常生活の中にいくらでもあり得ることなのだと思う。
常識という物差しを作ったのが、政治家なのか法律家なのかは分からない。
人間が集団で生きていく何年もの長い期間を経て出来上がった倫理なのだろう。おそらくは。
だから多くの人たちが普通だと思えることが正義であり、そうではない少数派というのが、いつの世でも奇妙に思われ、果ては変人扱いを受けて来た。
現代では心療内科(精神科)の分野も進んで、様々な傾向とか特徴を内包する人格に、病名も付くようになった。
恵子にも何か性格的問題を抱え、家族を心配させる障害を持っていたに違いない。
だけど問題はそこではなさそうである。
この社会に常識というものが暗黙のうちに存在することで、その枠から少しでも外れたら奇異な目で見られる。
恋愛をして結婚し、子どもが2人いて、夫が公務員というスタイルが勝ち組なのか?
万年コンビニで働くバイトの店員は負け組なのか?
一体、人生とは誰のためのものなのか?

私たちは生きている限り、人目に晒され続ける。
常識にとらわれない生き方なんて、ほぼほぼ不可能に近い。(大胆な人はそれもやってのけるかもしれないが)
せめて他人様に迷惑をかけない程度に生きていくなら、どんな職種でも、未婚でも、無趣味でも、大目に見て欲しいと言う筆者の心の叫びを聞いた気がした。
『コンビニ人間』は、日本の小説には珍しく、男女の情念や行間に感じられる心の機微のようなものは皆無である。
空虚なことすら気付かない程に渇いた文学である。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

※筆頭管理人
先に吟遊さんから「遅ればせながらコンビニ人間を読んでいる」と言われました。
するとタイムリーなことに、週刊文集の一面カラー広告を目にしたもので、吟遊さんにお知らせしました。

飛んで火にいる夏の虫(*'ω'*)


こちらも「一刻も早く」掲載準備をさせられることになりました(^^;)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




★吟遊映人『読書案内』 第1弾(1~99)は コチラ から
★吟遊映人『読書案内』 第2弾(100~199)は コチラ から
★吟遊映人『読書案内』 第3弾(200~ )は コチラ から


20130124aisatsu





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2026.04.18 08:00:13


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: