うきよの月 0
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ひさびさにただの徒然なんすが。いやー、やっぱり腕も肩も腰も使う様な仕事だと、全部それがまた足にかかる!何で普段ママチャリかというと、そもそも「足があがらない」からなんすが!気を抜くとひきずってしまうんですが!なので何かチャリ旅行まではずっと・着圧ソックスきついの・着圧トレンカまあまあ80デニール(つま先+かかとが出てるやつ/セシールの基本廃番)を重ね履きして、・着圧ソックスちょっとゆるいの(20-30hpa/これもセシール)を寝る時に使ってました。というか、これに慣れすぎると、確かに足は動くんですが、外した時に頭がくらくらするという。どれだけ血のめぐり悪いんだ! と。いや元々は立ちくらみ防止だったんですよ。図書館で下の段の本読んでるじゃないですか。立ち上がると星が飛ぶ。息苦しい。仕事もそのせいでユニットバス清掃はせず。いちいち座って立ち上がる都度くらくらしてたらたまらんて。でまあ、チャリ旅行でふくらはぎ筋肉復活したからいいかなー、と思って生足でいたら、今度は「足首ひねりそうー」「扁平足」ですよ……(T_T)そんな訳で今度は一応足首サポーターだの対応する靴底だの足底筋膜炎用サポーターとか試してみるんだけど、……考えてみれば、↑のトレンカと着圧ソックスで相当このサポーター代わりになっていたんではないかと思うのだな……そんで今日はひじょーーーーーーーっに疲れたので、久々にゆるい方の着圧ソックス履いたら…… 気持ちいい…… どれだけ筋肉疲れてたんだよ自分……やっぱりこの方面はしばらく続きそうですわー。
2020.02.02
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ワタシは昔っから体重どーん!な子供だったので、小学生の時から既によく膝湿布必要としていたこともあって湿布とは仲よしなのだな。重みと成長期と釣り合わなかったという奴で。中年の今でも膝はやばいのですが(だからチャリ族にに「より」なったのだが)。薬は基本毒、というのは事実でして。だから自分の体質と相談して使うもんなんだな。大半の市販風邪薬がまず効かないからもう最近は初期で医者行って押さえ込むか、そんな時間がなかったらある程度体に回してから一撃で壊す薬をもらうかどっちかなんだが。だから使い様なんだよなー。さて湿布。湿布を使うってのは一番早く強く薬効を浸透させる場合なんだよな。軽いものをいつも、だったら軟膏やジェルの方がいい。それも市販の。で、それでも効かないくらいの腱消炎とかなら、まず白い冷たい系の湿布。そんでそれが「汗でどろどろになってしまう」場合は肌色のぴったりしたものか、サロンパス。経験と段階を踏むしかねえのよ。何の副作用も考えずに使える薬は無い。薬は基本毒で、毒を上手く使うことで薬になるんだもの。それは天然由来、と言ってるものでも同じで、天然だって強い毒は毒ですがな。フグしかりトリカブトしかり。ちな、ワタシの場合はインドメタシン系のジェルや軟膏では効かないくらいの痛みが散々あった+仕事がどっと汗かく(冷房の無い工場とか清掃とか)+動くものだったことが大半だったことで、モーラス的なテープでないとあかんという事情があった。いやまじ、白い冷たい系の湿布は気持ちいいんだけど、ずれるんだよ! そしてねちゃねちゃになって服にべたべたつく事態になるんだよ。そのくらいワタシが汗かきだということがあるから、まあこれは人それぞれなんだけど、では白い冷たい湿布をどう貼るかという時、一緒についてくる貼りつけテープがあるではないですか。あれの方がかぶれるということもあるし、……正直あれでも粘着が足りない。と同時に、「もともとある程度の光線過敏症があった」ということで普段から夏でも長袖のふわふわした風通しの良いもの着ていたんだよな。なので手の甲以外今は滅多にかゆみかぶれは出ないし、出そうになったら布の厚さを調整している。だからそこは「対日焼け」を考えた上で使うしかないんではねーかと思うぜ。つか、紫外線も強くなっているのは確かでね。なので日焼け止め嫌い(というか塗っても汗で結局無駄になる)なワタシとしては、「夏はしゃーないわ」ということで手の甲はもう4月に「あ、出るな」と思ったらある程度もうひっかいて焼いておくんだよな……その結果。まー50代の女としちゃフツーだよな。ちなみに面の皮はもっと厚いらしい。まあ顔に湿布貼ることは無いからだけど。つまりまあ、モーラス好きのワタシとしては、皆使い方に気をつけようね、ということなんだよな……腱消炎とかは慢性だったらその痛い場所だけでなく、対角線的に痛いとこがあるからそこを揉みほぐすとか、色々対処法はあるので!無論それでかぶれた人はお大事に、としか言いようがないけど、やっぱり基本「薬は基本毒を量見て使っている訳だから使い様は気をつけて」としか言いようがないのよ。ちなみにワタシはメンタル系のパキシル愛用者だけど、これもまた結構あれこれ言われる薬だよな。だけどこれに多少副作用があるって言っても、何よりも効きたいとこにはちゃんと効いているんだからワタシは副作用はどうでもいいぞ。依存性もあるし抜く時には辛いというが「当たり前だろ」としか言いようがないのよ。別に自分の体質が変わる様な薬ではないんだから。だから薬に関しては、何処は許容できて何処は許せないかは自分で選ぶことだけどな。
2019.06.16
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ばね指と言うてもあまり馴染みが無いかもしれないけどーとりゃず現在の左手の湿布の様子。サロンパス2枚を適当にはさみ入れつつ、ですがな。この中指がだな、一度第二関節曲げると自力で開かないんですな……何が悪いかと言えば、これまでの手やら腕やら酷使してきた結果なんすが。じゅうたん用掃除機を持ち上げてとか、もっと前だと切削加工とか、パソコン仕事だの。でもまあ一番悪いのは左手マウスのせいだとは思ってるんだけどねー。いや、楽なのよ、慣れると。カナ入力もだけど。指自体は人差し指と薬指ですむんだけど、やっぱり中指で支えるしなあ。……ともかく今は騙し騙し。そのうち整形外科行くわい。https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/snapping_finger.htmlによると、更年期の女性にも多い、っていうから……そういうとこに出てくるんかいな。くー。【第3類医薬品】サロンパス30 刺激マイルドタイプ(60枚入)【サロンパス】
2018.01.02
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あけました。そして寝正月でしたwww寝たの2時~おきたの14時~そして昨日のめまぐるしく変わる天候+乾燥しまくった室内+疲れた~→目が疲れて乾いて→目から来る頭痛……現在この状態。あ、絵と当人は全く関係ないです。ただこの位置にサロンパスの小さい奴を半分に切ったやつ貼ってるぜ、ということで。ほら、昔のマンガにおばーさんがこめかみに膏薬はってるやつあるじゃないですか。あれ効くんですよ……頭痛には。血行がよくないとか、冷やすとか、そういう効果的に。ただし髪につくんで、髪あげて帽子かぶってるぜ、ということで。あ、ちなみに下においたのは「日ころ」ノートですw かわいいの。ワタシ昔っから紫外線の強くなる季節にもの凄く頭痛とか不快感激しかったんですわ。それが目から来る~とかに気付いたのがずいぶん遅く。今と違ってブルーライト低減とか、グラサン必要!とか言われる前っす。今はいいですわ。何かとグラサンとかマスクが健康上必要っていうの理解増えましたから。その頃からかなり暗いグラサンかけておりまして~くもりの日でも薄いグラサンだったんですが~昨日の天気で、ちょいそのへんの加減間違えたざんす。それと気圧。親父の部屋の温度と乾燥。さすがに部屋の中26度って、普段「今8度~」「今10度~」とか言ってるw奴にはきついざんす……熱すぎ……頼むから加湿器使ってくれ……面倒とか言わずに……そのために送ったんですが!【第3類医薬品】サロンパスAe 240枚
2018.01.01
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最近健康の話ばかりやん!と言ってもしかたがねえ。寒い中またまた医者どす。今回は矯正歯科。豊橋まで出向きました。ただし行ってマウスピースはめて、調子聞いておわり。次は半年後。……忘れないようにせんとあかん。でまあせっかく豊橋駅ビル行くし、→セリアがあるし→買い物メモっていったんですが。だいたい探しているものはありました。・園芸用の指先ゴム加工してある手袋いくつか→使っていた奴がトゲ負けした・毛抜き→何処にいった・スケルトンのブラシ→何処にいったはあったのね。まえダイソーではあったのに、無かったのは、・髪を刈る櫛型レザー→普段自分で髪刈るから・ふたと取っ手のついたボックス→作業ボックスが欲しいあったのかもしれないけど、見つからなかったというか。で、……あったら欲しくなったのが、・寒気の中で頭ぷっつんしないように毛糸の帽子→毎年買ってる気がするんだが行方不明になる・すべり止めついた手袋→以下同文・手首と肘用サポーター→ばね指が今日特にひどかったから・大きめのくし→髪刈り用に・お薬手帳ホルダー→一緒に診察券を入れられるのがよさげ・チャックのついたポケットのついたビニル材ケース→財布が破れてきたってとこかなー。それと、・牛乳をコンビニで3本。→町内だとフツーのコンビニより高いの!・オムライス食う・惣菜買ってく→レバー欲しくなったかな。それにしてもオムライス早かったなー。あれは思うに、・ピラフは既に用意してある→卵だけさっと焼く→まとめる→ハンバーグ添える→ドミグラソースかけるかな。それなら早いわ。ともかく寒かったのでぬくい食事したかったのよねー帰ってからは何か思い立った進撃の2期を一気に見ました。はい。1期後半がアニの話なら、2期はユミルの話ってか。で、3期がたぶん海にいけるまでだから波乱万丈になって、現在連載中の辺りが第4期で終わりにするって感じかなー。まあユミルのエピは今回まとめましたよね、という感じだけど。出す気ないなもうwww進撃の巨人 絵馬 タニエバー | [送料無料] グッズ エレン リヴァイ 兵長 エルヴィン ミカサ アルミン 必勝 受験 お守り アニメ 映画 ゲーム コミック お願い事 引き寄せ season3 痛絵馬 奉納 聖地巡礼
2017.12.13
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現在の部屋の気温↑さすがに冷えますなー。しかも風強いんだよ!そんな日に特定健診だったんですが。かばんの紐が切れた(中身が抜けた)時点で嫌な予感が。大ボケーーーーーーーっ!持ってったの去年の受診券だったわ……(つまり去年受けてないってことですが)ということで、1500円→6750円(内消費税500円)で受けてきました。もう一度券の交付できるとは言われたんですが!けど12/12の今日の予約したの、10月だぜ?今日予約して果たしていつになるよ……ぷらす血液検査があるっーんで、昨夜から食ってない→そのままチャリで駅→更に浜松で遠鉄2駅ぶん(いや歩いていける距離なんだけど)正直へろへろでして。しかも風が強いやら寒いやら。今日このままへろへろ帰って、また来るのかい。とか何とか考えたら「今日お願いしますっ! 高くてもいいです!」とな。……いいですよ去年やらなかったんだし、今年何かオプションつけたと思えば……来年からちゃんと毎年受けよう。つーかな、ただの特定健診だったら、去年までは「ご町内の医者さん」で出来たんだよー。なのだけど、今年は先生がお亡くなりになって現在町内に医者無し!何っか色々気分がへろへろしてしまうわけですわ。ともかくそれで行ってきまして、帰りにメイワン(駅ビル)の地下で肉類買ってったんだけど。ついでに成城石井見てったんだよな。そんで一応紅茶の値段確認。リプトン公式で送料無料3024円の青缶。400グラム。……ボケてるのはもうワタシのガラホのカメラがですね。ちなみにこの場所に来るまでチャリ+片道240円。……通販のほうが楽だと決定。白缶が今品切れなのは残念だけど、基本ミルクティなんで、青缶だけあればいいし。トワイニングのイングリッシュブレックファスト。200グラム。ちなみにカルディ通販で775円。結論。このテのリーフティは通販のほうがいいわ。ちなみに、検査終わったあと、駅ビル1階で買ったベーグル&ベーグルのブルーベリー、ウォールナッツとイタリアン的な何か(……わすれた)三つをほうじ茶で流し込み~やっと薬も飲めて~頭がしゃんとしてきた~ちなみにその間読んでたのがこれ↓でしたwww大直言 [ 青山 繁晴 ]
2017.12.12
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手汗出易い体質→冷めたら荒れやすい体質ということでもーガキの頃から荒れには! ひび・あかぎれ・割れ!でも、クリームのぬるぬるは嫌だし、においがするのも嫌。ということで毎年試行錯誤してきたのですけど!友達に以前もらったクリームの、においはともかく、調子は良かったのよね。たぶんこれ。↓ か、そのシリーズ。サンタール・エ・ボーテ フレンチクラシックシリーズ ハンドクリーム 30ml Senteur et Beauteでまあ、成分読んで、シアバター系のがいいかなー、ってことで去年少し買ってみたのが安い国産のこっち。パックスナチュロン ハンドクリーム(70g)【パックスナチュロンスキンケア】個人的には気に入ったので、三本くらい後でまとめ買いしましたわー。で、まだ余ってるのでなくなるまで使う。あ、でもかかとの割れは、靴とか歩き方や、ストッキングと圧着ソックスの重ね履きしているせいか、無くなりました。……ただし今、もしや足の筋肉衰え? って感じもあるのでうううううううむ。ともかく明日は特定健診どすー。つまみ食いは9時までどすー。水はいいようだけど、ともかく起きたらすぐ行こうっと。腹減って眩暈おこすわ。
2017.12.11
