うきよの月 0
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「もう我慢できない、カザリン、お前との婚約は破棄する!」 北の大国の大公ペーテルは脇に新しい恋人とされる公爵令嬢エリザベートを連れ、頭から湯気の出る勢いでまくし立てた。 彼はこの令嬢が宰相の長女ということをもよく知っていた。 たとえ現在の女帝、自分の伯母が決めたこととは言え、諸侯は自分の味方になると思っていた。「左様でございますか。致し方ございません。ですが私の故国は既に無く、行き先は女帝陛下のお心次第」 失礼しますと引き下がる彼女にペーテルは更に腹が立つ。 この冷たい女が。自分の相手もせず勉強ばかりで! それに比べればこのエリザベートは決して美しくは無いが、自分に優しく楽しい毎日を送らせてくれるぞ! その数日後、彼の元に来たのは、大公位剥奪と東方辺境候となる命令だった。「伯母上これは……」「私の後を継ぐ者は父方の血を引いている者ならそれなりに居る。要はこの帝国を上手く切り盛りできる美しく賢いカザリンが皇后になるのならば、次代の皇帝など誰でも良いのじゃ」 ちら、と女帝の斜め下辺りに立つカザリンの視線は冷ややかに、そして美しく。「帰る国も無いと申しましたでしょう?」 そして容赦がなかった。
2023.10.16
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「ごめんジョセフィーン…… 君とは友達で居たいんだ。婚約は無しにしてほしい」 僕は少年時代からずっと好きだった彼女に去年婚約して欲しいと頼んだ。 だが付き合ってみてわかった。 彼女は確かに僕の友人としては最高だが、どう考えても恋愛の対象として見られないのだ。 ずっとずっと考えていた。彼女に悪い彼女に悪いと……「何だそんなことだったの最近ずいぶん落ちこんでいたから」 へっ?「いやそもテディ貴方、何頭とち狂ったのかとずっと思っていたのよね。まあ良かったんじゃない? あなたのお祖父様も気の迷いだと言って取り上げてくれなかったし、私もこれからニューヨークへ行って小説修行しなくっちゃ。ベスの療養費も稼がなくちゃならないし。貴方も音楽の勉強がんばってね!」 そう言って彼女はたったったっ、と家の方へ足取り軽く駆けていった。 ……そっか彼女は本気にしていなかったんだ…… 僕はその場にしばらく立ち尽くしていた。
2023.10.16
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「アイリーン姫、貴女との婚約は破棄する。事情は」 卒業パーティ会場。目の前で、この国の王太子が私に向かって言う。「ええ、そこの頭悪そうな女に真実の愛とやらを見つけたからでしょう? そして今から貴方は言うのです。例えば彼女の持ち物を取り上げたとか階段から突き落としたとか足を引っかけたとか教科書を破いたとかノートに落書きをしたたとか、黒板に嫌がらせの文句を書いたとか教室の扉に水を入れたバケツをつけておいたとか」「く…… 何故それを」「調べはついておりますわ。用意したのはこの女。さあ証拠を」 ずらりと私の護衛達が証拠を手に並ぶ。 彼も知っているはずだ。 大国との友好関係のための婚約の時に紹介されているのだから。 私が自国から引き連れた護衛達は、理路整然と自作自演の証拠を突きつけた。「そもそも私に暇はありませんわ。この人数を率いて王妃教育を分刻みでしてきたのですから。目立って仕方がないじゃないですか。ああ馬鹿馬鹿しい」 私は護衛達に「帰るわよ」と言った。 帰れば国交は決裂だ。 こんな小国は簡単に潰せるというのに。馬鹿な王太子のせいでこの国はおしまいだ。 まあ失われる国の文化を知れたのは面白かったけれど。
2023.10.16
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「お前は偽物の聖女だヘリオーネ! よって私はお前との婚約を破棄し、真の聖女であるこのマルレーネと結婚する!」 横には私と同じ服を着た、若い少女。何やらぶるぶる震えているようだが。「はあ。左様でございますか」「何だその言い草は! まあいい、とっととこの女を国外に追放しろ!」「国外、でございますか」「何度も言わすな! 国外と言ったら国外だ!」「判りました。それではごきげんよう」 私はさくさくと衛兵に連行され馬車に押し込まれ、国境の森で突き飛ばされた。 やれやれ、と今さらの様に思う。 そもそも王も、こんな四十過ぎた女をひっ捕まえて、唐突に聖女だから結婚しろだ何だと言って面倒だったこと。歳は王も五十がところだから、まあ合ってはいたけど。 そうなると可哀想なのはあの娘だ。まだ十代の前半だろう。 でもまあいい。国境の森は元々私が住んでいた場所だし、何かあった時のために、聖女仕様の服には何かと生きるための最低限の道具や、路銀も仕込んである。「ああ、あとこれをして置かなくちゃね。新しい聖女様のために」 私は国全体にかけていた加護を解いた。 その後どうなろうが知ったことじゃない。 まあこの性格は決して聖女ではないのだけど。
2023.10.11
