ビリー・チャイルズ(1957-)というピアニストのアルバム「The Winds of Change」を聴く。 最近ジャズに関してはbandcampの情報から耳にすることが多い。 これもその一つ。 全く知らないピアニストで、何回か聴いているうちに馴染んできたので、ダウンロードした。 5度のグラミー賞受賞歴を持つということだったが、不思議と筆者のアンテナには引っかからなかったようだ。 メディアが注目しないし、ジャズというマイナーなジャンルだからこそ、自分でグラミー賞を見に行かないと情報が得られないのだ。 顔がプロ野球の落合博光に似ている。 レーベルがマックアヴェニューでbandcampではロスレスしか手に入らない。 以前はハイレゾもあったように思うが、しばらく前からメジャーな配信元とbandcampでのファイルを差別化しているようで残念。 おおかたメジャーな配信元からハイレゾなのに安いとはけしからんというクレームでも入ったのだろう。 他のレーベルでは普通にハイレゾでリリースしているところもあるのに残念だ。 まあ、ロスレスとはいえ高音質で、ハイレゾ化すると配信元からの正式なリリースとそれほど変わらない音質で聞けるのでも問題はない。 プログラムはチャイルズのオリジナルが5曲、チック・コリアとケニー・バロンが一曲ずつという構成。 オリジナルは影を帯びていて、日本人にはしっくりくる作風だろう。 ブックレットによると『タイトル曲を含む多くは、フィルム・ノワール、ジェリー・ゴールドスミス、バーナード・ハーマン、ジョン・ウィリアムズといった偉大な映画作曲家からインスピレーションを受けた』という。 ジャケ写が強面で、ちょっと抵抗があったが、音楽は重厚でリリカルなところもあり悪くない。 最初の「The Great Western Loop」からぐいぐいと迫ってくるのは顔の迫力と同じ。 打鍵はそれほど強くなく、低音もあまり響かせないが、アドリブはメロディックで歯切れがよい。 アドリブの間の取り方も上手く、静謐でクリーンな感じがする。 2007年セロニアス・モンク国際ジャズ・コンペティションの優勝者アンブローズ・アーキンムシーレ(1982-)の渋いトランペットとの相性もいい。 「The Winds of Change」は10分ほどで、アルバムの中で最も長いトラック。 抒情的な前半と都会的なしゃれた雰囲気の後半の二つの部分に分かれていて、エンディングは最初のリリカルな部分が帰ってくる。 「The End of Innocence」は影を帯びて少し寂しげなメロディーがいい。 「Master of the Game」もマイナーな曲で悪くないが、トランペットがバリバリ吹くタイプでないので、懸命なアドリブが却って痛ましく感じられてしまう。 また、同じような調子の曲が続き、1曲くらいスカッと明るい曲があってもいい気がする。 最後のバラード「I Thought I Knew」は思索的で、とても美しい。 オリジナル以外の曲も悪くない。 チックの「Crystal Silence」は透明感のある文字通りクリスタルな演奏だが、鳴らないトランペットがいまいち。 個人的にはピアノ・トリオでの演奏が聴きたかった。 他にケニー・バロンの「The Black Angel」が演奏されている。 バックは超強力だが、控えめなプレイに終始している。 スコット・コリーの美しいベースソロがいい。 ということで、今さらの感はあるが、過去の作品も聞いてみたいと思わせる、アルバムだった。
Billy Childs:The Winds of Change(Mack Avenue MAC-1200)16bit44.1kHz Flac
1.Billy Childs:The Great Western Loop 2.Billy Childs:The Winds of Change 3.Billy Childs:The End of Innocence 4.Billy Childs:Master of the Game 5.Chick Corea:Crystal Silence 6.Kenny Barron:The Black Angel 7.Billy Childs:I Thought I Knew
Billy Childs(p) Ambrose Akinmusire(tp) Scott Colley(b) Brian Blade(ds)
Recorded at Henson Studios Hollywood, CA,May 14–16, 2022