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小諸なる古城のほとり
雲白く遊子悲しむ
緑なす繁縷は萌えず
若草も布くに由無し
しろがねの衾の岡辺
日に溶けて淡雪ながる
暖かき光はあれど
野に満つる香りも知らず
浅くのみ春は霞みて
麦の色わづかに青し
旅人の群れはいくつか
畠中の道を急ぎぬ
暮れ行けば浅間も見えず
歌哀し佐久の草笛
千曲川いざよふ波の
岸近き宿に登りつ
濁り酒にごれる飲みて
草枕しばしなぐさむ
あまりに有名な藤村の「千曲川旅情のうた」である
懐かしさがこみ上げてくる。
まさに僕の青春だった。あのころ
遠く高峰高原から、小諸へ降りてくる
展望が開けた畠中の道で
僕達は、この歌を暗記していて歌ったのだ
あの登山パーティは、皆、大人になり、いつの間にか老いて
この歌の憂愁の意味を、今、本当に知るようになる気がしてならない
そして今、学生時代から何十年振りかで、妻と二人で当地を訪れることになるとは、
思いも寄らなかった。
新幹線で佐久平まで走り、小海線に乗り換え、6つ目で降りると小諸だ
佐久平の変容に比べて、小諸駅前は、懐古園への陸橋が整備されたくらいで、
昔とあまりかわって居なかった。
小諸城址である懐古園は、以前よりよく自然が保たれて
古城らしくなっていた。新緑は石垣と谷を埋め尽くし
霧雨に煙る眼下には群生する石楠花の白い花が美しい
「岸近き宿」と歌われた藤村ゆかりの宿に投宿して正解だった
義母の納骨を済ませて、寄り道をすることになり、
妻との久しぶりの小旅行となった。
急な予約で確保した一部屋ではあったが、何もなくとも不思議と落ち着く
夜はすぐ来て、離れた露天風呂に妻が入る間
途中の待合所で、ひとり天上のくもの巣を眺めた
水滴が灯籠の明かりを反射して、光った
主の女郎蜘はどこへ行ったのだろう。
寂しくも平和な時が、今夜も過ぎていった。