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サイド自由欄
<当ブログは、極上生徒会とARIAを全力で応援しています>
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トマトソースのように赤く濃厚な霧が立ちこめていた。
視界は僅かにある程度。遠方を窺い知ることはできない。仮に見えていたとしても、エリに今の状況を理解しろという方が難しい。
「……私、どうなっちゃったの」
呆然と座り込んだまま辺りを見回す。
座っているのは石畳の上。
両脇は赤い霧のカーテンで視界はやっとの1m位。
正面と後ろには、煉瓦造りの西欧風の建造物がそびえている。
数秒前まで目にしていた、騒音飛び交う都会の風景とは違う。
『別世界』そう言えた。
「そうだ……私……」
ようやく思考回路が冷静さを取り戻し始める。手探りするように、原因を、記憶をゆっくりと思い出していく。
まず思い出したのは、朝食のメニュー。
次に浮かんだのは旅客機が太平洋上で消息をたったという今朝の重大ニュース。
次々と記憶を思い出せる。だが答えを拾い上げることは出来なかった。
そして最後に思い出したことは、高校に入学して3日目の朝のこと。登校中に交差点で信号無視のトラックにはねられた。
いや、正確には『ぶつかりそうになった』ところまでは覚えている。その直後と現在の間が欠落している。
間に空白を置き、今視界にあるものは日本の風景とは一致しない場所だった。
「……死んじゃったのかな」
トラックにはねられる。そんな漫画のようなベタなワンシーンも、今は笑っていられる状況ではない。
事故、目に映る風景、「死んでしまった」答えがそこに行き着くのは必然だった。
「ごめんね、お父さん」
呆気ない死に悔しくなり、込みあげてくるものに負けてエリは泣き出してしまった。 人目もはばからずの大泣き。割と狭い路地に反響して、位置を知らせるブザーのごとく辺りに響き渡る。
「そこにいるのは誰だ!?」
霧のカーテンの向こうから女性らしき声が聞こえた。突然の呼びかけに驚き、泣くのを止めて声の主の登場に備える。迎えの天使なら歓迎するが、地獄へ連行する悪魔ならばお断り。まさに祷るような気持ちで待った。
「泣いていたのは、お前――」
同い年くらいの少女が現れた。だが同じとは言い切れないものがあった。
金色の長髪、三角帽に黒いマント、エナメル性の丈が短いジャケットでヘソ出しルックにスカート、さらに右手に竜頭の杖を持ち、例えるならオシャレな【魔女】という出で立ちだ。
よく見てみると帽子とマントには、悪そうな顔をした月のイラストが入ったシルバーアクセサリーが施してある。これもオシャレなのだろうか。
「お前、アリスか?!」
エリの顔を見ると反射的に少女は杖を構えた。 少女の顔には緊張感と敵対心が見て取れる。どうやらエリを『アリス』という人物と勘違いしているようだ。考えるまでもなく良い状況とは言えない。
「ま、待って! 私はエリ。エリです! アリスじゃないよ!」慌てて立ち上がり説明する。
「エリ? 馬鹿を言うな」
「だから私はエリで、アリスって人とは別人だよ!」身振り手振りジェスチャーも使って否定する。「ど、どんな人か分からないけど、ほら、ね、よく見て」
「うるさい奴だ。……まぁいい。いずれにせよ、お前は指名手配中だ。連行する」
が、聞いては貰えなかった。
少女は何か口ずさむと杖を大きく振り上げ、宙にルーン文字にも梵字にも似たような文字を書き、力強く振り下ろした。
すると杖の先から蛇のようなものが緑色の紐が飛び出しエリに絡みつく。避ける暇もなく絡みつかれ、あっという間に縛り上げられてしまった。
「ちょっと! やめてよ! 何よこれ?! 死んでからこんな仕打ち受けるなんて聞いたこと無いよ!」
「死んだ?」少女は腹を抱えて爆笑し始めた。「笑わせろ」
「もう笑ってる!」
呼吸を整えると少女は続きを話した。
「死んだなんて低脳な嘘をつくな。誰がどう見ても生きてるじゃないか。アリスではないと誤魔化すなら、もっと頭を使え」
ふとエリは気がついた。今更だが、石畳の冷たさを感じていた。
そもそも死後の世界なんてイメージでしか知らない。死んだあと、どうなるかなんてことさえも空想だ。 けれど身体があるし、足もある。体が透けているわけでもない。
締め付けられている痛みも感じる。死んだとばかり思いこんでいたが、よく考えてみれば、死んだとは思えない。
「……私生きてるの!?」
喜色が漏れる。
それを見て少女は笑いを再開した。手で口元を押さえたが直ぐに噴きだしてしまった。 笑い上戸なのか、ハードルが低いのかゲラゲラと笑い出した。
再び笑われ、今度ばかりは頭に来て猛抗議。
「あぁ! また笑った! どこに笑いの要素があるのよ!」
「……お前の馬鹿さ加減。まさか、あのアリスがここまで抜けてる奴だったとは思わなかったよ」
アリスという別人に勘違いされてるうえに、端麗な顔立ちと不釣り合いなほど豪快に、不愉快に笑う少女にエリの我慢は限界を迎えかけている。あと一押しでもされれば大爆発の大惨事になりかねない。
「あのさぁ、アリスじゃないって言ってるでしょ……。いい加減にしないと、そろそろ限界なんだけど」声が低音になり語気に苛立ちが含まれている。
「分かったよ。お前こそいい加減にしろよ。笑い死ぬ」
エリの中で張り詰められていた糸が一刀両断され、伸びきらせたゴムを放されたように弾け飛んだ。遂に限界を超えてしまった。
「だから私は、アリスじゃないってば!!」
