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2007.01.16
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カテゴリ: Other stages
<『スウィーニー・トッド』(1月16日(火)マチネ@日生劇場)>

あまりにも内容が異色ということで四半世紀日本での上演が封じられてきたという話題の
ミュージカル『スウィーニー・トッド』これを 市村正親 さんとミュージカル初挑戦の
大竹しのぶ さんという大物のおふたりが演じるということで、日生劇場で観てまいりました。

内容はもはや有名なので省略しますが、(詳細は こちら や、 こちら などでどうぞ)
主演のお二人には期待通り、いやそれ以上のものを見せていただき、
また音楽性・作品としても完成度が高いものであり、非常に満足して帰ってきました。

まずこの ソンドハイム 作曲の作品は、どの曲をとっても難曲ばかり。
初っ端から「オペラ座の怪人」のような不吉な不協和音のオルガンが序曲のように
流れ、薄暗いロンドンが舞台となって、殺人理髪店を中心に話が展開していきます。
わざと不安定な感じを出すために和音に終結部分などに独特な色づけがなされていて
音楽的にはかなり慣れた人でも歌いこなすのはかなり至難のワザなのでは?

市村さんは夏の「教授」のイメージが脳裏に焼きついていたせいか、このスウィーニー役を
みて、「おお、若返りましたね!」みたいに感じました。
とてもあの可愛いアブロンシウス教授と同じ人が演じているとは思えない、
ほのぼのおじいちゃん教授からは抜けていた「毒」あるいは「どろどろとしたにごり」
それこそカリオストロが声高く歌っている「7つの悪徳」のうちの主に「 復讐心 」を燃やす、
ぎらつきのある男!
薄気味悪く印象的な目の隈取風メイクを初め、からだ全体から復習の炎がめらめらとでていて、
それでいて時折見せる哀しげな表情、彼ならではのすごい迫力でした。
かなりの難曲続きですが、すっかり市村節として消化されていて、見事なもの。
歌と芝居が一体化していて素晴らしかったです。

特に「鋭利な剃刀など理髪道具1セット」を実は彼を思うあまりその投獄中も密かにそのまま
保管していた階下のパイ屋の女将ラヴェット夫人(大竹しのぶ)が、彼の前でその封印を解いた
途端、彼の前には彼だけにしか見えない、その切っ先鋭いかみそりに対する、まるで
「恋人を愛撫」するがごとく愛おしく狂わしい感情が湧き上がり、その感情を歌に乗せて表現
するのですが、その恐ろしいまでの静かな始まり、そして煮えたぎる気持ちにいたるまでが
非常に上手で、ぞくぞくしました。市村さんの眼力鋭い表情と陰りは、まさにこの役のために
生まれたように思えるほど、マッチしていると感じました。
そのとき、勝手に彼を思うラヴェット夫人の気持ちがまったく彼に届いていないあたりの
空回りがまた悲しいのですが、このへんはちょっと大竹さんは軽めかも。

(この場面はシアターTVの何かの演技指導場面で、たまたまNYの俳優さんがだめだしを
受けながら、もっと剃刀への異常なまでの愛情を表現して!!と言われてなんどもやり直す
シーンをみたことがあったので、市村さんがどんな風に演じるか興味がありました)

大竹しのぶさんは、やっぱり天性の女優さんですね。もともとミュージカル俳優や歌手として
活躍してきたわけではないので、かなり難儀したとは思われる難曲の数々、
リズムも音程も相当大変だし、「ちょっと西野さんなんとかしてあげて!」とハラハラする
場面もありでしたが、それでも凄い底力と魅力をたたえた女優さんですね。