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一応健康の部類に入れておくぜ。そういう話だと思うので。大学時代は寮生活でした。四年間20畳の部屋で複数人と暮らしてたんだから…… 今思うと集団生活に実はもの凄くストレスを感じていたってことではないかと思うのですが。ともかく金がかからないので根性で居続けたけど。いや、二食つきで16000円/月はやっぱり美味しいよ!自炊だと5000円とかそんなもんだったし!一応バブル期だったんだけどね!そのいち。当時同じ寮の別の階に住んでた、同人のそのテの界隈で結構知られたマンガ描きさんに勝手に思いつめたことが。……あれはたぶん対他人に対しての最大の馬鹿やったことだと思う……ようすんに、「何でこっちは見てんのに気付かないの」という認知の歪みなんだが。何故かその頃は「こっちはそっちを見てるのに何で気付かないの」が自分の頭の中でまかり通ってたんだよな……いや以心伝心なんてありえませんから!で、それを寮管ノートに! つらつら書いてしまった!つまり人目につくように、だよびっくりすげえ痛い行動! 思い出すだけで息苦しくなりそうだ……これに関しては、その相手の友人にやっぱり同じノートで反撃くらいました。で、証拠抹殺のために、自分のページは破棄しました。はい。……その書き手さん、すげえ不気味で怖かったろうと思う。本当に申し訳ない。だが下手に謝ろうとしてもいかん案件なんだよな…… なおこの書き手さんも女性どす。なので押しかけ案件の心理は妙にわかる。胸張って言えないが。と、いうか「自分が描きたいけど絶対描けない絵が描ける」人に執着する癖があったのがいかん。これって、そもそも「自分が生理的にできない体験ができる人」だから、ワタシと全く違うタイプの人ってことだよな。なのに自分の代わりの様に請い求めてしまったってことで。……で、その「前」に何となく一度、その「後」に強烈なのもう一回、その距離感間違えやってる。まあどっちも遠距離だったんだが、前者は電話が高い時代だったのでまだよかった。後のはネットという距離がごちゃごちゃになる時代でなあ。危険。対策→自分の対人感情や距離感が何処か周囲とずれてるので気をつけなくてはならないと心するように。結果として一人が楽ということに落ち着いた……そのに。ダイエット→摂食障害(と気付いていなかった)の頃、寮の共同冷蔵庫からこっそりジャムを盗んでも平気な顔してた。食欲とカロリーの関係だけが頭を埋め尽くしていた時期、どうしても食べたいものが頭から離れなくなって、それを食らい尽くさないと気がすまなくなった。一日の目標摂取カロリーが1600だとすると、朝に集中して1200くらい食べてしまって、あとをローカロリー食品で嵩増しして自分も誤魔化してた。で、朝異様に腹が減ってて、自分の手元に何もないと、人のでも構わなくなってた。→これは完全に病的な摂食障害からの認知の歪み。 自動車学校の合宿で怖い教官と、夜中に「いじめたくなるような子だよね」というのを盗み聞きしてしまったショックで弾けてひどいことに。(教官はともかく、翌日すぐに部屋を変えてもらった。一人部屋に)吐かない過食症に。朝から食パン5~6枚かっ食らったり、チョコがけピーナッツを一袋一気に食べるとか凄いことになってた。 その後この「食わずにいられない」衝動をちゃんと収めるのには時間がかかったざんす。メンタルに行くまであかんかったので、十年くらいは頭の中キリキリしてた。対策→ということでメンタル行って今でも薬飲んでるざんす。まずまず安定。 そのさん。家庭教師先で適当すぎた。そのよん。講師についたとこで教室崩壊させてしまった。これはどっちも一緒。「教える職に就きたくないのに就いてしまった」懺悔。結局自分は勉強、というか学問の類は好きなので、わからないことが解らない、とか本を読むのが苦痛とか、そういうのが理解できないとかあるざんす。あと子供が苦手。集団ならなおさら。ノイズに弱いのに、あの集団のエネルギーはすさまじい。で、やっと授業が終わって昼休みとなると、先輩教師から「子供達と遊んできたら?」となる。が、そもそも遊び方がわからん。年度が替わったときにやってきた転校生が、今になってみれば典型的なADHDで、彼を抑えておけなかった→元々前年度、ピアノが弾けないのに音楽専門とかやってたので舐められてた(家庭科とか図画工作はまだよかったかもしれんが)→教室崩壊→ワタクシ声でなくなる→辞めました。対策→そもそも合ってない職に就くもんじゃねえ。自分だけでなく周囲に迷惑かける。よって対人仕事はあかん、と釘さした。つか無理です。はい。自分自身にアスペ傾向があるのに対人はあかんでしょ。そのご。某最初に入った会社で半年で1件しか営業が取れなかった。これはまあ、当時大量に採って、OJTという名目で最初から教材テレアポからはじめさせて、どんどん落としてく企業だった……というのもあるんですが。それでもまあ、当時の課長曰く。「お前はトップセールスマンになるか一番下かどっちかだ」。ですよねー。そら教材に疑問持っていて勧められませんわ……中学は格別勉強しなくても読書さんざんやる奴は適当にとれる、という頭の奴に、どうしてもそういうのが欲しい、というユーザーは理解できないし、心のこもったトークもできまへん。まあそれでもよく半年給料くれたよな…… こういうのが必要経費ってか。上記の摂食障害中でもあり、涙が止まらなくなる日々もありーの、迷惑かけかけあちこち引っ越したあげく自宅に戻った後に辞めました。……その次が上記の講師だから困るんだけどね。この二つの仕事で本当に自分がやってはいけない仕事ってのがわかりましたわー。以上、全部出所は自分の対人スキルと認知の歪みとアスペ入った体質だよな、と自分を慰めつつの黒歴史でしたー。あ、自動車の筆記が三度目でやっと受かったっていうのも認知の歪みだよ。どこかに本気になれないときに頭は覚えようとしないのだ。自分は覚えようとしている、と思っているのに実はそう思っていない。さすがに三度め…… は最後の手段で、試験場近辺の一回5000円の試験屋みたいのに頼ったわい……そもそも自動車運転したくなかったのに「金出すから」と取りにいったもので、結局三十年使ってないもん。ホント、「やりたくないんだ!」と心が叫ぶものだけは把握しておきたいざんす。それが甘いと言われたらどうしようもないんだけど。リアル空間の距離というのはホント、何って難しいんだと。今でもしみじみ思うわ。ところでジッポがカイロですか!格好ええやん!ZIPPO ハンドウォーマー オイル充填式カイロ ジッポー アウトドアライン エコカイロ ハンディウォーマー シルバー クリアケース 40323
2017.12.09
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まだ喉がいがいがしてます~咳しすぎて荒れたか。ところで普段ワタシ仕事のとき、マスク着用です。でないとホテルのハウスダストってたまんないものがあります。特にシーツ剥ぎのときは。空気清浄機最大にかけておくと、ランプがすぐ赤になるくらい。それを100以上の部屋三人で剥ぐ場合は……もしくはベッドメイクしたり部屋のほこりとったり掃除機かけたりするからにゃ……ベッドメイクオンリーで確実に鼻ぐずぐずになるという人もいますからね。で、ワタシは普段は工場でよくかけてた頭からかぶるタイプのマスクを着用してました。頭かけ不織布マスク FM-109(ノーズブリッジ) 100枚入 (2-5856-01)こういう感じね。耳がすぐ熱くなるんで。工場はサイズに構ってられない関係でこっちのタイプを大量用意していることが多かったんどす。で、冬になるとこのタイプをこれ↑ではないですが、箱買いしてました。「頭かけ式」で検索すると出てきます。ところで今年、同僚さんがずいぶん華やかなマスクをしてたんですが。最近は立体布マスクってのが出てるんですねー。何かその人は手作りものをバザーで買ったってことなんですが、こんな感じ……なのかな。花粉予防対策 / 大人用 ガーゼマスク 立体和柄マスク 選べる15柄実際はもっと何というかお洒落花柄みっしりタイプで、つけてた本人も「……もうこれしかなかった」って感じでしたが。でも個人的にはそのくらいの方が楽しそうでしたがね。付け心地は今までで一番良い、だそうで、しかも何度も洗える~と、昔なら当たり前、今だと何か逆に不思議な感が。そうそうこのくらいの柄w布製マスク[メール便送料無料,布マスク,自転車マスク,洗い替え,ベトナム雑貨,アジアン雑貨,代引き不可日時指定不可]だがしかし、【ゆうメール 送料無料】オシャレで実用的 黒マスク 活性炭入り三層 ブラックマスク 1枚 洗って使える 活性炭入りこうなるとまあお洒落の一部ですが。戦前戦後の時代には黒いマスクってのがありましてなー……サザエさんにもあったよなと探ってたけどなかなか見つからない。ううむ。
2017.11.29
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喉がいがいが~トローチなめてもあきまへん。ただし風邪ではないです。作業中のミルクティーにむせまして!……もともとむせやすいんですよ。何故か判らないけど。うがいができないくらいその辺りが敏感なんで、だいたいまず風邪ひくと喉やられます。そもそもは何で喉が弱いかとか、えへん虫がつきやすいとかは、おそらく掘りごたつのせいではないかと……空気悪かったのかもしれまへん。今になってみれば、ですが。あちこち隙間風はありますが! それでも炭ですぜ。灰が出ますぜ。一酸化炭素が……えへん虫はクセになりましてな。小学校二年のときだったかな。わざわざ駅5~6個行ったとこで尻に超痛い注射されるという何か荒療治で治りましたが。……これは明らかにえへん虫そのものというより、注射の怖さに根性で止めたという感じですな。ともかくトローチよりのどあめかなあ。【ビューリ公式SHOP】インフルバリアのど飴 10粒入り×3袋 [送料無料]こういうのもあるんだねえ……
2017.11.27
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タイトル通り。いやーもうこれは高校時代からのお付き合いなのだ。とりゃず毎月通ってるメンタルに行った時についでに出してもらってるのが「モーラステープ」。これがよく効くんだよな~……そらまあ、医者くすりだしな。一応http://www.interq.or.jp/ox/dwm/se/se26/se2649729.html 成分についてhttps://minacolor.com/brands/3843/articles/3837/ モーラステープについて日光かぶれを注意しているんだけどね。まあこれに関しては見えないとこばかりに貼ってるし……いい加減肌も慣れたらしい……毎度同じポイントだしな。日光アレルギーはあるけどこれ別に貼ってるとこだけじゃないし。ちなみにアレルギーの例。すごいどす。気をつけよう。http://soukai213.com/mohrus-tape基本その時しんどいとこに貼ってるんだけど、・腰・腕の関節近く/腱につながってるとこ・肩甲骨の下・背骨の脇・あばらの上がもう鉄板だな。ようすんに、・腰痛・腱鞘炎・ばね指・肩こり・首こりが慢性化しているから、その時特に!しんどいとこに、できるだけピンポイントであちこち貼るのだ。そもそも最初に肩こり~首~やられたのは、高校の時だった。元々インドア志向+受験勉強。とりゃず勉強してそれなりの結果出してれば問題ねえので適当にマジメにやっていたら、やっぱ疲れがたまったらしい。とある朝「首回らん……」寝違えた。これは後で睡眠外来~矯正歯科に行ったとき知ったんだが、ワタシはストレートネックに加え、顎の骨格とか何とか、寝ると気道が塞がるタイプなんだよな。だから頭が高くなると更に息苦しくて、「枕をすると悪夢を見る」というタイプだったんだわ。ガキの頃から! ホントに夢で何か遠近感ぶっ狂いの気持ち悪い奴見て泣き叫ぶことが何度かあったし。結構寝ぼけたり寝言が多かったりするのは結局眠りが浅かったんだよなーとか。まあともかく。だから枕使ってなかったんだな。すると頭が安定しない。で、ある晩きっと「ぐぎ」。さすがに参った。ので接骨院に通ったさー。ついでに小学校中学年だか高学年からの軽い持病の膝の痛み(身体の重みに成長期の膝に悲鳴を上げたんだと!)も診てもらおうと、同時に。電気通したり前身ぶるぶるとか鍼とか。これはまーびっくりするほど、ある日鍼がちょうど良かったのかぺろっと痛みが消えた。膝は大して変わらないが、しゃーないわ、と。これも延々慢性。今より10キロくらい多いとき、さすがに「変形性関節炎になりかけてるよ」と整形外科の先生に言われて、ぎゃーーーーっと慌てて「体重計毎日見るだけダイエット」やったよ……閑話休題。で、首~肩には、モーラスが無論一番いいんだけぢ、とりゃず近いものを探してみた。成分的に。【第(2)類医薬品】【まとめ買い!10個セット!】【テイコクファルマケア】オムニード ケトプロフェンパップ 18枚×10個※セルフメディケーション税制対象医薬品【第(2)類医薬品】 オムニードケトプロフェンパップ 18枚こいつがモーラスに近い市販品らしい。……だがいつも利用するとこに……ねえな……通販しかねえ。そもそも今うちの町には医者が居ないし薬局も無いからなああああああああ。腰痛はまあ肩こりも全部つながってるけどな。特に仕事でパソ使うようになってからひどくなった。坐骨神経痛か!と思ったし。たぶんそうだし。腰が痛いときは足まできりきり痛みが走ることが多かったわーまあ腰はまだいいんだわ。冬は貼るカイロが相等効くし、靴換えたり、両肩でバッグ持つようにしたら、というのもあるから。ただし仕事で腰を酷使するときとか、腰に力が入らない日に動くのはしんどいときもあるけどな。できるだけ床のもの取るときに、スクワット的にかがむ動作で筋肉使わないと。ところでばね指。これはまー、パソもあるけど、プレス工場で働いてたときの名残もありやして。結構手に力入れる作業がありましてな。プレスだけでなく、ドリルと切削とかやってたから。ただこの時に腕が相当いかれた。で、左手の中指が動かすたびにぱきぱき感触がある「ばね指」もつきものになってしまつた。まあこれはある程度制御できて、ミューラーワンダーラップサポートアンクル&リスト品番22528フリーサイズ足首/手首用耐久性・通気性バンデージタイプ好みのフィット感でサポート323(MUTO) ムトーエンタープライズ バンデージタイプ・サポーター サポートラップ アンクル&エルボー [323MUTO]【返品種別A】324(MUTO) ムトーエンタープライズ バンデージタイプ・サポーター サポートラップ ニー [324MUTO]【返品種別A】こういう全体にゴムの効いたバンテージで肘の下をやや強く締めておくことで、手に力を入れやすくなるんだよな。これはその頃の接骨院で聞いて、当時買ったものと似たものをいつも探している状態。下二つが一番近いけどお取りよせかい!適度なサポーターは仕事には必要どす。いずれにしても22~3歳から働き出して、恐ろしい数の転「職場」(工場派遣とかってのは期間が短いんだよ)大半が肉体労働なんでな、そらある程度ガタはくるわな。だからガタが来る前に北海道や四国や東北の日本海側とかをチャリで走りたいんだよな。からだだいじに。
2017.10.29