エリの怒りに大気が震え、空気に威圧感を含ませる。 体からを取り囲むとうに風が舞い上がった瞬間、エリの体を青い光が包み込んだ。光は殻のように見えるが、ゴムボールのような軟らかさを持ち、不規則な膨張と縮小の運動を繰り返し、内部のエリから発せられる暴れる竜のごとき突風を吸収している。
「魔法力(アルマ)が桁違いだ! こ、これがアリスの力なのか?! け、けどアルマがプロテクトされてる!? どういうことだ?!」
少女は数歩後ずさる。
明確な力の差に、少女は相手にすべきではないと悟った。
ただ少女は疑問に思うことがあった。上級魔法すらも吸収してしまう、アルマプロテクト(魔法制御法陣)が何故かけられているのか。
力を発動させたエリは突然、重力に押しつぶされるように倒れ込んだ。意識は朦朧とし息が切れ、四肢に鉛をつけているかのように全身が重い。顔を上げるのさえやっとである。それでも力を振り絞り、目の前にいる少女に意識を向けた。
少女の方は依然として間合いを詰められずにいる。捕まえるチャンスにも関わらず、エリのアルマに恐怖心をかき立てられ、一定の距離を保たせていた。
奇妙な間が空いた後(あと)、エリは軟体動物のように力なさげな動きで立ちがあった。それを見た少女は意を決してもう一度魔法を発動しようと杖を振りかざす。恐怖心と責任感が交差する。
「待ってアンナちゃん!」
霧の向こうから空気を裂き、アンナと似た格好をした茶髪で小柄な少女が、スケートボードのようなものに乗ってエリに特攻した。
いや、正しくは前方不注意による衝突事故である。 エリと少女は弾け飛び、ただでさえ体力を消耗していたエリは完全にKOされて石畳の上に大の字で倒れてしまった。
特攻した少女の方は軽傷のようで、服の埃を払いながら直ぐに起き上がった。
「マリー、邪魔をするな!」
「待って! この子はアリスちゃんじゃないよ。ちゃんと魔導鏡を見て!」
マリーはスカートのポケットから。蛙のシールが貼られたハート型のコンパクトミラーを取り出してアンナに差し出した。 コンパクトミラーの形をしたものは、認識対象を識別する機能も持った『魔導鏡(まどうきょう/マジックミラー)』である。この魔導鏡は、対象に鏡の部分をかざすことで、現在発動中の魔力(アルマ)数値、アルマの属性を知ることができる魔具の一つである。
「ふざけるなよ、だってこいつは……!!」
魔導鏡を見たアンナの表情が見る見る間に曇っていく。
鏡の部分に映されているアリスと目の前にいるエリは一致しなかった。真実の鏡とも言われる魔導鏡は魔法での誤魔化しは利かない。
つまり別人と言うことだ。
「違うでしょ? 魔法の発動があったときに調べたの。アリスちゃんは風の上級アルマ使えないから」
「し、しかし、アルマを使ったし、こいつはアリスと同じ顔じゃないか……」アンナの首筋を嫌な汗が流れ落ちる。「アリスじゃないなら、こいつは……誰だ?!」
☆
昔々 世界には魔女と呼ばれる人達がいました
魔女は魔法という不思議な力を使います
魔法はとても便利な力で 生活に必要な力でした
ところがある日 長い とても長い戦争が起こりました
それはとても とても 恐ろしく かわいそうな戦争でした。
そこで――
背中を針でつつかれたようにエリはベッドから飛び起きた。
懐かしい夢。それなのに、背中にはびっしょりと汗が滲んでいる。
「凄い起床だな」
意識を失うまで視界に捉えていた少女がテーブルに頬杖をつき、めんどくさそうな顔でこちらを見ていた。
「ここはどこ? まさか、変なことしないでしょうね!?」
西洋のホテルの1室のような場所で、蛍光灯やコンセントという電気関係のものはない。代わりに夜の明かりに使うと思われる蝋燭が少女の後ろの棚に揃えて置いてある。
キッチンもあり、自炊しているのか分からないほど綺麗に整理されている。
壁には装飾もなく真っ新(まっさら)。本棚には分厚い本が並び、キッチリとした質素な部屋に感じられた。
「安心しろ。俺の部屋だ。お前、マリーとぶつかって気絶したんだ。だから、ここに運んだ。お前がアリスじゃないことも判明したしな」
「良かった。誤解は解けたんだ。そうだ! ぶつかって……痛っ――」おでこに痛みが走った。手でゆっくりと触ると腫れているのが分かった。しかし、痛みの割に腫れが小さい気がした。
「回復魔法を使っておいたから腫れはじきに引いていく。ただ痛みは今日、明日くらいまではあるだろうけどな」
「あ、ありがとう」
意識を失う前までの少女とは別人のようで、エリは感謝の言葉をもらした。
そして回復魔法という言葉で、エリは気絶前にも少女が魔法のようなものを放ったのを思い出した。
「そういえば、最初の時のアレといい、魔法って、どいうこと? まさか、魔法の国とか言わないよね?」
魔法の国だったらどうしよう、妙な期待感を持ちながら訪ねた。
「魔法の国? 頭は大丈夫か」自分の頭を指でさしながら嫌みな顔をした。
「……ホント、あんたって性格悪いわね」何故だか純情を汚された気分になり、少し頭に来た。
「まぁ魔法の国というのはあっているけど、正しくは魔女の国」
「魔女の国……?」
一瞬、頭が真っ白になる。どう考えても答えへ通じない。生きているのさえ不思議だったというのに、ここが魔女の国だというのだから当然だ。
「じゃ、ここは地球じゃなくて、平行世界?! 異世界?!」
時のアルマ 善き魔女編 第6話 目撃者(… 2009.12.29
時のアルマ 善き魔女編 第6話 目撃者(… 2009.12.29
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