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彼は私に対して一方的に婚約破棄を突きつけ、北の大地へと旅だってしまった。 私はひたすら彼を追い続けた。 ただ一つの言葉を告げるために。 旅路は長かった。 遠い北の国の美しい雪の女王と呼ばれる宝石の研究に取り憑かれた彼。 幼なじみで、両親同士も仲が良い彼。 私はひたすら追いかけた。 手がかりも、やがて路銀も尽きた時に、盗賊に捕まった。 ただそこの首領の娘は私に興味を持って、ずっとここで暮らさないか、と言ってくれた。 どうだろう、と私は思った。 彼女の視線はとても熱く甘い。 その思いに応えてしまおうと心も揺れる。 だけどそのためには。 トナカイを借りて私は彼の元へと走った。 やがて氷に閉じ込められた様な地で、彼を見つけた。「どうしたんだいゲルダこんなところに」「私あなたにどうしても言いたいことがあるの」「一方的に僕が言ったことは悪かったと思う。だが両親も」「いえそうじゃなく」 私は彼の言葉を遮った。「そもそも私達婚約していないのよ」 だから破棄もへったくれもない。 婚約したなんて彼の幻想だ。 だけどそんな噂が立って大変なことになっていたのだから、ここは一発横っ面を張り倒しておいた。 そして私は帰るのだ。 盗賊の娘のところに。
2023.10.11
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「フィアナ…… すまないが僕は君とは結婚できない。君の様な冷たく完璧な女より、情に厚い妹のイプシーの方に僕は惹かれてしまったんだ……」 パーティの席上、婚約者の男は妹を脇に抱えながらそうのたまった。「では仕方ありませんね、イプシー!」 私は手袋を妹に投げた。「はい、お姉様!」 彼女はそれを受け取ると、ドレスをばっと脱ぎ捨てた。下には訓練用の胴着。私もまた同じ様に脱ぎ捨てると、側に居たジョルジュがドレスを持ってくれた。「行きます」「ええ」 それから十五分ほど、私達は拳を合わせ蹴りを入れ、時には投げ倒し、戦った。 だがどうしても勝負がつかない。 お互いの身体があざだらけになり、疲労が目に見えてきた。 ここだ、と私は妹に渾身の一撃を決めようとした時――妹がよろけた。 まずい。このままでは致命傷になる! その時。「よせ」 低い声と共にジョルジュが私の拳をやすやすと止めた。「勝負はついたろう」「わかったわ。そして私はあなたについていく」「お姉様……」 私達は堂々と会場を後にする。 ぽかーんとした男の顔があったが知ったことではない。我が家の家訓は「強い者が全て」なのだ。 そして私は、私より強いジョルジュの腕を取った。
2023.10.08
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「エリザベス、君のことは嫌いではない。だが僕はこのエイミーに真実の愛を見つけてしまったんだ。君はむしろ結婚より、身体を直すことに専念した方がいいよ」 久しぶりにやってきた婚約者は私の前で元気そうな女を連れて、そう言い放った。 ベッドの上で今は左手くらいしか動かせない私には、彼の言葉に返す語彙が上手く見つからない。 だからこう言った。「わかったわ。せめて最後に手を握らせてちょうだい。お願い」 彼はちょっと戸惑ったが、ベッドに近づき、伸ばした手を握った。 瞬間。 びく、と震えて彼は停止した。「な、……あんた何を」 彼の身体からぶすぶすと黒い煙が穴という穴から噴き出している。「最後だから体内電圧の微調整をしておこうと思ったのだけど、もう上手くいかなかったわね」 がくりと彼の身体がその場に崩れ落ちた。 やがて私も今の過放電で停止するだろう。 西暦2540年。人口が激減した地球では、増えない分長く生きるために身体を老化する毎、義体化し、その性能により仕事を行うのが普通だった。 私はその身体で義体に電気を通し、性能を安定させる役目を持っていた。 だがもう弱ったこの身体ではその能力も不安定になっていた……
2023.10.08
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「今の今まで父上の御命令だから従ってきたが、ドルヘン、貴様の様にがさつで淑女らしく無い女は懲り懲りだ! 私は真の愛を見つけた!」 パーティの場、そう言って第二王子マクシミリアンは儚げな少女を手に、正装をしたドルヘンに向かい言い放った。 すると彼女はこう一言。「本気か?」「そうだ。しかも姓も無い平民の女と…… 父上は何をお考えに」 そう言った瞬間だった。 ドルヘンは懐に隠した短刀を一つ彼に向かって投げ、自身も取り出した。「取れ」「え」「我が部族では神聖なる婚約解消の際には双方血の決着がある。取れ」「何を言ってる」「取らねば行くぞ」 次の瞬間、マクシミリアンの首から血が飛んだ。血を浴びた少女は叫んだ。「王よ、して、其方はどうする?」 短刀を納めたドルヘンは、ざわめきの中やってきた父王に問いかけた。「馬鹿な息子で申し訳ない…… 相手を第一王子に変えて貰えないか」「よかろう。上の兄弟なら我が父も了承するだろう」 父王は思う。 小国の我が国に、草原の覇者である大国から降嫁してきた公主のことを何も知らなかったとは。 息子一人で済めばいい。 姓が無いのが王族の印だと知らない馬鹿息子一人でこの国が保護されるならば、と。
2023.10.07