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「とりあえず水菓子を…」 そう言いながらサボンは寝室へと入ろうとし。 ―――もう少しで皿を取り落としそうになった。「…へ、陛下…」 窓から、皇帝そのひとが入ろうとしていた。「ああいい、いい。そのままで」 慌てて皿を持ち直し、頭を下げようとするサボンを、皇帝は手で制した。「忍びでな」「は、…はい」「ダウジバルダ・サヘ将軍が来る前に、そなたの主人と話をしておきたくてな」「は、はい」「…主人、でいいのだな」「あ、はい、勿論…」 そうだ、自分達の入れ替わりは知れているのだ。サボンは思い出した。「そなたはそれを置いて、少々席を外していてくれ」 判りました、とサボンは言われるままに果物を卓の上に置くと、部屋から出た。「おやサボンさん、手が空いたなら、頼むよ、そこの豆を剥いてくれないかい?」「はい、どうやって…」「せっかくの水菓子が来たことだ。空腹だろう。食べるがいい」 皇帝は足音一つ立てずに窓から降りると、寝台脇に立ち、卓を寄せた。「では失礼して」 アリカは卓の上の蜜柑に手を伸ばす。ざばざばと皮を剥き、ひょいひょいと口に放り込む。「相変わらず物怖じという言葉を知らぬ女だな」「捨てて惜しいものもございませんので」「それにしても、見事な食いっぷりだな」「育ちが育ちでありますので」「ではこれからは化けるがいい」 アリカは手を止める。「陛下、私は」「…居るのだろう? そこに、私の世継ぎが」 皇帝はアリカの下腹を指さした。アリカは大きくうなづいた。「はい」「判るのだな?」「はい」 皇帝は寝台に腰を下ろした。「それで、正気を保っているとはな。大したものだ。その昔、俺はしばらく混乱したぞ。ただの田舎の宿屋の小倅だった俺はな」 その話は聞いたことがある、とサボンは思った。 今上の皇帝は、先代帝が「桜」の戦乱の時に自ら乗り込んだ先で儲けられた方だ、と。 ところが戦場で行方不明になり、それまでずっと、旧藩国「桜」、現帝都直轄地である桜州の州境付近の宿屋で義理の母親に育てられたのだ、と。「だから、出や育ちなぞ大した問題ではない。皇帝の器足り得る身体であるかどうか、の方が大事だ。サヘはよく判っている」「将軍様はあのことを判っておられると?」「いや」 皇帝は首を横に振った。「知っているのは俺とそなたと、あと二人だけだ」「お二人」「母上。それに、祖后様」 アリカはそれを聞き、ふっと天井を見上げた。その様子を見て、寝台に腰を下ろした。「そなたは何処まで理解できた? この十日足らずで」「理解まではまだ」「しかし受け入れることはできたのだろう? なだれ込んでくるあれを」 アリカはうなづいた。「正直、実のところ俺は未だに理解ができん。四十年経って、この様だ」 両手を組んで、皇帝はにやりと笑った。アリカは目を伏せた。「…全て、にわかには信じがたいことばかりでございます」「だろうな」「ただ信じがたいこととは言っても、自分の中からあれほど一連の、系統だった妄想が生まれて来るとは考えにくいですから、陛下を通した、外部からの情報として、それはそれと受け止めております。理解するには時間が必要です。ただ」「ただ?」「身体の調整が―――力の具合がまだ上手くはできません」 言いながらアリカは両手を閉じたり開いたりする。「ふむ。どうなった?」 失礼します、と言ってアリカは皿を運んだ盆を親指と人差し指で摘んだ。 ぴし。 音がした次の瞬間、盆は半分に折れていた。「この程度には」「なるほど」 皇帝はうなづいた。「先程も杯を持とうとして失敗しました」「なるほどそれで蜜柑か。皮のせいですぐにはつぶれまい。むくのも細かい作業ではないな。だが実はそなた、林檎を丸かじりしたいのではないか?」「ええ」 サボンは微かに笑った。「構いませんでしょうか」「構わないさ。俺も一つもらおう」 そう言うと、皇帝は林檎を二つ取り、一つをアリカに渡し、もう一つに歯を当てた。しゃり、と音がする。「そなたには、近いうちに皇后の地位が与えられるだろう」 アリカはそっと林檎を持つと、黙ってかじった。「これはそいつを守るための力だ」 皇帝はアリカの腹を指す。彼女はしゃり、と黙って林檎をかじる。「…だが生まれてからその力を、そなたに与えられた情報を使うも使わないも、そなたの自由」 しゃり。「俺はそれには関与しない。よほどのことが無い限り、そなたはこの帝国で最も強い権力を持つことができるだろう」「それは」 アリカは言葉に詰まった。「…と、やれやれ、そなたの『親父』が到着したようだ。今俺が居たことは、将軍に告げたければそうすればいい。そなたの自由だ」「自由」「そう、自由」 言いながら皇帝は窓辺へと飛び上がる。「一番厄介な、代物だ」
2005.05.16
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「…何だと?」 皇帝が内侍長からその知らせを受け取ったのは、明け方頃だった。「それは確かか?」「…確かと申しますか…」 内侍長は言葉を濁した。「侍医長のホルバ・ケドによりますと、女君自身がそう口にしたとの…」「ふぅん…」 皇帝は顎を一撫ですると、大きくあくびをした。寝台から飛び降りると、寝台に掛けたままの上着と下履きを身につける。「ちょっと出てくるぞ」「…へ、陛下、女君の方は―――」 慌てて内侍長は声を掛ける。「その女の方へちょっとお散歩してくるのさ」「それなら我々も…」「一人で良い。それと」 は、と内侍長は顔を上げた。「サヘ将軍宅へ使いを出せ。すぐに北離宮に来る様にと」「は」 内侍長は頭を下げる。 再び上げた時には、皇帝の姿は何処にも無かった。 ふう、と内侍長ケレンフトはため息をついた。 北離宮の厨房は明け方から大忙しだった。「…まだ糧庫院の方も開いていないというのにさ。ろくなに材料もありゃしない。ああそっちの鍋の煮込みの方が先だよ」 タボーは近くを歩いていた雑人女を捕まえると、者も言わせず食事の用意を手伝わせた。「タボーさぁん…私厨房雑人じゃあないんですが~うちの仕事もあるんですが~」「うるさいね、後で私が縫製方に言ってやるよ。とにかくこの時間じゃああんたしか見つからなかったから仕方ないだろう、エモイ?」「そーですが~」「ともかく、今! 早く食事の用意をしなきゃならないんだ。しかもたくさん!」「たくさんですかあ~はあ~」 はあ、と気の抜けた様な返事をしつつも、エモイは腕まくりをし、煮込み料理を始めた。 言われた通りの野菜を切り、肉を取り出しぶつ切りにする。手際は良い。「焼き物はすぐできる。サボンさんあんたはとりあえず水菓子を持って行っておくれよ」 手が足りない、ということでサボンもまた、かり出されていた。 もっとも彼女が厨房でろくな作業もできない、ということはタボーもこの十日程のうちでよく判っていた。だから彼女には簡単なことだけを指示する。 サボンもまた、言われたことをともかく忠実にやろう、とそれだけで今は頭が一杯になっていた。 厨房の菜庫に置かれた果物の中から、皮をむきやすいものをざっと選び、ざるに移す。外の水場でそれを綺麗に洗い、それから皿に盛りつけて女君には渡す、と。 それでも。「ああああ」 ざるに移す際にころころと幾つか大きめの蜜柑が転がる。 何してるんだ、とタボーも言いたい気にかられるが、あえて言わない。彼女にとってはまず目の前で仕上がりつつある焼き物が先だ。「けど本当に大丈夫なんですかあ?」 エモイが首を傾げる。サボンよりも一つ二つ年下だが、手際は格段に良い。「何が」 タボーは素っ気なく答える。「だって女君は、起きられたばっかりなんでしょー? こんなに食べて大丈夫なんですかねえ」「私もそれは思ったんだけどねえ」 びたん、と焼き物をひっくり返しながら、タボーは口を歪める。「侍医のセンセイも構わないと言ったからねえ。そもそもあのジイさんも首を傾げてたが」 びたん。「とは言えあのジイさんがここの方々のお身体に悪いことは言わないだろ。女君に大丈夫と言うなら」「…なら?」 小動物の様な目で、エモイはタボーを見つめる。「…たぶん、大丈夫なんだろ」「たぶんですかー?」「うるさいね、煮込みはどうだいっ! 噴いてるじゃないかっ!!」 …などとけたたましい会話を背に、水場でサボンは果物を洗う。水場は井戸の側に作られた洗い物のための作業場だ。 汲み上げた水を台の上に置いて、一つ一つを丁寧に洗う。ごしごし。だけど手加減は必要。ごしごし。最初に林檎を洗った時、洗いすぎて皮までむきかけて、タボーから呆れられた。「食材はねえ、大切なものだから、丁寧に扱うんですよ。一つ一つが、食べられるために用意されてる。食べられないものにしてしまうことは食材に対しても、作ったひとに対しても、失礼だ」 だからその日の夕食は、自分の失敗した食材の処理だった。むきすぎた林檎が一つと、生焼けのパンが二つ。茶ではなく、水。それ以外口にできなかった。 無論後で空腹になった。なかなか眠れなかった。 家では、気分がすぐれなくて食事を取らないことはあったが、食事が満足に食べられなくて気分が悪くなったことは無かった。「あんたが今までどういう暮らしをしてきたか私には判らないが、今のあんたはあの女君の世話をしなくちゃあならないんですよ」 タボーはサボンの手をじっと見て、そう言った。 身代わりとまでは思わなかっただろうが、厨房仕事も掃除もしたことの無い家の娘の手だということはすぐに見抜いただろう。「できそうなことを言うよ。あんたがここに居るうちは。言われたことはやる。それだけだ」 タボーはそう言った。だからサボンはそれにうなづいた。 ごしごし。背後でエモイがさっさっ、とタボーに言われた作業をこなしている。胸が痛くなる。悔しい、と彼女は思った。唇を噛んだ。「洗ったら持って行って下さいよ」 はぁい、とサボンはつとめて大きな声を出した。
2005.05.16
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サボンは寝台の脇に膝を付き、アリカを見上げる。「正直、ずっと目を覚まさないんじゃないか、って…」「心配させました」「そうよ、本当、心配したんだから…」 声が歪む。目が細められる。 そこへ、つ、と指が伸ばされる。「泣いては駄目ですよ。時間が足りません」「…時間」「誰も居ない今のうちに聞いておいてもらいたいのです」 サボンは眉を寄せた。アリカは顔を近づける。「何」「私は皇后になります」 え、とアリカは問い返した。サボンは繰り返した。「本当に?」「本当です」「何でそんなこと、あんたに判るのよ」「私だから、判るのです。それに可能性は、ありました」 アリカは口を曲げた。「何であんたは、そういうことさらっと言うのよ…」「いいじゃないですか。戻ってこれましたし。だから愚痴は後にお願いします。まず先に言わなくてはならないことがありますから」「…何」「ともかくもう判っています。私の中に次の皇帝が居ます」「本当なの」「本当です。だから私が皇后になります。だから」 こっちを向いて、と両手で頬を挟む動作をする。触れはしない。力の加減が効かないのだから。「あなた、ずっと、私の側に居てくれますか?」「え」「私がこの先、どんなものになったとしても、一緒に居てくれますか?」 真剣な、眼差し。サボンは思わず軽く身を退く。「どうしたの一体…前から言っているでしょう? サボンはアリカのものだから、ずっと一緒に居るって言うのは…」「ええ。だから、約束ですよ。私が、どんなに変わっても、…変わらなくても、私がアリカである以上、サボンのあなたは、ずっと」「…ええ」「私は変わってしまうでしょう」 アリカは天井を見上げた。「いえ、必ず変わる。変わらざるを得ない。いえ、もう変わってしまっているんです。その結果、態度も変わるし、あなたを足蹴にするような女になってしまうかもしれないし、あなたが泣き叫んで手放してくれと言っても、いつまでも掴んで放さないかもしれない。もしかしたら、さっきみたいに、何かの間違いで、―――死なせてしまうこともあるかもしれない」 サボンはごくん、と唾を呑み込んだ。何を言い出すのだ、このひとは。「それでも、居て下さい。お願いです」「居るわよ」「私が正気を無くしても?」「…居るわよ。だって、あんたが身代わりにならなかったら、私死んでたかもしれないでしょう?」 ええ、とアリカはあっさりうなづいた。「…まず死んでました。そうでなかったら、狂ってました」「そうなの?」 サボンは肩をすくめた。「そうです」 アリカはうなづいた。「馬鹿にしている訳ではありません。あなたや、あなたと同じくらいの令嬢なら、まず死ぬか狂ってました」 アリカは苦笑する。「あんたはどうよ」「私は―――そうですね…何なんでしょう」「運がいいのよ」 サボンは断言する。 「運がいい?」「そうよ。運がいいのよ! だって、生き残って―――皇后になれるんでしょう?」「信じます?」 アリカは首を傾げる。「あんたがそう言ったんでしょ」 サボンもまた、苦笑する。「あんたが眠っている間に、お兄様がいらしたの」「若様が」「これからはあんたの兄上よ。お兄様には可哀想だったけど…あんたのこと、気に入ってたし。…知ってた?」「いえ」 くすっ、とアリカは笑った。「気付きませんでした」「あんたってひとは…」「私はそう器用ではないですから」「冗談」「いえ本当。器用ではないですよ」 ふっ、とサボンは寝台に頬杖をつくと、軽く笑った。「ともかくお互い、ここで生きてくの。お父様も私を娘としては見限ったわ。だったらここで、何とかして、生きていくしかないわよ。あんたがアリカ、私がサボン。…できるだけ、嫌わないでよ。私の方が頼みたいわ」 本当に、とアリカはうなづいた。「お目覚めになられましたとーっ!」 その晩の当直の侍医が、医女を連れてあたふたとやってきたのは、それからまもなくのことだった。「…こりゃまあ」 侍医は眼鏡の下の目を大きく見開いた。「全くの健康です」「あの、先生、お嬢様はお腹が空いたとおっしゃるんですが」 おお、と侍医は手を叩いた。「食欲もお有りですか。よろしい、消化の良いものを…」「私なら大丈夫です」 きっぱりとアリカは言った。 「さっぱりしたものでは燃料になりません。ともかくいち早く身体を動かす力になるものが欲しいです」「しかしあなた様は、十日近く、水の様なものしか口にしておられないのですぞ。さっぱりとしたものから戻さないと、内臓を痛めてしまいますぞ」「ああ…それは大丈夫です」 言いながらアリカは先程の様に膝を立て、横目で侍医を見た。「このままでは、私の中に居る子供が、私の肉も血も食らい尽くしてしまいます」 へっ、と侍医はアリカを見た。「…何ですと?」「そういう診察もしてもらえますか?」 侍医は医女と顔を見合わせた。
2005.05.16
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がしゃ。 鈍い音を立てて、杯が手の中で砕けた。「…サ…アリカさまっ!」 目覚めたアリカはまず水を欲しがった。だから冷たすぎない水を汲み、起きあがった彼女にそっと渡した。 アリカはそれをくっ、と握った。 と。 弾けた水は、砕けた杯は、一瞬にして膝に落ちた。「…」 目を丸くして、アリカはその様子を見つめていた。 サボンは、と言えば。 何が起きたのかまず判らなかった。 とにかくまず目に入ったのは、こぼれた水だった。「どうしましょう…何か拭くもの…」 そこまで考え、手巾を取った時。「…いえ、いえっ、手っ!!」 ひったくる様にして、サボンはアリカの手を見た。 杯が割れたなら、手が傷ついているはず。濡れた膝は拭けばいいが、手に傷がついては。 手巾で血を拭おうとし。「…え」 血はついた。だが。「傷が…」「…うん」 アリカはうなづいた。「そうか…そうなんだな」 納得した様に、まだ所々血の染みが残る手を裏返し、また表にし、繰り返し見た。「大丈夫。傷は塞がった」「塞がった…って」「…本当、大丈夫だから…その手巾、貸して下さいな。それと、そう、掛布をそのまま下ろして…」 はっ、とサボンは気付く。 掛布の上は見事には濡れているし、欠片も飛び散っている。サボンは慌てて、欠片を包む様にして下ろした。「雑人女に代わりをすぐに持って来させるわ」「そうですね…でもその前に水を下さいな…それと、ごめんなさい、呑ませて下さいな」「え」「加減が、まだ上手くできないんです」 そう言いながらアリカは手を何度か握ったり開いたりさせる。 どういうことだろう。合点がいかない。 ともかくサボンはアリカの言う通りに、水をもう一度汲み直し、今度は口元まで持って行った。「…ああ美味しい」 ごくごく、と一気に飲み干す。もう一杯、と要求する。またごくごく。大きく息を吐く。「…私が眠ってから、どれだけ経ってます?」「十日近くかしら」「お腹が空いているはずですね…食事をお願いできますか?」「…え、そ、それは…まず侍医さんに聞かなくちゃ」「侍医の先生に?」「だって、あなた、ずっと、ずっと寝てたのよ? 十日、ちゃんとものを食べていないのよ? どういうものがいいのか聞かなくちゃ…」「ああ…」 うんうん、とアリカはうなづく。「でも、まあ、それは大丈夫です」「大丈夫って言ったって」「侍医でも『生き残った』ひとを診たことはないでしょう? 今の私の身体のことは、私が一番判ります」 言いかけて、ふっ、とアリカは目を細めた。「…いえ、でもそれじゃあまずいですね」「まずい…わよ」 言いながらも、サボンは何処かその言葉に力が入らない自分を感じていた。「何がありました? そう言えば、私が眠っている間。とりあえず私が眠っている間にも、何か呑ませてはくれたんですよね、それを下さいな…とにかくお腹が空いて…」「侍医さんも呼んでくるわよ」「それは雑人女に任せて下さい。お願いですから、あなたはここに居て下さいな」 そう言ってアリカはぐっ、とサボンの手首を掴んだ。途端、ああっ、とサボンは悲鳴を上げた。 はっ、としてアリカは手を放す。「な…に、今の…」 サボンは掴まれた手首をさする。指の跡がくっきりとついている。「…手加減が…ああっ! もうっ!」 どん、とアリカは右の拳で寝台を叩いた。みし、と音がした。「何を…」「力が―――変なんです。加減が」 ほら、と寝台の脇に置かれていた椅子を一つ手にする。軽々と片手で持ち上げる。―――出口に向かって投げる。 ひゃっ、と声がする。「サ、サボンさんっ! 何かありましたかっ!」 投げられた椅子を両手で重そうに下げ、配膳方が杯って来る。 「何でこんなものが飛んで来る…あ、女君!」「やあ…」「お目覚めになったのですか!」「ああいいところに!」 サボンはすかさず口を挟んだ。「タボーさんお願い、そっちの誰かさんに、侍医さんを呼びに行ってもらえますか!?」「…え? ああ、―――あたしが、行ってくるよ」 タボーと呼ばれた配膳方は長い裾をまくり上げて、ばたばたと走り出た。 ふう、とアリカはその様子を見て、立てた膝に腕を載せる。「…あなた十日でずいぶんと、慣れましたね。女官に見えますよ」「ううん」 サボンは首を横に振る。「これでも、かなり精一杯。…私、何も知らないのよ。本当、自分の身の回り、もっとやっておけば、良かった。こないだだって、あんたに作った甘水、運ぶ途中こぼしちゃたし」「やろうという気があればあなたは大丈夫ですよ。それより、聞いて下さい」 アリカはそう言うと、真剣な顔になり、サボンを引き寄せようとし―――首を横に振った。 代わりに手招きをする。近くに。もっと近くに。