役作りのためにほんとに体重を増やしたのか、あるいは全部詰め物なのか定かでは
ないですが、胸もりもり色気むんむん、かなりの重量感で、パイ作りの肉が仕入れられず
半ば投げやりになっているパイ屋のおかみさんをときにはどすを効かせながら、
そして独特のとぼけた感じをうまく活かしチャーミングに面白く演じていました。
リズムが複雑で言葉が多すぎるために聞き取りづらい歌詞が盛りだくさんの場面も
あるのですが、それでも普段からストレートをやっている方だからか、言葉が立つという
か歯切れがとてもよくて、観ていてすっとする心地よさがありました。
もう大台に乗る手前らしいのですが、全然そんな感じがしない可愛さがあり、
汚い言葉をしゃべっても雰囲気で許せてしまいそうな、そんな得な方でもあります。

スウィーニー・トッドが自分の過去の秘密を握りゆすってくる男を思わず殺めてしまった
とき、さてその死体をどうしよう?と悩んでいるとき、「ふふ、いいアイデアを思いついた」と
いたずらっぽい目で恐ろしいアイデア(人肉を使ってパイを作って売る)を語るその顔も
キラキラと輝いていて、ほんとに怖いことなのに、観ているこちらまで「うん、でかした!」
と肯いてしまいそうでした。そのへんのストーリーの流れをすんなりと観客に受け入れさせる
その自然さは魔力に近いものがありました。
コミカルなのに、どんどん鬼気迫る狂気の女と化していく、その辺の変化も見事です。

殺人=怖い=悪い、というようなモラルはこれを観ている間は吹っ飛んでしまうほどの
ユーモアというスパイスがうまく効いていて、引き込まれてしまうのです。

これにはやはりスウィーニー・トッドがそれだけの復讐心をたぎらせて行動に及ぶことを
肯定させるだけの裏づけがしっかりあるからだと思います。
ただ憎む、恨むというのではなくて、観ている側も「そう思うのは当然」とどこかで、倫理的
には許されぬことだが彼なりに1本筋が通った考え方にうまく引きずり込まれているのですね。

武田真治もかなりの濃いメイクで、初め「あれ?これが武田さん?」と思ったほどですが、
ちょっとオツムの弱いおどおどした青年役がなかなかよくはまっていました。
彼らしい感受性の強さがうまく生かされている場面もあり、可愛さもよくでていました。
歌も普通にリズムにのって歌っていたし、キャラクターの作りこみ方が独特で上手いなと
思いました。

床屋さんでスウィーニーがお客の喉を掻き切ってその死体をそのままダストシューターみたいに
地下のキッチン(パイ作り)に送りこむ仕掛けが凄く面白いですね。
人が次々と殺されるのに笑っていいのか?と思うゆとりもないくらい、素早いのです。
舞台装置を回転・移動させたりすることによる素早い場面転換もなかなか優れていました。

この作品はどんでん返しというかある秘密があるので、細かく書くことはしませんが、
既に観た方に「パンフレットはある意味ネタバレがある」と聞いていたので、先に読むことは
避けました。後で読んだら、たしかにネタバレになっている箇所があるので
読まないで観劇したほうが面白いと思います。
パンフレットは四角くて、25x25cmという変形サイズなので、小さいバッグには
入らないかも。そして、このパンフが入る大きさのトートバッグまで一緒に売っているという
商売上手(?)な劇場です(笑)

アンサンブルさんはどちらかというと「歌派」が勢ぞろいしていて、おなじみの方々(秋園さん、
さけもとあきらさん、大須賀ひできさんなど)もいましたが、どちらかというと一人ひとりの
個性を生かした感じではなく、群集として、「スウィーニー・トッド!さあ、次はどうする?」
みたいに煽動的、説明的な感じでかつドラマチックな曲が多かったように思います。

それでも、「禿げ薬」の発明のシーンでは、多くの群集の中で、さけもとさん、大須賀さんの
お二人が(かつらなしの頭で演じてました)、本気でこの薬に興味津々のような動きに見えたのが
なんとなく愉快でした。(←私の気のせい?)