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「クラーラ…… 君との結婚はどうしても無理だ…… 婚約は破棄して欲しい」「何故…… 何故なのカール!」 悲痛な顔の令息。すがる令嬢。 場所は風光明媚な山の展望台。そこは彼等の思い出の場所だ。「そうよ、今さら何ですかカール様っ!」 そしてもう一人。 背後には、足の悪い令嬢クラーラの車椅子を押す、幼い頃からの友、アデルハイドが。「ええ知っていますわ、カール様! お嬢様がこの様なお体ということで、ご家族が反対なさったのですね! でも、そんなのはずるいではないですか!」 車椅子に輪止めを掛けると、アデルハイドはカールの側にずずずい、と近づいた。「あなたの愛というのはその程度のものだったのですか?!」「え…… ちょっと待って」 カールに詰め寄るアデルハイドの足はどんどん展望台の柵の方へと近づいていく。 元々高所恐怖症気味のカールは柵の外のことを考えるとぞっとする。 だが山育ちのアデルハイドにはそんなことは関係ない。「クラーラがどれだけ貴方のことをっ!」「わ、ちょ、ちょっと……!」 あまりの迫力に、柵についたカールの後ろ手は、握ろうとしてその力を逃してしまった。「あ」 後には悲鳴一つ。
2023.10.07
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「ベル…… お前との婚約は破棄させてくれ……」 俺は彼女に対し思いっきり悲痛な顔を作ってそう言った。「え、何故、何故なのですか?」「実は俺には重大な病気があるんだ…… 心変わりという……」 そう、他に好きな女ができたのだ。 えっ、とベルは涙を浮かべて俺を見た。判ってくれたのか、それならいい。 ――とばかりに背を向けた俺の肩をむんずと掴み、彼女は「お待ちを」と涙目のまま近くに居た従者を手招き、馬車を呼ばせた。 そして有無を言わせずその中に放り込んだ。 行き先は病院だった。「先生! 婚約者が病気なのです! 心が変わってしまうという……!」「ほぉ。それはそれは大変ですな。詳しく調べてみましょう」「お願いします」 さてそこから俺は大変なことになった。 何せベルが連れていったのは、最新の医療技術を誇る病院。すなわち、新たな技術を試したくて試したくて仕方がないところだった。 俺は強制的に入院させられ、「最新の」医療を試された。 なお、その時本当の「心変わり」、つまりは単に別に付き合い始めた相手は、俺のその状態を聞いたら恐ろしいことに巻き込まれているとばかりに逃げていったそうだ。 そして俺はまだ病院にいる。
2023.09.22
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「エイダ・マルスティーン! 貴様との婚約は破棄だ! いつもこのアリスを虐めて!」 宴もたけなわ。 第一王子サリュート様は、腕に腰の細い少女を絡ませて近づいて来ました。 卓の上の料理に舌鼓をならしていた私は、すぐには聞こえず。「話を聞け!」 私の腕を重そうに掴み上げます。「このぶくぶくとした豚が!」 その一言で周囲の視線が一斉にサリュート様に向かいました。「何てこと」「豚のことをそんな口調で」「あんな鶏ガラの様な女をつけて……」 やがて卒業の祝福のために国王陛下が豊満なお体を揺らしていらっしゃいました。「今、婚約破棄とか聞こえたが?」「はい、この豚の様に醜く意地悪な女には我慢ならず」「……やはり国外に留学させるのではなかったな」 そう。 豚は神聖な、我々の血となり肉となる高貴なる動物です。 それを罵倒する言葉として使うなんて。「お前もその貧相な身体では国は治められぬ。離宮へ行け。その女も下働きに使え」「……!」「婚約破棄は認める。豚の様に美しくまろみを帯びた令嬢への詫びも込めて」 その場の福々しい身体の皆様は、明らかにずれている王子の追放に喜んでいらっしゃいます。 さて、と私は再びパーティの料理へと向かいました。
2023.09.21
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えー本日はお日柄も良く。 さてあまたあるラノベの中でも「婚約破棄」「ざまぁ」は非常に何だかんだ言って楽しいというか需要があるものでございます。 その理由を色々考えてみたのですが、「勧善懲悪」「パターン」という要素はでかいと思うのですね。 ということで。 そんじゃいっそショートショートでネタ出ししてみましょうということで。 とりあえず予定としては、以下の名の女性で。 令嬢かもしれないしそうでないかもしれないし。 宮廷なのかそうでないかも判らないですが。 名が出るとネタが浮かぶこともあるのでとりあえずつけてみましたー。A エイダB ベルC クラーラD ドルヘンE エリザベスF フィアナG ゲルダH ヘリオーネI アイリーンJ ジョセフィーンK カザリンL ラーラM マーガレットN ナオミO オクタヴィアP パレアナQ クォンティR リメインS サァラT テオドーラU ウーリーV ヴィクトーリアW ヴィルヘルミナX シェイファY イライジャZ ゼルダ さてどうなるやら。
2023.09.21
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