2005.05.15
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邸内がにわかに慌ただしくなった。「…まだ夜が明けたばかりだというのに…」 マドリョンカは眠そうな目をこすりながら、それでも玄関まで身支度をして現れた。 宮中から急ぎの使者が来たと言う。十日近く眠ったままだった令嬢が目を覚ました、と。 将軍は難しい顔のまま、後を頼む、とミチャ夫人に告げた。「旦那様」 ト・ミチャ夫人は軽く首を傾げる。 差し迫って困ったことが起きたのだろうか。不安が胸に広がる。 起きて知らせを受けてから、考えが悪い方へ悪い方へと向いてしまうことを彼女は止めることができなかった。 悪い方―――それはアリカの死だった。 宮中に皇后の候補として召されて、亡くなった女性は少なくない。正確な数まで彼女は把握していないが、普通の家に比べて多すぎる、とは聞いている。 アリカが亡くなったらどうしよう。そうしたら次はマドリョンカだろう。順番的には。本人はそれを望んだとしても、ミチャは嫌だった。彼女の求めるものは、より確実な、安定した生活なのだ。生きるか死ぬか、を賭けたくはない。 彼女は夫に問い掛けた。「…あの…まさか、アリカ様が」「そなたは心配することはない」「ですが」「そういう知らせは入ってはおらぬ」 では行く、と扉を開けかけた時。「父上、我等も参ります」 ウリュンと、その友人二名が既に身支度を整えて現れた。「…心配なさるのはありがたいのですが、これは我が家の…」「良い。三人とも来るがいい」 え、という夫人の前を一礼してすり抜け、三人は将軍について館を出た。 宮城は既に主大門を開いていた。 門番の兵士が彼等に一礼する。うむ、と将軍は軽く顎を引いた。「今日もいい天気になりそうだ」「は」 住み込みの雑人や、女官達は日の出から仕事に入る。 将軍とその息子、二人の武人はそこで馬を降りた。 馬番の雑人に、それぞれの厩舎に連れて行く様に命ずると、彼等は北離宮へと向かった。 北離宮は、後宮の端の端にある。 広い宮城の、中央の議政殿を斜め横断できれば早いが、それは許されない。中殿や後宮に通じる道は決まっているし、小門の出入りも厳しい。 長い、とウリュンは思った。足も何となく重く感じる。昨日の酒が残っているのかもしれない。小さな砂利のざくざくという音がひどく耳障りだった。 夜明け前、最初に邸内のざわつきに気付いたのはセンだった。彼は目もいいが耳もいい。そして何より、不審な気配に敏感だ。「何ごとだ?」「あ、若様、実は…」 廊下をばたばたと走る一人を捕まえて訊ねたところ、宮中の使いが来たことが判った。 彼等は慌てて身なりを整えた。「妹さんに何かあったのだろうな」 サハヤは断言し、眼鏡の下の瞳を細めた。 だろう、とウリュンも思った。「我々は関わらない方が良いか?」 サハヤは問い掛けた。ウリュンは少しだけ迷った。これはサヘ家の事情に関わることだ。 アリカとサボンの入れ替わりは、まだ父将軍と自分しか知らない。母や妹、ミチャ夫人が今後彼女達に会いさえしなければ、ずっと守られるだろう秘密だ。「混乱しているな」 センは彼の気持ちを端的に言葉にした。ああ、と彼は答えた。そして二人の方を向き。「―――頼む、一緒について来て欲しい」 どうしてそう言ってしまったのか、ウリュンにも正直、判らない。 いや、それより、父将軍がそれを易々と許したのかが判らない。 ただ一つ言えることは、自分の目の前で、サボンが妹になり、妹がサボンになってしまうことを、決定づけられるということだ。 あきらめろ、と自分は自分に言いたいのかもしれない。 できるだけ多くの人目の中で、自分が欲しかった少女をさっさと「手の出せないもの」にして欲しいのかもしれない。 父の命令でもなく、自分の弱い意志でもなく、強制的な、何かによって。 しかしそれでもまだ、心は入り乱れている。ささくれ立っている。玉砂利の音が、うるさい。 北離宮は、主大門から一番遠い。 既にそこには、幾人もの医師や医女が詰めかけている状態だった。「どうした」「あ…これは将軍様」「娘の容態が変わったと聞いたが」 医師達は無言のまま、将軍に道を開けた。「こちらへ」 ウリュンや二人の武人達に対しても同様だった。彼等の大半の身分は、三人の若い武人に比べて低い。 控えの間には、少女が卓にもたれてうとうととしていた。見覚えのある髪の色に、ウリュンは口を開きそうになった。 だが。「サボナンチュ」 将軍は少女の方へと進むと、ぐい、とその肩を掴んで起こした。 はっ、と少女は目を開くと、口を開きかけ―――こう言った。「将軍様」 そして勢い良く立ち上がると、すっと頭を下げた。「申し訳ございません。この様な格好で」「うむ。―――あれはどうか?」「お目覚めになられ、…少々お気が高ぶっていらっしゃる様です」 アリカ様は、とウリュンの妹は、付け加えた。
2005.05.12
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今は亡き第二夫人ムギム・テアは将軍の幼なじみだった。 そうト・ミチャは夫から聞いている。 子供の頃は妹の様に可愛がり、それがいつの間にか異性への感情に変わった、と。 だが、だからと言って、幼なじみの感情はすぐに結婚には結びつくことはできなかった。 身分の違いは関係無かった。 若きダウジバルダ・サヘもムギム・テアという少女も、その実家の格も資産も下級貴族程度だった。釣り合いは取れていた。 テアの身体が弱くなければ、彼等は何の障害も無く、いや誰からも祝福を受け、晴れて結婚できたことだろう。 だが現実はそうではなかった。 そしてまた、ダウジバルダ・サヘが武人として周囲の予想以上の力を示してしまったことが、彼等の結婚の障害となった。 下級貴族程度で満足していた親族が、そこで彼に期待を寄せたのだ。 先帝の御代の中頃、帝国の統一期のどさくさに紛れて武人となったサヘ家にとって、願ってもなかった逸材。それが彼だった。 周囲は彼に、引いては一族に利のある結婚を望んだ。 彼はそれに逆らうことはできなかった。逆らおうとも考えていなかった。 一族が選んだのは、副帝都に進出を目論んでいた北方の商家の娘アテ・マウジュシュカだった。 逞しい身体と冷静な判断力を持つ彼女は、娶された時、二十歳を幾つか越えていたダウジバルダ・サヘより、更に五つ歳上だった。 地方によって婚期は異なるが、それでも彼女は「嫁き遅れ」の部類だった。 実家は喜んでこの縁談を進め、持参金も援助も喜んで請け負った。 ダウジバルダは周囲に抵抗することなく、あっさりと結婚した。 マウジュシュカはやがて息子を一人産んだ。ウリュンだ。 跡取り息子が生まれ、家のことは正妻には任せられる。彼は職務に励んだ。 彼は特に、辺境の内乱平定にはその力を最大限発揮した。即位したばかりの今上帝は、度重なる彼の功績に、幾度も褒賞を送った。 それだけではない。功績を一つ上げるごとに、軍内での彼の地位は上がって行き――― やがて彼は、帝都に館を持つことを許される、将軍の一人となった。 その頃、彼には正妻マウジュシュカの他に女が二人居た。 一人は幼なじみのムギム・テアであり、もう一人は、娼妓として売れ出していたト・ミチャである。 ト・ミチャの元に彼が通いだした時、既にテアはサヘ家の第二夫人となっていた。 彼女のために彼はわざわざ家の静かな側に別棟を作った。彼女の寝所の窓から良く見える庭を木々や花で飾らせた。時を惜しんで彼女の元に出向いた。 ―――ただ、床を共にすることはなかった。 当時ミチャは将軍に訊ねている。 自分のところより、その最愛の奥様の所で過ごせばいいものを、と。 すると将軍は言った。出来ぬ、と。 医者に言われているのだ、と彼は言った。 子供が出来る様なことがあれば、テアの身体は保たない、と。 子供を生かしておくことも、堕胎させることも、出産も、全て彼女の弱った身体に負担を掛けてしまう、下手すると命に関わる、と。 だから自分は、決して彼女を抱くことはできないのだ、と。 その代わりの様に、彼はミチャを抱いた。 娼妓になる前は農民の娘であった彼女は、ただ美しいだけでなく、丈夫だった。 長くこの暮らしをしていれば、不健康になって行くかもしれなかったが、幸いなことに、彼女はそこまでその生活に浸ってもいなかった。 彼女は自分の居る位置に満足はしていなかった。 無理な望みこそ抱かなかったが、可能な夢は見た。できるだけ良い家の旦那に引き取られ、一生きちんと食べていける様――― さてそんな彼女の夢を知っていたのか知らずか、将軍は昼の時間が空くとテアと会い、夜の時間が空くと、ミチャの元に通った。 やがてミチャは長女を身ごもり、それを機に将軍は彼女を第三夫人として引き取った。 同じ屋根の下に暮らす様になって、更に二人の娘を産んだ時、穏やかな第二夫人と会う機会があった。 彼女達は同じ夫を持っていても、滅多に顔を合わすことは無かった。 挨拶に赴く機会がそれなりにある第一夫人と違い、ある意味同じ立場にある第二夫人には、どうしても会わなくてはならない、という必要性が少ない。また、下手に会うことによって波風も立てたくはない。 ましてや自分の夫がもっとも大切にしている第二夫人である。悪い印象を与えたくはない。 ミチャにとって大切なのは、食う寝る所に住む所が一生困らない穏やかな暮らしなのだ。 だからできるだけその機会は少なくして来ようとしたミチャだったが―――「第二様がお茶にお誘いする様にと」 言われてしまっては、行かない訳にはいかなかった。 初めて会った第二夫人は華奢だった。なるほど確かにこれは将軍に抱かれたら壊れてしまうだろう、とミチャは思った。 だがその夫人は。「子供が欲しいのです」 そう言った。「どうしてあの方は私を抱いて下さらないのでしょう」 率直すぎて、眩暈がした。「教えて下さいな。どうすれば貴女の様に可愛らしい子供を作って下さるのでしょう」 そう言われても困る、とミチャは思った。将軍は彼女の身体を思って触れずにきたのだ。しかしそれは通じていない。いや、通じていたとしても、それが果たして彼女にとっても良いことなのか。「旦那様に、正直におっしゃったら如何ですか?」 含みも何もなく、ミチャはそう答えていた。 同じか、少し歳上だろう第二夫人を、彼女は可憐だ、と思った。不思議なくらい、女としての嫉妬心がまるでかき立てられなかった。 それから程なくして、第二夫人はアリカを身ごもった。そしてそのしばらく後、ミチャはマドリョンカを身ごもった。 アリカケシュを産んで、テアが亡くなった時、ミチャは訳もなく泣けてくる自分が不思議だった。 だからという訳ではないが、アリカが宮中に入った、と聞いて、ト・ミチャは微妙な気持ちになったものだ。 アリカはウリュンとも、彼女の娘達ともよく遊んでいた。実際きょうだいなのだから、仲が良いのは結構なことだと思う。 ただ… 何かが、腑に落ちない。 そう感じる時がある。「おかーさま」 膝の上で末娘が呼ぶ。何、と彼女は問い返す。「アリカは皇后様になれるのかしら」「さあどうかしらねえ」 宮中から急ぎの使いが来たのは、翌日の早朝だった。
2005.05.10
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「…全く…はしたないったらありゃしない」 将軍の第三夫人ト・ミチャはこめかみに指を付いた。「だって、おにーさまのお友達がいらっしゃるなんてぇ、滅多に無いことじゃあなくって?」 マドリョンカはそう言いながら両手を広げた。「そんな滅多に無い機会を逃すなんて、阿呆のすることだって、おかーさまいつもおっしゃってるじゃあないですか」「まあそうですがね」 ミチャ夫人はふいっと顔を上げた。そこには義理の息子に対するやや萎縮した態度は何処にも無かった。「お友達って言ったって、色々あるでしょう!」「ふーん?」 にやりと笑い、マドリョンカは腕を組む。「それは、出世頭か、ってことかしらん? おかーさま」「そうです」 ミチャ夫人はきっぱりと言った。目が座っている。「出世ですかー…まあ、あまりしそうにはないですね」 シャンポンは反対向きの椅子にまたいで座ると、黄色い林檎を一つ取った。そして内心思う。彼等は出世とか考えるには、人が良すぎる。 だがそれは口には出さない。代わりに林檎にがぶりと食いつく。白い歯が噛み砕く。しゃくしゃく。「何ですかシャンポン、お行儀が悪い」「そうよ姉さん、このままじゃあ絶対に行き先は無いわよー」 しゃくしゃく。 黙ってかじりながらシャンポンは眉を寄せる。 ああ全くこのひと達は何ってそっくりなんだろう。「ともかくマドリョンカ、誰彼構わず秋波を送るというのは、利口ではありません。お姉さんを見習いなさい」「いいえ別に私は何も」 ほほほ、とセレは笑う。穏やかな笑み。「たまたま、お母様に連れられて行った宴会の場に、あの方がいらっしゃったのです。それだけですわ」 結婚が決まった長女は、あくまで穏やかに言う。きっちりと結われた髪、ごくごくありきたりの服、色合い、絵に描いた様な「上品な令嬢」。 シャンポンは苦笑する。「姉様のお上品さは地だよ。あなたは生まれつきの貴婦人だ」「嫌ぁね、おだてるものじゃあないわ」 そう言うと、ではお休みなさい、とばかりに長女は自室へと立ち去った。「マヌェもねむいー」「ああそうだね、一緒に寝る?」 わーい、とばかりにマヌェはシャンポンの手を取り、やはりその部屋から退場する。 残されたのは、似たもの母娘だけだった。「で、シャンポンの言う通りなの?」「あらおかーさま、シャンポンは信用できなくって?」 マドリョンカは母の足元にぺたりと腰を下ろす。膝に腕を乗せる。「あの子とあなたの見方は違うでしょう?」 まあね、とマドリョンカはうなづき、ふふ、と笑う。 その笑みを見ながら母夫人はしみじみ思う。この子が自分に一番似ている、と。 そしてその一方で、見上げるその瞳の強さは将軍のそれだ、と感じてしまう。まだ若かった頃の、何かを追う様な目。 夫人は娘ばかりを四人産んだ。娘で良かった、と思っている。 将軍は男子が欲しかったと言う。シャンポンは自分が男だったら、とぼやく。「若様」ウリュンも同様だ。 だがもし自分が男の子を産んでいたら。それを考えると怖ろしい。 特に自分は、第二夫人を差し置いて子供を次々に産むことができたから。身体が弱かった第二夫人と違い、多産系だったから。 娘をたくさん。そう願い、そう産んだ。 セレは最初の子供で―――将軍の子であるかは疑わしい。 当時のト・ミチャは、芸妓として名が売れ出した頃だった。芸妓の宿命として、幾人もの男と関係を持っていた。 サヘ将軍もそれは承知だった。彼女を第三夫人にすると決めた時、既に彼女の中にはセレが居た。将軍の子かどうかは判らない、とト・ミチャはきっぱりと言い放っていた。 正直、成人したセレを見て彼女は思う。自分と将軍の子にしては、あまりにも素直で穏やか過ぎる。だからこそ、武人ではなく、文人の名家に嫁がせることを望んだ。母なりの努力もした。結果、彼女は望みの嫁ぎ先を手に入れた。 それに対し、シャンポンには明らかに将軍の血が出ていた。面差しも感じ取れたが、何より武芸に対しての勘が良い。 口ではうるさく言ってはいるが、母夫人としては、シャンポンはあれで良い、と思っている。 実のところ、彼女はシャンポンを外に嫁がせるつもりはなかった。 理由は―――その下の娘にあった。 マヌェ。彼女はいつまでも子供だ。そしてこの先も子供だろう。嫁がせるのは無理だ。 彼女をこの屋敷で一人にはできない。誰か、側で守る人間が欲しい。乳母は居る。だが乳母に実権は無い。それに彼女より長生きするとは限らない。 幸いマヌェはすぐ上の姉が大好きだし、シャンポンも彼女を可愛がっている。守ってやる気でいる。 だったらそうさせよう。彼女はそう思った。 元々がこの家にとって他人である自分より、将軍の血を引いているシャンポンに任せた方が安心できる。自分にもしものことがあっても。 武芸が立つ女のまま、ありのままの彼女を好いてくれる誰かが婿に来てくれれば、言うことは無い。 そして末の娘は。 マドリョンカは最後の子供だ。 彼女がそう決めた。第二夫人がアリカを身ごもった時に、そう決めた。自分はこの子と同じ歳の子供を産んで打ち止めにしよう、と。 四人も居れば充分だ。将軍の三番目の妻として、たとえ身分が低くとも、この家でそれなりの地位を築きあげることができた。 ト・ミチャは最初から知っていた。自分が第二夫人の「身代わりの女体」でしかないことを。
