マンハッタン狩猟蟹の逃げ場

マンハッタン狩猟蟹の逃げ場

2008年11月13日
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カテゴリ: 2008年08~12月読書
[1] 読書日記


   < 清子はいつだってどこだって主役だった。
    島の誰もが清子を見つめ、清子に気に入られようと機嫌を取り、奪い合う。
    それもそのはず、三十二人の島民中、女は清子たった一人だった。
    清子はもつれた髪を手櫛で梳き、
    波間に浮かぶホンダワラ状の海藻でひとつにまとめてみた。
    今年で四十六歳になったが、髪が薄くなった以外、まだ衰えはない。
    そんな自分を巡って、どれほどの死闘が繰り広げられたか。
    清子はまたしても笑いを浮かべた。
    人が死んだり、怪我したり。
    これほど男に焦がれた女が世界に何人いるだろう。



桐野夏生 「東京島」(新潮社)



  を読了。


  クルーザーでの世界一周の旅の途中、太平洋上の無人島に漂着した清子・隆夫妻。
  彼女たちから遅れること三ヶ月、その島に、バイト先から脱走し、漂流してきた
  日本の首都圏のフリーター23名。
  その更に2年後、蛇頭によってこの島に置き去りにされてしまった中国人グループ。
  彼女と、彼ら(総勢31人の男たち)の島での生活や脱出を描いたユートピア小説。


  主人公格の清子は、いかにも桐野夏生のヒロインで、楽しい。
  無人島だろうと冷静、狡猾で、したたか。

  物語としては、自分が読書前に想定していた程の、生々しさや、毒々しさは無かったが、
  代わりに、「現代の若者」たちの漂流記ならば、恐らくこんな感じになりそう、と
  思わせるリアリティがあった。
  必死さ皆無。
  基本、青空の下にもかかわらず、インドアかつ開放感のない、狭量で陰湿な世界観と
  不健康さが漂っている。
  新書本の下手な「若者論」、「フリーター論」よりも的確にして正確。

  ちなみに、清子は、島内の唯一の女性というより、「現代の若者」に対置されている
  唯一の「大人」(「若者を見る世間)ともいうべき存在でもあり、健全な印象を受ける。


  題材の割りに、暗くもなく(決して明るいわけでもないけど)、ウェットでもなく、
  読み出したなら、一気に最後まで読めるし、読みたくなる作品であり、お薦め。






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最終更新日  2008年11月14日 04時16分34秒
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