スウィーニーが無実の罪で流刑にされている間に妻は自殺、そして娘ジョアンナ(ソニン)は
半ばカゴの鳥状態。この人の舞台での歌は初めて聴きましたが、終始不思議な音色の
超音波を発しながらのソプラノで、ビブラートのようなものがもれなく付いてきます。
でも不安に脅かされて切羽詰って混乱した感じはとてもよくでていて哀れでした。
ジョアンナに思いを寄せるアンソニー役は、城田優さん。初めて観たのですが背が高く
西洋人っぽい顔立ちとスタイルでとても一生懸命にジョアンナに恋心を訴えているのを
みて、「これが浦井さんや泉見さんでも面白いかも」と
まだヴァンパイアの組み合わせをどこかで引きずっている私でした。

そのジョアンナを養女として育てたのに、今度は色気を感じて妻にしようとたくらむ
ターピン判事(立川三貴さん)はとことん意地汚くとことん嫌なヤツ!
この人が25年前はなんとアンソニー役をやったということが面白いですね。

市村さんと大竹さんの場面だけでも、ああ観て良かったと思わせ、芝居の面白さを
充分に感じさせる作品でした。これだけの難しい曲を完璧とはいえないまでも
ここまで演技の一部として表現できている大竹さんも市村さんと同種の「怪物」に
属するのかもしれません。

市村さんのファントムは観たことがないのですが、素顔が分からないくらいの濃いメイクから
なんとなくファントムがとても似合っていてよかったことは想像がつきます。
怪物顔であればあるほど、怒れば怒るほど悲壮感が増す。そんな感じの役が似合います。
足を踏ん張り手を広げるところや、ちょっとした立ち姿に独特の美学があること、
このへんのふとした形にちょっと祐一郎さんを思い出すところもありました。
同じ「四季」の出身だからかどうか分かりませんが、舞台人として観客に魅せる姿を
常に研究していて頑固ともいえる独自の美学があることがよく伝わってきました。

先日『朧』を鑑賞したときも思ったのですが、血しぶきがあるから、人がたくさん死ぬから、
という理由で後味が変わるのではないのですね。
「悪」の世界、つまり悪魔に魂を売ってしまった男がとことん頑固に自分の理想の悪を
めざして突き進み果てる。ここにある意味の「潔さ」「美学」が貫かれている
場合には、血がでようと人が死のうと、ある種の「カタルシス」が生まれるのだと
そんな風に思いました。

MAのように観客に「疑問」を投げかけて不協和音のまま終るような作品もひとつの手法
なのでしょうけれど、エンターテイメントとしてとことん楽しんだ感を与えて劇場を去って
もらうためには、嫌と言うほど悪や地獄をもつきつめて、変な言葉ですが
「やりたいだけやらせてあげる」そんなことも要になるのかもしれません。

今回は2階席(A席)だったのですが、1階の前の方で観てみたら、市村さんや大竹さんの
気迫の凄さをもっと間近で感じることができるのだろうな、と思います。
2階だったのでオペラグラスをどうしても使ったのですが、この作品は床屋とパイ屋が
同じ装置の2階、1階になっていて同時進行が多く、それ以外でも上手、下手で同時に演技が
進むことが多いので、結構あちこち同時にチェックするのは大変です。
目がたくさん欲しい!

この作品はジョニー・デップ主演のミュージカル映画としてリメイク予定だそうなので、それも
とても楽しみです。もうこの役にぴったりではありませんか!

【指揮者の西野さん】
かなりの踊る指揮者ぶりを見せてくれ、左手は常に人差し指、中指あるいは小指をたたせているか
あるいは、指で丸を作ったりしていました。体をイソギンチャクのように自在に揺らしながら
それでもしゃきっと表現力豊かなキレのよい指揮でした。
振り返ったときにヴァンパイアのときは「牙」つきだったので、今回は「クビに剃刀の血筋」
でもつけているのでは?とついついオペラグラスで観察してしまった私でした。






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Last updated  2007.01.16 23:55:10
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