2005.05.03
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「わからない…ひと?」「ああ…」 マヌェの言葉にサハヤは目を伏せた。「うん、まあ、それは―――あまり、口に出さない方がいいね」「そうよマヌェ」 セレも口をはさむ。「…あまりそれは、不用意に言ってはいけないことよ」「そうなの?」「そうだよ」 ぽんぽん、とシャンポンも軽く頭をはたく。 ああ、とウリュンはうなづき、友人にちら、と視線を移した。「鳥様も緑様も別にどうだっていいわ」 ぽん、と焼き菓子を口に放り込みながら、マドリョンカは肩をすくめる。「ともかく宮中に入れば、桜様とお近づきになれるじゃないの。たとえ―――ほら、上手くいかなかったとしても、それでもよほどのことがなければ宮中から追い出すことは無いんじゃないの?」「それはどうかしらね…」 セレは苦笑する。「あなたが知らないだけかもしれないし…」「居続けようとすれば何とかなるわ」「あなたってひとは…」 ふう、とセレは頬に手を当て、ため息をつく。「いけない?」「向上心があるのは良いと思う」「あら」 マドリョンカはセンの方を向いた。「堅そうな方に思えたのですけど?」「宮中が衣装が、そのあたりは俺には判らぬ。ただ貴女がひどく前向きということだけは判る。人は前向きの方が良い」「あら、いいこと言うじゃないですか」 くすっ、とマドリョンカは笑った。 卓に置かれた菓子が無くなる頃、戸を叩く音がした。「お母様…」「ミチャ様」 彼女は部屋を見渡すと、はあ、と大きなため息をついた。「あなた達ったら… 何処探しても居ないと思ったら…すみません若様…それにお客様も。この子達が失礼なことを」 早口でそれだけ言うと、将軍の第三夫人ト・ミチャは四人を慌てて連れだした。「また来て下さいな」「マドリョンカ!」 あはは、と末娘の笑いが廊下に響いた。そしてそれを叱る母親の声も。 五人の足音が遠ざかるにつれて、ウリュンの部屋は一気に静かになった。 ふう、と男達は息をつき、座る位置を移った。 やがて誰ともなく、残された酒をそれぞれの杯に注ぎだした。「結婚が決まった、と言ってたな…」 ぽつん、とサハヤがつぶやいた。「え?」 ウリュンは顔を上げた。「いや、めでたいことだと思って」「ああ、セレか…正直、かなり嫁き遅れなんだよな」 確かにそうだった。自分より年下であることには違いないが、二十二という歳は初婚にしてはひどく遅い部類に入った。「僕等の地方ではさほどに歳のことは言われないが…」「俺の方もだ」「うん、…そうかもな」 そうかもしれない、と彼も思う。嫁ぐ年齢というのは、あくまでこの地方の習慣に過ぎないのだ。 それでもこの地に住み、人の噂が気になる名家の一つに加えられている以上、無視できないことだった。「この辺じゃ、アリカやマドリョンカの歳で結婚が決まるのが普通なんだ。…正直、シャンポンだってかなり遅れている方って言われてる」 友人達は黙ってうなづいた。「ただまあ…うちの場合、シャンポンはあの通りだし」「うん、まあ、な。あれは男勝りだけど、馬鹿じゃあないんだ。頭はいいし。だから、父上が決めたなら、それに逆らいはしないと思う」「そうか?」 センは驚いた様に問い掛けた。「そうだろ。結局はシャンポンだって、自分が女だってことは良く判ってるんだ」「そうか」「そうだよ」「あの子は? マヌェ―――ちゃんは」「あれでもマドリョンカより二つ上なんだけどな」「嘘だろ」 咄嗟にサハヤはそう問い返していた。卓に乗りだした勢いで、眼鏡がずれた。「十八だよ、あれでも。あれだって普通だったら、嫁ぎ先が決まっていてもいいんだが…」 ウリュンは目を伏せる。 緑の公主の話が出た時に、正直、サハヤが口をはさんでくれて良かった、と彼は思った。「病弱でね。それに、そう、何って言うか…いつまでたっても、子供なんだ」「…そうか」「なるほど」 友人達は短く答えた。「嫁がせるのは酷だろう。たぶん、一生この家に居ることになるだろうな。ただ」 ただ? とサハヤはウリュンの顔をのぞき込む。「そうすると、シャンポンまで結婚しない、と言いかねないんだよな…」 はあ、とウリュンはため息をついた。「シャンポンさんは閣下のご命令なら聞く、と言っていなかったか?」「…だから最終的にはするだろうが…その時に、下手すると、妹を一緒に連れて行きかねない勢いなんだよなあ…」 はああ、と先程より更に大きなため息をつく。「彼女は心配なのだな」「心配? まあ、そうだろうな」 病弱、いつまでも子供。身体だけではない。 心も、頭も―――「大変だな、お前」 サハヤはしみじみとつぶやいた。
2005.04.30
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帝国版図の中央よりやや南東。 現在は政府直轄領となっている「桜州」はかつて藩国「桜」と言った。 温暖な気候、豊かな緑に恵まれたその国は、夏は高温で湿気が多く、冬は冷たい風が吹く青天が続き乾燥した。―――四季が存在したのだ。 人々は、移り変わる季節に応じられる服を作り上げていった。夏には風通しが良く、冬には体温を逃がさない様に。 現在の帝都付近に住む人々と、何よりも異なるのは胸元だった。 首の前でざっと合わせただけの襟には、きっちりと留めるためのぼたんも紐も無かった。長い上着を、腰の辺りで帯で留めただけだった。ずぼんもスカートも無かった。 単純なつくりだったと言ってもいい。 だがそれは彼等にとっての完成形だったとも言える。それ以上の形は必要が無かったのだ。 形の進化が止まれば、意識は自ずと生地に向かう。「…ずいぶんとでこぼことしている」 センはぽつりと言った。「失礼な方! これは今一番人気の絞り染めですのよ!」「…む…昆虫の目の様だ」 うんうん、とセンは納得した様にうなづく。「あーもうっ! おにーさまっ!! この方本当に失礼っ!」 マドリョンカはセンを指さして怒鳴る。ウリュンは頭を抱える。「…まあ言うな。だいたいお前、僕等にそれを言っても無駄だって判ってるだろうが」「綺麗か綺麗じゃないかだけ言ってくれればいいのよっ! まぁったく、男ってのは無粋なんだから」「そりゃあそうでしょう」 セレは口元に手を当て、くすくす、と笑う。「殿方はそれで宜しいのですわ。一生懸命お仕事に取り組んでらっしゃるんですから」「あーあ、うらやましい」 シャンポンはそう言いながら椅子にもたれた。「私も本当、男だったら良かったのになあ。武芸も学問も、面白いけど何の役にも立たない!」「だったら役に立つことをすればいいだろうが」「兄上は私に姉上の様にひなが刺繍をしたり菓子作りをしろとでも?」「できない訳ではないだろう」 ウリュンは眉を寄せる。 そう、確かこの妹は、決してそういう家庭的なことができない訳ではないのだ。 がさつな行動が「好き」だが、令嬢一般のたしなみは一応こなすことができる。―――好きでないだけで。「シャンポンに言っても無駄ーっ、お兄様。せーっかくおかーさまがこのひとに似合う流行の服とか選んでも『動きにくい』のひとことでどれだけ箱詰めになってることか!」 ひらひら、とマドリョンカは手を振り、ふんっ、と胸を張る。「女は美しく装うべきなのよっ」「まあそれは否定しませんね」 ふふ、とサハヤは笑う。「サハヤ様は話が判る方ね」「いえまあ、何と言うか」 彼は苦笑する。「それにしても、ミチャ様はアリカのことを心配されていたのか?」「ええ」 セレはうなづく。「そんな心配だったら、私を送り込んでくれれば良かったのにねー」「そういう訳にはいかないでしょう。でももしアリカ様が…その、駄目、だったら、シャンポンかあなたが行くことになるでしょうね」「私が行くわよ! そうしたら」 マドリョンカは姉のほうにぐい、と身を乗り出す。「ねえそうでしょ? おにーさま。アリカ様も私も、同じ歳だもの。若くて元気よ」「順番というものがある、マドリョンカ」 シャンポンはとん、と杯を置いた。「判ってるわよ」 マドリョンカは口をとがらせる。客人二人の方をじっと見る。「つまりねー、私達のおかーさまってのは、おにーさまの母上様よりも、アリカ様の母上様よりも、ずっとずっとずーっと、身分が低いの」「む」 センは軽く眉を上げた。「母御のことをそういうものではない」「でも事実よ。だから年齢がどうあれ、私の気持ちがどうあれ、おとーさまはまずアリカを宮中に入れたんだわ! 私あれだけ私にして私にして、ってお願いしたのに!」「お前…そんなことしてたのか」「だって宮中よ!」 マドリョンカはどん、と両の拳で卓を叩いた。「皇后さまになんかなれなくてもいいの。宮中だったら、いっそ女官でもいいわ。…ああでも駄目ね、女官だと制服になってしまうもの。おにーさまご存知? 桜の公主様」「い、いや…」「『最後の三公主』のお一方のことかな」 サハヤが口をはさむ。「…何だそれは」「まあ何って言うか、女性の間で広まっている呼び名だよ」「そうなのか?」 ええ、とウリュンの問いに妹達は一斉にうなづいた。「現在降嫁先がお決まりになっていないのは、アマダルシュ様とイースリャイ様とイムファシリャ様のお三方だ」「その中で、一番美しく、衣装選びに長けていると言われているのがアマダルシュ様。『桜好み』もあの方が言い出されたことだわ」「…そうなのか?」 ウリュンは友人に問い掛ける。そうらしい、とサハヤはうなづく。「イースリャイ様とイムファシリャ様は同い歳。イースリャイ様は幼い頃地方暮らしで、自由に過ごされたせいか、帝都に入られてからも、時々ふらりと城下に行ってしまわれて周りが大変だと。自由に飛び回る『鳥の公主』と呼ばれてます」 セレが説明を引き継ぐ。「イムファシリャ様は?」 四姉妹は顔を見合わせた。やがてマヌェがぽつりと口にした。「『緑の公主』さま」 緑の。ウリュンの眉が寄った。「一番末のかたなんですが…何と言うか、その…」「構わない、言ってくれ。どういう噂が立っているんだ?」「わかんないの」 マヌェがぽつりと言う。「あのかた、わからないひとなの」
2005.04.29
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「何やってるんだお前等、こんな所で…セレ?」 ウリュンは問い掛け、ゆるやかなとび色の髪を後ろで編み揃えている女性の方を見た。「いえ、お客様がいらしていると聞いて」 ほほほ、とそう言いながらセレと呼ばれた女性は空いた手で肩掛けを掴んだ。「だいたいセレナルシュ、お前結婚が決まったんだろ! 何で今ここに居るんだ? あっちの屋敷に居なくちゃならんだろ!」「お姉様はだから、居るんでしょ」 うふふ、と笑う声が廊下に響く。「マドリョンカ…」 はあ、とウリュンはため息をつく。「結婚なんかしたら、こんな、お兄様のお友達をのぞき見などできないでしょうに」「…やぁね、マドリョンカったら」「だって本当でしょー?」 明るい色のふわふわとした髪を二つに振り分け、マドリョンカは大きな薄緑の瞳を広げる。「ねえお兄様、お父様とのお話はお済みになったんでしょ? あたし達をお友達に紹介して下さってもいいんじゃなくて?」 くっくっく、と彼女は笑う。「…マドリョンカ、兄上が困ってるじゃないか」 助け船。と思った彼は再びため息をついた。「お前…まだそういう格好なのか?」「何ですか、いけないとでも?」「いけないも何も、シャンポン…、いやシャンポェラン、お前、自分が二十歳の女性だということ、判ってるのか?」「よぉく判っております。しかし武術の訓練はこちらに来たとて休む訳にもいかず」「だから武術の訓練はなあ…」「兄上、そう目を三角にしないで下さい。マヌエが怖がってます」 ん、と兄は妹達の方を改めて見た。四人居たはずの彼女達が三人にしか見えない。「…マヌエ…?」 その声に、シャンポンの背から、お下げ三つ編みの少女はそっと顔を出した。「マヌエは大声出されるの嫌だもんねー」 マドリョンカはそう言いながら、少女の頭を抱えた。ぅん、とマヌエは軽く口をとがらせた。 その時。「…廊下の声は響く、ウリュン」 低い声が、廊下にもう一つ響いた。 判ったもう中に入れ、と兄は妹達を手招いた。「ミチャ様は最近如何だ?」 ずらり、と低い卓を挟んだ長椅子に掛けた妹達の、誰ともしれずにウリュンは問い掛ける。「おかーさま? そうねえ、元気よー」 マドリョンカが答える。この娘は十六になったばかりだ。「それにアリカさんのことも心配してたわ。お嬢様大丈夫でしょうか、って」「アリカのことを」「不思議なんだよなあ、母上は」 シャンポンは呑気な口調で言いながら、ちらちら、と兄の両側に座った男達の方へ目をやる。 ―――いや違う。ウリュンは気付く。この妹の目的は、男達ではなく、男達の前に置かれた酒だろう。 二十歳になるこの妹は、酒に滅法強い。良家の婦女子としては、全くもって問題のある性質である。 だが、そもそも彼女に関しては、見た目からして問題がある。行動の一つ一つにいちいち兄は突っ込んでもいられない。 男勝り。そう言ってしまえば簡単だ。 シャンポン―――シャンポェランは、まず、武術と作文の才能に恵まれていた。 もっともそれだけなら構わない。 きりっとした顔立ちは美人の部類に入る。だがその顔や、引き締まった体を生かす様な、身を飾るということを知らない。知ろうとしていない。いや、むしろ軽蔑しているふしがある。 「いっそ男に生まれていれば」。 そんな嘆きが年を追う毎に使用人達のあちこちから洩れる。父将軍も口にしたことがあるとウリュンは聞いている。 おそらく彼女が男でなかったことを嘆かないのは、たった一人だろう。 ウリュンの母親、将軍の第一夫人である。 彼自身と言えば―――そのあたりは微妙だった。正直、自分以外の男子が居て、将軍家に相応しいなら、そちらが家を継げば良い、と思っているくらいである。 自分が凡庸な人間である、ということは彼自身が一番良く感じていることなのだ。 やがてシャンポンは予想通り、さりげなく、非常にさりげなく、酒壺に手を伸ばした。「だーめ」 ぺん、と音がする。「…何だよマヌエ、いいじゃないか」「駄目よ」 お下げ髪が揺れる。「…ちぇっ…マヌエに言われちゃあなあ…」 仕方ないや、とシャンポンは茶に手を伸ばす。「全くお前は、マヌエには弱いな」「それじゃあ兄上は強いんですか?」 そう言いながらシャンポンは、傍らの妹の肩を抱く。む、とウリュンは眉を寄せる。「…駄目だな」「駄目でしょう」 あはは、とシャンポンは笑う。 しかし笑い事ではない、と兄は思う。 彼から見て左端に座った妹は、いつまで経っても「少女」にしか見えなかった。 長い上着。小さな子供に着せられる、動きやすい服。下履きは無い。 十八にもなる娘が、その格好は無い、と彼は思う。右端に座る、彼女より二つ下のマドリョンカはおしゃれをして、―――色気付いているというのに。「ねえねえお兄様、これ、どぉ?」「マドリョンカ、また…」「セレ姉様も着たいって言ってたじゃない! 『桜好み』」「その奇天烈な服がか?」 ぽん、とウリュンの左で声がした。「…あ、それって失礼ですよー、ええと、ツァイ…」「センで良い。珍しい服だ」「…本当、凄い、失礼っ」「そうだよ、女性にそういうことを言うのは失礼だ」 サハヤは穏やかに彼女達に笑い掛ける。「桜好みというのは、確か旧藩国『桜』の服を真似たものでしたよね」「そう。よくご存知ね」 ふふ、とマドリョンカは笑った。 彼等の上着は基本的に、立てた襟と、左側で幾つかの紐やぼたんで留めるものである。 長さ、色、模様、材質、筒袖の有無はその用途や立場によって異なる。 例えば今この時、武術の稽古を欠かさないシャンポンは筒袖の細い内着の上に、袖無しの短い上着、それにゆったりとした下履きをつけている。 セレの上着は腰の辺りまであり、袖は長く、広い。そして下は巻きスカート。年頃の女性の衣裳として、巻きスカートは欠かせないものである。 「桜好み」はその上着が異なっているのだ。
2005.04.21
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「…何故そう思う?」 将軍は問い掛ける。息子は押し黙る。啖呵を切ったはいいが、次の言葉が見つからない。 煮え切らない態度。悪い癖だ、と将軍は思う。「まあいい。確かに儂はほのめかした。二人が入れ替わりたいならすればいい、と」 ウリュンは父親の顔をにらみつける。「大した問題では無い」「…大した問題では、無いですと?」「あれがアリカであれサボンであれ、我が家から出た娘であることに間違いはあるまい」 それは、とウリュンは言葉を切る。 確かにそうだ。世襲貴族の家には、娘が無くて同族の貧しい家から養女にした上で宮中に入れた例も幾つかある。「立場を選んだのはあの娘達だ。アリカは自分の名とサヘ家と一族を捨ててでも無事に生き延びることを選び、サボンはそんなアリカに同意した―――か、それをアリカに持ちかけた。それだけのことだ」「では―――父上が、アリカの命を惜しんで、ということでは無いのですね」「…皇帝陛下にお世継ぎが誕生する方が先決だ。気の進まぬ娘から良い子は生まれぬ」「しかしサボンの気持ちというものは」「あれは儂が拾った娘だ」 ぐっ、とウリュンは言葉に詰まる。それは事実だ。「あれがまだ部族自身に囚われていたのを解放した娘だ。あれは、儂がどう使おうと構わんと言った。それはあれが三つの頃だ。度胸がある。それに頭もいい」「頭が?」 それは初耳だった。 …いや、聞いても、耳を素通りしていたかもしれない。「アリカより、お前より、いや、お前の自慢する友人、そう、今来ていると言ったろう」「サハヤのことですか」「そう。ネカスチャ・サハヤ・クセチャは評判の秀才だそうだな」「…はい」「軍でお前と同じ暮らしをしているというのに、兵法や様々な部族の言葉だけでなく、文芸にも通じているというではないか」「…そうです」「そう言えばもう一人、今日は来ていると言ったな。何と言ったか。あの『姓無き部族』の青年は」「…センですか。ツェイ・ツ・リュアイ・リョセン」 上官はよく、彼の名を皮肉を込めて一度に呼ぶ。 ツァイツリュアイリョセン、と。よく舌を噛まないものだ、とサハヤはその都度感心している。ウリュンも同様だった。だから名前の最後だけを取り、センと呼ぶ。呼ばれている当人は、どう呼ばれているかにはさほど関心も無い様である。 彼はこの帝国臣民の大半が名前の上に持つ母姓も、下に置く父姓も持たない。 いや、彼の部族がそうなのだ、とウリュンは聞いている。 彼等は実の父母を明らかにされない。 子供は皆の子供であり、部族の皆が親である。 そのせいだろうか、彼等の名はひどく長いことが多い。 意味が長いのだ、と無口な友人はぽつりぽつりとウリュンに説明したことがある。「彼は彼で、素晴らしい武人だということだが」「…はい」「お前は彼等の友人として、恥ずかしくない振る舞いをすべきだ」 つまりそれは。ウリュンは内心思う。こんな、妹や、女のことでうだうだと悩むな、ということだろうか。「判ったら行け。お前は友人達を待たせているのだろう。本日の客人だ。客人は充分にもてなしてやるがいい」「…はい」 それ以外、ウリュンには何も言えなかった。 扉が閉まると、将軍はふう、と息をつく。 長男は、跡取りの息子は、彼にとっては悩みの種だった。 無論最初の子であり、たった一人の男子であり、跡取り息子である。大切な、息子である。 だが、どうしても、自分の跡取りとしては、凡庸すぎた。 これが代々文官を勤める家や、世襲貴族、さもなくばいっそ、市井の商家にでも生まれれば良かったかもしれない。 ―――が、あいにく彼が生まれてしまったのは、将軍の家なのだ。 サヘ将軍とていつかは引退するだろう。 その時息子はやはり武官としてある程度の位置にあって欲しいと彼は願う。 これまで彼が築き上げてきたものを、受け継いで欲しい、と思う。武官の家が、文官として出世するというのは難しい。その武官でも、世襲貴族でない、いわゆる「成り上がり」の場合は――― あきらめろ。様々な意味を込めて、将軍は内心、息子に呼びかける。 一方、息子はため息をつきながら、友人達の待つ部屋へ行こうとし――― 扉の前に、華やかな山を見つけた。「…やめてよ、痛いってば!」「だって見えないじゃない、…もうっ」「…だから、止めましょうって、…あの…」「あーもう。無駄無駄、こいつ等に言ったって」 戸から漏れる光。のぞき見。彼は苦笑する。「…こらお前等、はしたないぞ」 ふわり、ととりどりの色のりぼんが跳ね上がる。「…お兄様っ!」 四人の妹達は兄の方を一斉に向いた。
2005.04.15
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「つまり」 将軍は息子に向かって言う。「―――結局、お前の不満はどちらだ?」「え」 ウリュンは胸の奥で飛び跳ねるものを感じる。「アリカを宮中に送り込んだことか、それとも―――」 ざざ、と両肩の毛が逆立つのを感じる。「サボンを身代わりにしたことか?」 ぐっ、とウリュンは唇を噛んだ。「…なあ」「何だ」「遅いよな、ウリュンの奴」「ああ」「僕等には楽にしていてくれ、と言ったけど、なあ…」 客人用の部屋。その寝台の一つの上で、サハヤはぐるりと辺りを見渡す。「…お前…楽にしすぎ」「何がだ」 センは言いながらサハヤに視線を移す。その両手には、手近にあった椅子。「幾ら客人として呼ばれたとは言え、一日の鍛錬を欠かすのは以ての外」「いやそれはいいんだが…」 せめて椅子はよせ、とサハヤは内心つぶやく。だがこの友人に言っても詮無いことも、彼は良く知っていた。 手にした椅子は決して軽くは無い。目の詰んだ硬い木材を使い、どっしりとした安定感のある肘掛け椅子だ。 それを片手に一つづつ持っては、センは膝の屈伸を何十回と繰り返す。「どうした?」 センはその体勢のまま問い掛ける。「長いな、と思ってね」「仕方なかろう」「まあ確かにね」 サハヤは思う。あの友人から休暇後に「父に会った」という話を聞いたことは滅多に無い。話してくれるのは大概、うるさい母親と、可愛い妹達の話ばかりだ。「…確かウリュンの母君は第一夫人だったよなあ…」「そうだったか?」「…お前に聞いても仕方ないな。だった、と思うよ。で、確か、今度宮中に入ったという妹さんが第二夫人腹で、第三夫人腹で四人の妹さん達が居るってことだけど…」 その第三夫人が現在同じ屋根の下に居る。「マドリョンカ―――マドリョレシナ、って言ってたな、奴。その子が一番年下かな。今年十六ってことは。あ、でも確か宮中に入ったって子もそのくらいじゃ…」「そうだったか?」「だからそこで律儀に返さなくてもいいって…」「ええ、その通りです。俺は、俺の知らぬ間にアリカが宮中に入ってしまったことを怒ってるんじゃない。サボンが身代わりになっていることを―――」 目を伏せる。「怒っているのでは、無いのです」「では何だ」 将軍は静かに問い掛ける。 ゆらゆらと、卓に乗せられた燈火が揺れる。「判りません。怒っていると言えば怒っている…けどもう、過ぎてしまったことに、どうこう感じても仕方が無い。でも―――」「お前は」 将軍は息子の言葉を遮った。「結局はサボンが欲しかっただけなのだ」「…そうかもしれません」 そう。ウリュンはかつて自分が軍務に就くために帝都に向かう際、サボンを付けて欲しい、と父親に願ったのだ。 その時父親は言った。女のことを気にしている暇があるのか、と。 彼は父の言葉にその時は納得した。確かにまだ早い、と。だがいつかは、と期待していた。 ウリュンはサボンを気に入っていた。小さい頃からだ。彼等が十になるかならずかの頃から、三人で転げ回って遊んだものだった。 第一夫人であるウリュンの母は、同じ屋根の下に暮らす第三夫人のことは明らかに厭っていた。 将軍家に対し相応の家柄の出身の彼女は、市井の酌妓の出である第三夫人の存在自体をできる限り無視している。しようとしている。その娘達にしても同様である。 だがアリカに対しては違った。 アリカの母親である第二夫人は、最初から政略結婚だった第一夫人と違い、将軍と何らかの恋愛感情が先に立っている。 ただ身体が決して強くはなかった第二夫人は、将軍が止めるのも聞かず、第三夫人の末娘とそう変わらない時期に、アリカを産んだ。そして彼女は命を落とした。 結果、将軍はこの娘を他の子供達よりも可愛がることとなるが、さすがにそれに対し、第一夫人は文句をつけることはできなかった。 いや、文句をつける程のことも無いと思ったのかもしれない。第二夫人の出は決して悪くは無い。だが後ろ盾になる程でも無い。 父親の庇護無しでは何もできない、とるに足らない子供。それが第一夫人にとってのアリカだった。 それ故に彼女はアリカが息子の遊び相手であることに対し、表立っての反対はしなかった。 ただ彼女にとって誤算だったのは、アリカでなく、そのお付きであるサボンだった。 アリカが彼にとって一番近しい妹である以上、サボンとも接する機会は多い。華やかな美女ではないが、妹よりずっと賢いこの少女を、彼は面白いと思っていた。 やがてその「面白い」が育つにつれ「好き」に変わった。欲しくなった。自分のものにしておきたくなった。 彼は父将軍に頼んだ。答えは「否」だった。「だから怒っているのでは無いのです。ただ、はっきりさせたいのです。父上」「はっきり。どんなことだ」「アリカは自分達が勝手に言いだしたことだ、と言ってました。ですがそれは本当ですか?」「本人がそう言ったのなら、そうなのだろう」「そうではなく」 苛立たしげにウリュンは両手を広げた。「あの二人が自分から入れ替わることを、父上は初めから予想されていたのではありませんか?」
2005.04.11
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「若様!」 やあ、とウリュンは扉を開けた使用人に、やや苦笑する。「お帰りになるのが判っておりましたら、…」 彼の後に続く二人の青年に、使用人は目を走らす。「友人だ。今夜は泊まる。部屋の用意を」「はい」 足早に使用人は下がる。奥ではやがてざわざわと声がし始める。「…とりあえず食事と寝るところくらいは提供できると思うよ」「食事と寝るところって、君」 サハヤは眼鏡の位置を直す。先程から彼の視線は止まるところを知らない。「いや、でも、こっちの家は狭い方だし」「だからそれは君の感覚だよウリュン。僕なんかからしたら、この部屋一つ…いや」 腕を広げる。高い天井を見上げてはあ、とサハヤは息をつく。「…この長椅子一つ取っても、寝台より豪華じゃあないか」 彼等は入ってすぐの間に並べられた椅子に掛けていた。文様の入った、ざっくりとした荒い目の布地が張られた椅子。官舎の、麻縄ががっしりと巻かれたそれより遙かに上等であることは間違いない。「でも椅子には違いないだろ。副帝都の本宅に来てくれたら、君をずいぶん驚かせることができるだろうな」「いつかご招待してくれ」 はあ、とサハヤは眉間を押さえた。 将軍の官宅ということで、興味があった。豪華だろう、と予想はある程度していた。 だが結局、予想は予想に過ぎない、ということが彼には実感できた。彼の認識では、これは「家」じゃない。少なくとも、彼の知る「家」とは全く違った「建物」だった。 一方、もう一人の客人は、と言えば。「…そんなに叩いてもほこりが立つだけだぞ、セン」 ぽんぽんと椅子のあちこちをはたく友人に、ウリュンは再び苦笑する。うむ、とセンは表情一つ変えることなくうなづく。「いい椅子だ」「君がそういうとは思わなかった!」「丈夫だ」 低い声でそう言うと、センは黒に近い色によく磨かれた肘掛けを今度は叩いた。 やがて使用人が彼等の前に小振りな卓を運んで来る。その上には茶器と、軽いふわふわとした焼き菓子が置かれる。 ウリュンは淡い黄色のそれを一つつまみ、口の中でふしゅんと溶かす。「食事の支度はしばらくできないのか?」「軽いものでしたらすぐにでも用意致しますが」 使用人はさらりと答える。「皆様だけでしょうか? それでしたら若様のお部屋へお持ち致しますか? それとも…」「父上は?」 言葉を遮ってウリュンは問い掛ける。 不在ということは無いだろう。帰りを暗に示したのは、他ならぬ父自身なのだ。「はい、お帰りです」「父上と食事を一緒にできるだろうか? 彼等を紹介したい」 そうですね、と使用人は少し考え込む表情となる。「少々遅くなりますが。旦那様は只今お客様と」「判った。話は色々あるのだな。じゃあ頼む。もう少し腹にたまるものをくれないか。これじゃあ、妹達のお茶の時間の様だ…と、」 顔を上げた。もしや。「誰か、来ているのか? 母上か?」 彼は慌てて問い掛ける。「いえ」 即答する。微妙に彼の口の端は上がっていた。「奥様ではございません。第三様が、お嬢様方としばらく滞在する、とのことで…」「いやまて、マドリョンカはまだ十五じゃなかったか?」「いえいえ若様」 ぱっ、と使用人の表情が明るくなる。「マドリョレシナお嬢様は先日、十六のお誕生日をお迎えになりました」「そ、そうだったか?」 仕方ありませんね、と微妙に笑みを浮かべつつ、使用人は再び下がって行った。 その姿が見えなくなると同時に。「何だ、君、妹さんの誕生日を忘れていたのか?」 サハヤは横に座る友人に問い掛けた。「…あー…五人もいるからな、つい…」「五人…それは多いな…いや、五人だろうが六人だろうが! 姉妹の誕生日を忘れるなんて!」「サハヤは誕生日をいちいち覚えているのか?」 低い声がウリュンの向こう側から問い掛ける。「…ふっ。君は覚えていないだろうね」「誕生など、新年に祝えばいい。俺の故郷ではそうだった」「ツェイ・ツ・リュアイ・リョセン、君の故郷ではそうだったかもしれないがね、僕の故郷でそれをしたら、女達にしばらく相手をされなくなるよ」「別にされなくても良いじゃないか」「困る! 困るんだ!」 サハヤは即座に声を張り上げた。「君は僕等の故郷を知らないからそんなことを言えるんだ…」「知っている。南東海府のテ島だろう。あそこは海草が美味い」「ああ、だったら俺はいつか行ってみたいな」 ウリュンはやっとそこで口を挟む。この二人の会話に飛び込むのはなかなかに難しいものがある。「そうだね、いつか来るといい」「俺の方にも来るといい」 センもまた、真ん中に座るウリュンにさらりと言う。「何も無い。だが夜の星の数と、乳茶くらいは出す」「上等」 にやり、とウリュンは笑う。 そう、いつか行ってみたいものだ。南東海府のテ島も、センの故郷の草原の地も――― いつか。「お食事の用意ができました」 三人がそう呼ばれたのは、それから半時程してからだった。
2005.04.05
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「いけません、いけません、若様!」「五月蠅い、息子が父親に会いに来て何が悪い!」「ここではあなたは…」 下官は肩を掴もうとする。すり抜ける。ああもう、と言いながらまた腕を伸ばす。掴まらない。 将軍の跡取りとして鍛えられた足はそれなりに速い。アテ・ウリュン・サヘはさくさくと廊下を歩いて行く。 妹の顔を見てからすぐ、彼は父将軍の行方を求めた。 大軍営本庁ではなく、内衛庁の方へ出向いていると知ったのは、中天より四半天も経った頃だろうか。 本庁は広い。建物も広いが、その中に所属する機関もそれなりの数である。 ウリュンはその中でも帝都周衛に所属している。 だが彼はまだその中の一武官に過ぎない。 小将軍、と呼ばれることもある。が、それはあくまで周囲の期待か皮肉を込めた呼び名に過ぎない。 周囲だ。 父親は彼を周囲と同列に扱う。ただの一武官、若手の武官として。 そこに「有能な」がつくかどうかも判らない。 十三で軍務について以来、特別扱いは、無い。 従ってこの日、サヘ将軍の動静を知れたのは「有能な」友人のおかげであると言える。「東海の遠征の件については、既に陛下にご報告済みだそうだよ」「そりゃあそうだろうさ。あれからもう結構な時間が経っている」「ただそれについて、陛下も相変わらずのご様子だったらしいけどね」 丸い眼鏡の角度を変えながら、すらりとした長身の友人は彼に言った。「新しい女君が入ったから、ということらしいが」「…」 ちら、と友人はウリュンを見た。「君の妹、らしいね、ウリュン・サヘ」 ちっ、とウリュンは舌打ちをした。「何処からその情報を手に入れた」「それは言わない約束」 いろいろあるんだよ、と後ろに流した髪を撫でつける。 自分の跳ねっ返りな髪とは大違いだ。鬱陶しくて、ウリュンは癖も立たない程に短く短く髪を刈っている。 放浪僧の様だ情けない、と将軍の第一夫人である母親は嘆く。軍人に外見など、とウリュンは一言で押さえたが、母親のその時の表情はひどく苦々しいものだった。思い出すたびに胸が塞がる。 そんな気持ちに気付いているのかどうなのか、友人は続ける。「あのさ、今の君の問題は僕のことじゃあないだろう?」「…まあね」「皇帝陛下がそちらの方を何よりも御優先させるのはもう数十年来の周知の事実」「ああ」「今回の、東海の件の処理より大切さ」「…今回の件よりも!」 そう、と友人は静かにうなづく。「『閉じた海』に消えた我らが軍勢の件も、お世継ぎ問題のためには据え置きになっている。本日のサヘ将軍閣下も、その新しい女君のために、後宮の警備を強化する件について内衛庁に籠もっているのだろう」「内衛庁か…」「ここ数日、詰め切りだ、ということだよ。その理由は定かではないけれど、急にそうなったらしい。さてどういうことだろうな」「君は判っているんじゃないか? サハヤ」 さあて、とサハヤは笑った。 そうして内衛庁へやって来たウリュンだったが、直接将軍に会うことは拒絶された。 一武官が私用でわざわざ職務中の将軍に会うには、幾つかの手続きが必要である。 だがそんなことを言っていられない。彼は上官の上官の上官としての将軍ではなく、父親に用事があるのだ。「困ります! 私どもが…」「叱責は全て私が受ける」 そう言って彼は扉を開けた。執務室には斜め横に副官の姿があった。「父上」「―――ここで取り次ぎをせずにやって来る者に話は無い」「急ぎの用なのです、アリカの―――」「ウリュン!」 鋭い声が息子を叱責する。「…今宵は家に戻る。不用意なことは口にするな」「申し訳ございません、閣下」 開けられたばかりの扉を閉じ、彼はちっ、と舌打ちする。 アリカの名前一つ出しただけであれだ。だがそれだけだ。うろたえている様子は無い。 大股で内衛庁から出る。自分も家に今夜は戻らないといけない。彼は自分の持ち場へと足を進めた。 その途中、覚えのある声を聞いた。「せーっ!!」 よく通る声。練武広場の方だった。 土埃を上げ、大地を駆ける音。 かぁぁん、と長棒と長棒の交差する、乾いた音。 あれは、とウリュンは足を止める。 かんかんかんかん、音が幾度も響く。かんかんかんかん。 かん。 音が止まる。 だがそれは勝負がついたからではない。「貴様それはっ!」 上官の止める声。ああまだだ、とウリュンはぱん、と額に手を当てる。長棒が一つ、投げ出され。 次の瞬間、大地に一人が横たわっていた。 その手には長棒は握りしめられ。大丈夫か、傷は無いか、とその場に居た者達が駆け寄る。「…これは練武だと幾度繰り返せば貴様は覚えるのだ!」「すみません」 低い声。ひとことぼそり、と勝った方は頭を垂れる。 先程相手を大地に横たえたその大きな手を彼は何度か結んで開かれる。 ウリュンには遠目でも展開は良く判っていた。幾度となく、自分の目の前で繰り返された光景。 ああまあちょうどいい、と彼は勝利者を怒る上官に向かって駆け出した。「副左官どの!」「お? …貴様、練武をさぼって何処に行っておった!」「申し訳ございません、サゴン副左官どの。実は父に少々用事があり…」 父。その言葉に上官は眉を寄せる。「…む…それなら仕方あるまい」「それで本日は、実家の方に戻らねばならないことになりましたことをお許しいただきたく」「仕方あるまい。実家の事情と言うなら」 は、と同僚達が白けた顔で肩をすくめるのがウリュンの視界にも飛び込む。慣れた光景。 たった一人をのぞいて。「お前はうちへ帰るのか?」 低い声が、彼に訊ねた。「ちょっとな。…何だったら、お前も来るか? セン」「いやまだ練武が残っている」 冗談じゃあない、と周囲はざわめいた。 この日、既にこの男の速さと手刀により、どれだけの武官が倒されたことか。「あー…貴様はいい、ツェイツリュアイリョセン! いい機会だ、将軍閣下にご挨拶の一つもして来い!」「はい」 低い声。そしてあくまで表情は固く。 ウリュンのもう一人の友人は、そう返事した。
2005.03.27
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「…お前」 人払いのされた部屋で、青年はサボンをにらみつけた。「自分が―――自分が、何をしたのか、判っているのか?!」 どう答えたらいいのだろう。言葉がなかなか出てこない。 判っている。自分が取り返しのつかないことをしてしまったということは。 * 既に七日。 目の前で、自分の身代わりの少女は昏々と眠り続けている。 あの朝。サボンが寝過ごした朝、アリカが起こしてくれなかった朝。あれから。 あの几帳面な彼女が、朝の光に目を醒ますこともできず、動くことができない眠りにつなぎとめられている。 微かな寝息。一見して安らかな眠りとも感じられる。 だがその身体を巡る血の流れは速い。 脈を取る医師の表情は重い。「非常にお身体の中が忙しく働いております」 そう言われてサボンは嘘だ、と思った。「けどぴくりとも動かないではないですか」「血の巡りが―――もしや、…あなたは蝶の蛹を見たことがありますかな」「蛹? いいえ」「芋虫が蝶に変わることは」「そのくらいは…でも見たことは」「ずいぶんとお嬢さんとご一緒のお暮らしだったようですな」 微かにサボンはむっとする。「芋虫は蝶になる前に蛹の姿をとる」 ええ、と彼女はうなづく。そのくらいは知っている。「蛹自身は眠っているかの様にじっとしているが、その中では驚くべき変化が行われているのですぞ」「…それが」「芋虫はそのためにもぞもぞと動きながら一生懸命食物を口にする。…だがお嬢さんはそうはできなかったようですな」「…あの…」「なかなか大変なことになりそうじゃ。機会を見つけては、甘水を吸い飲みで流し込んでやりなさい。できるだけちょくちょく。水菓子の汁、蜜水、何でもよろしい。口にすればすぐに身体を巡る様なものがよろしい」「は、はあ…」「何だね頼りない。今が大切なのですぞ」「大切…」「聞いていないのですかな。この時期に命を落とす女性方が多いということを」 あ、とサボンは声を漏らした。 医師はため息をついた。哀れむ様に彼女を見た。「あ、あの…お―――将軍様は、私には、その様な」「なる程…まあサヘ将軍の様な勇猛果敢なおひとは、自分の家の召使いも同じと思ったのか! それとも女というもの、言えば怖がるとお思いになられたのか! だが娘さん、それじゃあいかん。それじゃあいかんのだよ!」 医師はそう言うと、さらさらと紙に何やら書き出した。「配膳方にこれを渡しなさい」 ざっと目を通す。甘水。水菓子の中でも特に味の濃いもの、絞ると汁がとろりと濃いもの、―――中にはこの帝都でも珍しいものもある。季節に反しているものもある。「口にさせたほうが良いものだ」「け、けど」「目を醒ますかどうかはあなた次第じゃな。ええと、サボナンチュさんや」「…え…あ、はい」 そうだそれがサボンの正式名だった、と彼女は思い出す。 そしてこの目の前で眠るのがアリカケシュなのだ。 自分がもしかしたら、そうなるかもしれなかった姿。眠り続ける、蛹の姿。 蛹の中で、何が起こっているのかは、誰も知らない。「一体いつまで、お眠りになるのですか」 医師は首を振った。「今まで儂は二十四人の女性を見送らなくてはならなかった。二十五人見送ったら宮中を去ろうと考えておる」 そうならないことを祈る、と彼は言い残して北離宮を去った。 配膳方は侍医から渡された書を読むと、黙々と作業を始めた。まずそれは、必要な食材を入手することからだった。「私が出ている間、女君には牛乳に蜜を混ぜたものを時々吸わせてやって下さい」 人肌に温める、と付け加えると、配膳方は外へと飛び出して行った。 サボンは一人残され、おぼつかない手つきで、何とか牛乳にとろりとした糖蜜を入れ温めた。だが慣れないことはやはり難しい。鍋一杯に作ってしまい、無駄極まりない。 吸い飲みに何とか掬い入れ、人肌まで冷ますと、眠るアリカの枕元まで持って行く。吸い飲みを頬に当てる。起きてちょうだい。そう願いながら。 目覚めはしない。だが吸い飲みを口に差し込むと、口はすうすうと中身を吸った。流れ込んで行く。喉がごくりと鳴る。 サボンは少しばかりほっとする。 しかしどのくらい呑ませればいいのだろう。呑ませっぱなしでいい訳がない。その程度の理性と分別はサボンにもある。 とりあえず二杯目を用意しておこう、と彼女は立ち上がった。そして次に幾らかアリカが欲しがる素振りを見せた時に、すぐに口にできる様に、自分の胸で冷めない様にしておこう――― そう思った時だった。 ばたばたばた、と外で音がした。「いけません、ここには」 下働きの声がする。「何事ですか」 サボンは戸を開く。「兄が妹に会いに来ただけだ! 病気だと! それの何が…」 はっ、と彼は息を呑んだ。視線が絡む。 サボンは口を開きかけ―――慌てて手を当てた。いけない。その言葉を言っては。 代わりに出たのは、下働きに対しての。「下がって…」「けどサボンさん」「いいの、この方は、お嬢様の」「お嬢様!?」「下がって、ね。本当よ、将軍様の跡取りの方で」 そのままサボンは彼を部屋へと通した。 *「自分が―――自分が、何をしたのか、判っているのか?! …アリカ…」 呼ぶ名は小声だった。聞こえてはいけない。だが呼ばずにはいられない。そんな口調だった。「ええ、判っております。ウリュン兄様」 いえ、と彼女は目を伏せる。「もう、そう呼んではいけませんのですね、小将軍様」
2005.03.22
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「ああ、それはな」 その夜。 問い掛けたアリカに、のしかかる男は囁いた。「呪いの絵だ」「呪い、ですか?」「そう、それも、二代の后の」 二代の后。この日は眠らずに控えていたサボンは思わず聞き耳を立てる。「二代様とおっしゃいますと、確か…」 アリカは言葉を濁す。「春逝皇后と称された方だ」 そう、確かにそうだ。サボンは思う。 帝国で今までに皇后は三人。初代祖帝、二代皇帝、三代武帝それぞれにたった一人づつ。 その一人づつに、国は名を送っている。 建国に到った戦いを皇帝と共に戦った女傑には冬闘祖后。 若くして自ら命を絶った二代の后には春逝皇后。 そして地位を捨てて放浪に旅立った三代の后には風夏皇后の名が送られている。「これは春逝皇后マリャフェシナ様が亡くなる前に繰り返し繰り返し詠っていた言葉に、当代の絵師カイリョーカが触発されて描いたものだ」 カイリョーカ、と言えばサボンも知っている、三百年程昔の絵師だ。細い、あっさりとした線画を得意とし、現在でも散逸している彼の作品を求める者は多い。「…けれど」 少しばかり熱の籠もった声が問い返す。「何故に、そのカイリョーカの絵を、この様な色鮮やかなうねりで隠すのでしょう…?」 あ、という声が混じった。「それはな」 ふふ、と薄く笑う声がする。「隠したい。だが隠すのに惜しい。そういうものだからだ」「隠す…?」「つづきものだ、とそなたは言ったな」 答えは無い。「そう、春逝皇后は確かにつづきものの題材を残したのだ」「…初耳です」「それはそうだ。そうそう知る者は居ない。知ろうとする者も居ない」 いや、と皇帝は微妙に言葉の端を上げた。「見ないふりをしたいのだろう」「え…」「今ではほとんど知っている者は居ないはずだ。私が宮中に入った頃でも知っていたのは年輩の女官くらいなものだった」「それは…」 凄いわ、とサボンはふう、とため息をつく。確かにアリカは知識欲の権化の様な少女ではある。だが。 それでもまだ、嫁いで三日目の夜なのに! あれだけ何やら、経験したことの無い未知の感覚に驚き、焦っている様な声を立てているというのに! それでも聞こうという姿勢を崩さないというのは。 そもそもサボンはじっと控えて座ってこの様子を聞いている訳である。それだけでもう大変である。気持ちはいっぱいいっぱいなのだ。 手には汗、唇はひきつり、眠いと思いつつその都度耳に飛び込む会話につい眠気を醒まされ。 甘やかされて育ってきた富裕な令嬢特有の耳年増な想像力は大変なことになっていた。 普段鉄面皮と言ってもいいくらい冷静なアリカが、あの薄い帳の中で、一糸まとわぬ姿になって、どんなところを、あの、おそれ多くも皇帝陛下に触れられているというのか。まさぐられているのか。いやそれとも。いやいやいや。 もう大変である。 なのに当の本人は、最初の夜に疑問に思ったことをきわめて冷静に問い掛けている。二日目でないあたり、冷静もいいところだ。一日かけてじっくり天井絵の観察をサボンと共にし、そのうえであたりさわりのない質問を探していたらしい。 絵は全部で七種類あった。 寝台の真上の絵がどうも起点らしい。 一枚目、女は手に剣を持ち、走り出す。 二枚目、走り出した女はふわりと崖らしい所から飛び降りる。 三枚目で女は長棒を手に空を眺めている。 四枚目も同じ絵だったが、女の手に長棒は無く、見つめているのは高い壁。 五枚目で女は壁の中に入り、花に埋もれる。 六枚目、女は手一杯の花を壁の外にばらまく。 そして最後の七枚目は。「…もしかしたら、そなたは理解できるかもしれないな…」 皇帝はつぶやいた。 * 翌朝。 ご苦労、の言葉を残し皇帝は夜明け前にやはり戻っていった。 ようやく仮眠をとることができる、とサボンは自分の寝台にさっさと潜り込んだ。 そして。「いつまで眠ってらっしゃるんですか!」 配膳方の声で目を醒ましたのは、既に昼近くだった。 慌てて身支度を済ませると、寝台の中、アリカは眠っていた。「…アリカ…」 元々の自分の名を呼びかけるのは未だに違和感はある。だが必要だ。何度か呼びかけた。だが目は開かない。揺り動かしても、すーっ、と静かな寝息を立てるだけだった。「…これは…」 配膳方が侍医の一人を呼んできたのは、それからすぐだった。
2005.03.17
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「珍しい女だ、そなたは」 つ、とアリカは顔を上げた。その目の前に手が差し出される。「来い」 * あ。 ああああああああああ。 うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。 朝の光が、窓から差し込んでいる。 朝の光が、窓から差し込んでいる。 朝の光が窓から差し込んで… つまり。 今は。 朝ってことで。 さぁっ、と、サボンは全身から血の気が退くのを感じた。 眠ってしまった眠ってしまった眠ってしまった。 お付きの女官は主人(とまだいまいち彼女の頭と心は納得と認識を上手く噛み合わせていないが)が皇帝と床を共にする時にはその様子を一晩中うかがっていなくてはならない。 理由は幾つかある。 一つは主人が上手く皇帝の相手をできているか確認するため。詰まったら助言するため。 そしてもう一つは、主人が下手の行動を起こした時の用心である。 正直サボンにとって、自分がどちらにしても役に立てるとは思っていなかった。だがだからと言ってぐーすかと眠ってしまうというのは、それこそ不敬にあたるというものだ。 寝所は―――と言えば。静かだ。 そぉっ、と彼女は其の方をうかがう。 え。「ええええええっ」 思わず彼女はうなっていた。「ええっええっええええっ?」 寝所には誰も居なかった。皇帝は無論、アリカまで。 サボンは慌ててばたばたと部屋の外へと走り出た。 と。「あ、おはようございます」「お、おはよう…」 じゃなくて!!「…あ、あんた、何って格好…」「あ、すみません、ちょっとお借りしました」 準女官服姿のアリカはあっさりとそう言った。手には全体から熱気を漂わせる茶器と、軽い食事。「…と、ともかく…」 ひきずりこむ様にしてサボンはアリカを中に入れた。こんなところ、他の誰かに見られたら。「あ、陛下でしたら、また今夜も来るとおっしゃられて、明け方頃お戻りになりましたよ」「…そ、そう…」 ふうっ、と大きく息をつきながら、サボンはともかく座って、と同じ服を着たアリカに椅子をすすめる。くす、と微かにアリカの笑う気配があった。「大丈夫ですよ」「何がよ」「陛下はあまり聞かれるのがお好きではないようです」「…まあ…好きなひとは…居ないでしょうね」「とりあえずお目覚の一杯をどうぞ」 そう言ってアリカはサボンにお茶を注ぐ。「濃い茶ね」「宮中の女官の常用はこの茶葉の様です」「…ってあんた誰かに聞いたの?」「この北離宮の配膳さんに」「…会ったのね…」「ああ、でも大丈夫ですよ。顔は見せなかったし、髪はほら」 よく見るとアリカの髪は、きっちりと結われている。引っ詰め髪を後ろで髷にし、その上に大きなりぼんを飾る、女官なら当たり前の髪型だ。 そもそも二人が入れ替わることを考え、実行するうえで、彼女達は様々な条件を一応加味してみたのだ。 甘いその色が似ていなかったら、二人はこの計画を考えただけで挫折していただろう。 副帝都のサヘ将軍の自宅から、帝都の宮中まで「サヘ将軍令嬢」は顔を隠された。だが髪は隠せない。美しくお付きに結われた髪は、家族や使用人を含め、出て行くから目に触れられるのだ。 背の高さは靴でごまかせよう。体型はゆったりとしたこの国の服で判らなくなる。 そして顔というものは。 案外記憶に残らないものである。「配膳さんは忙しくて、私の方を見向きもしなかったですから」「忙しい?」「夜は補助の女官が宮殿膳所からお手伝いに来ることもある様ですが、早昼膳については、配膳さん一人で全て行うということで」「早昼膳?」「新しい女君は起きるのが遅いだろう、ということで、早めの昼ごはんが朝を兼ねているそうです」「…そんなぁ。お腹空いちゃうじゃない」「だと思いまして」 くす、とアリカは笑った。「あなた将軍様のお躾で早寝早起きを心がけられてますから、きっと昨日の今日で今朝はお腹空いていると思いまして」 良く見ると、茶器の乗った盆には、幾らかの腹のたしになる様な、あまり甘くない菓子も置かれている。「ああありがとう~」 サボンは思わずアリカに抱きつく。どういたしまして、とアリカはその頭を撫でた。「あ、でも、と言うことは、その早昼の時には、配膳さんが来る訳でしょ?」「ええ、その時までには、着替えて髪も何とかします」「そうね、それで」「はい?」「…昨夜…あれで、上手くいったの?」 うーん、とアリカは苦笑した。問うサボンの目の色は不安と好奇心が半々に見える。「そうですね」「うんうん」「でも聞いてはいたんでしょう? 途中までは」「…あんたが寝所に入った途端、急に眠気が」「…呑気ですね」「私もそう思うわ。ああ何とかしなくちゃ。あんたがもしちゃんと孕んだら、私女官だし」「孕む保証は無いって言ったでしょう」「人間、一番悪いことを考えておくと後が楽って言ったのはあんたでしょうに」「それはまあ」 確かにそうだった。「そうですね…一応首尾良く何とかなった、というところでしょうか」 アリカは軽く視線を天井に泳がせる。ふとそこに描かれた模様が目についた。うねうねとした、色鮮やかな。「ああそうか…」「何がああそうか、よ」 突然明後日の方角に思考を向けてしまったらしい相手に、サボンは眉を寄せる。「いえ、昨夜は結構怖ろしげに見えたのですよ。天井の模様が。でも、これ、つづきものなのですね」「?」 ちょっといいですか、とアリカはサボンを手招きする。寝所へと連れて行く。 寝具は乱れてはいなかったが、取り替えられてもいない。閉ざされていた外窓を開け、障子の光を中に入れる。「あれです」 アリカは寝台の上に腰掛け、天井を指さす。「…何あれ」「判りません」 ちょうど寝ころんだ当人の目に入る様に、天井には大きく絵が描かれていた。極彩色と曲線を多用したその絵は、模様と言えば模様かもしれない。「だから私も初めはただの模様かもしれない、と思って、ひねりを端から端まで数えようと思っていたんですが」 火炎模様にも似たそれをアリカは指さす。「…あんた…最中にそんなことしてたの」「いえ、私だって全く冷静な訳ではなかったし」「何でそこで冷静でいようとする訳よ」「だってあなた寝てしまっていたし」「ってどうしてあんたがそれに気付くのよっ!」「それはともかく」 話を強引に打ちきる。「この絵には、どうも、女性の姿が描かれている様なんです」「女性の?」「ええ」 言われてみれば。サボンは模様の中に薄ぼんやりと浮かぶ姿に目をやる。まるで模様の中にその絵を埋めてしまいたいかの様だった。「ただ全体的に細い線だけで描かれているので、夜見ると、無いはずのものが見える様で不気味なんです。でも朝になって、寝台から降りて」 とん、と足を下ろす。「この天井」 アリカはすぐ上を指す。「そしてその赤い梁の次。そのまた次。次の間。どんどんその女性の姿が、仕草が、変わって行くんです。模様そのものは同じうねりの繰り返しだというのに」「あ、でも色が微妙に違うわね」「ええ。これも夜には気付かなかったんですが」
2005.03.12
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「面白い話だ」 はっ、と二人の少女は顔を上げた。男の声だった。反射的にアリカは立ち上がった。 障子戸が開き、男が入ってきた。 アリカは目を見開いた。 サボンはその場に平伏した。 若い、男だった。 歳の頃は二十を過ぎるかどうか、というところだろう。 色味も髪も素っ気ない、その姿。 だが衣服の色が。「そなたは平伏しないのか」 朱黄色の上着の男は、アリカに向かって問い掛けた。「あなた様が、皇帝陛下、ですか」「そうだ」 真っ直ぐ男は、アリカと視線を合わせた。 アリカは見る。背はそう高くない。筋骨隆々という訳でもない。どちらかと言ったらなで肩かもしれない。 だから彼女の口は、こう動いていた。「本当に?」「…失礼ですよ!」 床に伏せたまま、サボンはアリカのスカートの裾を引っ張った。「あなた様が陛下であるという証明ができない限り、私には平伏はしかねます」「この場に皇帝以外の若く見える男が出入りできると思っているのか?」「全くできない訳ではないでしょう。確かに警備は厚くございますが、人の作ったもの。何処かに何らかの出入り手段はありましょう」「そんなことがあったら、近衛回隊の連中の首が飛ぶな」「首は飛ばすものですか?」「首を飛ばすのが、最も判りやすい方法だろう? そなたの話にもあったではないか」 ふっ、と男は口元を緩めた。「何故メ族は首を刎ねられた?」 ああ、とサボンはこのやりとりに恐怖した。 何を考えているんだ一体、と全身に震えが走るのを感じた。 ここに来るなら陛下に決まっている。 そうでなかったとしても、この様な悠長で物騒な話をすることは無いでしょう、と。 そもそもその話をしているという時点で、自分と彼女が入れ替わっているということが判ってしまっているのではないか。 彼女の中で一気にそれだけの考えが巡った。「古来―――」 アリカはそんなサボンの気持ちなど全く感じていない様に続ける。「斬首というものは禁じ手でございました」「ほお?」 男は顎を指で挟んだ。「その昔、各地あまたあった小さな国々の多くで、こう信じられておりました。その首と胴体がつながっている者は良き死である、と」「良き死」「次の世界に行くも良し、もう一度この世界に生まれ変わるも良し、肉体の欠けること無く死んだ者は、選択した次の生に、自分で動き行けることができる、と。それ故に人々は斬首だけは嫌がった、とされています」「全てが全て、そうかな?」「いいえ」 アリカは首を横に振った。「東南の桜州、かつての藩国『桜』ではそれを最も苦しまない死としていたそうです。かの国では来世は信じられていましたが、肉体の状態とは無関係である、あくまで大切なのは心である、と信じられておりました」「メ族ではどうだった?」「メ族は―――」 アリカは詰まった。「言って見るがいい。そなたは知っているのではないか?」「…話せば長うございます」「なるほど。長くなる。では長く聞こうではないか」 そう言って男はアリカの顎を掴んだ。 だがアリカは瞬きもせず、男を見据えるだけだった。「私はまだあなた様が皇帝陛下かどうか、の問いにお答え下さったとは思っておりません」 まだそんなことを! サボンの額から脂汗がたらたらと流れ落ちる。「お答えを下さらない限り、私はあなた様のその手を取りかねます」「これはまた。ではそなたは、この場でこの色を纏える者が居ると思うのか?」「気持ちが押さえつけない限り、どんな場であれ、仕立てる者が居る以上、可能でしょう」「そうか」 くくく、と彼は笑った。「では見るがいい」 卓上の水菓子の盆から、小刀を取り上げた。大きな袖をまくる。 あっ、とサボンは喉の奥で息を詰めた。 つ。 左腕の内側、白に一筋の赤が、走った。 からん、と卓の上に小刀は投げ出される。「…傷が」「証拠を、と言いたいのだろう? そなたは」 彼はそう言うと、赤い筋に舌を這わせた。ぺろり。血のにおいが、軽くアリカの鼻まで届いた。「まずい」 彼はそう言うと、血を舐め取った腕を、アリカに突き出した。「あ」 思わず彼女は口にしていた。 埋まる。埋まって行く。 見る見るうちに、血は止まり傷はふさがり、やがて新たな皮膚がその上を覆う。 それは本当に、ほんのわずかな間だった。「数々のご無礼、お許し下さい」 アリカはすっ、と膝を折った。そのままサボンと並んで平伏する。「陛下お一人でふらりと来られる、とは聞いておりましたが、それは数ある王の後宮へのあり方として、私の頭脳が納得致しませんでした。誠に申し訳ございません」 あああああああ。それを聞いてサボンは血の気が一気に退いた。まずい、すごくまずいわ、と頭の中でもう一人の自分が駆け回るのを感じた。 だが。 あっはっは、と笑い声が降って来た。
2005.03.09
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そして夜が来る。 「お出まし」が何時になるのかは彼女達には知らされていない。皇帝の気が向いた時に、彼は一人で来るのだという。「ぞろぞろとお付きがついて来るのかと思ったけど」 二人は当たり障りの無い話や、お菓子をつまむことでで時間を潰す。話でもしていないと時間が進まない様な気がしていた。「灯りが暗すぎるんだわ」と「サボン」となった彼女は言った。「本の一つも読めやしない」「必要ないからじゃないですか」「必要…」 少し考えたサボンの頬が赤らむ。「…それにしてもあんた平然としているわね」「ここで今更」 ふっ、と「アリカ」となった彼女は笑う。 そう、こんなことくらいでは、自分の気持ちを揺さぶることなどできないのだ。「…あんたって何かに驚くことがあるの?」「ありましたよ。昔は」「でも私、見たこと無いわ」「その前のことですから」 そう、その前のことだ。十三年前、将軍に拾われる前の。「それにしても遅いですね」「もしかして、今夜は来なかったりして」「だったら職務に怠慢ということになりませんか」「あら不敬っ!」「冗談ですよ。でも、そんなに暇ですか?」「暇だわ。それに、あんたの所に陛下がいらしてそっちの部屋に行ってしまったら、私はこっちでずっとお帰りになるまで起きて待っていなくちゃならないんですからね」「…がんばって下さい」「…心が籠もっていないわね」「…そうですね」 ふふ、とアリカは笑った。「では少し、眠気覚ましに昔話をしましょうか」「昔話?」「私があなたと出会う前のことです」「…って」 サボンは首を傾げる。「ええ。あなたのお父様に拾われる前のことです」「…ってあんた、その時まだ三つか四つでしょ。私とそう変わらないんだから」「ええ、三つか四つです。正確には知りませんが」「私自分のそんな時期、全然覚えてないわよ」「そうですか。でも私、覚えているんですよ」 あいにく、とアリカは首を傾げた。 言われた側は「あいにく?」と首を傾げた。記憶力が良いなら、それに越したことは無いだろう。だがこの昔なじみの言いぐさでは、それはまるで忌々しいものの様に感じられる。「サボンの出身の『メ』族のことを、あなたご存じですか?」「いいえ」「今はもう無い部族です。滅ぼしたのは、あなたのお父様です」「…え」 サボンは息を呑んだ。「別にだからと言って、将軍様やあなたをどうこう思うことは無いですよ。だって私にとっては、別に居心地の良いところではなかったんですから。むしろ感謝してます。あそこから連れ出してくれて」「…で―――でも、無いってことは」「皆殺し、です。私は見てましたから、知ってます。少なくとも、戦さ場に居た者は、将軍様に抵抗する者は首を落とされました」「見てた…の?」「ええ」「本当に?」「私は記憶力がいいんです」 アリカは目を伏せた。「その時こんな風に目を伏せていたら良かったのでしょうけど、あまりにもその時は、皆が見ろ見ろ、と煩かった。私のそこでの役目は見ることと、数えることでした」「見ること、と数えること?」「あなたいつも私が賢い賢いとおっしゃいましたよね」「ええ、まあ…」 サボンは軽く身を退く。「別に私は賢い訳じゃあないんですよ。ただ見たものを即座に記憶して、計算できるだけなんです」「…わからないわ」「戦さ場において、敵がどれくらい居るか、武器はどのくらいか、何人か、…それは大切な情報です」「何、それじゃああんた」「私はどうも、言葉を話せるようになった頃から、そうだったようです。…そして母が、実に戦に熱心なひとだった、らしく」「らしく? お母様のことでしょう?」「何故かあのひとのことは私の記憶には少ないのです。むしろ私の覚えているのは父のことばかり」「お父様?」「父はいつも私が戦さ場に出る様なことになることに反対していました。それを母がいつも怒鳴りつけては私をつまみ上げては長の所へ持っていったのです。いつもその時には籠に入れられました。私はそのまま籠の中で、戦さ場を見ていました」 そう、ずっと、そうだった。 現在でもあちこちで起きる「内乱」。大小取り混ぜ、この広い版図の中で、起こらない日は無い。先日戻ってきた将軍が居た「東海」の方面もそうだ。平定と治安回復に半年かかっている。「メ族の鎮圧は時間がかかっていません。私が実際に戦さ場に出されたのは、せいぜいがところ十日というところです。そのうち、実際の戦闘になったのは二日。その二日間で、メ族の英雄ククシュクをはじめ、千人近い人々が首を刎ねられました」 覚えている。砂地に血が飛ぶところを。 血は砂にすぐに吸い込まれ、やがて跡形も無くなる。空はただただ青く、日射しも強かった。「私は籠に入っていたから助かったのです。当初、部下の方は、私がメ族に捕まった子供だと思った様です」「え、でも、言葉とか」「私はしばらく黙ってましたから」 黙っていた方がいい、と思っていたから。
2005.03.08
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